メールマガジン第226号:戦雲に覆いつくされる前に、我が事として観てほしい -「戦雲(いくさふむ)」試写会
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2月21日、3月23日の公開に先立って、三上智恵監督の「戦雲(いくさふむ)」試写会に参加した。
冒頭の霊山於茂登岳、自然豊かな風景を前にしての山里節子さんの歌声に涙があふれてきた。ギシギシと金属がこすれる鈍い音がするミサイル発射台が角度をあげ、今にも発射しようとする画像にぐっと引き付けられ、落涙する。
ここから2時間10分の本編はあっという間で、全く時間を感じさせることなく過ぎていった。与那国編を軸に宮古、石垣、そして沖縄本島で今何が起きようとしているのか、ここに至るまでにどのようなことがあったのか、島々の凄まじい軍事強化をあらためて知ることになる。急速に進んでいる軍事要塞化への反対、抗議の思いを示しながら、そこで暮らしている人々の生きる営み、心象風景が、三上監督の目を通して深く描かれている。何度も現場に足を運び、人間関係を作り、単なる取材者、製作者としてだけではなく、自らも葛藤しながらも全身全霊で向き合い、一人の人間としてどうすれば戦争を止めることができるのかを考え抜いたことが伝わってきた。
今シェルターだの、避難計画だの、戦争が起きた時にどうするかということに対して意識が向くように仕向けられている。しかし「重要影響事態」など政府が前のめりに事態認定をしていく中で、実際に今の生活を捨てて避難し、そのあとに何が残るのか。今まで作り上げてきた生活の基盤、家族同然の動物たちはどうなるのか。それぞれの考え方、主張の違いはあれ、地域に暮らす人間として、地域で一つとなり守ってきた祭りや行事はどうなるのか。こうした視点が欠落している政府の避難計画の寒々しさ、人間や自然、文化が全く存在しないかのような国策の虚を衝くように、ハーリー、豊年祭、エイサーなど営々として培ってきた地域の行事を躍動感たっぷりに映し出している。人、自然の息吹、そこに参加する人たちの、祭りを心から楽しんでいる様子や満面の笑顔が描かれており、心を揺さぶられた。
着々と進められてきた南西諸島軍事強化が、ここ数年でさらに勢いをまし、その強行ぶりは止まらない。来月上旬には陸自勝連分屯地へのミサイル搬入が予定され、うるま市石川への陸自演習場計画、空港港湾の軍民共用の名のもとの軍事優先化、離島奪還を目的にした度重なる日米合同演習、弾薬庫建設など、今まさに沖縄を戦雲が覆いつくそうとしている。
しかし、本編には、その戦雲をかき消し、一筋の光明をつかみ、何をしていくべきなのかのヒントがかくされている。山里節子さんの石垣駐屯地ゲートを警備する若い自衛隊員に対し、慈愛の気持ちをもって若い命が奪われないよう、銃を捨てて、平和の道にすすみなさいという訴えは敵意や、憎しみでは全くない、人間として向き合うことの重さと大切さを感じた。楚南有香子さんは島々が戦場になれば、住民の犠牲はもとより、最初に死ぬのは島を守るということを命令され、逃げることを許されない自衛隊員だ、と自衛隊基地へむけて抗議をする。その抗議には「警備隊」の自衛隊員は敵対する対象ではなく、血の通う人間であり、自分達の反対行動はすべての命を守ることにつながるという思想がベースにある。「戦雲」という敵意、憎しみ、妬み、嫉みなど、争いの種を少なからず誰でも持っていると思う。「脅威」や「恐怖」というぼんやりした感覚で、見えない敵を作り、しまっておくべき争いの種をまいているのではないか。そこにみずからの正義という名の水をやり、武力という肥しをやり、「軍隊が強ければ守れる」「武力を強化すれば抑止できる」「敵をやっつけ、打ち負かせてしまえばいい」という憎悪を芽吹かせ、根付かせていないか。戦雲が私たちの社会を覆いつくした時にはもう遅い。そうならないためにどうすれば穏やかに暮らせるか、考え方の違いを超えてどうやって共存できるか、平和に過ごせるか、知恵を出し、対話を重ねることでしか、戦雲を打ち消すことができないだろう。本編では余すところなく沖縄を覆う戦雲を打ち消そうと自らの生き方を賭けて、向きあう姿が描かれており、映画を見終わった後、我が事として自分がなにをなすべきかをあらためて自問することになった。決して沖縄だけでなく、戦雲は本土にも迫っていることを映画を通じて全国で共有してほしい。戦雲を打ち消し、「瑞雲」を見出すために沖縄、日本全体で一人でも多くの人がこの映画を他人事としてではなく、我が事として観てほしい。
ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会 瀬戸隆博
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