【連載】データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々(梶山天)

第20回 再審法改正をめざす議員と市民の集い

梶山天

「許すな!証拠隠し、止めろ!検察上訴 無実の人々を救う! 」。こんなスローガンを掲げて先月27日、衆議院第1議員会館大会議室を会場に「再審法改正をめざす議員と市民の集い」が開催された。

再審法改正をめざす市民の会が今年5月で結成3周年を迎えたのを記念して計画された集会だ。再審法改正に本格的に取り組む日本弁護士連合会が後援している。約100人が集まった会場には、再審法改正を目指すためにこれまで集めた2万701人分の国会請願署名がどっかりと置かれていた。無実の人を助けるために、昨今の歪んだ司法制度を正そうと立ち上がった国民1人ひとりの意志の表れだ。非常に重い。

再審とは、そもそも何ぞや。裁判所が己の職権を全うし、無実の人を救出することにある。

鹿児島の大崎事件弁護団事務局長である鴨志田祐美弁護士による基調講演は素晴らしかった。図を添えて、何より丁寧な解説がわかりやすかったという一言に尽きる。

再審法改正がなぜ必要かを訴える鴨志田祐美弁護士。

 

大崎事件の再審ではなかなか証拠開示を検察、警察側がせず、そして、地裁の裁判官も証拠開示の訴訟指揮を全くせずの状況だったが、高裁の裁判官が積極的にやってくれて証拠が開示された。このように再審で無罪になるか否かは、証拠次第もあり、公正な審理を確保するためには、どんなにやる気のない裁判官でも必ず証拠を開示させなければいけないという法律を作るしかないのが現状だ。

これも非常に大きな問題になっているが、検察官の抗告は、「当然」のことなのか、ということである。日本国憲法第39条に「二重の危険」という規定がある。一つは既に無罪とされた行為。もう一つは同一の犯罪についてだ。この二つは重ねて刑事上の責任を問われない。つまり同一の犯罪について2度にわたって刑事裁判にかけられることによって生命・身体の自由をおびやかされてはならないとされている。

この憲法の条文からすれば大崎事件はもとより、袴田事件、名張毒ぶどう酒事件(請求者は死亡)などをみても憲法に違反しているといわれても過言ではない。実情では、ことあるたびに検察がまるで嫌がらせのように抗告しているのが実情だ。袴田事件がその一例だ。最近は正義の仮面をかぶった弱い者いじめの検察になり下がった感が否めない。

ということで、市民、弁護士、研究者らによって結成された同市民の会によるこの集いの最大の目的は、再審法改正だ。①再審のための全面証拠開示、②検察による不服申立禁止、③公正な再審手続きの整備を国に早急に進めてもらうことだ。国を動かすには、国民の力が必要になる。名もなき人々の思いが国を動かす。そうISF独立言論フォーラム副編集長の梶山天は信じている。

同市民の会によると、全国の地方議会で再審法改正の意見書採択をしているのは今年5月14日現在、岩手県議会と87市町村議会という。

この集いに集まった人たちをくぎ付けにしたのは、冤罪の被害者やこれから再審を請求するとみられる13組の人たちがスクリーンの映像で現れ、それぞれの現状と再審法改正に何が今必要か、体験を通して切実な思いをビデオメッセージで訴えたことだ。一部を紹介しよう。

「巌は人生を失った」。袴田事件発生から56年。弟の袴田巌さん(86)の無実を信じて、自分の人生をも捧げた姉の秀子さん(89)は、こうつぶやいた。私がこれを目の当たりにふと思い出したのが、2010年5月18日に足を運んだ「袴田事件」を題材にした高橋伴明監督の映画「BOX 袴田事件、命とは」の完成披露試写会の会場(東京都内)での一幕だ。

07年に「袴田事件は無実である」と自ら告白した元担当の主任裁判官だった故熊本典道さんが秀子さんらと車いすで舞台あいさつに登壇。涙ながらに自分の無罪主張を判決に生かせなかった責任を吐露した姿だった。その時の秀子さんの顔が忘れられない。

袴田事件は、1966年に静岡県清水市(現静岡市清水区)で味噌製造会社専務宅が放火され、専務ら家族4人が刃物で殺害されていた事件。同年8月に静岡県警が強盗殺人、放火、窃盗容疑で袴田さんを逮捕し、その後の裁判で死刑が確定、再審を求めている事件。2014年3月に静岡地裁(村山浩昭裁判長)が再審開始と袴田さんの死刑及び拘置の執行停止を決定し、釈放された。

しかし、18年6月、即時抗告審で東京高裁は静岡地裁決定を取り消し、再審請求を棄却した。だが、真実は曲げられない。20年12月、最高裁第三小法廷が、再審請求を棄却した東京高裁の決定は審理が尽くされておらず違法であるとしてこれを取り消し、高裁に審理を差し戻した。

この袴田さんのように再審開始決定が出ても抗告審で取り消され、再審請求審が長期化している事態は高齢者にとっては地獄としか思えない。検察官による無謀な不服申し立ての禁止が必要なのだ。このように再審開始決定に検察官が抗告することによって審理が長期化する。さらに抗告審で開始決定が取り消されたら再び長期化する。1961年3月に発生した名張毒ぶどう酒事件では再審請求人が、第9次再審請求の途中に89歳で死亡しており、現在も審理中。

そして注目を集めているのが、大崎事件だ。今から43年前の79年10月に義理の弟を殺害したとして懲役10年の刑が確定した同事件も再審請求人の原口アヤ子さんは94歳。今月15日には95歳になる。最近になって、警察、検察が頑なに何もないと拒んでいた写真などの証拠が実は志布志署などに保管されていたことが明らかになるなど、捜査側に都合の悪い(無罪)証拠が隠蔽されていた実態が浮き彫りとなった。

2022年6月22日に大崎事件で4度目の再審が決定するか、寝たきりで吉報を待つ原口アヤ子さん

 

さらに、審理を行う裁判官が証拠をどのように扱うのか、裁判官によっては証拠開示に対する見解もまちまちで不平等な面も垣間見える。再審における全面証拠開示の必要性を法的に規定することは公正な審理を確保するために必要不可欠だ。一昨年3月から始まった大崎事件の4度目の再審請求で、鹿児島地裁が22日午前10時に、再審決定を認めるのか否かの決定を出すことを今月1日に弁護団に伝えた。

この再審請求では、弁護団が、新証拠として提出した近隣住民が被害者を運んだのを再現した写真や救急救命医師による専門家の法医学鑑定書などは、殺人ではなかったことを明らかにするものだと強調したうえで、自転車の事故やその後の周囲の対応のまずさが死亡した原因だったと主張している。

新証拠の発見は、第3次再審請求における証拠開示をめぐる攻防で、46本のネガフィルムがあることが明らかになり、そのフィルムケースの続き番号のうち、「21番」だけがなかったことに起因する。

検察官は「使い回していて21番だけは存在しない」と回答した。しかし、裁判所が動いた。「もう一度確認するように」と指示するとともに「ないならないで報告書を作るように」と言い渡したのだ。すると、検察側が「ありました。ほかに17本ありました」という。しかも見つかったのは志布志署写真室の戸棚だった。何をいわんや一番初めに明らかにしなければならない証拠だ。この17本の中に、同再審請求に提出した近隣住民の被害者を運ぶのを再現したフィルムがあった。

 

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梶山天 梶山天

独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。

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