【連載】知られざる地政学(塩原俊彦)

「知られざる地政学」連載(53):「権力への再挑戦は、同じことの繰り返しになりかねない!?」:野田佳彦元首相への疑問(下)

塩原俊彦

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アメリカの民主党が教えてくれること

地政学の観点からみると、選挙のデジタル化はもちろん、選挙戦におけるデジタル利用はきわめて重大な論点となる。たとえば、「論座」において、拙稿「インターネット投票への道」や「再論:インターネット投票”i-voting”」などを公表したことがある。ほかにも、「世界に広がる「デジタル政党」のいま」といった記事も書いたことがある。

こんな私からみると、自民党に勝つためには、野党共闘に加えて「ネット選挙」が必須であるように思う。若者の選挙への関心を呼び起こし、投票率を引き上げて世襲政治家を追い落とすのである。その意味では、東京都の知事選で善戦した石丸伸二に学ぶのは当然だ。党大会に向けて、ネットをどこまで活用できるかに腐心できる人物こそ、新しい時代を切り拓き得ると強調したい。

最先端の学び先は、今夏開催されたアメリカ民主党全国大会(下の写真)だろう。民主党が若い有権者にアピールしようとする試みの一環として、200人のクリエイター(インフルエンサーなど)が大会の取材許可を得ていたことをご存じか(このイベントには1万5000人の報道関係者が参加していたから、これでも大した人数ではない)。因みに、立民は今度の党大会取材に対して、既存のマスメディアの関係者以外にどの程度取材許可を発行しているのだろうか。

(出所)https://www.wired.com/story/dnc-influencer-convention/

Wiredの情報によれば、認証を受けたインフルエンサーは、少なくとも四つの異なる撮影場所を利用することができた。 コンベンション会場には3段のプラットフォームがあり、インフルエンサーやクリエイターはステージを直接見下ろすことができる場所に座ることができたという。さらに、彼らは伝統的な報道記者席の横にあるギャラリーにも入ることができた。

興味深いのは、クリエイターたちは特別なヨットパーティーに招待され、船上のバーでは「ミッドウェスト・マルガリータ」や「アイム・スピーキング・スプリッツ」が提供され、カマラ・ハリス候補の選挙スタッフやティム・ウォルツ知事の妻グエン・ウォルズと交流したとことだ。SNSに関連する仕事をしている人たちへの厚遇は既存メディア関係者の嫉妬を招くかもしれないが、こうした地道な努力こそ、若者を選挙への導くために不可欠なのではあるまいか。

カマラ・ハリス陣営は独自のTwitchチャンネルを開設し、8月22日に副大統領の勝利宣言の様子を配信した。ハリスには、これより前の段階で、「kamalaharris」というハンドルネームのアカウントがFacebook、Instagram、TikTok、X、YouTubeのキャンペーンのソーシャルおよびストリーミングアカウント群として存在した。

どうだろうか。立民は党として、こうしたネット選挙への対応が整えられているのだろうか。あるいは、代表候補者のなかに、こうしたネット選挙への臨戦態勢をすでに構築できている人はいるのだろうか。

残念ながら、野田がネット選挙戦略にたけているとは思わない。そうであるならば、石丸並みにネット活用を主導できる人物こそ、代表にふさわしいのではないか。問題は、安易に電通や博報堂などの広告代理店といった外部に委託してネット選挙に対応すればすむという安易な考えをもつ政治家が多いことである。

彼らは、東京オリンピックで果たした電通の節操のなさを思い出すべきだろう。あるいは、「e-スポーツ」なるものを流行させて金儲けを企んでいる事実にしっかりと目を向けるべきである。さらに、「知られざる地政学 連載【42】ディスインフォメーション規制は政治的検閲に変る」(上下)に書いたように、「ディスインフォメーション」(意図的で不正確な情報)を「偽情報」と誤訳させ、「偽情報」や「誤情報」のチェック機関で懐を肥やそうとしている電通に尻尾を振ってはならない。

「ブルージャパンへの9億円」

ただし、立民には大きな課題がある。2022年1月16日、「長周新聞」は、「ブルージャパンへの9億円」という記事を配信した。「自民党から資金提供を受けて世論煽動に勤しんでいたDappiの騒動に続いて、今度は野党の立憲民主党もブルージャパンなる広告会社に4年間で9億円もの資金を提供していたことが明るみになっている」という出だしではじまっている。「自由で民主的な日本を守るための、学生による緊急アクション」として誕生した、学生運動SEALDs(シールズ:Students Emergency Action for Liberal Democracy – s)の元メンバーを養うために、立民がブルージャパンにカネを流し、彼らを養っていたのではないかという疑いについて書かれている。

この問題に関連して、「アゴラ」は2022年1月13日に興味深い記事を配信している。同年1月12日、立憲民主党の西村智奈美幹事長が記者会見で、同党がインターネットメディア「Choose Life Project」(CLP)に広告代理店などを通じて番組制作費名目で資金提供をしていた問題で調査結果を発表した際、CLP以外にSEALDsメンバーがつくった会社「ブルージャパン」に9億円の支出をしていたことに関しては、「特定業者との個別の取引内容の公表は控える」「CLPとは関係はなく、党が行う広報活動などを行う発注先の一つ」と語ったとうのである(CLPについては「産経新聞」の記事が参考になる)。

「長周新聞」の記事では、真相解明が求められている。しかし、ネットを検索してみても、この問題についての真相にかかわる情報を探すことはできなかった。この問題の真相を明らかにしなければ、立民は決して国民から信頼される政党にはなれないだろう。

「意図的無知」問題

あえて立民批判を書いているのかというと、そこには深い理由がある。それは、いま私が書いている学術論文「「意図的無知」に立ち向かう必要性」に関連しているからだ(「意図的無知」とは、「情報(または知識)を求めない、利用しないという意識的な個人や集団の選択」を意味している)。詳しい説明はできないが、簡単にいえば、つぎのような話だ。

体制転換のような大変動や戦争後の復興期に、過去の過ちに対して、その責任をどこまで追及すべきなのかという大問題が生じる。いわば「禊」をどうするかという問題だ。このとき、過去の「悪業」に対してその責任を問わず、不問に伏すというのは、いわば意図的に無視して、わざと無知の状態に甘んじることを意味している。あるいは、この「悪業」を忘れるように迫って、忘却を求めることもありうる。別言すれば、意図的無知を徹底するよう強制するのである。

実は、ウクライナはこの禊に失敗した国である。社会主義から資本主義への移行に際して、旧ソ連傘下の共和国はすべて、「移行期正義」と呼ばれる問題に直面した。社会主義時代になされた「悪業」について、どう責任をとらせるべきであるのかが問題となったのである。ロシアはこの「移行期正義」をもっとも徹底させなかった国である。ソ連共産党の幹部だった人々の「悪業」の責任を積極的に問おうとしなかった。それが、いまの中央集権的で権威主義的な統治につながっているのは間違いない。

逆に、ウクライナでは、この過去の責任を問う動きはあったが、それが不徹底であったために、社会全体に「しこり」が広がってしまった。それがウクライナの混乱の遠因になっていることは間違いない。

だからこそ、「意図的無知」について真正面から研究する必要性を論文では強調しているのだが、この論理は立民にもそのままあてはまる。過去の行動に対する責任にどう決着をつけるかはうやむやにしてはならない課題なのである。

たとえば、2014年2月のウクライナ・クーデターによって生まれた、親米のペトロ・ポロシェンコ政権は、5月2日にオデーサで起きた、公式発表で42人もの人々が労組会館で殺害された事件の真相解明を放棄した。その結果、これだけの殺戮に手を染めた、親米勢力は何も咎められることもないままにウクライナ国内で武装化を進め、2022年2月以降のウクライナ戦争で「大きな顔」をするようになる。

同じように、立民も国民の税金に由来するカネをCLPやブルージャパンに流してきた問題をうやむやにすれば、そのツケは後日、必ず大きな問題となって跳ね返ってくるだろう。ここでも、党内の不祥事に「意図的無知」をどこまで徹底させるべきかという大問題が問われているのだ。

自民党の議員も同じ

まったく同じことが自民党議員についてもあてはまる。裏金づくりに邁進してきた議員の大多数は検察による立件を免れた。しかし、彼らは政治家としての責任、国民としての責任をまったく果たしていない。加えて、旧統一教会に属す信者に選挙協力を受けるなどの便宜供与を提供されながら、党への報告では「嘘」つき、有権者には何の説明もしない自民党の国会議員や地方選出議員が山ほどいる。

その責任は、たとえ次回の衆院選で当選したとしても、地方選で勝利しても、決して禊を果たしたことにはならない。議員本人はそう主張したいだろうが、過去の「悪行」を裁くのは「悪業」をなした本人ではない。他者が裁くのだ。

そのとき、他者はどこまで「意図的無知」になるのがいいのだろうか。どう身を処すのがいいのかだろうか。実は、この問題に対する答えを見出すのは難しい。世界中を見渡しても、「意図的無知」に対する学術的な研究がほとんど進んでいないために、過去の歴史的変遷を踏まえた議論ができないのである。だからこそ、「意図的無知」への研究の必要性を訴える論文を執筆中なわけだ。

「ネット選挙」のあり方

やや脱線してしまった。ついでに繰り返しておくと、立民代表となるべき者は「ネット選挙」に向けた具体策を主導的に提言できる人物でなければならない。そんなことは「広告会社にやらせばいい」などいう者は「議員を辞めてしまえ」と繰り返し注意をしておきたい。

先に紹介した「長周新聞」の記事は、「いまや電通や博報堂といった広告会社と国政政党が契約を結び、あの手この手でプロモーションに勤しむのがあたりまえのようになっている」現状を嘆いている。

「もっぱら広告会社に身を委ねたプロモーションやイメージ戦略に依存して、その善し悪しであっちに吹かれ、こっちに吹かれというような張りぼても多い」と指摘したうえで、記事は、「それでいったい何が政治家かと思う。与党にせよ、野党にせよ、みずからの政治家としての言葉で勝負できないような連中、吹けばたちまち飛んでいくような連中は一掃されて然るべきだろう」とのべている。
その通りだと思う。

「政治家はクレプトクラート」

私は大学で、「政治家をみたら、クレプトクラートと思え」と教えてきた(私の運営しているサイトの記事を参照)。クレプトクラートとは、「泥棒政治家」を意味している。斎藤元彦兵庫県知事に至っては、クレプトクラートかつルンペンのような人物だ。自民党とともに彼を2021年知事選で推薦した日本維新の会の責任もきわめて重大だ。そして、この両党にだまされて斎藤に投票した県民は「意図的無知」の一端を反省しなければならないだろう。

日本の政治は狂っている。政治家も悪いが、国民も悪い。マスメディアの責任も大きい。こんな袋小路から抜け出すだめには、野田ではどうにも心もとない。もちろん、いまでも早朝のビラ配りをつづけている野田を尊敬している(下の写真)。すばらしいと思う。だからこそ、野田を励ますためにこの原稿を書いた。彼が代表に選出されても、ここでの指摘は必ずや役に立つはずだ。代表選や次の衆院選までに、ここで示したようなネット選挙対策を党一丸となって、電通なんかに頼らずに推進する重要に気づいてほしいのだ。どうか、ここでの指摘が彼に届くことを願ってやまない。

(出所)https://mainichi.jp/articles/20230303/k00/00m/010/093000c

 

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塩原俊彦 塩原俊彦

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士。評論家。 著書:(2024年6月に社会評論社から『帝国主義アメリカの野望:リベラルデモクラシーの仮面を剥ぐ』を刊行) 【ウクライナ】 『ウクライナ戦争をどうみるか』(花伝社、2023)、『復讐としてのウクライナ戦争』(社会評論社、2022)『ウクライナ3.0』(同、2022)、『ウクライナ2.0』(同、2015)、『ウクライナ・ゲート』(同、2014) 【ロシア】 『プーチン3.0』(社会評論社、2022)、『プーチン露大統領とその仲間たち』(同、2016)、『プーチン2.0』(東洋書店、2012)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(岩波書店、2009)、『ネオ KGB 帝国:ロシアの闇に迫る』(東洋書店、2008)、『ロシア経済の真実』(東洋経済新報社、2005)、『現代ロシアの経済構造』(慶應義塾大学出版会、2004)、『ロシアの軍需産業』(岩波新書、2003)などがある。 【エネルギー】 『核なき世界論』(東洋書店、2010)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局、2007)などがある。 【権力】 『なぜ「官僚」は腐敗するのか』(潮出版社、2018)、『官僚の世界史:腐敗の構造』(社会評論社、2016)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた:官僚支配の民主主義』(ポプラ社、2016)、Anti-Corruption Policies(Maruzen Planet、2013)などがある。 【サイバー空間】 『サイバー空間における覇権争奪:個人・国家・産業・法規制のゆくえ』(社会評論社、2019)がある。 【地政学】 『知られざる地政学』〈上下巻〉(社会評論社、2023)がある。

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