【連載】紙の爆弾

【コリアン・ジェノサイド 《第1回》/裕仁最初の犯罪を問う(1) 前田朗(朝鮮大学校講師)】

前田朗

 関東大震災朝鮮人虐殺から101年目を迎える今年、ジェノサイドの最高責任者である摂政裕仁の責任について考えてみましょう。関東大震災朝鮮人虐殺の研究書は多数ありますが、100年間、誰も問うことのなかったタブーです。数人の研究者に尋ねてみましたが「まったく考えたことがない」と言います。

1923年9月1日、関東大震災が発生しました。東京横浜を中心に首都圏は崩壊し、大火災に見舞われ、大破局に陥りました。大混乱と恐怖のさなか人々は「朝鮮人が暴動を起こした」「朝鮮人が井戸に毒を入れた」といった流言に怯え、怒りに震え、関東一円で次々と朝鮮人を襲撃し、無残に殺害しました。

虐殺を煽ったのは警察と軍隊でした。各地で警察官が流言を広めただけでなく、内務省が全国に電報を打って朝鮮人暴動を大宣伝し、各地で自警団が組織され、集団犯行が広がりました。戒厳令発布により出動した軍隊の一部が朝鮮人を殺害し、自警団に「模範」を示しました。

日本政府は殺害を実行した民衆の刑事裁判を開いて、責任を民衆に押し付けました。確かに膨大な犠牲者を生み出した事件ですから、民衆責任を真剣に問う必要があります。

同時に、警察と軍隊の関与が明白ですから国家責任を問う必要があります。これまで多くの歴史研究者、市民運動家、日本弁護士連合会などが調査研究を進め、国家責任を追及しました。100年目の2023年にも数々の著書・論文が公表され、真相解明の努力が積み重ねられています。

植民地朝鮮半島で人民弾圧に手を染めた水野錬太郎内務相や赤池濃警視総監が、朝鮮人暴動の幻影に怯えて戒厳令を出し、虐殺が「公認」されて被害が拡大したことが知られています。水野や赤池の責任が論じられます。

しかし、戒厳令は水野や赤池が出したのではありません。内田康哉首相代理のもと閣議決定したのです。閣議で勝手に決定した訳ではありません。内田首相代理は宮中に参内して、摂政裕仁から裁可をもらって戒厳令を出したのです。そこに「朝鮮人暴動」のデマが書かれていました。大正天皇が病気のため皇太子裕仁が摂政の地位にあったのです。

大日本帝国憲法の下で最高権力者である天皇(及び摂政)の法的責任を問うことはできません。神聖不可侵とされていました。裕仁の責任を誰も考えません。天皇制イデオロギーに冒されています。

関東大震災朝鮮人虐殺はジェノサイドです。ジェノサイドは国際法の概念です。言葉を「ジェノサイド」と呼び変えることに意味はありません。関東大震災ジェノサイドを国際法に照らして考えるなら摂政裕仁の最初の犯罪が見えてくるはずです。
「週刊MDSの2024年01月26日 1806号転載

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前田朗 前田朗

(一社)独立言論フォーラム・理事。東京造形大学名誉教授、日本民主法律家協会理事、救援連絡センター運営委員。著書『メディアと市民』『旅する平和学』(以上彩流社)『軍隊のない国家』(日本評論社)非国民シリーズ『非国民がやってきた!』『国民を殺す国家』『パロディのパロディ――井上ひさし再入門』(以上耕文社)『ヘイト・スピーチ法研究要綱』『憲法9条再入門』(以上三一書房)『500冊の死刑』(インパクト出版会)等。

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