与那覇けい子さん詩集：ガザ
琉球・沖縄通信「世界が私たちを攻撃している！」
瓦礫の山から 空を見上げて 男は 怒り叫んだ
「誰も 私たちのことなんて考えてくれない！」
死んでいく子供を 抱きかかえて 女は 泣き叫んだ
「いや、違う！」
張り上げた声は テレビ画面にぶつかって 散った
小さな島の 小さな声は 届かない
怒り悲しみ 拳で地を叩く男たち
嘆き悲しみ 地に身を投げ伏せる女たち
子供たちは 不安に体を寄せ合い
幼子は 恐怖に目を見開く
彼等は 命をかけて 私たちに突きつけて 教える
人間の愚かさと醜さを
とどろく爆音と怒号のなかを 煙を上げる街なかを
カメラを手に走り回る
彼等は 命をかけて 私たちにえぐり出して 見せる
この世界の嘘と欺瞞を
今日もガザでは 子供たちが命を奪われ 母親が泣き崩れる
沖縄の空は 青い
テレビ画面の前で
日々の底に溜まっていく私たちの怒りは
心の底に沈んでいく私たちの悲しみは
海の向こうに届かずに 揺れる
たた、確かなこと
日々 確かになっていくこと
あなたたちの怒りは 私たちの怒り
あなたたちの悲しみは 私たちの悲しみ
「あなたたちは 私たちだ」
あなたたちは 私たちだったし
今日のあなたたちは 明日の私たちだ
ほら
あなたたちの声は届いていたよ
ほら、世界のあちこちで人々が立ち上がり始めた
私たちも声をあげていたよ
もっと もっと もっと 沢山の人たちの声を！！
でも・・と
小さな島の 小さな声はつぶやく
植民地にされ 今、また戦場にされる島々はつぶやく
恐怖に固まりながら 自己卑下に固まりながら つぶやき続ける
「誰も 私たちのことなんて」
「誰も・・」
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与那覇恵子
独立言論フォーラム・理事。沖縄県那覇市生まれ。２０１９年に名桜大学（語学教育専攻）を退官、専門は英語科教育。現在は非常勤講師の傍ら通訳・翻訳を副業とする。著書は「沖縄の怒り」（評論集）井上摩耶詩集「Small World」（英訳本）など。「沖縄から見えるもの」（詩集）で第３３回「福田正夫賞」受賞。日本ペンクラブ会員。文芸誌「南瞑」会員。東アジア共同体琉球・沖縄研究会共同代表。
