【特集】ウクライナ危機の本質と背景

平和友の会会報連載「世相裏表」2022年3月号原稿:ウクライナ問題について

安斎育郎

〇ウクライナへの軍事侵攻に声を上げた世論

ロシア軍がウクライナに軍事侵攻してから、世界の様々な団体や個人がこの問題について見解や声明を発表し、その内容はさながら「プーチン・バッシング合唱大会」の体を呈しました。

この間、私が副館長を務める福島県双葉郡楢葉町の「ヒロシマ・ナガサキ・ビキニ・フクシマ伝言館」も、①ウクライナへのロシアの軍事侵攻について、②プーチンの核兵器使用威嚇に見る核抑止論の危険性について、③日本在住のロシア関係者への差別や偏見や暴力行為をやめよう、④「核共有」戦略に反対する─核兵器を「持たず、作らず、持ちこませず、共有する」?、の4本の声明を発しましたが、①の中で、「伝言館は、ロシアが国際社会の戦争回避の努力が継続している中で、ウクライナの無辜の民の犠牲を招くこうした暴力的手段に走ったことを糾弾する」とロシアを批判しました。

時を同じくして、日本平和学会も、また、立命館大学国際平和ミュージアムも声明を準備しつつあり、私もその論議に関わりました。

私が気になっていたのは、発表された多くの声明が「プーチン・バッシング」または「ロシア・バッシング」に留まっていることで、なぜ、こうした事態の背景にあったアメリカを中心とする NATO のこれまでの暴力的行動に言及しないのか、なぜ旧ソ連崩壊によって成立したロシア周辺の国家群の地域を「非核・非同盟・中立地帯」にするといった構想が提起されないのか、ついでに、ロシアがドネツク人民共和国やルガンスク人民共和国を建国・承認したやり方が1930年代の日本の「満州国」建国のやり方そのものであることに言及しないのか、といったこ とでした。

上の伝言館声明①では、こうした視点にも言及しながら、「こうした一触即発の危険な国際関係を克服するためには、伝言館が提唱する『もう一つの安全保障政策』にある通り、世界各国が核兵器に依 存する軍事同盟体制から離れ、すべての国々が“非同盟・中立・非核原理の平和的な安全保障政策”への転換を希求することが不可欠である」と結論づけました。

〇国際平和ミュージアム声明
私は前記の伝言館声明を日本平和学会関係者にも送りましたが、第94回福島プロジェクト調査で伝言館に3日ほど行っていた期間と重なり、平和学会声明には四つに組んだ相撲はとれませんでした。平和ミュージアム声明については2月25日に清水郁子課長から打診があったのを皮切りに、国際法の専門家である吾郷眞一館長が起草されることになりました。

案文を論議するに当たって私からは、「1949 年に結成された NATO はその後拡大を続け、対抗して 1955 年に結成されたワルシャワ条約機構は冷戦終結後の 1991年に解消され、表向きは世界を二分する軍事同盟の対決という形ではなくなったものの、今回の事態はその冷戦構造時代の影を引きずっており、ロシアにしてみれば国境を接するウクライナが NATO に加盟して米軍基地などが建設 され、核兵器が配備されるようなことになれば1962 年のキューバ危機にも匹敵する脅威ですね。

まして、 2021 年 12 月時点での NATO の発表で、ウクライナ がボスニア=ヘルツェゴビナやジョージアとともに NATO 加盟を希望しているとなれば、アメリカや西側諸国が手出しができないウクライナ NATO 未加盟 の今こそ年来の戦略を実行に移す最後のタイミングということになったのでしょう」と述べ、「ロシア叩き」に終わらない声明を心がけたい旨を提起しました。

吾郷館長からはすぐにそうした視点を共有されている旨のメールがあり、最終的を提起しました。吾郷館長からはすぐにそうした視点を共有されている旨のメールがあり、最終的に声明には、「NATOのロシア包囲網による軍事的緊張の高まりを望むものではありませんが」という一文のロシア包囲網による軍事的緊張の高まりを望むものではありませんが」という一文が盛り込まれました。

その後、弁護士の大久保賢一さんから、「私は、第2次世界大戦の終結以降、米国の各国に対する干渉や侵略がいくつも行われていたと考えています。例えば、イラクに““大量破壊兵器大量破壊兵器””が存在するとして武が存在するとして武力攻撃を仕掛け、フセインを殺し、政府を崩壊させ、イラクの民衆を虐殺しています。また、朝鮮戦争でも、台湾有事でも核の威嚇を行われています」というメールが来て、アメリカやNATOを免罪しかねなを免罪しかねないような声明のあり方を批判する視点が提起されてきました。いような声明のあり方を批判する視点が提起されてきました。

また、「平和のための博物館国際ネットワーク」のコーディネータの乗松聡子さんからも、「私自身は、とりわけウクライナについては対ロシアだけの一方的な糾弾は平和につながらないという考えである」旨のメールが来ました。

今回のロシアによる軍事侵攻が非人道的で、国際法に反する行為であることを批判するのは当然とし今回のロシアによる軍事侵攻が非人道的で、国際法に反する行為であることを批判するのは当然として、大事なことは、「ロシア・バッシング」だけに留まるのでは極めて一面的で、その背景にNATOの中核を担ったアメリカの極めて非人道的な行いの数々があった事実から決して目を背けてはならないし、アメリカを免罪するようなことがあってはならないということでしょう。

(「2022年3月~5月ウクライナ戦争論集」より転載)

 

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安斎育郎 安斎育郎

1940年、東京生まれ。1944~49年、福島県で疎開生活。東大工学部原子力工学科第1期生。工学博士。東京大学医学部助手、東京医科大学客員助教授を経て、1986年、立命館大学経済学部教授、88年国際関係学部教授。1995年、同大学国際平和ミュージアム館長。2008年より、立命館大学国際平和ミュージアム・終身名誉館長。現在、立命館大学名誉教授。専門は放射線防護学、平和学。2011年、定年とともに、「安斎科学・平和事務所」(Anzai Science & Peace Office, ASAP)を立ち上げ、以来、2022年4月までに福島原発事故について99回の調査・相談・学習活動。International Network of Museums for Peace(平和のための博物館国相ネットワーク)のジェネラル・コ^ディ ネータを務めた後、現在は、名誉ジェネラル・コーディネータ。日本の「平和のための博物館市民ネットワーク」代表。日本平和学会・理事。ノーモアヒロシマ・ナガサキ記憶遺産を継承する会・副代表。2021年3月11日、福島県双葉郡浪江町の古刹・宝鏡寺境内に第30世住職・早川篤雄氏と連名で「原発悔恨・伝言の碑」を建立するとともに、隣接して、平和博物館「ヒロシマ・ナガサキ・ビキニ・フクシマ伝言館」を開設。マジックを趣味とし、東大時代は奇術愛好会第3代会長。「国境なき手品師団」(Magicians without Borders)名誉会員。Japan Skeptics(超自然現象を科学的・批判的に究明する会)会長を務め、現在名誉会員。NHK『だます心だまされる心」(全8回)、『日曜美術館』(だまし絵)、日本テレビ『世界一受けたい授業』などに出演。2003年、ベトナム政府より「文化情報事業功労者記章」受章。2011年、「第22回久保医療文化賞」、韓国 ノグンリ国際平和財団「第4回人権賞」、2013年、日本平和学会「第4回平和賞」、2021年、ウィーン・ユネスコ・クラブ「地球市民賞」などを受賞。著書は『人はなぜ騙されるのか』(朝日新聞)、『だます心だまされる心』(岩波書店)、『からだのなかの放射能』(合同出版)、『語りつごうヒロシマ・ナガサキ』(新日本出版、全5巻)など100数十点あるが、最近著に『核なき時代を生きる君たちへ━核不拡散条約50年と核兵器禁止条約』(2021年3月1日)、『私の反原発人生と「福島プロジェクト」の足跡』(2021年3月11日)、『戦争と科学者─知的探求心と非人道性の葛藤』(2022年4月1日、いずれも、かもがわ出版)など。

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