【高橋清隆の文書館】2024年07月09日 釧路降機事件でエアドゥ側が命令書のひな型提示を捏造 控訴審第2回口頭弁論

高橋清隆

釧路強制降機事件控訴審第2回口頭弁論が8日、広島高等裁判所(202号法廷・倉地真寿美裁判長)で開かれ、被控訴人のエアドゥ(AIRDO)側は谷本誠一呉市議(当時)が大声を出したとの口裏合わせをするとともに、命令書のひな型の提示をでっち上げ、谷本氏がこれを撮影したことを搭乗拒否の理由にしてきた。

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閉廷後の谷本氏(左)と桜井弁護士(2024.7.8広島高裁前で筆者撮影)

この事件は2022年2月釧路発羽田行きエアドゥ機内でマスク着用のお願いを断ったため、筆者の高橋清隆とともに飛行機から降ろされたもの。控訴審は請求を共同不法行為責任(民法709条、719条)に基づく債務不履行として、1円の損害賠償の1点に絞っている。

エアドゥ側の反論は、谷本氏が客室乗務員(キャビンアテンダント・CA)に罵声(ばせい)を浴びせ威嚇し、マスク着用などの指示に従わなかったとし、降機は搭乗拒否に応じて谷本氏が任意で行ったとするもので、強制的に降機させた事実を否定している。マスク着用のお願いは、定期航空協会のガイドラインに従ったと主張する。

口頭弁論は1月24日以来で、初めて証人尋問が実現した。エアドゥの主客室乗務員(チーフパーサー)の久保田智恵美氏と、エアドゥと契約する三ッ輪エアサービス釧路空港営業所係長の福田司(つかさ)氏、谷本氏の3人が控訴人・被控訴人の双方から尋問を受けた。

久保田氏は主尋問で、事件当時の谷本氏の「大声」について「数列にわたり響き渡る音量だった。これまで聞いたことのない強いトーンと音量だった」「最前方の乗客も振り返るほどで、子供もおびえていた」と主張した。

警察官を呼んだ理由については、「このまま騒ぎがエスカレートすると思って」「他の航空機ではマスクを拒否した乗客が暴行を働いたこともあり、不安だった」ことを挙げた。

控訴審に入ってエアドゥ側が繰り出してきた新主張が、命令書を2回提示したというもの。最初は未記入のひな型を示し、後で記入済みの命令書を差し出したとする。本物の命令書を示す前に谷本氏が写真撮影したことにして、同社運送約款第14条「運送の拒否及び制限」が定める「他の旅客に不快感を与え、又は迷惑を及ぼすおそれのある場合」に該当させようとする作戦だ。しかし、これはでっち上げであることを、一緒にいた筆者は知っている。

撮影した写真の枚数も、「私と警察官の姿を数十枚」と証言した。実際には命令書の写真を含め、せいぜい2、3枚のはず。

控訴人代理人の桜井康統弁護士は「反マスク活動とは」「パニック症候群とは」と久保田氏にただすが、「知るところでない」「定義づけできません」と返答。「どうして判断できた」「定義が分からないものに、どうして分かるか」と反論した。

福田氏は谷本氏の声量について、「機内前方まで届くような」と久保田氏と同じ表現をした。「威圧的だと受け止めた。萎縮(いしゅく)するほどで、マスク着用の提案がしにくい状態になった」と誇張する一方、「最初は大きくない。普通の口調だった。繰り返し説明をする中で大声に」と食い違いを見せた。

命令書のひな型について、「何も書かれていないものを確認した。他の客室乗務員が記入しているのを見た」と、同じ新証言をした。その一方、裁判長から「読み上げ前に写真を撮影したのか」と問われると、「記憶はあいまいです」と言葉を濁した。

谷本氏は、チェックインカウンターで最終的に「お客さまは乗れることが確定しています」と言われ、搭乗口まで2人が案内されていることや、空港内派出所と釧路警察署で任意の事情聴取に協力したことを説明した。

「大声」については、「議員であり当然、事を荒立てたくない」と否定。機内で前方の乗客が振り向いたとの主張については、「警察が入ってきたから振り向いた」との見方を示した。「自らの意思で降りた」とのエアドゥ側の主張については、「公人の身であり、公務執行妨害で逮捕されることを恐れ、やむなく降りることを選択した」と吐露した。

その場で始終を見ていた筆者の立場から、争点についてここで補足する。

命令書のひな型提示があったと今回でっち上げてきたが、どこで記入がされたのか不明である。

「子供がおびえていた」との主張はウェブニュース記事を証拠にしているが、報道が正しいとする証拠はない。支配権力の意に沿った記事になるなら、メデイア人は誇張もでっち上げも教唆もする。

マスク着用の声掛けは、お願いなのか指示なのかはっきりさせていない。事件当時、機内では「お願い」という言葉を繰り返し、準備書面でもガイドラインの「お願い」の項目を前面に掲げる一方、同じ準備書面に「マスク等の着用の指示に従わず」と記す。この矛盾はガイドラインの記述から来ると解す。ガイドラインの3項目目には次のくだりがある。

「必ずマスクまたは代用品の着用をお願いします。他のお客さまに不快感を与え、または迷惑を及ぼす恐れのある場合、係員の業務の遂行を妨げ、またはその指示に従わないと判断できる場合は、搭乗をお断りする場合があります。」

2文から成っており、1文目はマスクが「お願い」であること、2文目では、他に不快感や迷惑を生じさせる恐れのある場合は搭乗拒否できることをうたっている。エアドゥ側は自分たちの取った対応を正当化するため、大声や命令書提示前の写真撮影をでっち上げるとともに、マスク着用のお願いを2文目の「指示」に含めようと工作しているのだ。

今回の口頭弁論でエアドゥ側が出した決定的な綻びは、地上勤務の福田氏に登場要請した理由について語った久保田氏の証言。「当時、ドアが開いている状態にあり、地上スタッフに責任があったから」と明かした。航空法第73条の4は安全阻害行為の成立を「すべての乗降口が閉ざされた時から着陸の後降機のためこれらの乗降口のうちいずれかが開かれる時まで」と規定する。つまり、われわれに提示した命令書の有効性に根拠がなかったことを告白した形だ。

証言を始める前に証人は真実を述べることを宣誓したが、声量や命令書のひな形提示などうそで固めた証言が展開された。刑事裁判での検察側証言と同様、支配権力側の意思に沿った証言はうそでも偽証罪に問われないのか。

閉廷後の記者会見で桜井弁護士は、自身が争ったJALやウェスティンホテル東京の偽証場面を法廷で回想して虚無と絶望に襲われたと吐露した。「しかも、複数人対1人。とてもまともな精神状態で聞くことはできなかった。谷本さんは恐るべきメンタルの持ち主」と評じた。

その上で、福田氏の「記憶があいまい」発言に触れ、「ひな形の提示を覚えてないのは明らか」と両断。「反マスク活動」や「パニック状態」の定義ができなかったことは、搭乗拒否の例外となる「健康上の理由」が何の意味も持たない証左であることを強調した。

控訴人の谷本氏は、エアドゥ社の国内運送約款に「マスク」が書かれておらず「お願い」にすぎないことや、健康上の理由でなければ降りてもらうとするガイドライン(方針)が憲法・法律に照らして無効であることを主張した。

「危険人物で暴力を振るう恐れがあるから警察を呼んだと言った。抑止力になるからと。大声を出していないのに警察官が後方に向かえば、何事かと他の乗客は振り向き、不安になったのが事実」と批判した。

次回口頭弁論は9月11日303号法廷。最終の準備書面提出が8月30日までに指定された。結審する可能性がある。

※なお、この記事は「高橋清隆の文書館」2024年7月9日のブログ記事がらの転載であることをお断りします。
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高橋清隆 高橋清隆

反ジャーナリスト。金沢大学大学院経済学研究科修士課程修了。元ローカル新聞記者。著書に『偽装報道を見抜け!』(ナビ出版)、『亀井静香が吠える』(K&K プレス)、『山本太郎がほえる~野良犬の闘いが始まった』(Amazon O.D.)など。翻訳にデーヴィッド・アイク『答え』第1巻[コロナ詐欺編](ヒカルランド)。2022年3月、メディア廃棄運動を開始。 ブログ『高橋清隆の文書館』http://blog.livedoor.jp/donnjinngannbohnn/

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