アサンジは今こそ一番大事な仕事をしている

乗松聡子

多くのメディア、報道の自由や人権を守ろうとする団体が声を上げたにもかかわらず、多くの署名運動や街頭デモが行われたにもかかわらず、6月17日、英国で収監されている、「ウィキリークス」の創設者、ジュリアン・アサンジの米国への引き渡しを英国政府が承認してしまった。

ジュリアン・アサンジと同じオーストラリアのジャーナリストとしてのケイトリン・ジョンストンの怒りと使命感に満ちた声を日本語で届ける(Deepl訳を調整した訳)。ジャーナリストがジャーナリストとしての仕事をしただけで、米国にいるわけでもない、オーストラリア人のジャーナリストが、米国の法律に触れたと言いがかりをつけられ(それもスパイ扱い!)、米国に身柄引き渡しを要求され、それに抵抗もできない米国の属国、英国とオーストラリア。西側が標榜する自由や民主主義を根底から完全にくつがえす事件である。

ジュリアン・アサンジを解放するための闘いはまた政治から司法に戻った。このようなことを許してしまったら、世の中のすべてのジャーナリストは権力、とくに最大の権力である米国の批判ができなくなってしまう。

すでに御用ジャーナリストと化した多くのジャーナリストたちは自分たちとは関係ないとスルーするのかもしれないが、ジャーナリストとしての誇りをかけらでも持っている者たちはこのことを他人事とはできない。学者、評論家、教育者、ブロガー、YouTuber、すべての発信者にもあてはまる責任だ。(前文 乗松聡子 @PeacePhilosophy)

プリティ・パテル英内務大臣は、ウィキリークスの創設者ジュリアン・アサンジをスパイ活動法の下で裁くために米国に引き渡すことを許可した。この事件は、世界のどこにいても、米帝国に関する不都合な真実を報告する出版社やジャーナリストを起訴するための法的先例を作ろうとするものである。

アサンジの弁護団は、CIAが彼をスパイし、彼の暗殺を企てたという事実を含む論証で、この判決を上訴すると報じられている。

「控訴はおそらく(14日間の控訴)期限の数日前に行われ、控訴の内容には我々が以前に裁判所に持ち込むことができなかった新しい情報が含まれるでしょう。それは、ジュリアンの弁護士たちがどのようにスパイされていたかとか、CIA内部でジュリアンを誘拐し殺害する計画があったといった情報でしょう」と、アサンジの弟ガブリエル・シプトンは金曜日にロイター通信に語った。

そして、アサンジには本当に感謝しなければいけない。米国が身柄引き渡しさせようとするあらゆる手段に対してアサンジは抵抗した。2012年にエクアドル大使館で政治亡命を果たし、2019年に英国警察に無理やり引きずり出されたときから、ベルマーシュ刑務所での収監中に法廷で米国検察と歯向かい合ったときまで、その闘い私たち全員に恩恵をもたらした。

アサンジが身柄引き渡しに対して抵抗する闘いはなぜ私たちに恩恵をもたらしたのか?真実に対して帝国がしかける戦争が私たちの種全体に害を及ぼすから?それだけではない。スパイ活動法の下で公正な裁判を受けられないから?それだけでもない。屈服して服従することを拒否したアサンジが、この米国という帝国にあますところなく脚光を浴びせ、その本当の姿を私たちは目の当たりにすることができたからである。

ワシントン(米国政府)、ロンドン(英国政府)、キャンベラ(オーストラリア政府)は、真実を語ったジャーナリストを投獄するために共謀している。第1に、積極的に身柄引き渡しを試みた。第2に、その試みを忠実にお膳立てした。第3に、オーストラリア市民であるジャーナリストを監禁し、ジャーナリストがジャーナリストの仕事をしたという理由で迫害することを黙認しているのだ。

アサンジは、屈服することを拒否し、敢えてこの者たちからの追及を受けることによって、一般大衆がほとんど知らされていない厳しい現実を暴露したのである。

ロンドンとキャンベラが、自国の主流メディアが引き渡しを非難し、西側諸国の主要な人権と報道の自由の監視団体がすべてアサンジを自由の身にするべきだと言っているのに、ワシントンの思惑に従順に従っているという事実は、これらが独立した主権国家ではなく、米国政府を中心とする単一の地球規模の帝国のメンバー国家であるということを示している。アサンジが立ち上がって彼らと戦ったからこそ、この現実にもっと注目が集まっている。

アサンジは、立ち上がってこの者ら(米英豪の政府)と戦うことによって、西側世界のいわゆる自由民主主義国が、報道の自由を支持し、人権を擁護しているという嘘をも暴露した。米国、英国、オーストラリアは、専制政治や独裁政治に反対すると言いながら、世界の報道の自由を支持すると言いながら、また、政府主導の偽情報の危険性を声高に叫びながら、真実を暴露したジャーナリストの身柄を引き渡そうと、結託しているのだ。

アサンジが踏ん張ってこれら権力と戦ったからこそ、ジョー・バイデンのような米国大統領共が「自由な報道は人民の敵だということは決してない。最高の状態で、あなた方は真実の守護者なのだ」などと言うときのうさん臭さがわかるのだ。

アサンジが踏ん張って戦ったからこそ、ボリス・ジョンソンのようなイギリスの首相共が、「メディアは自由に重要な事実を公にするべきだ 」などと言うとき、嘘っぱちだということがわかるのである。

アサンジが踏ん張って戦ったからこそ、アンソニー・アルバニージーのようなオーストラリアの首相共が 「我々は法律で報道の自由を守り、全てのオーストラリア人が声を上げられるようにする必要がある」とか、「ジャーナリストがすべき仕事をしただけで起訴したりしてはいけない 」などと言ったときに、聞いている方は自分たちが騙されて操作されていることに気づくことができるのだ。

アサンジが立ち上がって戦ったからこそ、アントニー・ブリンケンのような米国の国務長官共が「世界報道の自由の日に、米国は報道の自由、世界中のジャーナリストの安全、そしてオンラインとオフラインの情報へのアクセスを擁護し続ける。自由で独立した報道機関は、国民が情報にアクセスすることを保証する。知識は力である」とかいうようなおべんちゃらを売り込むことが大変になる。

アサンジが踏ん張って戦ったからこそ、プリティ・パテルのような英国内務大臣共が、「ジャーナリストの安全は我々の民主主義の基本である」 などと言うとき、単なる詐欺師だということがわかるようになる。

 

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乗松聡子 乗松聡子

東京出身、1997年以来カナダ・バンクーバー在住。戦争記憶・歴史的正義・脱植 民地化・反レイシズム等の分野で執筆・講演・教育活動をする「ピース・フィロ ソフィーセンター」(peacephilosophy.com)主宰。「アジア太平洋ジャーナル :ジャパンフォーカス」(apjjf.com)エディター、「平和のための博物館国際ネッ トワーク」(museumsforpeace.org)共同代表。編著書は『沖縄は孤立していない  世界から沖縄への声、声、声』(金曜日、2018年)、Resistant Islands: Okinawa Confronts Japan and the United States (Rowman & Littlefield, 2012/2018)など。

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