【特集】ウクライナ危機の本質と背景

ウクライナ戦争の次の100日

M.K.バドラクマ(M.K.Bhadrakuma)

米ニューヨークを拠点とする「外交問題評議会」は2022年5月31日、「ロシアのウクライナでの戦争:いかに終結させるか」というタイトルのビデオ会議を開催した。このシンクタンクの会長であるリチャード・ハースは、スティーブン・ハドリー、チャールズ・カプチャン教授、アリナ・ポリャコワ、スティーブン・トウィッティ退役中将といった著名な参加者が集まったパネルで議長を務めた。

ビデオ会議は、ロシアに対する長期的な戦争をウクライナが戦うのを支援したがっている、バイデン大統領の国家安全保障チームを導いてきたリベラル国際派の潮流が支配的な、注目すべき議論だった。

議論で印象的だったのは、実際に戦争を経験した退役中将が率直に語ったように、ウクライナでロシアが敗北することはありえず、従ってロシアを「弱体化」させるという最終目標をある程度明確にしなければならないという認識と、 戦争に対する欧州の結束はもはや保たれない、という暗い予言であった。

第三に、あり得るシナリオとしては、現在の戦争の局面がドンバスの行政境界線に達し、ドンバスとクリミアを結び、ケルソンを取り込んだ時点で、ロシアがウクライナを「凍結された紛争」にさせ、「遠くない将来における戦争の戦略的停止と行き詰まり」にさせることが、外交の扉を開くかも知れないというものである。

おそらく、ロシアがドンバスの戦いに勝利し、ウクライナに対するロシアの究極的な軍事的勝利が実現の域にあるという現実認識の冷たい空気が、ワシントンのエスタブリッシュメントに流れている。注目すべきことに、ジョージタウン大学のクプチャン教授が、多くの厳しい現実認識を披露した。

1. 問題はウクライナの「領土処理」にある

・「この戦争が長引けば長引くほど、経済的にも政治的にもネガティブな影響が拡大し、それは米国でインフレがバイデン大統領を困難な立場に追い込むことも含む」。
・「領土問題の解決について語る者は宥和主義者であるという語りを変え、ウクライナ、ひいてはロシアと、この戦争を遅かれ早かれ終わらせる方法について対話を開始する必要がある」。
・「前線がどこまで続くか、ウクライナ側がどの程度の領土を奪還できるかは、まだわからない」。
・「私はこの戦争の激しさに関しては、多くの人々が認識している以上に危険であると思うが、それはエスカレーションの可能性ではなく、意図せぬ跳ね返りがあるということによるものである」。
・「私は、西側に亀裂が入り始めたと思う…中間選挙が近づくにつれ、『アメリカンファースト』の共和党イズムが復活するだろう 」。
・「このすべてのことから、戦争終結を推し進め、その後、領土処理について真剣に話し合うべきであると考えている」。

どのパネリストも、戦争に勝たなければならない、あるいはまだ勝つことができるとは主張しなかった。しかし、ロシアの安全保障上の正当な利益を認めるパネリストもいなかった。

トウィッティ将軍は、ウクライナは一方で軍事的に疲弊しているかも知れないが、ロシアは黒海で海洋支配権を確立しており、「外交、情報、軍事、経済の側面から成るDIMEを見ると、我々は外交面で非常に不足している。ある種の交渉に持ち込もうとする外交が全く行われていないことにお気づきだろうか」と警告した。

リベラル国際派は誤って、NATOが米国の国家安全保障のかなめだと信じている。バイデン大統領はロシアに対する代理戦争を仕掛ける向こう見ずな決定をして失敗したにもかかわらず、米国はNATOに固執し、ロシアとの安全保障の取引を考えようとしない。

米国の以前のシナリオが戦争に勝つことだとしたら、新しいそれは「ロシア占領軍を相手にしたパルチザン」という夢想だ。このシナリオは、以前の背伸びした主張以上に、独自に検証するに値しない。

2.ドンバスとクリミアを結ぶ「陸の橋」

ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は先週、ドンバスとクリミアを結ぶ「陸の橋」が確立されと発表したが、それはロシアの戦争目的の一つであり、今や機能しているのだ!それには、数百キロに及ぶ鉄道路線の修復が含まれている。同時に、ウクライナからロシアとの国境までの鉄道輸送が復旧し、トラックがメリトポリ市の大型穀物倉庫から穀物をクリミアに運び始めた、とメディアは報じている。

ショイグ国防相は、ロシアからケルソン、そしてクリミア間の「包括的な交通」を約束した。それと並行して、ウクライナ南部のロシアへの統合が急速に進んでいるという最近の数多くの報道が見られ、それらはロシアの国籍や車のナンバープレート、インターネット、銀行、年金と給料、ロシアの学校などに関してだ。

先週、ロシアの有力紙『イズベスチヤ』は、匿名の軍関係者の話として、現時点でのいかなる和平調停も、ドンバスとクリミアに加え、ケルソンとザポリージャを割譲地域としてキエフが受け入れることも含めるべきだとしている。主要な問題はもはやウクライナが占領した南部を奪還できるかどうかではなく、ロシアの「陸の橋」がモルダビアまでさらに西進するのをいかに食い止めるかだ。

一方、和平交渉に対するウクライナの頑迷さは、後になってオデッサの損失も受け入れなければならなくなることから来ている。しかし、欧州で誰が理屈をこねてゼレンスキー大統領の首に鈴をつけることができるのだろうか。

それに、ゼレンスキー大統領は虎の威を借りている。彼はアングロサクソンの支持の下に生きており、アングロサクソンは彼とともに泳ぐか、沈むだろう。この切れ目のない戦争は、まだ明確な終わりが見えない。

(翻訳:東江日出郎)

原題:”Next 100 Days of Ukraine War”(https://www.globalresearch.ca/next-100-days-ukraine-war/5783428

Global Research提供。

 

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M.K.バドラクマ(M.K.Bhadrakuma) M.K.バドラクマ(M.K.Bhadrakuma)

インド外務省の元外交官。同省の外務次官を始めとする要職や、駐トルコ大使、駐ウズベキスタン大使等を歴任。国内外の様々なインターネットメディアに寄稿中。

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