温暖化関連の情報源の整理 松田 智(市民記者)その3
社会・経済現在の私は、これまで書いてきたように「人為的地球温暖化説」をほぼ完全否定する立場にあるが、私は最初からこの説に懐疑・否定的だったわけではない。環境工学関連の研究者だったので関心はあったが、気候関連は専門と遠いこともあり、最初は勉強不足のため、状況を的確に判断できる材料を持たなかった。2000年代前半は、半信半疑状態にあったと言って良い。しかし実際には、2003年に伊藤公紀「地球温暖化 埋まってきたジグソーパズル」(日本評論社)や2007年に清水浩「温暖化防止のためにー科学者からアル・ゴア氏への提言」(ランダムハウス講談社)などの本が出版されていたので、それらを参照すべきであった(これらは後で読んだ)。
その他、当時私の知らなかった事実として、既に1999年には物理学者・槌田敦氏が環境経済・政策学会年報に「CO2温暖化脅威説は世紀の暴論」という論文を載せていたが、以後、同学会ではこの種の論説が掲載されることはなく、議論さえも行われなくなった(私は2009年から同学会に所属していたが、出てくる議論は「如何にCO2排出を減らすか」関連のみで、CO2温暖化説を検証する、または批判する内容の論説は全く見たことがなかった。私は、投稿がボツになったりしたこの学会では何も言えないと判断し、2018年に脱退した)。
また2008年には気象学会が槌田氏と近藤邦明氏の「CO2濃度の増加は自然現象」という論文を、人為的CO2地球温暖化説と異なると言う理由で掲載拒否しただけでなく、同学会員であった槌田氏が、年次講演会で講演する機会を剥奪するという前代未聞の対応を行った。この事実も、マスコミ等が沈黙したため、私は当時知る機会がなかった。ついで2009年には東京大学がIR3S/TIGS叢書No.1「地球温暖化懐疑論批判」を発刊し、これは私も読んだ。内容的にはIPCC報告書の弁護が中心だったが、槌田・近藤両氏の他に丸山茂徳、渡辺正、伊藤公紀、赤祖父俊一各氏など、いずれもCO2説に批判的な学者たちを名指しで一方的に非難(私は中傷と受け止めた)していた点が強く印象に残った。これを読んで私が感じた違和感は、なぜ「懐疑論」が批判されるのか?だった。本来的に「科学は疑うことから始まる」のに、疑うことを批判するって、科学的なのか?と。
さらに2010年4月には、日本学術会議主催の公開討論会「IPCC 問題の検証と今後の科学の課題」が開催されたが、公開討論と言いながら実質的には人為的CO2地球温暖化説を主張する論者の独演会に近く、学術的な討論もない出来レースに終始した。これ以後、日本の学術界は、公式見解として人為的温暖化説を正当なものとして認知し、異論を認めない中世キリスト教会のような存在となった。皮肉なことに、私が人為的温暖化説の真実に気づき始めた2009年頃から、少なくとも日本社会では、この説が疑う余地のない真説であるとの認識が急速に広まって行った。
一方、ジャーナリスト田中宇氏は早くも1997年12月に「地球温暖化京都会議への消えない疑問」(https://tanakanews.com/971216cop3.htm)との論説を上げており、情報取得の速さと分析の的確さが際立っていた。それは同氏が「(京都)議定書は、地球温暖化の主因が二酸化炭素にあるかどうか、まだ不明な点があることに一切触れず、いきなり二酸化炭素削減のことから始まっている。1995年のマドリード会議からの一連の流れを見ると、本来の「地球温暖化を防ぐ」という目的ではなく、理由はどうあれ「二酸化炭素を削減する」ということが目的とされていると感じざるを得ない。」と書いていることでも分かる。この指摘は正にそのものズバリで、温暖化問題の本質的な問題点(=CO2が温暖化の原因なのかどうかの科学的根拠が脆弱なのに、脱炭素だけを主張する点)を衝いている。また、同氏は2005年8月にも「地球温暖化問題の歪曲」(https://tanakanews.com/f0827warming.htm)との記事を上げており、当時これらを読んでいたら、私の現状認識ももう少し早く進んだことだろう。田中氏はこれ以後、人為的地球温暖化説はデタラメで、何らかの意図を持った「企み」であるとの立場を一貫して貫いている。
私自身が目を開かれたのは、2008年に出た赤祖父俊一「正しく知る地球温暖化」(誠文堂新光社)を読んでからである。この本は、温暖化に関して基本的なことから順番に科学的な説明を行っており、現在読んでも内容的に古くなっていない。一種の「不易」的な本だからだろう。なお、赤祖父先生は今年94歳で、今月(2024年10月)にアラスカ大学で最終講義を行った。また初回原稿で紹介したSoonら37名の科学者による論文
(Climate 2023, 11(9), 179; https://doi. org./10. 3390/cli11090179)にもお名前を連ねておられ、つい最近まで現役研究者であられた。驚くべきバイタリティと研究への旺盛な探究心には頭が下がる。
赤祖父先生の本を読んで以後、2010年代以降の私は、温暖化問題への認識を一変し、特に大気中CO2が温暖化の真の原因であるのかどうかを知るための努力を続けた。中でも衝撃的だったのは2010年に出た広瀬隆「二酸化炭素温暖化説の崩壊」(集英社新書)だった。内容は概ね正確なデータに基づく妥当なものであり、説得力に富んでいた。特に最初の方で「これから語ることは科学であるが、小学生や中学生が分かる「理科」だということ(中略)、誰でも分かる興味深い事実を見て、自力で考えることが大切である。」と書かれていたことが印象的だった。これも正にその通りで、温暖化問題と言うのは、ネット等で実データ(気温・海水温、CO2濃度変化等)を見れば、特に専門知識が無くても問題点は理解できるし、一般市民も取り付くことの出来る課題なのだ。そして、温暖化対策・脱炭素「推進」の議論は、経済学者や哲学思想家、果てはゴリラの研究者まで新聞等に書くが、私のような無名の論者が温暖化批判を書くと、「素人が何を言ってんだ!」と言った罵詈雑言が飛んでくるというのが実情である。ここでは、温暖化問題は気象専門家の占有物ではないことを確認しておこう(なお、この「専門家」なるものの問題点については後日議論したい)。なお広瀬氏は2020年に「地球温暖化説はSF小説だった ーその驚くべき実態」(八月書房)と言う72頁ほどの小冊子を出しているが、これも読みやすく、かつ説得的な資料集である。「感情論を排除して、科学的な議論をしよう」「あなたは地球の気温を調べたことがありますか?」と言った項目が並んでおり、正確なデータと冷静で合理的な議論が展開されている。簡単に読めるので多くの皆さまに一読をお勧めする。
さて、国連事務総長や北欧のグレタ嬢などが言う「科学の言うことを聞け」における「科学」とは何を指すのか?それは、これまで私が挙げてきたような科学データと推論ではなく、主にIPCCの科学者たちが愛用してきた、コンピューター・シミュレーションによる予測結果である。マスコミ等によく載る「今世紀末には3〜5℃もの気温上昇が起きる」とやらの御宣託も、その「成果」である。しかし、このコンピューター・シミュレーション予測には、現実には多くの問題がある。大きく分けても、1)気候モデルそのものの問題、2)計算手法・方法に関わる問題、3)この種の計算自体に関わる数学的な問題があり、いずれも高度に専門的な問題なのでマスコミ等にも出てこないが、温暖化予測というのは世の多くの人々が考えているより、遙かに不確実なものであることは知っておいて良い。その辺の事情は、中村元隆「気候科学者の告白 地球温暖化は未検証の仮説」(Kindle版:https://www.amazon.co.jp/気候科学者の告白-地球温暖化説は未検証の仮説-中村-元隆-ebook/dp/B07FKHF7T2)に詳しい。気候研究界の内部事情が良く分かる。私はこの本から教えられたことが多かった。この本も、必読書と言うべきだろう。
この種の計算予測で最も身近なものは、天気予報である。あれこそ、気候モデルを三次元偏微分方程式で表し、コンピューター・シミュレーションで予測して表現したものである。TVの天気予報で、気圧配置などが刻々と動く様子が出てくるが、あれが計算結果の一つである。基本的には、連続の式やナビエ・ストークス式などの多元連立偏微分方程式を、解析的には解けないので計算機を用いて数値計算で解くのである。計算量が膨大なので、人間が計算過程を追跡することは不可能であり、事実上、計算結果を信じるしかない。何しろ、現代の超高速コンピューターが数時間で計算する内容を人間が手計算で追跡すると、万年オーダーの時間がかかるそうなので。
天気予報の場合、我々が実感するのは、1〜2日後の予報はまずまず当たるが、一週間後はあまりアテにならないことだろう。実際、天気予報の的中確率は、1週間後にはかなり下がってしまう。3ヶ月後の長期予報など、アテにしている人は少ないはずだ。そもそも、3ヶ月前の予報など、誰も覚えていない。つまり現在の天気予報は、限られた地域の、比較的短期の予報でのみ、使用に耐えるレベルなのである。また台風などでは、発生も進路予測も、まるで当たらないことは誰でも知っているはずだ。「予測」が刻一刻変わると言うことは、実際には何も予測できていないと言う意味であるから。
これら、天気予報に使う気象モデルは通常、30分単位で動く。つまりコンピューターは1日あたり48ステップを踏む。もし、これを使って気候モデルで50年先を予測するとすれば、計算回数は1日48ステップ×1年365日×50年=87万6000回の繰り返し計算になるが、コンピューターなら計算自体は難なく実行できる。しかしその結果が、気象学的に意味のない答えや物理学を無視した答えになっていたら、87万6000ステップのどこで間違えたかを検証することはほぼ不可能である。この種の反復計算では、一つ前の結果が、次のステップの前提条件になるので、初期のほんの小さな誤差や誤りが次第に蓄積して行き、最終的に「発散」その他、とんでもない計算結果になるというのは、全く珍しくもない事態なのだ。
そこで対策として多く行われるのは「チューニング」つまりモデルに含まれる各種の変数(パラメーター)を「調整」つまり数字を適当にいじって変え、それらしい結果が出るようにするという行為である。身も蓋もない言い方になるが、それが事実なので仕方がない。つまり、コンピューター・シミュレーションと言うのは、変数をいじることでどんな結果でも導くことができるので、研究者の数だけ予測例があるのが現実だ。実際、クーンが書いた本「気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか?」(https://www.amazon.co.jp/気候変動の真実-科学は何を語り、何を語っていないか-スティーブン・-・クーニン/dp/4296000624)には、世界中の19のグループが作った29の異なるモデルによる267種類のシミュレーション結果は全部違っており、しかも過去の温暖化も再現出来ていなかった、と書いてある(その図も載っている)。
真正科学の重要な条件は、再現性(同じ条件で試したら誰でも同じ結果が出ること)や、認証可能性、or 明証性(間違ったら、それが認識できること)であるが、この種のコンピューター・シミュレーションでは明らかにこれらの条件が満たされていない。研究者の数だけ結果があり、しかも計算過程も検証できないのだから。故に、これらは真正な科学とは認めがたい。つまり、国連事務総長やグレタ嬢の言う「科学」は、「似非科学」に過ぎないと私は思う。
2021年に真鍋淑郎博士がノーベル物理学賞を受けたことで、世間的にはCO2温暖化説が証明されたかのように思われているが、それは単なる事実誤認である。真鍋博士が気候モデル開発のパイオニアの一人だったことは事実だが、彼がCO2温暖化説を科学的に証明したとの事実はない。受賞理由には「地球の気候を物理的にモデル化し、流動性を定量化し、地球温暖化を確実に予測したことが評価された。」とあるが、この評価には問題が多い。なぜなら、この50年間で短期的な気象モデルはある程度進歩したものの、上記のように長期的なモデルはほとんど何も進歩していないし、特にCO2の気候への影響の大きさについては、関連するすべての量(例えば気候感度:CO2が1ppm上がれば気温は何℃上がるのか?など)は、これらのモデリング作業が開始された当時と同様に不確かなままであり「地球温暖化を確実に予測」とは、とても言い難いからである。その意味では、この2021年物理学賞は「科学的に正しいと証明されていない研究」に与えられた、ごく珍しい種類に属する。故に、この受賞を強く非難する物理学者が相当数いたことも事実である。ある素粒子研究者は「ノーベル物理学賞は死んだ」とまで言ったほどだ。
IPCCのCO2温暖化論は、真鍋氏ら4人のモデラー(気候モデルを作成し、それをコンピューターモデルに変換する技術者)によって1960〜80年代に作られた。その過程は気候研究者・木本協司氏が「地球温暖化「CO2犯人説」は世紀の大ウソ」(2020年宝島社刊)の中の「科学者たちの仮説と反駁の120年史 CO2温暖化説はどうして誕生したのか?」と言う章に詳述されている。やや専門的な内容だが、この説がどのようにして生まれたかを非常に分かりやすく説明している。そして、真鍋基本論文で用いられた「気温減率(=高度とともに気温が低下する割合)は一定」という仮定が、実際には大きな計算誤差を生むことが何人もの研究者に指摘されていたにも拘わらずIPCCがこれを採用し、科学的には証明されていないCO2温暖化説が世界的に広まるきっかけになったと述べている。なお、木本氏はアゴラにも「日本を覆う「脱炭素」の誤りについて」(https://agora-web.jp/archives/231204180408.html)との論説を発表されており、詳しい図解があって非常に分かりやすい。これも是非多くの方々にお読みいただきたい。
先に述べたように、私は「CO2が温暖化の真の原因であるのかどうかを知るための努力」をしたが、それは主に論文でこの説をデータ的に証明したものはないかを探す作業だった。しかしそれは徒労に終わった。後で知ったことだが、上記のようにCO2温暖化説はコンピューター計算モデルで作られた仮説だったからだ。これで漸く謎が解けた。CO2温暖化説を擁護する本(例えば鬼頭昭雄「異常気象と地球温暖化 ー未来に何が待っているか」岩波新書1538、その他)を読んでも、なぜその科学的根拠が明確に示されず、漠然とした概念図で説明されているのかが。
またコンピューター・シミュレーションを用いた研究手法にEA(イベント・アトリビューション)がある。新聞などに良く載る「もし温暖化がなかったら生じなかったはずの災害・猛暑」などの主張は、このEAによるものである。「温暖化のために、それが無い時に比べて被害が何倍も増えた」等の主張もその一種。しかし、これらは元々、モデル・シミュレーションに強く依存している。「もし、こうでなかったなら」という仮定と再現は、仮想的世界の中の出来事に過ぎず、これらの結果はすべてシミュレーションによるものなので、上記の困難をそのまま抱えているからである。この事実を隠して、あたかも現実世界の話のように伝えるマスコミの罪は深い。
今回は、単行本を中心に情報源を紹介したが、ネット上にも参照すべきサイトはある。例えば近藤邦明氏の「環境問題を考える」(https://www.env01.net/index02.htm)や私の知人が開設している「地方を考える T and T 眉山研究所」(http://tandtresearchinc.blog.fc2.com/)などである。私は最低限これらのサイトは日常的にチェックしている。次回は、脱炭素政策批判を中心に書くこととしたい。
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まつだ・さとし 1954年生まれ。元静岡大学工学部教員。京都大学工学部卒、東京工業大学(現:東京科学大学)大学院博士課程(化学環境工学専攻)修了。ISF独立言論フォーラム会員。最近の著書に「SDGsエコバブルの終焉(分担執筆)」(宝島社。2024年6月)。記事内容は全て私個人の見解。主な論文等は、以下を参照。https://researchmap.jp/read0101407。なお、言論サイト「アゴラ」に載せた論考は以下を参照。https://agora-web.jp/archives/author/matsuda-satoshi