第20回 再審法改正をめざす議員と市民の集い
メディア批評&事件検証さて、「再審法改正をめざす議員と市民の集い」の話題に戻そう。1997年3月に発生した「東電OL殺人事件」の冤罪被害者であるネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリさんもこの集いにビデオメッセージを寄せてくれた。
殺害現場の隣のビルに住み、不法滞在していたゴビンダさんは、同年5月に警視庁に強盗殺人容疑で逮捕された。しかし、一貫して無実を主張し一審は無罪だったが、控訴審での逆転有罪、上告棄却、再審決定を経て2012年に無罪が確定した。その彼が会場の人たちに送った言葉はこうだった。
「今でも日本でたくさんの冤罪の人たちが刑務所の中にいたと思います。僕みたいな警察からたくさんの無罪な証拠をね、隠したり、裁判所に出さなくて15年間刑務所に入れられ、とてもつらい思いをしたので、私みたいにならないようにちゃんと正しい裁判のために正しい法律を作ってやってください」。
無罪証拠を隠され、無罪放免になるのになんと15年間もかかったことを問題視しているのだ。
今年4月からISF独立言論フォーラムホームページで映像と記事で展開している冤罪キャンペーン「今市事件」で犯人として千葉刑務所に収監されている勝又拓哉受刑者(41)の母親(63)も、「無期懲役8年5カ月」と書いたプラカードを掲げて「私は今市事件勝又拓哉の母親です、拓哉は全く関係のない殺人事件の犯人にされて逮捕されました。今は千葉刑務所に服役されています。もし逮捕されていなければ、今は普通の人生を送って結婚して、子供もいるんじゃないでしょうか」と一日も早く雪冤の日が来ることを訴えた。
私の要請で筑波大学法医学教室の本田克也元教授と徳島県警科捜研出身で徳島文理大学大学院の藤田義彦元教授が再審の証拠となるものを突き止めた。今後再審請求することになるだろう。
この集いでクローズアップされ法改正が必要不可欠とされた再審法は、刑事訴訟法の第4編の「再審」を言う。500以上の条文がある刑事訴訟法の中で、再審に関する条項はわずか19カ条しかなく、70年以上一度も改正したことはなく、時代に取り残された再審法と言われて久しい。
審理の手続きについては、事実の取り調べができるとあるだけだ。裁判官主導の「職権主義」がとられているため、裁判官自身の積極さには個人差があるため、審理の進め方に格差が生じているのは事実だ。
同市民の会共同代表で、映画監督の周防正行さんは再審について「司法の世界の無法地帯」といい、2011年に再審無罪となった「布川事件」の桜井昌司さんは「一日も早く冤罪被害者が救われるよう全面証拠開示や検察官の抗告禁止のほか、どの裁判官が担当しても手続きにのっとって審理されるようになってほしい」と語った。また、桜井さんをドキュメンタリー映画で描いた金聖雄さんは「残酷な制度」と表現した。
今市事件の犯人として千葉刑務所に収監されている勝又受刑者の母にとって、今月22日に大崎事件4度目の再審開始なるかの決定は他人事ではない。
近く95歳を迎える原口アヤ子さんに吉報が届くように願わずにはいられない。よく空を見上げるようになった。心の中に浮かぶ息子と会話するためだ。今日も同じように見上げた。
たとえどんなに離れても、会えない時が続いても、つないだ心は放さない。私の鼓動はいつか聞こえなくなる。あなたをまぶたに描き続けることをこの空に誓うから……。
連載「データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々」(毎週月曜、金曜日掲載)
https://isfweb.org/series/【連載】今市事件/
(梶山天)
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独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。