【コリアン・ジェノサイド/裕仁最初の犯罪を問う(9)/前田朗(朝鮮大学校講師)】
社会・経済政治国際法における上官の責任の法理をもう少し考えてみましょう。
軍隊は組織的に行動します。上からの命令に基づいて必要な行動をとらなくてはなりません。
上官は日頃から部下を教育・訓練し、適切に指示して規律を維持しなければなりません。
部下が犯罪をしているようでは、軍の組織的行動が阻害されます。
ですから上官には部下の行動についての監督義務が生じます。
他方、部下は上官の命令通りに動かなくてはなりませんが、だからと言って、犯罪をするように命じられた場合に唯々諾々と従ってはいけません。上官の違法命令に従ってはならないのです。
「上官の責任」についても「上官の違法命令」についても国際法はこれを規律するルールを定めてきました。
上官の責任はあらゆる場合に適用されるわけではありません。
第1にジェノサイドや人道に対する罪等の国際犯罪が焦点となります。
第2に自分の命令・監督の下にある軍隊が犯罪を行ったこと、適切な指導監督が欠如していたことが条件になります。
第3に部下が犯罪を行っていることや、行おうとしていることを知っていたこと、又は知る理由があったことが必要です。
知らなかったことについて責任は生じませんが、知っているべきだったのに不注意や怠慢で知らなかった場合には責任が問われます。
「秘書がやった。自分は知らなかった」という幼稚な言い訳は通りません。
第4に犯罪が行われたのに、その防止や処罰のために必要な措置をとらなかった場合、上官に責任を問うことになります。防止義務や処罰義務を果たせば上官自身の責任は問われません。
第2次大戦後に行われた軍事法廷では上官の義務違反が次の点を基に検討されました。
(1)軍隊の活動が国際法に合致して実施されたことの報告を行う。
(2)関連する実行が戦争法規に合致するように命令を発する。
(3)犯罪行為に抗議し、批判する。
(4)部隊による虐殺実行を防止する規律措置を講じる。
(5)犯罪が行われようとしているのを捜査する。
個人責任と上官の責任は異なるカテゴリーです。個人責任は個人が自ら行った犯罪について問われます。
共同実行、教唆・煽動、計画、命令等も含まれます。
他方、上官の地位にいただけで責任を問われるわけではありません。
上官として果たすべき義務を果たさなかったことが問われます。
それでは摂政裕仁はどうだったでしょうか。部下が誤った情報に基づいて戒厳令を発布させ、虐殺を助長した疑いがあります。横浜で朝鮮人虐殺の調査報告が上がってきました。その時、裕仁は何をしたのでしょうか。
犯罪の防止、捜査、処罰の義務を果たしたでしょうか。
「週刊MDSの2024年05月31日 1823号の転載」
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(一社)独立言論フォーラム・理事。東京造形大学名誉教授、日本民主法律家協会理事、救援連絡センター運営委員。著書『メディアと市民』『旅する平和学』(以上彩流社)『軍隊のない国家』(日本評論社)非国民シリーズ『非国民がやってきた!』『国民を殺す国家』『パロディのパロディ――井上ひさし再入門』(以上耕文社)『ヘイト・スピーチ法研究要綱』『憲法9条再入門』(以上三一書房)『500冊の死刑』(インパクト出版会)等。