【連載】ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会 メールマガジン
ノーモア沖縄戦

メールマガジン第202号:不条理な辺野古代執行 「戦争国家」に抗う

ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会

 

沖縄はどうなるのか。日本はどこへ向かうのか。案じられてならない2023年末のありさまです。福岡高裁那覇支部は辺野古新基地建設の設計変更を承認しない県の判断を退け、玉城デニー知事に承認するよう命じました。問答無用で国に従え、という判決です。昨年末の安保3文書閣議決定から1年。凄まじい勢いで、沖縄だけでなく全国の「戦争準備」が進み、さらに加速しています。行き着く先は戦争ではないか。この国は本気で戦争をしようとしているのではないか。疑念は確信に変わりました。辺野古問題は沖縄問題ではありません。「戦争」が現実となりかねない。この動きに国民がどう向き合うのか。そのことが問われています。

「行政独裁」司法も
「司法の自殺」と私は受け止めます。マヨネーズ状の軟弱地盤の調査もしない設計変更の不合理性。反対する民意。生物多様性に富む海の壊滅的な破壊。沖縄県の道理ある不承認事由を検証もせず、司法が切り捨てました。「安全保障は国の専権」と言わんばかりです。現代史家の保坂正康氏は安倍政治を、戦前の軍部独断とは異なる「行政独裁」と批判しました。行政、立法を数の力で壟断し、司法をも従わせ、「戦争をする国」に向かわせる。平和憲法、民主主義も地方自治も否定する「戦争国家」が完成形に近づきました。

「悪法も法なり」という言葉があります。辺野古設計変更の承認を命じた判決に応じない県判断の記者会見で、「記者から、知事は司法判断に従うべきだ、と追及する質問も出た」(沖縄タイムス)ということです。戦前にタイムスリップした感を抱きました。治安維持法や国家総動員法が国民や新聞を法の支配に従わせたあの時代。国民も新聞も戦争準備に熱狂した戦前と、憲法違反が指摘される種々の悪法がまかり通る現在が重なって見えます。正当性のない悪法や歪んだ司法判断に従うことが正しいとは私は思いません。

沖縄タイムスのコラム「大弦小弦」は高裁判決を「民意よりも安全保障」。同社説は「安全保障の国民的な議論を」と問題の核心を指摘しました。国民に説明せず、公文書を隠ぺい、改ざんし、憲法違反の立法を重ね、米国に言われるがまま「戦争国家」にまい進する政府。「日本が戦争をする国になっていいのか。戦争をしていいのか」という国民が真剣に議論すべき「安全保障」問題の中心に、辺野古新基地問題はあると思います。ここを易々と突破されれば、抗う国民と地方を強権で組み伏す「戦争国家」はすぐそこです。

大田知事理署名訴訟
今回の地方自治法に基づく「国の代執行」判決は「民主主義、地方自治の否定」と批判されています。似たような先例として沖縄2紙は、「在沖米軍基地使用代理署名訴訟」を挙げます。1995年の少女暴行事件を受け、大田昌秀知事は「米軍用地特別措置法」による契約拒否地主・土地強制収手続きの代理署名を拒否。これに対し国は大田知事に署名を迫る「職務執行命令訴訟」を提訴。福岡高裁那覇支部判決が大田知事に代理署名を命じ、最高裁で県敗訴が確定しました。大田知事は「基地の整理縮小」を求める県民投票に打って出て、圧倒的多数の賛成を獲得して抵抗しますが、土地収用手続きに応じざるを得ませんでした。「基地撤去」を求める民意は、この時も踏みにじられたのです。

「知事代理署名問題」はそれだけでは終わりませんでした。政府は沖縄米軍基地の安定的な存続を図る「米軍用地特別措置法改正案」を国会で成立させます。改正法は県民や知事がいかに反対しようと「米軍基地を永久に固定化する悪法」と批判を浴びました。
「米軍余地特別措置法改正案」の可決成立を衆院特別委員長だった野中広務氏は次のように回顧しています。

軍国主義への傾斜
「97年4月11日の衆院本会議では、予想通り圧倒的多数が改正法案に賛成した。衆院安保特別委員会の委員長報告を読みながら、私は不意に、自分が軍国主義に傾斜してゆく戦前の日本の国会の場にいるかのような、錯覚に襲われた」。

そして野中氏は、米軍普天間基地を見渡す宜野湾市の嘉数高台公園に建立される京都出身の戦没者を悼む「京都之塔」に思いをはせ、かつて同地に赴いた際に、タクシーの運転手が「あの田んぼの畦道で妹は殺された。アメリカ軍じゃないんです」と泣き叫んだことを述懐し、居並ぶ国会議員に語り掛けました。

大政翼賛会
「この法案が日米安保体制の堅持の新しい一歩を印すとともに、大変な痛みと犠牲と傷を負ってきた沖縄の振興の新しいスタートとなりますように。どうぞこの法律が沖縄県民を軍靴で踏みにじるような、そんな結果にならないように。」
「そして古い時代を生きてきた人間として、今回の審議がどうぞ再び大政翼賛会のような形にならないように。若いみなさんにお願いをしたい」。

野中氏の「大政翼賛会」発言は、「不規則発言として議事録からは削除され、新聞に記録が残っているだけ」と言います。野中氏の予感は的中しました。安倍政権以降の「軍国主義への傾斜」は目を覆うべくもなく、沖縄は再び軍靴で踏みにじられようとしています。そして「再び大政翼賛会にならないように」という危惧は現実となり、政府、国会、司法、国民、新聞・メディアを巻き込み、新たな総動員体制に突き進んでいます。

「県内たらい回し」の不条理
琉球新報が「あす代執行 国表明」「県はきょう上告」と報じた12月27日、福岡久留米の教職員の方々と嘉数高台展望台を訪れました。普天間基地に並ぶ飛行停止中のオスプレイの上空で沖縄国際大学に堕ちた同機種のCH53ヘリが旋回を繰り返していました。普天間基地は米軍が住民を追い出して造った国際法に反する基地で、日本政府が追認し、住宅密集地の真ん中に居座り続けています。「世界一危険」と言われるその普天間基地の代替基地を、再び県内たらい回しで辺野古に押し付ける不条理を県民は受け入れるわけにはいきません、

嘉数高台は沖縄戦の激戦地で嘉数集落住民の58%が戦死し、多くが一家全滅したことを平和ガイドの長嶺智子さんが解説しました。沖縄戦を生き延びた住民男性は「日本兵に家を奪われ南部に逃げたが、砲弾が降る中、入る壕もなく、石垣に身を寄せ、木の枝で体を隠した」「弾薬を背負い戦車に見を投げる日本軍の切り込み隊は、クバ傘を被り農民の服を着て住民を装った。見分けがつかずに多くの住民が米軍機銃掃射の犠牲になった」と振り返りました。「軍民混在、共生共死」を強いられた県民に、再び日本政府がミサイル基地、弾薬庫との「共存共死」を強いる不条理を受け入れるわけにはいきません。

「人間の尊厳」取り戻す
普天間基地のフェンスに隣り合わせる普天間第二小学校、戦闘機や無人機が飛び交う町域の82%を占める広大な嘉手納基地を見て回り、ふつふつと怒りが沸きました。このようなありようは異常です。「国が代執行」の報道記事の中に「植民地」の文字も目にしました。沖縄は「軍事植民地」と言われています。日米共犯の「軍事植民地」です。そうだとすれば県民は植民地の奴隷です。不条理な「設計変更承認命令」を知事が受け入れることは、私たちが「軍事植民地の奴隷」であることを認めることになります。応じるわけにはいきません。生殺与奪の権利を日米政府が握る奴隷の身分から脱し、「人間の尊厳」(国連での岸田首相演説)を取り戻すために、知事を先頭に抗い続けるしかありません。

新垣邦雄(当会事務局長)

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