「沖縄戦の教訓」の共有が急務(上)
琉球・沖縄通信自衛隊(日本)が守る国体は米国覇権
琉球弧の島々に自衛隊やミサイル、弾薬庫が配備され、目の前で日米の合同演習が実施され、与那国、八重山、宮古では島外への住民避難が真剣に検討されるなか、大きな問題は、この戦争が日本にとってどういう戦争なのかについての議論が政治家や国民間で殆どなされぬまま、上記のような戦争準備だけが加速していることである。中国を脅威とし「台湾有事」を日本有事として日本が突き進もうとする対中戦争とは一体どういう戦争なのか?「過去に目を閉ざす者は現在にも盲目となる」と1985年の連邦議会演説でドイツ連邦大統領ヴァイツゼッカーは述べた。過去を知るべきは、それによって現在を知り、未来において過去と同じ間違いを起こさないがためだ。「太平洋戦争」「大東亜戦争」「アジア太平洋戦争」焦点を当てる対象によって名称は変われども、先の大戦は日本によるアジア諸国、特に中国に対する侵略戦争であったと歴史的に位置づけられている。79年前の戦争がどのような戦争であったのかを振り返る必要があるとすれば、それは、今、目の前に迫る戦争がどのような戦争であるかを知るためであり、再び同じ間違いを繰り返さないがためであるべきだと考える。日本が起こそうとする戦争がどのような戦争なのかを論じることなくして、その戦争で戦う自衛隊の本質も見えるはずがない。今や日本各地で準備体制に入っている戦争の本質や自衛隊の本質とそれが守るものについて論じ、その戦争の根本に在る問題を把握しつつ、「抑止論」と「沖縄戦の教訓」をキーワードに日本政府、地域メディアや県政についても言及していきたい。
「台湾有事」を巡る戦争の本質
まず、沖縄が戦場となるとして日米政府が準備する戦争とはどういう戦争か?その本質について論じたい。ここでのキーワードは「台湾有事」だが、それを最初に発したのは米国だ。2021年米国議会上院軍事委員会の公聴会で米国インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン前司令官が「中国による『台湾有事』は6年以内に起こる」と発言し、その後「2~3年以内かもしれない」と修正された。他国が関係する重要事で責任を伴う発言であり、当然、根拠や証拠が提示されるべきだが、それは一切無かった。中国の動きも証拠も示せぬまま、米国が「中国の武力による台湾統一が起こす戦争」と定義付けた「台湾有事」の言葉だけが、中国脅威として、日本、アジア、世界へと広がっていった。ここでの疑問は、何故、他国の戦争を米国は予言できるのか?ということだ。筆者も実際ニュースで聞いたのだが、米国は2022年のロシアのウクライナ侵攻も予言している。その3年前の2019年に出された米国ランド研究所レポートは「ロシア拡張~有利な条件での戦争」というタイトルで「アメリカが優位に立つ領域や地域でロシアが競争するように仕向け、ロシアを軍事的・経済的に過剰に拡張させるか、あるいはプーチン政権の国内外での威信や影響力を失わせる」と記していた。(岡田充2022/7/05)ロシアをウクライナ侵攻に誘い込む計画と捉えることができる内容である。根拠や証拠無き米国の予告は、他国の状況の詳細な分析によるものではなく、自国の軍事戦略計画に基づくものであると言える。
実際、ロシア侵攻前のウクライナを巡っては、親露大統領が追放され親米大統領となったオレンジ革命への(オバマ政権が認めた)米国介入、ゼレンスキー大統領によるプーチン大統領の警告を無視したロシア国境東部のロシア系住民のウクライナ軍による攻撃の継続(ゼレンスキー大統領の公約破り)やプーチンが最も懸念し警告していたウクライナNATO加盟の検討(ゴルバチョフ時代の米露合意破棄)などがあった。ウクライナ戦争は単にロシアの突然の侵攻によってではなく、それ以前からのウクライナを巡っての米国を中心とした欧州の様々な動きの帰結として起こったとの認識が必要だ。その認識が何故必要かというと、それが今の日本の戦争の本質を読み解く鍵となるからである。1961年アイゼンハワー大統領は「我々は産軍共同体が不当な影響力を持つことに警戒しなければならない。」と警告している。「米国は朝鮮戦争(1950-1953)後、戦争を続ける国となった。戦うための口実が作り出される時代に入った。」(孫崎享2020)のであった。戦争は作られるものでもあり、ウクライナ戦争の本質はウクライナを利用した米国の対露代理戦争であると考えられる。
沖縄が戦場になるとされる戦争の本質もウクライナ戦争の本質と同じと考える。つまり、日本を利用した米国の対中代理戦争であり、その目的はロシアの弱体化と同じく中国の弱体化を狙った、世界における米国覇権の維持と強化である。その証拠として、岡田は2019年からの米国の対台湾政策がウクライナ戦争前の対ウクライナ政策と酷似することを指摘している。それは(a)金額、量ともに史上最大規模の武器売却を実施(b)閣僚・高官をくり返し台湾に派遣(c)軍用機を台湾領空に飛行させ台湾の空港に離発着(d)米軍艦による台湾海峡の頻繁な航行(e)米軍顧問団が台湾入りし台湾軍を訓練などだ。何より、米国国家防衛戦略(NDS 2022年10月)の「台湾有事は米国の対中国への軍拡、覇権争いが目的」との記述(小西誠)で「台湾有事」を巡る戦争の本質は自明となるだろう。
2021年の安倍晋三首相の「台湾有事は日本有事」は「米国の戦争は日本の戦争」と述べたに等しく、彼はそのための集団的自衛権の認可という免罪符を用意した。しかしながら、この「台湾有事」を「日本有事」とする日本の姿勢は、論理的にも国際法上も認められないものだ。日米政府は1つの中国を認め、台湾を中国領土と認識しており、その台湾への武力介入は日本の防衛戦争どころか侵略戦争と判断されかねない。巷では、中国の武力侵攻から台湾を守るかのような物言いがされているが、日本で「台湾有事」が話題になっていた頃、台湾の人々の大半はその言葉の意味も認知しておらず、安倍首相の「台湾有事は日本有事」発言で知れ渡ったような状況であったと聞く。台湾の人々の認識については中村万里子記者が調査報告している。(琉球新報2023/05/01「中国敵視する声少なく」)一方で2023年8月8日麻生太郎氏は台湾で「戦う覚悟」を強調した。台湾で中国に対する敵意や戦争を煽っているのは日本なのである。
自衛隊の本質とそれが守るもの
自衛隊とは何かという自衛隊の本質と、それが守るものは何かを考えたい。上記の戦争の本質を認めた上で、日本政府が言うように「台湾有事」を「日本有事」とするならば、この戦争は「戦う主体が日本の自衛隊で自衛隊が請け負う米国代理戦争」であるということになる。ウクライナはNATOメンバーでないため派兵義務は無いと米国が述べたことからも日本への対応も同様となるだろうことがわかる。沖縄の主要米軍基地が自衛隊に引き渡され、海兵隊の大部分がグアムなどに移動し、残るは急増した自衛隊員と少数の米兵である状況がそれを示す。肝に銘ずべきは「自衛隊は米国の指揮下で動く軍隊」だということだ。「戦争になったら日本軍は米軍の指揮下に入る」(新安保2015)からである。結局「開始も終了も決定権は米国にある戦争」となるだろう。泥沼化し日本が停戦したくともできない。戦争初期の停戦交渉を「ウクライナのスカートの裾を踏むものがいる」と米国介入を暗に批判したロシア外交官やウクライナ敗戦の可能性が高いとされる今も米国を行き来するだけのゼレンスキー大統領の姿がそれを教える。2~3ヶ月で終わると言われたウクライナ戦争は終わりが見えない。日本政府が準備する戦争も沖縄限定と考える人がいるだろうが、日本全土に拡大し長期化する可能性は大である。
自衛隊が戦場において沖縄県民を守るがごとく言う方々がいるが、「沖縄戦で住民をどう扱ったのかという観点なしに、日本軍の戦闘の仕方ばかりを取り上げるという自衛隊の戦史教育は1960年代から行われている。その考え方から(沖縄戦で住民を守らなかった)自衛隊の本質は変わっていないといえる。」と述べるのは林博史関東学院大学名誉教授だ。自衛隊元幹部、栗栖弘臣(元統合幕僚会議議長)も著書『日本国防軍を創設せよ』(2000年)で、「国民を守るためにあると誤解している人が多いが、それは警察の役目で武装集団たる自衛隊の任務ではない」と記す。「軍隊は住民を守らない」それを、沖縄県民は4人に1人が命を犠牲にした上で「沖縄戦の教訓」として学んだ。地獄と形容された沖縄戦で米軍からだけでなく日本軍からも逃げ回りながら死んでいった住民が命を犠牲にして残していった教訓こそ、全国民との共有が急務とされるべき、今必要とされるべき教養ではないだろうか。
では、国民を守る責務を持たない自衛隊は何を守るのか?かつての日本軍が守ったものは国民ではなく国体であった。天皇制の下にあった当時の日本の国体は天皇制であった。今の戦争の目的が米国NDSに記載されるように米国覇権の維持であるならば、当然、自衛隊が守る現在の国体とは、かつての天皇制ではなく米国覇権(米国隷属国家日本)となる。白井聡氏も今や日本における天皇は米国であると述べている。(白井2018)さらに、日本が独立した民主主義国家の呈をなしていない状況であることは、国会より日米合同委員会が上位にあり、憲法より日米安全保障条約や地位協定が上位にある現実や、重要法案を国会討議無しに閣僚会議で次々成立させている現実を見ればわかることである。自衛隊員は民主主義国家の軍人ではなく、米軍指揮下の軍人、残念ながら、それが現実の姿である。3・11(東日本大震災)時に被災地で汗を流していた自衛隊員の姿に、人々のために貢献したいと入隊した純粋な若者の気持ちを思うと心が痛む。
「沖縄戦の教訓」の共有が急務(下)に続く
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独立言論フォーラム・理事。沖縄県那覇市生まれ。2019年に名桜大学(語学教育専攻)を退官、専門は英語科教育。現在は非常勤講師の傍ら通訳・翻訳を副業とする。著書は「沖縄の怒り」(評論集)井上摩耶詩集「Small World」(英訳本)など。「沖縄から見えるもの」(詩集)で第33回「福田正夫賞」受賞。日本ペンクラブ会員。文芸誌「南瞑」会員。東アジア共同体琉球・沖縄研究会共同代表。