「対米従属」から脱却し、 「東アジア共同体」の実現をめざそう

木村朗ISF編集長

・日本安保~「自発的な」対米従属

このような東アジアの状況の中で、日米軍事一体化の動きは冷戦終結後の日米安保共同宣言・新ガイドラインによって大きく加速し、米軍再編とそれに伴う日米同盟の再編が行われてきました。

とりわけ「台湾有事」に日本が自動的に参戦するシステム・制度が着実につくられてきたのです。冷戦時代の日本は慎重にそこを避けてきましたが、冷戦終結後、何段階かを経て、今は自動参戦どころか、自ら積極的に「台湾有事」に関与する姿勢さえ見せています。

日本の安全とは直接かかわりのない南沙・西沙諸島の問題についても、事実上の空母化を決めた「いずも」をはじめいろんな海自艦艇を派遣し、共同警戒活動に参与しています。Quadに象徴されるように、直接的な軍事的関与をも辞さない姿勢さえ示しているのです。

国内では日米安保に関して、辺野古や高江をはじめ米軍基地問題が注目されてきましたが、最近、実は南西諸島問題のほうが本丸だったのではないかと感じています。奄美、宮古、石垣、そして与那国まで、自衛隊配備が南西諸島防衛、南西シフトの名目で進められていますが、これは明らかに中国を仮想敵国とし、自衛隊が前面に出た日中戦争あるいは米中戦争を想定したものです。

これに関連してジョセフ・ナイのオフショア・バランシングに関する論文があるのですが、その内容を一言で言うと、日中間で衝突を引き起こして、アメリカは無傷で第三者的な漁夫の利を得ながら関与するというものです。そうした発想は今でもアメリカ側の一部の政治・軍事指導者の間に共有されていると思います。

日米安保の基本的な性格は対米従属、しかも自発的な対米従属で、アメリカの圧力、強制によって日本側がなし崩し的に軍事協力を余儀なくされる部分もあるのですが、日本が部分的な主体性をもって積極的に関与しようという動きも見られます。台湾問題や南シナ海問題への積極的な関与は、一方的にアメリカから圧力を受けて強制されたものだとするだけでは説明できないと思います。

米軍の日本駐留の目的は、「日本の防衛」と「米国の東アジア戦略あるいは世界戦略への貢献」と言われてきました。要するに前方展開戦略に基づいて日本に基地を置いている。

しかしその本当の目的は、戦争が起こった時に、戦場をその地域にとどめるということなんです。これは「本土防衛」のために沖縄だけが戦場になって犠牲になった沖縄戦と同じ発想です。今の軍事技術のレベルでいえば、嘉手納基地なんかは中国のミサイルですぐにやられるから、基地はむしろ分散したほうがいい。それでも沖縄に基地を置くのはそうした狙いがあるからです。

launch of a ballistic missile from under water

 

そしてもう一つは「終わらない占領」、日本の独立をあくまでも抑えて、支配を永久化するためです。そのための組織が日米合同員会に他なりません。これついては、『日米合同委員会の研究』(吉田敏浩著、創元社、2016年)に詳しいので、ぜひお読みください。

米軍が駐留している国は、程度の差はあれ、アメリカに従属させられているのは間違いありません。

・「東アジア共同体」の実現に向けて

こういった状況を日本の私たちがどうやって打開していけばいいのか? まずそういう事実関係、歴史的な経緯、現状を正しく分析、評価することが第一だということと、それに関連して、つくられた中国・北朝鮮脅威論のカラクリを見抜くメディア・リテラシーを、一人ひとりが身に着けることが必要です。とは言っても、大手主流メディアの影響力は絶大ですので、それに風穴を開けるような新しいソーシャル・メディアの創設が、市民主導でなされる必要があると思っています。それが可能かどうか、私もいま試みている最中です。

もう一つは、政府、国家レベルでは難しくても、市民、個人、各団体あるいは自治体レベルでは可能なこともあります。東アジアにおいて、日本と韓国と台湾とは比較的やりやすい。中国とはなかなか難しい部分がありますが、アメリカ、ASEAN諸国の市民などとも連携して、そういった紛争問題を平和的な解決に導くような連帯、連携のネットワークをさらに広げていく必要があると思います。

そして政治的には日本の宿痾である対米従属からの脱却を図る必要があります。そのためには選挙でまた政権交代を実現する。細川政権、鳩山政権に次ぐ第三の革新的な政権をつくるしかないというのが結論ですが、その際にやはり、新しいアジアの安全保障に対する具体的なビジョンを提起する必要がある。

その点で注目されるのが、この間一貫して鳩山由紀夫元首相が提起しておられる「東アジア共同体構想」です。これは、沖縄を拠点にそれを構築していこうといういう発想で、私が2020年3月に鹿児島大学を退職して翌四月から沖縄に拠点を移したのもそのためです。

asian countries vector map.

 

安全保障政策で言えば、日本では「東アジア共同体構想」とともにタブーにされているもう一つの考え方が、いわゆる「有事駐留」、「常時駐留なき安保論」で、これを公の政策として政権交代後には全面的に打ち出していく。要するに日米安保条約の縮小、解体です。具体的な平和条約への転換へのプロセスを打ち出していく必要がある。

沖縄では、大田知事時代になされたような基地返還プログラム、アクションプログラムですね、国際都市形成構想と並んで出されたあのようなものをもう一度、具体的なスケジュールを含めて日本全体で提起し直す必要があると思っています。

(「アジェンダ 未来への課題 第74号『戦争準備』にひた走る自衛隊」より転載)

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木村朗ISF編集長 木村朗ISF編集長

独立言論フォーラム・代表理事、ISF編集長。1954年北九州市小倉生まれ。元鹿児島大学教員、東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会共同代表。九州大学博士課程在学中に旧ユーゴスラヴィアのベオグラード大学に留学。主な著作は、共著『誰がこの国を動かしているのか』『核の戦後史』『もう一つの日米戦後史』、共編著『20人の識者がみた「小沢事件」の真実』『昭和・平成 戦後政治の謀略史」『沖縄自立と東アジア共同体』『終わらない占領』『終わらない占領との決別』他。

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