【特集】沖縄の日本復帰50周年を問い直す

「沖縄戦の教訓」の共有が急務(下)

与那覇恵子

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戦争危機の根本問題と沖縄

集団的自衛権を承認し、自国を崩壊させる米国代理戦争である対中戦争に自ら飛び込む日本の根本問題は戦後の出発にある。それは1951年のサンフランシスコ講和条約であり、同時締結された米国との安全保障条約で、米国は「寛大な平和条約によって常識外の軍事特権を獲得した。」(矢部宏2016)米軍が日本の基地を自由に使える基地権や米軍が日本の軍隊(自衛隊)を自由に使える指揮権に象徴される。1952年には米軍幹部と省庁幹部で構成され実質的に日本の政治を牛耳る日米合同委員会が設立されている。(筆者が日本は米国隷属国家にもなり得ない米軍隷属国家であると称する背景である。)そして、国民に知らせたくない不利な条約や合意を米国との密約という形で国民の知る権利を奪いながら政権担当してきた戦後の自民党政治が、国際的にも知られる米国隷属国家日本を形成した。鳩山由紀夫元首相が講演で紹介した、「米国の意見を聞けばわかるので日本の意見は聞く必要がない。」と述べたアジア会議でのアジア人政治家の発言が思い出される。

しかしながら、その米国隷属状況、非独立国家状況に対して危機感を持ち、どうにかしなければと思う国民は少ない。何故か?その日本の安全保障問題を沖縄に集中して負担させ、「沖縄問題」として矮小化し、責任を放棄してきたからである。敗戦の責任を米軍占領という形で沖縄に負わせ、復帰後はさらなる米軍基地施設の過剰負担で安全保障の責任を負わせ、そして今、沖縄を戦場とすることで米軍隷属国家としての責任を負わせようとする。何故、米国との不平等な地位協定を韓国は修正できたにも関わらず、日本はいまだに修正できないのか?韓国では米軍基地が地域によって片寄って存在していないので国民全体の問題となったが、日本の場合は、沖縄に片寄って負担させているため全国的な問題になり得ていないからだと元沖縄大学学長、桜井国俊氏は分析する。自分達の行為や問題に責任を持たない政治家、国民が抜け出せない米軍隷属状況を作ったと言える。

その状況下で、日本本土には基地問題や自衛隊批判を報じる沖縄のメディアを偏向していると批判する向きがあるが、報じているのは全国の0.6%の面積しかない沖縄に日本の米軍施設の7割の負担の上に急増する自衛隊基地が押しつけられている負担の偏向による地域の現実問題であり、それを訴える県民の声である。地域のメディアとして地域の問題を報道するのは当然のことであり、偏向しているのは、沖縄に過剰に安全保障の負担を押しつけ続ける日本の政治である。玉城デニー知事が急増する自衛隊に懸念を示すのも、沖縄戦の教訓からも自衛隊が安全より危険をもたらす可能性が高いことへの県民の懸念を共有するからである。県民に選ばれた知事として当然の姿勢だ。沖縄のメディアや県政を県民が支持するのはまさに県民の声を代弁しているからである。

「抑止論」対「沖縄戦の教訓」

沖縄の私達を分断する2つの考えがある。軍隊や軍備の増強で戦争は抑止されるとの「抑止論」「軍隊は住民を守る」との考えと、それに対峙する、軍隊や軍備は戦争を誘発するとの軍事力より外交重視の考えや軍隊は住民を守らないとの「沖縄戦の教訓」だ。国際不安が増すなかで「抑止論支持者が増えている」と憂うのは、沖縄戦研究者である石原昌家氏だ。抑止論を信奉するイスラエルは停戦に応じずガザ攻撃を続け、支援する米国を味方に戦争拡大に突き進んでいる。強制収容所やジェノサイド(大量虐殺)の被害者イスラエルが、日常でガザを強制収容所にし、防衛だとしてジェノサイドを行う。武器があれば悲惨な歴史は防げたとの考えがイスラエルの防衛力強化に繋がったとされるが、その「抑止論」で戦争が防げたのか?強者が防衛と称して軍事力を攻撃力に変え、弱小国を戦場にして犠牲を強いているのが現在の「抑止論」の結末では?

「台湾有事」の仕掛け人は中国ではないと言えるが、しかし、ロシアが侵攻へと向かってしまったように中国が台湾の武力統一へと向かってしまう恐れはある。思い出すのは、ウクライナ戦争勃発時、中国の女子留学生が「ウクライナ戦争を見ているので、中国の私達は米国の挑発に乗らないよう気をつけている」と発言したことだ。敵基地攻撃能力保有によって岸田首相は平和国家から軍事国家へと日本を大転換させた首相として米国誌タイムの表紙を飾ったが、敵基地攻撃能力保有こそ、この戦争が「日本による中国侵略戦争」と位置づけられかねないさらなる理由である。それは先制攻撃を可能にするものであり、戦争勃発は往々にして不明瞭な攻撃によるものと歴史は教えている。米軍がイラク戦争やアフガン戦争で誤爆を繰り返したことも思い出す。

抑止論を現実的思考とし、武力に頼らぬ平和を唱える思考を理想論のお花畑だと非難する向きがある。理想論は現実を知らぬ者の意見として扱われ、現実論は大人の意見として勝るような印象を与えたりもする。が、実は現実論は弱く危うく、現実に妥協しない理想論は意外に強い。過去の事例だが、稲田朋美前防衛大臣が辺野古新基地建設後も普天間飛行場が返還されない可能性に言及した。県内では、普天間基地返還を求めつつ新基地に反対する意見は理想論で、基地を引き受ける場所が無い以上普天間返還のための新基地建設はやむなしとの意見は現実論であるかのように討議されていた。が、結局、稲田前大臣発言は、現実に妥協する現実論の危うさを露呈したのだ。人間が作る現実への妥協によってさらなる妥協を余儀なくされる現実論の弱さが露呈されたといえる。逆に理想論と批判されがちな、普天間基地返還は沖縄の基地負担軽減が目的であるのだから新基地はその代替とはなり得ないと現実の政治に妥協しない論が、現実論より強いものであることが示されたと考える。今や、日本政府は「普天間基地返還」と言わず「普天間基地の危険性除去」としか言わない。

理想論の強さと同様に、実際の体験に裏打ちされた知識が持つ揺るがぬ信念、強さというものがある。沖縄戦体験者で与那国住民である牧野トヨ子さん(95歳)は「何も無い所に弾は来ない、基地がある所に弾は飛んでくる」(笹島康仁、大矢英代/Yahoo!ニュース 特集編集部)と言う。戦場となる場所にいる弱者でありながらなお、軍事力による戦争抑止を主張する人達には、沖縄戦を生き延びた先輩の戦争体験から語られるその言葉の重み、シンプルな事実を是非受け止めて欲しいと思う。中国を敵国と明言し沖縄中のミサイル配備などの戦争準備は今や日本全国に拡大する。三菱重工による沖縄配備の中国射程の長距離ミサイル製造(愛媛)巨大複合防衛拠点の設置(広島)軍民隣接の弾薬庫拡大(京都)ミサイル弾薬庫建設と輸送体制確立(大分)弾薬庫増設(長崎)大規模陸自駐屯地建設(佐賀)などがある。民間施設の軍事使用も沖縄だけでなく、九州(長崎、福岡、福江、博多、宮崎、北九州)四国(喬松、高知、須崎、宿毛)に拡散した。

今、私達が目覚めなければ、米国の戦争への犠牲を国是としようとする自公政権に加担する国民となりかねない。GHQ支援のもと生まれた自民党の米国隷属の本質は強まるばかりで、首相の顔で変るはずもない。かつて「天皇」を守るため命を捨てた国民は、今度は天皇に代わる「米国」のため命を捨てることになる。戦争は一旦始まると拡大する一方だ。自衛隊幹部の「1年以上になると米軍が助ける」とコメントを聞いたが、二~三ヶ月で終わるとされたウクライナ戦争の停止を阻み、長期化に追い込んでいる国を思い出すべきだろう。長期化するであろう米国代理戦争において、麻生氏が言う「戦う覚悟」が日本国民にあるのだろうか?他人事だと思っているうちに、目の前に反撃のミサイルが落下するかもしれない。

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☆ISF主催公開シンポジウム:ウクライナ情勢の深刻化と第三次世界大戦の危機 9月30日(月)13時半から

 

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与那覇恵子 与那覇恵子

独立言論フォーラム・理事。沖縄県那覇市生まれ。2019年に名桜大学(語学教育専攻)を退官、専門は英語科教育。現在は非常勤講師の傍ら通訳・翻訳を副業とする。著書は「沖縄の怒り」(評論集)井上摩耶詩集「Small World」(英訳本)など。「沖縄から見えるもの」(詩集)で第33回「福田正夫賞」受賞。日本ペンクラブ会員。文芸誌「南瞑」会員。東アジア共同体琉球・沖縄研究会共同代表。

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