【特集】日航機123便墜落事故

書評 青山透子『日航123便墜落事故 隠された遺体』―39年後にも、不可解で衝撃的な新事実が判明する戦後日本最大のタブーに迫る 嶋崎史崇

嶋崎史崇

はじめに:森永卓郎氏のおかげで、39年後に生じた違い

今年も、8月が巡ってきました。1985年8月12日に、単独機としては世界最多の犠牲者を出した日航123便墜落の発生から、39年がたちました。いまだ多くの未解明の謎が残り、非業の死を遂げた520人の無念は、今も晴れていないでしょう。

大手新聞各紙は、例年と同じく、非常に多くの疑惑が生じている事故原因の追及から目を背けつつ、「慰霊登山」「誓う安全」のような儀礼的な報道に終始しました。広島・長崎への原爆投下の日や、敗戦記念日といった他の8月の日程についての報道が「8月ジャーナリズム」と揶揄されていますが、日航123便を巡る報道の形骸化は、それ以上に深刻かもしれません。

ただ今年が例年と異なる点は、3月に三五館シンシャから刊行され、日航123便と「日本経済墜落の真相」の関係に光を当てた森永卓郎氏の『書いてはいけない』が、マスメディアの“集団的沈黙”にもかかわらず、8月時点で26万部を超えるベストセラーになっている点でしょう。大手新聞でも、8月13日付を中心に、通常の事故であることを全く疑わない予定調和的な記事が目立ちながら、この本の広告が下側に、日航123便事故の異常性を強調する形で掲載されていました。情報通の私の知人は、コロナワクチン薬害問題を念頭に、「新聞では、往々にして記事よりも広告の方が重要」と言っていましたが、この件についても大いに当てはまると思います。

ISFでも森永氏へのインタビュー動画が8月1日に公開されました。8月21日の時点で再生回数が8万回を超え、ISFでは最多の回数になっています。重病を押して命懸けの告発をしている森永氏には、敬意を表します。
「対米従属の原点としての日航機123便墜落事件 森永卓郎(経済アナリスト/獨協大学教授)」。
https://isfweb.org/post-41125/

私自身、『書いてはいけない』について書評を投稿しましたし、森永氏らに情報提供するほどの有識者である小幡瞭介氏による日航123便を巡る報道検証は、既に8回を数える連載になっています。
「【書評】嶋崎史崇 森永卓郎『書いてはいけない 日本経済墜落の真相』 ―ジャニーズ問題、「ザイム真理教」、日航123便事故に共通する権力とメディアの闇」(上下2回)
https://isfweb.org/post-35668/
https://isfweb.org/post-35673/

小幡氏の連載:こちら

コロナワクチン薬害問題を経て、また森永氏の著書のおかげで、例年よりも多くの人が政府と主要メディアの報道に疑問を抱いていると思われる中、123便問題の第一人者の一人である青山透子氏の新著『日航123便墜落事件 隠された遺体』(以下本書)が、河出書房新社から刊行されました。8月12日ごろには、既に店頭で販売されていました。青山氏は、85年当時は日航の客室乗務員で、多くの同僚を失っています退職後に東京大学で博士号を取得し、“公式見解”としての圧力隔壁破壊説を完全に否定しつつ、この事故を自衛隊の誤射に端を発する事件として捉える精緻な著作を、既に6冊も世に問うてきました。

圧力隔壁説については、検察ですら確証を持てず、前橋地検がボーイング社、日航、運輸省を不起訴にしました(90年7月には、再捜査でも不起訴)。歴史に残る大事故にもかかわらず、誰も法的責任を取っていないのです。青山氏や遺族の小田周二氏らが主張する誤射説についても、実は他ならぬ事故調査委員会が、2013年公開の資料において、「異常外力」があったという形で、可能性として暗に認めていることは、全国民必須の知識でしょう。空自ファントム機2機を、事故当日に群馬県内で2機目撃した、という当時の現役自衛官の証言を掲載した『上毛警友』の記事が本書に収録されているのも、大変貴重です(331-333頁)。
「航空事故調査報告書付録(JA8119に関する試験研究資料)」(101、116頁等参照)
https://www.mlit.go.jp/jtsb/aircraft/download/62-2-JA8119-huroku.pdf

最高裁でのボイスレコーダー開示要求の上告棄却

今年の例年に対するさらなる違いの一つは、遺族である吉備素子氏が起こした123便のボイスレコーダー開示を求める訴訟が、3月に最高裁で上告棄却されたことです。主要メディアの反応は鈍く、大多数の日本人は裁判が行われていたことそのものを認識していないかもしれません。本書131頁に転載されている事故の地元紙・『上毛新聞』の2024年5月24日付の記事「データ開示『諦めきれない』日航機事故遺族 訴訟終結で会見」は貴重な例外でしょう。『女性自身』も、究極のタブーである「異常外力」にも言及しつつ、持続的に報道してきました。巨大組織メディアの無反応と、一部地方メディアや週刊誌の健闘という対照的な構図は、コロナワクチン薬害問題でも見られたものです(CBC、サンテレビ、『女性セブン』等)。
『女性自身』:「『日本航空123便墜落事故』裁判終結に、夫を亡くした81歳の遺族が期す『真相究明』次なる一手とは」、2024年5月24日。
https://jisin.jp/domestic/2328631/

東京地裁・東京高裁での訴訟については、青山氏の前著『JAL裁判』(2022年、河出書房新社)で詳細に記述されています。夫を亡くした吉備氏は、三宅弘・弁護団長らと共に、夫が死ぬ前に経験した出来事を知りたい、と故人の重要な「個人情報」を含むとされるボイスレコーダーとフライトレコーダーの請求を日航に対して行い、拒否されたため、訴訟に踏み切りました。これほどの過酷事故ですから、運輸安全委員会が国民共有の財産として責任をもってレコーダーを保管し、情報公開請求にも応じるのが本筋のはずですが、何と事故当事者である日航に返却して請求を逃れる、という異例な対応をしました。青山氏のような専門家でなくても、「本末転倒」(133頁)という言葉が自然に頭に浮かびます。

一審・二審では、ボイスレコーダーの内容は機長らや管制官らの会話に過ぎず個人情報ではない、フライトレコーダーは単なる位置情報であって開示対象にならない、という判断が下されました。また、いかなる事情が生じても、異議を述べず、請求をしない、というこれまた極めて異常な条件の和解が被害者と日航の間で結ばれたことから、開示請求は拒否されました。和解時には「異常外力」のことなど知らなかった、和解しても知る権利までは放棄していない、といった原告側の訴えも、考慮されることはありませんでした(特に90-93頁)。異例極まりない判決間際の裁判官交代や、もう1人いた原告への訴訟取り下げ圧力等、奇怪な事件も相次ぎました。裁判の経緯については、本書第1章「独立なき司法の判断」の他、末尾には一審、二審、最高裁への上告受理申立理由書等が、資料として添付されており、大変参考になります。

最高裁への上告請求も、最高裁での審議対象である違憲かどうかの争点がないから、といった理由で、あっさりと退けられました。「裁判官に歪んだ判決を書かせないように監視することこそが、私たち一人ひとりの役割であり、この国の国民としての役割と責任なのである」(115頁)という青山氏の呼び掛けは、民主国家の一員としての私達に対して重い響きを持つものといえます

最大の異常事態の発覚:日航123便機長の遺体はなぜ隠されなければならなかったのか?

この本の表題にもなっている「隠された遺体」を論じる第2章「看護婦が見た隠された遺体」。当時、看護と検死に当たった元看護師の証言をきっかけに、高浜雅己機長は早くも検死開始初日の8月14日に、遺体安置場に運び込まれていたことが判明します。なぜこの事実が衝撃的かというと、当時のメディアの報道=主張によると、機長の遺体発見は29日だったとされているからです。しかも、副機長や機関士と違って、機長だけ裸であり、乗客用のマスクを着けていたなど、不可解な点が目立ちます。青山氏は当時の警察資料を調べ直し、公式記録上も機長の検死は8月14日だったことが確認されます(182頁に転載)。こうした緻密な考証が、青山氏をして、この分野の泰斗たらしめている、ということが実感できる裏取り作業です。

つまり2週間もの間、事故調査で最も重要である機長の遺体が隠蔽されていたことになりますが、青山氏は次のような驚くべき推論をします。即ち機長は海上自衛隊出身であり、日航へ転職後も、恐らくは予備自衛官として、123便を標的と見立てた自衛隊の訓練に協力しており、そうした事実を隠す必要があったのではないか、ということです。制服を剝ぎ取ったのも、メモなどの証拠隠しと推定されます。こうした推測は、一見荒唐無稽に思われるかもしれません。しかし、1971年に全日空機と自衛隊機が衝突して、前者の乗客乗員162人全員が死亡した雫石事故をきっかけに、様々な航空会社のパイロットらが、自分達は自衛隊機に「仮想敵」として追跡された、と告発した『読売新聞』記事(71年8月1日付、73頁に転載)を吟味すると、相当な現実味をもって響いてきます。

これに合わせて、有名な「しりもち事故」を起こした機体が訓練対象機としてあえて選ばれ、いざとなればそのせいにしようとしていたのでは(186頁以下)、という青山氏の推理には、尋常ならざる鋭さを感じます。もちろん、ボイスレコーダーの生データ等の重要資料が徹底的に隠蔽されている以上、青山氏の一連の考察は、決定的に真実を証明するものではないでしょう。けれども、「いずれにしても、単なる圧力隔壁破損による事故ではないことは明らかだ。通常の事故であれば、高浜機長の制服をはぎ取る必要はない。初日に機長を検死したにもかかわらず、その事実を隠し、誤った情報を報道する必要もない。そして、異常外力着力による垂直尾翼の崩壊を隠蔽し続ける必要もない」「米軍の救助を断る理由もない」(188頁)という著者の結論には、抗い難い説得力があると思います。決定的な真相の確定が困難であっても、これだけ不可解な事実が連続して偶然によって起こりうるかどうか、「そんなことあるわけない」といった無責任な予断を排して吟味しなければならないでしょう。

こうした記述に関連して、米軍上層部による日本側の隠蔽への協力や指示はどれだけあったのか、と問うてみることは、日本の米国への徹底的な従属に鑑みると、有意義なものでしょう。しかしまずは「通常の事故であり、いかなる疑問もない」といった公式見解への疑問点を、幅広く共有することが、真相究明への第一歩となるでしょう。

墜落後に救助に入ろうとした米兵が日本側の要請により引き返した、といういわゆる「アントヌッチ証言」についてのテレビ朝日番組は、以下で視聴できます。
「日航機墜落事故 米軍幻の救出劇」:
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=65krBx_Bblg&t=385s

1月2日の羽田空港事故は、未解決の123便墜落問題の“復讐”か?

本書第3章「検証 羽田空港 地上衝突・大炎上事故報道」では、能登半島地震直後の日本社会を震撼させた、2024年1月2日の羽田空港での日航機と海上保安庁機との衝突事故について、批判的な考察が行われています。海保側では5人が死亡していますが、一般の報道では、日航の客室乗務員らの適切な行動により、日航側の乗客全員が無事だったという”奇跡の救出劇“が称賛されています。夜間は見えにくいから仕方ない、といった言い訳も目立ったとされます。けれども青山氏は、日航の元機長に取材し、日航側も「見張り義務違反」で立件される可能性もある、という”美談“に冷や水を浴びせる見方を突き付けます(241頁)。別の機長からは、管制官から許可が出ても、「最後の最後までも、目視で確認するのは当然」との証言が得られます(203頁)。

23年9月以来の、日航機による滑走路誤侵入、停止線越え、酒乱騒動、接触事故などが列記された一覧表には、同社の組織体制について、確かに不安を覚えさせるものがあります(234-235頁)。
123便事故と羽田事故の顕著な共通点としては、事故調査委員会がフライトレコーダーとボイスレコーダーの生データを開示しない、という方針を示していることが挙げられます(223頁以下)。過去の事故では日航自身もボイスレコーダーを一般公開したという事実に鑑みると、到底納得できるものではなく、公平な調査が行われているのか、疑問符が付きます。青山氏は、日航が事故機を保存するという報道に接し、「安全啓発センター」が「隠し場所」「ブラックボックス」になるのでは、と疑います(243-245頁)。

過去の事案が未解決なまま放置され続け、適切な反省が行われない限り、同種の問題は何度でも再現され、いわば“復讐”し続けるのではないでしょうか。「知識が乏しく、問うべき質問すらできずに取材を終える記者たちの不甲斐ない態度」「状況は39年前の日航123便のときよりも、悪化してきているように思えてならない」(226頁)という青山氏の厳しいメディア批判も、重く受け止めなければなりません。

おわりに:ジャニーズ問題と同じく、「外圧に頼るしかない」とならないように、自浄作用を働かせよ

終章「未来への道程」では、最高裁の上告棄却後の会見の模様が記録されています。「真実に時効はない」と力強く宣言する佐々木健次弁護士(250頁)。異常外力を示すデータはなぜ裁判の論点から消えたのか、と鋭く核心を問い直す三宅弘弁護団長(257頁)。赤石あゆ子弁護士は、個人情報としてのボイスレコーダーにアクセスできないことは「日本の民主主義の根幹を揺るがす由々しき事態であると思います」(249頁)とまで言い切ります。確かにこのような重大事件の事実関係と責任が曖昧にされることは、国家・国民全体のモラルハザードを招きかねないものでしょう。

そして何よりも、「戦争で父を奪われ、JALに夫を奪われました」「本当の事故原因を知ることは、未来のためにも必要なこと」(256頁)と切実に訴えた唯一の原告、吉備素子氏。この原告にして、この弁護団あり、と思われるほど、彼女の気丈な気持ちに応える弁護士らが結集しています。

周知の通り、森永卓郎氏も『書いてはいけない』で論じたジャニーズ問題を巡って、主要メディアは知っていながらあえて報道しない、という姿勢を長年にわたり取り続けました。ISFの設立趣旨にもある「不可視化された不都合な事実・真実」は確かに存在したわけです(「ISFについて」参照)。その結果、被害は拡大し続け、ついにBBCという外圧が決定的変化をもたらすことを、待たねばなりませんでした。そのため、日航123便事件についても、最終的には、外国人被害者の遺族や国際機関からの働きかけに期待するしかないのか、と考えることがあります。

しかし、ご高齢の吉備さんが、上告棄却後も、「私はあきらめません。本当に事故原因を明らかにしてほしい」(255頁)と宣言している以上、私達も無関心でいてはならないでしょう。青山氏が、新聞記事を引用しつつ、全国で自衛隊や海上保安庁が使う民間空港が増え続け、誰もが事故の被害者になりうる可能性が高まっている、と指摘しているように(41頁以下)、決して人ごとだとはいえません。

折しも9月4日(水)の午後3時から、衆議院第2議員会館多目的会議室で開かれる「ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)」の集会で、吉備さんが「日航123便墜落の真相解明」と題して、自ら訴えるとのこと。私達日本に暮らす一人ひとりが、このような機会を利用しつつ、関心と問題意識を持つことから、本当の真相究明は始まるのではないでしょうか。
植草一秀さん『知られざる真実』、「総選挙に向けての国会イベント」、2024年8月21日。
http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2024/08/post-70a722.html

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☆ISF主催公開シンポジウム:ウクライナ情勢の深刻化と第三次世界大戦の危機 9月30日(月)13時半から

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☆ISF主催トーク茶話会:仙波敏郎さんを囲んでのトーク茶話会のご案内 9月25日(水)18時半から

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嶋崎史崇 嶋崎史崇

しまざき・ふみたか 1984年生まれ。MLA+研究所研究員。東京大学文学部卒、同大学院人文社会系研究科修士課程(哲学専門分野)修了。ISF独立言論フォーラム会員。著書に『ウクライナ・ コロナワクチン報道にみるメディア危機』(本の泉社、2023年6月)。記事内容は全て私個人の見解。主な論文は、以下を参照。https://researchmap.jp/fshimazaki 記事へのご意見、ご感想は、以下までお寄せください。 mla-fshimazaki@alumni.u-tokyo.ac.jp

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