【書評】嶋崎史崇(MLA+研究所研究員)下:森永卓郎『書いてはいけない 日本経済墜落の真相』 ―ジャニーズ問題、「ザイム真理教」、日航123便事故に共通する権力とメディアの闇

嶋崎史崇

 

第3章「日航123便はなぜ墜落したのか」

第3章は、元日本航空社員で研究者でもある青山透子氏らの先行研究(特に『日航123便 墜落の新事実 目撃証言から真相に迫る』、2017年、河出書房新社)に依拠しているものの、初耳の人にとっては、最も衝撃的な章であると思われます。

1985年8月に発生したいわゆる御巣鷹山「事故」は、520人が死亡し、単独機の事故としては、世界最悪のものとして知られています。公式見解では、「圧力隔壁」の修理が不十分だったため、尾翼と油圧装置が壊れたのが原因、とされています(123頁)。しかしもし本当に圧力隔壁が壊れたのなら、空気が噴き出し、乗客乗員も無事ではいられないはずだとされます。けれども、機内で撮影された写真や、不完全なコックピット・ボイスレコーダーの内容からも、そのようなことは起きていないことが判明しています(142頁以下)。

青山氏は、一連の著作で自衛隊が演習中に123便を誤射したのが原因、という説を唱えてきました。これは一見荒唐無稽に思われるかもしれませんが、青山氏も指摘した通り、尾翼に「異常外力」がかかったことは、実は他ならぬ事故調査委員会が、2013年に突如として公開した資料において、認めたことなのです。

「航空事故調査報告書付録(JA8119に関する試験研究資料)」(116頁参照)
https://www.mlit.go.jp/jtsb/aircraft/download/62-2-JA8119-huroku.pdf

乗客が当時窓の外を撮った写真で、自衛隊が当時用いていた誘導弾もしくは標的機と同じオレンジ色の飛翔体が撮影された、または地上から目撃されたことがわかっています(148頁以下)。

これ以外にも、不可解な点が多いのが、この事故です。

例えば政府は当初、123便の墜落現場がわからないと主張しました。けれども、実際の墜落現場である群馬県上野村の村長らは、直後に政府と群馬県に墜落について連絡していましたが、不可解にも無視され続けました(125頁)。それに加えて、事故発生当日の1985年8月12日の『信濃毎日新聞』号外には、墜落現場は「上野村の山中とみられる」と明記されています(青山氏の『日航123便墜落事件 JAL裁判』(河出書房新社、2022年、285頁に転載)。

尾翼が破壊された後、123便は横田基地への着陸を模索していたとされています(152頁)。当時のNHK・共同通信・時事通信が配信した横田への着陸模索についての報道は、外国の新聞には掲載されたのに、日本国内のメディアではほぼ伝えられていないことを、ISFでも小幡瞭介氏が詳しく分析しました。財務省についても、対外的な説明と国内向けの説明が食い違っていたことは既に確認しました。

「日航123便墜落事故と時事通信、共同通信、NHK(市民記者記事)」、2024年1月24日。https://isfweb.org/post-32490/

「日航123便墜落事故と日航(市民記者記事・小幡瞭介)」、2024年1月31日。
https://isfweb.org/post-32774/

横田基地への着陸が何らかの理由で許されず、あえなく墜落した123便ですが、実は米軍は墜落現場をいち早く特定し、救助に向かっていました。テレビ朝日系「ニュースステーション」が1994年9月25日に「日航機墜落事故 米軍幻の救出劇」という番組で詳しく伝えました(126頁以下)。以下のユーチューブサイトで今も視聴できることを確認しました。
https://www.youtube.com/watch?v=65krBx_Bblg

生存者の一人である日本航空社員の落合由美さんの証言によると、墜落直後には多数の生存者がいたことがわかっています(『新潮45』1986年1月号12~24頁に、「高度八千メートル『生きていたから」』語れる真実–独占手記」として掲載)。

当時の米空軍パイロット、マイケル・アントヌーチ氏は、墜落現場をいち早く特定し、救助に向かっていた、と証言しました。けれども、不可解にも、米軍司令部から「日本側が来るから、退去しろ」と命じられ、しかもその後は口止めされた、とのことです。このアントヌーチ証言については、米軍準機関誌Stars and Stripes1995年8月27日付に、”1985 air crash rescue botched, ex-air man says”という記事として掲載されました。Newspaper Archiveというサイトから、有料でダウンロードできます。
https://newspaperarchive.com/pacific-stars-and-stripes-aug-27-1995-p-1/

これまでの記述だけでも、不可解なことばかりです。しかし森永氏は、尾翼が破壊されても必死の努力と工夫をもって飛び続けた123便が墜落した直接的原因や、多数の生存者らに対して起こったことについても、自衛隊の関与を巡って、驚くべき推測をしています。これについては、本書や、情報元の青山氏や、遺族の小田周二氏の提示する物証や状況証拠を吟味して、自ら判断してください。

青山氏は、『墜落の新事実』で、夜間の救出活動が可能な自衛隊の第1空挺団に待機命令が出たままで出動できなかったとも書いています(152頁以下)。不条理にも、日頃の厳しい訓練の成果を発揮する好機を奪われた精鋭隊員らの悔しさは、察するに余りあります。

この事故については情報が十分に開示されていないため、青山氏や森永氏らの見方は強力ではあるが状況証拠である事実によるものが多く、どうしても仮説にとどまらざるをえない側面があります。安易にこれが決定的な真相だ、と断定できませんが、だからこそ真摯な再検証が必要です。公平な評価のために、参考として、青山氏らの異説に対する事故調査委員会の反論ともみなせる資料である「日本航空123便の御巣鷹山墜落事故に係る航空事故調査報告書についての解説」も挙げておきます。どちらの説明に説得力を感じるか、見極めてください。
https://www.mlit.go.jp/jtsb/kaisetsu/nikkou123-kaisetsu.pdf

こうした不確実性を補う有力な証拠物件が、事故当時の音声記録を含むブラックボックスですが、日本航空側は開示をかたくなに拒否しています。実は遺族らによるブラックボックスの開示請求の裁判は今でも続いているのですが、大多数の人々は、現在進行形の未解決事件であるという事実すら、ご存じないのではないでしょうか。

上毛新聞:『日航機のレコーダー開示訴訟、2審も遺族側の請求を棄却 東京高裁判決』、2023年6月2日。https://www.jomo-news.co.jp/articles/-/293161

日航123便墜落の真相を明らかにする会:「2024年 最高裁判所 上告に関する情報
最高裁判所法廷にて審理決定のお知らせ」

 

ISFでは高橋清隆氏が、2023年6月13日付の「【高橋清隆の文書館】日航123便ボイスレコーダー開示認めず、不都合な真実裏付け[東京高裁]」で、この判決について伝えています。原告遺族である吉備素子さんの「和解は慰謝料に関してだけで、事故原因についてしたつもりはなかった」という訴えは切実です。
https://isfweb.org/post-22185/

事故発生から30年後の2015年には相模湾で、テレビ朝日が、日航123便の部品である可能性がある残骸を発見しました。にもかかわらず、この残骸に対する潜水調査は行われませんでした。

「123便の残骸か…相模湾海底で発見 日航機墜落30年」、2015年8月12日。
https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000056595.html

一審東京地裁で原告側が敗訴した記録は青山氏が、既に言及した『日航123便墜落事件 JAL裁判』に克明にまとめています。

 

第4章 日本経済墜落の真相

日航123便事故の事実関係については、青山氏や小田氏の先行研究を概ね踏襲するものでした。それに対して第4章で森永氏は、この事件について、日本政府は自らの責任を隠蔽しようとして米国に弱みを握られ、自滅的な経済政策をとるようになった、という独創的な仮説を発展させます。大幅な円高を容認したプラザ合意は事故からわずか1か月後の85年9月であり、それをきっかけに2年で2倍程度の円高がもたらされ、輸出産業に多大な打撃を与えました(171頁)。さらに翌86年には事実上「価格はアメリカが決める」という日米半導体協定が結ばれ、当時世界の最高峰を極めた日本の半導体産業が“墜落”する原因となりました(175頁)。

バブル崩壊後、日銀は、不条理にも5年間も資金供給を引き締め続けるという経済理論に反した政策を行い、景気回復を決定的に遅らせた、と森永氏は批判します(182頁)。

そしてついには、2001年に始まった「年次改革要望書」で日本は米国側の要求を一方的にのませられるようになった、と著者は解説します(190頁以下)。地価下落により一時的に発生したに過ぎないため、本来不要である「不良債権処理」を強要され、多くの優良企業が外資に買いたたかれるという致命的な打撃を受けました。郵政民営化後も郵便サービスは低下し続け、郵便局でも米資本であるアフラック社のがん保険が販売されるようになったのは、周知の通りです。

森永氏の見方は仮説ですが、なぜ日本政府は自国民にとって不利な政策ばかり取り続けるのか、という疑問に対する答えの候補となりうるものでしょう。

なおジャーナリストの櫻井春彦氏は、日航123便事故の責任隠蔽の件が、先に言及した95年のアントヌーチ証言を通して、米国から日本政府に対する脅しとして機能したことにより、日本が米国の「戦争マシーン」に取り込まれる一つの原因となった、と推測しています。つまり、集団的自衛権の限定容認や、近年の敵基地攻撃能力保有や防衛予算の大増額等も、85年の出来事の延長線上にあるかもしれない、ということでしょう。

櫻井ジャーナル「JAL123便墜落に関する詳細な記事を墜落から10年後に米軍準機関紙が報道した謎」、2023年8月13日。
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/202308130000/

 

おわりに:コロナワクチン薬害とも顕著な共通点

以上が「40年にわたる研究者人生の集大成であると同時に、私の遺書」(203頁)として、森永氏が捨て身で放った渾身の著作の概要です。森永氏は隠蔽されたブラックボックスの開示を求め、この事故の原因解明が「主権を回復する独立国家への道」であると指摘しました(202頁)。ISFの趣旨とも響き合うものでしょう。さらには、ジャニーズ問題解決のきっかけとなった「メディアの力を信じる」、と期待を表明しています。今後、ジャニーズ問題よりも深刻なマスメディアの集団的沈黙を打破し、森永氏の大志を継ぐ者が出てくるのか、注視していきましょう。

私が個人的に指摘したいのは、日航123便事故と、現行のコロナワクチン薬害問題にみられると思われる顕著な共通点です。以下で冒頭に挙げた森永氏の4点も意識しつつ、箇条書きで列挙します。さすがに徐々に被害が知られつつあるコロナワクチン問題の実態については、拙著『ウクライナ・コロナワクチン報道にみるメディア危機』や、ISFの特集「新型コロナ&ワクチン問題の真実と背景」を参照してください。決定的な真相が秘匿されている以上、私の見方も仮説的要素を含まざるを得ないことを、お断りしておきます。

◯公式見解への重大な疑惑があっても、司法や“第三者的”な調査委員会が徹底的な調査や情報開示を拒否する。

〇その一方で、他ならぬ公式見解の中にも、異説を支持する状況証拠が見出されるという不可解な実態がある。

◯左右の対立を超えて、ほぼ全てのメディアもそうした隠蔽を容認、または協力するという全体主義的な状況が出現。

◯大多数の人が異説の存在自体を知らないか、まともに受け取ろうとせず、偽りの安寧を享受する一方、少数の人々が塗炭の苦しみを味わう。野口友康氏が「『犠牲のシステム』としての予防接種施策」(明石書店、2022年)で指摘した、原発事故や米軍基地問題とも共通する「犠牲のシステム」が駆動。

◯公式見解から外れた仕方で真実探求を行う人々に、「陰謀論者」といった誹謗中傷が浴びせられる。

◯国の機関や名だたる大企業が“そんなこと”をするはずない、といった無根拠な予断が、真相究明や公平な議論を阻害する。

本稿の締めくくりに、日航123便を巡る裁判の原告・遺族である吉備素子氏による次の切実な言葉を記しておきます。出典元の「青山透子公式サイト 日航123便墜落の真相」は、大変参考になります。

「『陰謀』と騒ぐ人、不透明なことをしている人たちこそ陰謀者です。青山さんや森永さんなどを陰謀者と呼ぶその人こそが「本当の陰謀者」です」

「森永卓郎氏に感謝!日航123便遺族吉備素子」、2024年3月24日。
https://tenku123.hateblo.jp/entry/2024/03/24/121034

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嶋崎史崇 嶋崎史崇

しまざき・ふみたか 1984年生まれ。MLA+研究所研究員。東京大学文学部卒、同大学院人文社会系研究科修士課程(哲学専門分野)修了。ISF独立言論フォーラム会員。著書に『ウクライナ・ コロナワクチン報道にみるメディア危機』(本の泉社、2023年6月)。記事内容は全て私個人の見解。主な論文は、以下を参照。https://researchmap.jp/fshimazaki 記事へのご意見、ご感想は、以下までお寄せください。 mla-fshimazaki@alumni.u-tokyo.ac.jp

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