【連載】百々峰だより(寺島隆吉)

百々峰だより(2024/05/07) 「神に許された民と神に許された国に未来はあるか」番外編――「非暴力直接抵抗運動」こそ彼らと闘う最も効果的戦術である

寺島隆吉

国際教育(2024/05/07)
アーロン・ブッシェル(Aaron Bushnell、イスラエルの蛮行に抗議して焼身自殺)
ディック・クアン・ドッグ師(ベトナム戦争中にサイゴン政府に抗議して焼身自殺)
スティーヴ・ビコ(Steve Biko、南ア「アパルトヘイト」反対の若き指導者、逮捕獄死)
ノーマン・フィンケルスタイン(Norman Finkelstein、ユダヤ人、著書『ホロコースト産業』『イスラエル擁護論批判』)

「シット・イン」運動(Sit In、黒人差別ランチカウンターへの座り込み運動)
ANC( African National Congress アフリカ民族会議、議長ネルソン・マンデラ)
BDS運動 (Boycott, Divestment and Sanctions、不買運動、投資撤収、経済制裁)
UNRWA(United Nations Relief and Works Agency for Palestine Refugees in the Near East国連パレスチナ難民救済事業機関)


ミシガン大学のスタジアムで行われた卒業式で、「大量虐殺への資金提供」に反対するスローガンを叫ぶ学生
ミシガン大学卒業式でガザ虐殺抗議する学生
パレスチナ支持の「白地に紺の水玉模様の豆絞りの布」を首にかけている
https://www.rt.com/news/597007-palestine-protest-michigan-university/



前回のブログで「一刻も早く『研究所・花だより』『「寺島メソッド・健康教室』を書きたい」と言ったのですが、ガザ情勢が緊迫を極めているので心が落ち着きません。イスラエル軍がガザ地区の南端のRafahに侵攻する気配が濃厚だからです。
そこで意を決して再び「パレスチナ問題」について書くことにしました。
「神に許された民と神に許された国に未来はあるか」の最終編として書きたいことも残っているので、ここで決着をつけるのも、ひとつの道かとも考えました。


さて、イスラエル軍がガザ地区の南端のRafahに侵攻する気配が濃厚な理由ですが、私は次のように考えています。
すなわち、ネタニヤフ政権はガザ住民を北部地区から殺していって、それに恐怖を感じた住民が南部のラファ(Rafah)に集まった時点で軍隊を侵攻させ、すべてを皆殺しにすれば「民族浄化」が完成するというわけです。
他方で、「死にたくなければエジプトに逃げ出せ。そうすれば住居を保証する」とも言っているようです。
そしてエジプト政府にもガザ住民を受けとるように裏で圧力を強めているという話も聞こえてきます。
こうしてガザ住民のすべてがいなくなれば、それはそれでガザ地区にはパレスチナ人がいなくなるわけですから、これは別のかたちで「民族浄化」が完了したことになります。
そうすればガザ沖合に眠る天然ガスの開発はイスラエルのものになります。
いずれにしても、これで一つの目的は達成されたことになります。と同時に、それは「大イスラエルGreat Israel」をつくりあげる確実な一歩を進めたことにもなります。


しかし、ここに大きな問題が起きています。それは世界の世論がイスラエルのあまりの蛮行に抗議を始め、それが確実に広まり始めたことです。
ロシア軍がドンバスの2カ国を正式に認め、その政府の要請でウクライナに軍を進めたときは、世界の世論は「ロシア非難」に集中し、ウクライナ支援の募金箱が日本のコンビニにまで置かれました。

実はウクライナで戦争を始めたのは、拙著『ウクライナ問題の正体』3巻で詳細に述べたように、アメリカが裏で仕組んだ「クーデタ2014」で成立したキエフ政権だったのですが、そういうことを知らない多くのひとたちは、口を極めて「プーチン独裁政権」を糾弾しました。
が、徐々に真実が明きらかになるにつれて、ゼレンスキー大統領の「独裁ぶり」「残虐さ」を指摘する論調も現れ始め、「キエフ政権が臓器売買まで黙認していること」「ウクライナ軍の敗北が確実だということ」まで指摘する大手メディアすら出始めました。とはいえ、ここまでたどりつくのに2年以上もかかっているのです。


ところがイスラエルの蛮行が世界の眼に届くのに2年もかかりませんでした。
いまではウクライナ支援の募金箱ではなく、パレスチナ支援の募金箱まで見かけるようなりました。
バイデン政権やEU諸国の幹部が、「ホロコーストを経験したユダヤ人の国イスラエルは自衛する権利がある」といくら弁護しても、イスラエル軍の残虐ぶりはX(旧Twitter)やFacebookを通じて、世界中に知れわたり始めたからです。
これはウクライナ情勢とは大きな違いです。ゼレンスキー政権の「残虐さ」「腐敗ぶり」
は大手メディアがほとんど伝えないので、ほとんど誰も知らず、X(旧Twitter)やFacebookを通じて世界に広まりようがなかったからです。

それを唯一伝えてきたのは、「ロシアのNHK」にあたる国際放送局「RT」ぐらいですが、それを欧米諸国は「視聴禁止」にしているのですから、一般民衆は知りようがありません。
私の研究所が『翻訳NEWS』というサイトを運営し、RTのニュースその他を紹介してきた理由も、まさにここにありました。

それはともかく、このようにイスラエル軍の蛮行も、今まで弱小国・発展途上国だと思われていた南アフリカ政府が、勇気をふるって、イスラエル軍の行為は「戦争犯罪」だとしてICJ(国際司法裁判所)に提訴したことも、世界の世論を変えるのに貢献しました。ICJも「イスラエル軍の行為は戦争犯罪と言われても仕方がないものだ」「即座に中止せよ」という判決を出したからです。
それにしても岸田政権の「アメリカにたいする属国」ぶりは困ったものです。だからこそバイデン大統領は「日本人は外国人嫌い・移民恐怖症だ」という侮蔑的なことばを私たちに吐いても平気だったのでしょう。
*Japan upset over Biden’s ‘xenophobia’ claim – media(バイデン氏の「外国人嫌悪」主張に日本が動揺 – メディア)
https://www.rt.com/news/597019-japan-upset-biden-xenophobia/
5 May, 202


それはともかく、一貫してネタニヤフ政権を支持してきたバイデン大統領にとって困ったことは、単に世界の世論が変わり始めたことだけではありませんでした。
というのはアメリカ国内でも、全米の有名大学で「イスラエルの蛮行に資金援助や武器援助をするな」「イスラエルに対してBDS運動 (Boycott, Divestment and Sanctions、不買運動、株引上げ、経済制裁)を!」と呼びかける声が確実に広がっていることです。
先日もイスラエルの「民族浄化作戦」に抗議して、ミシガン大学スタジアムで行われた卒業式で、学生たちが「大量虐殺に資金提供をするな」というスローガンを叫んだニュースが流れました。

*Pro-Palestine protesters disrupt college commencement ceremony, VIDEOS(親パレスチナの学生が大学の卒業式を妨害、ビデオあり)
https://www.rt.com/news/597007-palestine-protest-michigan-university/
4 May, 2024

冒頭に掲げた写真を見ていただければお分かりのように、学生たちはパレスチナの旗を掲げ、首にはパレスチナ支持の布地(スカーフ)を巻いて、堂々と巨大なスタジアムを行進しているのです。
しかも彼らは少人数ではなく多数の学生に参加も得ていることが動画で分かります。次の動画も1分足らずのものですから、ぜひ見てください。
https://twitter.com/i/status/1786785990901633346(動画12秒)
https://twitter.com/i/status/1786796720313000248(動画28秒)

パレスチナ支援のやりかたは、募金箱を通じるだけではなく、調べてみるとUNRWA(国際連合パレスチナ難民救済事業機関)を通じて、「ケフィエ」と呼ばれるスカーフなどを売るというやりかたでもおこなわれていることが分かりました。上の動画で学生たちが「ケフィエ」を身につけていることも、自分の眼で確認してください。

パレスチナ支援の「ケフィエ」


昨日アメリカは突然イスラエルに対する武器の輸送を凍結することを発表しました。バイデン大統領は以上のような世界と国内の動きに恐れをなしたのでしょうか。
*US froze military aid shipment to Israel – Axios(米国はイスラエルへの軍事援助を凍結 – Axios)
https://www.rt.com/news/597037-military-aid-israel-frozen/
5 May, 2024

今まで一貫してイスラエル支持をやめたことのなかったアメリカがこのような動きに出ることは極めて異例のことです。このままでは11月に予定されている大統領選挙で勝てなくなると考えたに違いありません。
その兆候はすでに、アメリカ支援による「ガザの虐殺」「民族浄化作戦」に抗議して、若い米軍兵士(空軍現役兵)Aaron Bushnellがイスラエル大使館の前で焼身自殺するという事件に表れていました。

*US airman sets himself on fire outside Israeli Embassy in Washington(空軍現役兵が首都ワシントンDCのイスラエル大使館前で焼身自殺)
https://www.rt.com/news/593158-man-self-immolates-embassy/
25 Feb, 2024

下の写真は、歩いてイスラエル大使館に向かうアーロン・ブッシェル(Aaron Bushnell)さんです。写真でも分かるとおり若い現役兵士です。軍服姿のままです。
この写真は、実はこの記事に付けられていた動画(2分30秒弱)を一時停止させて私が切り取ったものです。
この動画で彼はイスラエル大使館に行く道すがら、「自分の行動=焼身自殺は悲惨なものに見えるかも知れないが、ガザのひとたちが味わっている悲惨から比べれば、どうってことはない」と語っています。
この一部始終を録画したのは誰かをこの記事は書いていないのですが、このあと焼身自殺をする場面と一緒に下記URLで彼の行動・肉声を視聴できますから、時間のある方はぜひ自分の眼と耳で確認いただきたいと思います。
https://www.rt.com/news/593158-man-self-immolates-embassy/

この写真の右側は、帽子を脱いで、頭から石油をかけているブッシェルさんです。
米兵「焼身自殺」1 「米兵焼身自殺」2


次の写真は、ライターで火を付けて燃え上がるブッシェルさんです。先述のとおり、この焼身自殺のようすは、下記URLに載せられた動画で視聴できます。その右側は、そこに駆けつけた警察と消防隊員です。
https://www.rt.com/news/593158-man-self-immolates-embassy/(約2分30秒)

th-3263477508.jpg 「米兵焼身自殺」7

ところが驚いたことに、警官は焼身自殺した若い兵士を救おうともせず、燃え上がっているブッシェルさんに銃口を向けるのみでした。
丸腰でしかも燃え上がっているブッシェルさんが、抵抗や反撃をできるはずもないこととを、この警官は分からなかったのでしょうか。いったい彼は何を怖れていたのでしょうか。
もし彼が怖れていたとすれば、それは「虐げられているパレスチナの人々と連帯しようとする、ブッシェルさんの勇気と意志の強さ」だったのかも知れません。

この動画はX(旧Twitter)などを通じてアメリカ全土を駆けめぐったでしょうから、それが心ある学生の胸を打ったのではないか、そして、コロンビア大学などの名門校から抗議運動の火が燃え上がり、それが燎原の火のごとく全米に広がっていったのではないか。
私はこのように想像しています。
そして、その裏に大富豪イーロン・マスクが、権力による検閲・削除の道具となっていたX(旧Twitter)を買い取り、それを自由な言論空間に解放したことも、おおきく貢献したのではないかと推測しています。
そこが、同じ大富豪でもビル・ゲイツと全く違うところです。


さて私がこのブッシェルさんの記事を読み、動画を視聴して真っ先に頭に浮かんだのは、ベトナム戦争で、アメリカが支持するサイゴンのゴ・ディン・ジェム政権による仏教徒弾圧に抗議して南ベトナムの高僧が焼身自殺をした映像でした。
この自殺の名目は「仏教徒弾圧にたいする抗議」でしたが、世界中の心ある人々には、この焼身自殺が「理不尽なサイゴン政権を支持してベトナム戦争を長引かせているアメリカ政府にたいする抗議」として目に映りました。

これはまさに現在、無慈悲で残酷なゼレンスキー大統領やネタニヤフ首相を裏で支持してウクライナ紛争やガザ地区の民族浄化作戦を長引かせているバイデン大統領の姿を彷彿とさせるものです。
次の写真は、この高僧ディック・クアン・ドッグ師が焼身自殺している映像です。
このような映像が世界中を駆けめぐり、ベトナム戦争反対と反米の世論をかき立てたことは間違いないでしょうが、私もこの映像で大きく心を揺り動かされた一人だったからです。
なお、この高僧が弟子に石油を頭から浴びせかけさせて燃え上がる動画は、下記URLで見ることができます。私がその当時この動画を見ていたら、もっとベトナム反戦運動に心身を傾注していたかも知れません。
https://karmanima.net/archives/12102

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このように大きな権力と闘うときには、武力や暴力で闘うよりも「非暴力直接行動」で闘う方が効果的であることが少なくないのです。


このキング牧師が唱えていた「非暴力直接行動」の力を最も鮮やかに私に教えてくれたのが、黒人解放運動で用いられた「シット・イン(座り込み)」という戦術でした。
1960年代当時は、バスに乗るのもトイレも食堂も、どこでも白人と黒人は同席を許されませんでした。キング牧師はこのような黒人差別を打ち破るために、武力や肉体的力で白人と直接的に闘うのではなく、白人が決めた理不尽な決まりを破り、むしろ逮捕されて牢獄に入る道を選びました。

こうして白人が一方的に決めた理不尽な決まりを破ると、必ず白人から暴力をふるわれます。
しかし、白人による暴力が新聞に載ったり、その写真や記録映画になってアメリカ全土に広がるようになると、確実に世論は変わり始めます。
そのひとつが、白人専用のランチカウンターで、堂々と白人客がいる目の前で食事を注文する運動でした。
当然、白人から「ここはおまえたちの来る場所ではない」として様々な嫌がらせや暴力がふるわれることになります。

次の写真は、このようにしてランチカウンターに座り込んだ黒人に、頭からソースやケチャップを浴びせたています。時には直接からだに手を触れて引きずり降ろそうとしたり、卵をなげつけたりしました。警察を呼んできて逮捕させることもありました。

グリーンズボロの座り込み学生2
https://docent.exblog.jp/22770102

この「シット・イン」運動を最初に始めたのは、ノースカロライナ州グリーンズボロにある州立農工大学の4人の黒人学生でした。彼らは1960年2月に、Woolworth(チェーン展開している百貨店)の白人専用ランチカウンターの席に座ることから始まったのです。

もちろん白人客は彼らに罵声を浴びせ、ケチャップを頭からかけたり、卵を投げつけたり、唾をはきかけたりなど、様々ないやがらせをしました。それでも彼らは毎日やってきて、座り続けました。
客足の遠のいたWoolworthの売り上げは大打撃をうけました。
そして、とうとう態度を軟化し、1960年7月、全チェーンでのランチカウンターの人種差別撤廃を宣言したのです。「非暴力直接行動」の勝利でした。
この成果をふまえて「シットイン」運動は全米に広がり、公民権運動を確実に前進させることになりました。
公民権運動と言えばローザ・パークス女史がバスの白人席に座ったことをきっかけにして始まった「バス・ボイコット」運動が有名で、この「シットイン」はあまり知られていません。

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と偉そうなことを言っている私ですが、私自身もノースカロライナ州グリーンズボロにある州立農工大学に「日本語の非常勤講師」として赴任するまでは、まったく「シット・イン」運動を知らなかったのです。
グリーンズボロに赴任してから、たまたま市内を見学がてら散歩しているうちに、市の博物館になっている百貨店ウールワス(Woolworth)にぶつかって、なかの資料を見たり読んだりしているうちに、ここが「シット・イン」運動の発祥の地だったことを知り、驚愕したのでした。

私が州立農工大学の「日本語非常勤講師」になったのは、そこで日本語を教えていた女性の日本人講師が、学生の99%が黒人であることに嫌気がさしたのか、もう期末が近くなって期末試験をして単位を出さなくてはいけないのに、突然、姿をくらましてしまったので、私がピンチヒッターを頼まれたからでした。
しかし、そんなきっかけでもなければ、私がノースカロライナ州グリーンズボロという片田舎の大学、しかも州立農工大学という黒人大学に赴任することなどあり得なかったのですから、その「とんずら」した教師に感謝しなければなりません。まさに「災い転じて福」「塞翁が馬」です。

ちなみに次の写真は、州立グリーズボロ農工大学で教えていた若かりし頃の私です。そばにいる小さな黒人は私が宿舎として与えられていた建物の管理人の子どもです。

グリンズボロでの隆吉026

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私が何故このように長々と公民権運動「非暴力直接行動」のことを紹介してきたかというと、ガザ地区におけるパレスチナ人の解放も、すでに述べてきたような「非暴力直接行動」によってしか、勝利の展望は開けてこないということを言いたかったからです。
「ハマス」というイスラム原理主義集団による武力闘争では、 ガザ地区という「青天井」の牢獄から解放されることはありません。なぜなら「ハマス」によるイスラエル軍との戦争は、武力の差がありすぎますから、武力でイスラエル軍を攻撃すればするほど、それへの「報復」という口実で、ガザ地区が攻撃され、ますます死者数が増えるばかりだからです。

しかも、その「報復」という名の反撃で、ネタニヤフ首相が公言している「ハマス殲滅」という作戦は成功しているかというと、その成果はほとんどゼロに近いのです。
公の報道を読む限り、殺されているのは「女と子ども」ばかりで、ハマスの死者数を読んだことがほとんどありません。

それもそのはずです。早々にハマスを殲滅してしまえば、それ以上「ガザ地区」を攻撃する口実がなくなります。これではガザ地区からパレスチナ人を一掃して、更地になったガザ地区を「大イスラエル」を建設する第一歩にすることはできません。なぜなら、そこにはまだパレスチナ人が残っていますから、ガザ沖に眠っている石油・天然ガスも手に入れることはできなくなるからです。
ですから、ハマスに大暴れしてもらって、それへの反撃を口実に住民を「皆殺し」にするか、「皆殺し」を怖れた住民がカザを「明けわたし」て全員がエジプトに移住してもらうのが最上の策なのです。
あるいはガザ地区住民を「兵糧攻め」にして全員を餓死させるのも、もうひとつの方法かも知れません。
ガザの最南部ラファ(Rafah)に集結させられた住民に、エジプトからの救援物資が届けられる只ひとつの通路Kerem Shalomを、イスラエルが閉じてしまったことがそれをよく示しています。(後掲の地図を参照、赤い丸印が通路)

*Israel shuts down Gaza border crossing after Hamas attack(イスラエル、ハマスの攻撃を受けてガザ国境を閉鎖)
https://www.rt.com/news/597040-israel-closes-gaza-crossing/
6 May, 2024

上の記事はそれを報じたものですが、またもや、このイスラエルの反撃は「ハマスによるロケット攻撃」だと言うのですから、「もうそろそろ相互協力もいいかげんにしろ」と言いたくなります。ネタニヤフ首相の言う「ハマス殲滅」はどこに行ったのでしょうか。

ガザの食料援助を受け入れる Rafah の入り口(チェック・ポイント)

ちなみにイスラエル軍が閉鎖したというガザ国境の通路 Kerem Shalom crossing (上の地図の赤い丸)というのは、開通したばかりだというのです。やはりイスラエルのもう一つの戦略は「兵糧攻め」「全員餓死」なのかも知れません。

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このような意見・見通しをもっているのは私だけかも知れないと思っていたら、高名な経済学者マイケル・ハドソンも、下記の論考で同じような見解をもっていることを知り、喜んでよいのか悲しんでよいのか複雑な気持ちになりました。

*The Truth About the Destruction of Gaza
https://www.unz.com/mhudson/the-truth-about-the-destruction-of-gaza/
April 14, 2024、Michael Hudson

なぜならマイケル・ハドソンの見通しはガザ住民にとって必ずしも明るくないからです。ですから、ガザ住民のイスラエルにたいする戦いは、これまでのように、ハマスの武力に頼るのではなく、あくまで「非暴力直接行動」で闘うべきだったのです。
もっともハドソン教授の予測するイスラエルの未来も決して明るくないのですが。

今後の見通しとしてラファ(Rafah)に集められた住民が「主権者」として生き残る道があるとすれば、エジプトに脱出するのではなく、あくまでガザの地を死守することではないかと思います。
そうすれば、ネタニヤフ首相とイスラエル軍は世界中の眼が見つめるなかで、白昼堂々とカザ住民の全てを殺し尽くすという悪行を演じざるを得なくなります。
しかし、それを見つめる世界中の心あるひとたちは、それを座視することができず、必ずや大きな声をあげるに違いありません。

「シット・イン」運動のなかで、白人による見るに堪えない暴行を、黒人が「非暴力直接行動」で耐えている姿を、白人すら座視することができず、ついに黒人差別のランチカウンターが崩壊したことから、私たちは大きく学ばなければならないのではないでしょうか。
このような「非暴力直接行動」が成功した例を、私たちは南アフリカ共和国の「アパルトヘイト」撤廃に見ることができます。

この「アパルトヘイト」撤廃についてはネルソン・マンデラの活躍が大きく評価されていますが、しかしかつて南ア共産党員であったマンデラ氏は、武装闘争路線をとりましたが、後年はそれを反省し、アフリカ民族会議(ANC)の議長として非暴力直接行動の戦術で戦いを展開しました。
この「非暴力直接行動」の先頭に立ったのは、スティーヴ・ビコという若い指導者でした。彼は「ブラック・イズ・ビューティフル」という一般化したスローガンで黒人の意識革命を主導し、彼の活動は映画「遠い夜明け」にも生き生きと描かれています。

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私が南アのアパルトヘイトを知るようになってからのアフリカ民族会議(ANC)の活動は、世界中に南アの実態を知らせるための演劇・映画や音楽活動に大きなエネルギーを注いでいたように思います。これもひとつの「非暴力直接行動」であり、こうして世界はアパルトヘイトの実態を知るようになり、ついにアパルトヘイトという制度はなくなりました、

その経験が、今や南ア政府によってイスラエル軍とネタニヤフ首相をICJ(国際司法裁判所)に提訴する活動につながっているように思います。
ですから、パレスチナの解放運動も「非暴力直接行動」という戦術に土台をすげ替える必要があるのではないでしょうか。

名著『ホロコースト産業』を著して有名になったノーマン・フィンケルスタインは、「ナチスの被害者」を売り物にして儲けているユダヤ人を厳しく批判しました。彼の両親も強制収容所の生き残りであり、彼自身がユダヤ人でしたから、この批判は世界に大きな反響を呼び起こしました。
しかし、このフィンケルスタインが、ガンジーの著作を読み尽くし、パレスチナ人の戦いも「非暴力直接行動」であるべきだと主張したことは、ほとんど知られていません。
そもそも、当時のパレスチナ解放機構(PLO)執行委員会議長であったアッバスと闘わせるため「ハマス」というイスラム原理主義集団をつくりあげたのも、イスラエルであったことを私たちは、深刻に受け止めるべきでしょう。

それにしても、あるインタビュー番組でフィンケルスタインが、「非暴力直接行動で闘うべきだと言っても私の言うことに耳を貸すガザ人 / パレスチナ人が多くならない」と言って溜め息をついていた彼の姿が、今でも私の眼に焼き付いています。

ノーマン・フィンケルスタイン ホロコースト産業
ノーマン・フィンケルスタイン

まだ翻訳されていませんが、彼には次の本もあります
What Gandhi Says:
About Nonviolence, Resistance And Courage(ガンジーが言ったこと: 非暴力、抵抗、そして勇気)

 

寺島先生のブログ『百々峰だより』(2024/05/07)からの転載になります。

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寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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