【連載】紙の爆弾

【コリアン・ジェノサイド/裕仁最初の犯罪を問う(10)/前田朗(朝鮮大学校講師)】

前田朗

 関東大震災朝鮮人虐殺は国際法上のジェノサイドに当たります。
ジェノサイドとは特定の集団の全部又は一部を破壊する意図をもって、その集団の構成員を殺害することです。軍隊・警察・民衆がデマを伝播して、朝鮮人が朝鮮人であるというだけで標的としました。
その最高責任者は摂政裕仁です。

にもかかわらず、歴史研究者や法学研究者の誰一人として摂政裕仁の責任を論じません。
101年に及ぶ見事なタブーです。

私は1999年からこのテーマを追及し始め、遅ればせながら昨年ようやく論文をまとめました。
その論文をマスコミの記者や編集者たちに送りましたが、一切応答がありません。完璧な沈黙です。応答があったのは在日朝鮮人の歴史研究者です。

なぜ誰も裕仁の責任を論じないのでしょうか。私自身、なぜ1999年以前にこのテーマに気づかなかったのでしょうか。答えは明瞭です。
天皇制イデオロギーに捕らわれているからです。

大日本帝国憲法では天皇は神聖不可侵の絶対君主でした。
憲法は天皇が臣下に与えた命令ですから、天皇の責任を論じる余地がありません。

日本国憲法では象徴天皇制が採用され、天皇主権から国民主権に移行しました。
憲法第99条は天皇・摂政の憲法尊重擁護義務を定めています。

しかし、憲法第1条は「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」としています。
国民主権に基づく天皇制であり、すべての国民は天皇主義者であるという訳です。
天皇制イデオロギーは日本国憲法に引き継がれました。

昭和から平成、そして令和へと時代を重ね、象徴天皇制がこの国と国民にしっかりと根付き、定着しました。

それでは「日本国民」とは誰でしょうか。憲法前文は「日本国民」から始まりますが、それが誰を指すのか不明です。憲法第10条は「日本国民たる要件は、法律でこれを定める」としています。
つまり、誰が国民であるかはまだ決まっていなかったのです。

大日本帝国臣民がそのまま日本国民になったのではありません。
1945年12月の衆議院議員選挙法で、沖縄県民と旧植民地出身者を選挙権者から除外しました。
そして1946年の日本国憲法を制定したのです。日本国憲法は沖縄差別と朝鮮人差別の見事な成果です。
それで良しとした日本国民が、沖縄への米軍基地押し付けを反省するはずがありません。
朝鮮人虐殺の最高責任者の責任を追及するはずがありません。
摂政裕仁と日本国民の「野合」により関東ジェノサイドを隠蔽してきたのがこの国の歴史ではないでしょうか。

[完]

「週刊MDSの2024年06月14日 1825号転載

【コリアン・ジェノサイド/裕仁最初の犯罪を問う/前田朗(朝鮮大学校講師)】

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前田朗 前田朗

(一社)独立言論フォーラム・理事。東京造形大学名誉教授、日本民主法律家協会理事、救援連絡センター運営委員。著書『メディアと市民』『旅する平和学』(以上彩流社)『軍隊のない国家』(日本評論社)非国民シリーズ『非国民がやってきた!』『国民を殺す国家』『パロディのパロディ――井上ひさし再入門』(以上耕文社)『ヘイト・スピーチ法研究要綱』『憲法9条再入門』(以上三一書房)『500冊の死刑』(インパクト出版会)等。

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