21年衆院選「東京8区問題」を反省せよ 毒か薬か立憲の共産党依存
政治7月の参院選に向け、立憲民主党と日本共産党との選挙協力について評価が分かれている。批判的意見の中心は、立憲が共産党と組むことによって保守的中間層の支持を逃しているというものだ。
たしかに、東京都で見てみると立憲の比例区の得票数が前々回(2017年)衆院選の約140万票から、前回(2021年)の衆院選では約129万票と減らしている。
しかし私は、衆院選の敗北の主因が必ずしもそこにあるとは思わない。2017年衆院選に見られた結党直後の期待という上乗せが剥離していたとも、立憲自身の党運営や活動のあり方に対する有権者の支持が厳しくなっていたことが敗因ともいえるからだ。
ちなみに2014年衆院選での民主党の得票数は約93万票であるし、このあと希望の党を経て国民民主党に移った勢力の票が剥離したことも考えるなら、約129万という立憲の得票数は悲観するものではない。よって、立憲が比例区の得票を減らした主因が共産党と選挙協力をしたことにあると決めつけてしまうのは、早計に過ぎるといえよう。
その一方、小選挙区では、立憲が共産党の協力を受けたことにより議席を獲得したといえる選挙区が少なからずある。
立憲は東京の25選挙区のうち8選挙区で勝利したが、そのうちの7選挙区で共産党の協力を受けている。その7選挙区のうちの4選挙区は、立憲の当選者と次点の自民党候補者の票差が1万票以内。ほかに、約1万4000票の票差という選挙区もあった。共産党の集票力は各区とも2万票を下回ることはないと思われるので、この5選挙区は共産党の選挙協力を受けたことによって立憲が自民党に勝利したのである。
この“破壊力”があるからこそ、与党は立憲・共産の選挙協力を批判しているのだろう。
・共産党との選挙協力が立憲にもたらす影響
私は、1人区制の小選挙区選挙においては、与党に勝ち抜くために、共産党を含め野党が協力することは重要であり、立憲が共産党と選挙協力をすることを積極的に評価している。
一方で立憲が他の野党の協力を得るにあたっては、立憲自体が健全で強いことが必要であり、必要な対応を怠れば立憲にマイナスに作用する面がある。
そうした懸念を、この選挙協力を積極的に進めた東京都のケースを基に具体的に指摘したい。
懸念の一つは、立憲が共産党の力に依存することによって、党勢の弱体化を招かないかということであり、もう一つは党の組織運営が歪められるおそれがあるという点である。
まず、前者について述べよう。
立憲は、自民党のような地域や業界に根差した支持組織を構築できていない。町会や商店会に当然のごとく出来上がっている自民党支持態勢、業界の要望に応え続けてきた実績のうえに構築された産業界の厚い支持基盤、自民党支持が当然である多くの宗教団体、そのどれをとっても立憲が比肩できるものではない。
そうしたなかでも、東京では、厚い個人後援会を構築した菅直人(18区)とか、まめに足で歩いて支持を固めた松原仁(3区)のように努力で成果を上げている政治家もいる。新人ながら石原伸晃候補を破る殊勲の星を挙げた吉田晴美(8区)も、その結果はたゆまぬ努力のたまものだ。
しかし、そうした強い支持基盤を構築できていない立憲候補者は少なくない。十分なポスターを貼りきる力さえ備えていないのが実情である。
こうしたなかで、選挙協力によって立憲候補に、東京だと小選挙区あたり2万とも3万ともいわれる共産党の固い組織票が上乗せされるというのは余りに恵まれた話だ。集会や街頭演説に足を運んでくれ、ポスターの貼付やビラの配布までしてくれる。有難い話だ。
しかし、それは自分の力ではないし、共産党との協力関係が解消となれば全て消える力である。その泡と消える力に依存しきってしまうことが地力の強化の妨げになり、結局は自らの弱体化を招いてしまうのではないか。
そしてまた、応援に回る共産党からは、力を入れて応援しているのだから自分たちの集会に顔を出すようにとか、区議、市議等の選挙になれば応援してほしいといった要望が出るだろう。共産党の支持層は固いが、一方で広がりに限界があるのが実態だ。あるいは、共産党と相違する政策を声高に訴えるのも消極的になってはしまわないか。
結局、立憲の議員が共産党支持の枠を自らの枠として取り入れる結果を招いて、支持の広がりを閉ざして弱体化してしまわないかということが不安の理由である。
また、立憲が共産党の協力を受ける一方で、立憲が候補者を擁立しないで共産党に協力した選挙区がある。昨年の衆院選では4区・12区・20区。なお、そのほかに17区・24区も立憲は候補者を擁立していないが、ここでは国民民主党が候補者を擁立し共産党と争っている。
共産党は組織力の高い政党なので、党の方針として党員や支持者が立憲に協力したとしても、彼らが共産党支持を離れることはないだろう。しかし立憲は組織化されていない支持層や無党派層を中心に支持を集める政党だから、候補者を擁立しないことが、支持層を希薄化させてしまわないか不安がある。
・選挙協力の有無がもたらす不公平
より重要な問題が、2つ目に挙げた、党の組織運営が歪められるおそれである。
政権与党の自公協力の場合、公明党は原則として自民党の全候補者を応援する。一方で野党共闘の立憲と共産党の場合は、共産党が立憲の候補者の一部だけにしか協力しないことに大きな違いがある。
共産党との選挙協力が持つ破壊力は前述した。だからこそ、選挙協力の有無が立憲の候補者間に著しい不公平をもたらしてしまっている。
最初に立憲と共産党との選挙協力がなされた2017年衆院選を見てみよう。都内の立憲候補者のうち、共産党が候補者を立てずに立憲に協力した選挙区は、1区・2区・5区・6区・7区・16区・18区の合計7区である。このうち2区・5区・16区では敗北を喫した。選挙協力のそもそもの目的が与党に議席を取らせないことにあるのだから、この3選挙区は選挙協力が失敗したことになる。
ここで問題が発生する。敗北した候補者が、党内落選者間の復活当選者の決定において、非常に大きな優遇を受けるのだ。つまり、共産党の選挙協力により増加した票が、復活当選を決定する「惜敗率」を大幅に上昇させている。その結果、共産党の協力を受けた候補者と受けていない候補者との間で許容しがたい不公平が生じてしまう。
たとえば、小選挙区で落選し比例区で復活当選した5区の手塚仁雄の得票は9万9182票であり、その惜敗率は約97.89である。同区では、前回の2014年衆院選で、共産党の候補者が3万2140票を獲得していた。このとき手塚は6万6258票の得票にとどまり、小選挙区を敗北しただけでなく、比例区においても惜敗率が約64.6にとどまり落選している。
そうすると、2017年選挙において、もし共産党の選挙協力がなかったならば、共産党候補者が前回並みの3万2140票の得票をしたとして、手塚の得票は6万7042票に減少する。惜敗率は約66.17となる。
この2017年選挙において、共産党の協力を受けられずに落選した東京10区の新人・鈴木傭介の惜敗率は約76.98であり、同じく落選した東京8区の新人・吉田晴美の惜敗率は約76.38。いずれも、手塚が共産党の協力を受けなかった場合の想定惜敗率を大きく上回っている。
こうして、共産党の選挙協力を受けながら小選挙区で敗北した候補者は全員が比例区で復活当選を果たし(うち一名は繰り上げ当選)、その一方で、共産党の協力を受けずに健闘した新人議員は全員落選した。
この結果は、不合理で不公平極まりないのではないか。これは、共産党の選挙協力が全員にではなく一部の候補者に限定されていることから生じるものである。
2021年衆院選についても見てみよう。共産党が候補者を擁立せず立憲を支援した東京の選挙区は、1区・2区・5区・6区・7区・8区・9区・10区・14区・15区・18区・19区・21区・22区・23区、25区の16選挙区に及ぶ。
このうち、前職議員が候補者である選挙区は、1区・2区・5区・6区・7区・18区・19区・21区・22区・23区の10選挙区であるが、その10選挙区のうち2区と22区以外は、全員が小選挙区もしくは比例復活で当選している。落選した2区と22区は、れいわ新選組との選挙協力を得られずに候補者が競合した選挙区である。
一方で、共産党の協力を受けられなかった16区の新人・水野素子は、共産党候補者の得票を合わせれば小選挙区で勝利できる票を獲得していたし、11区の阿久津幸彦は、共産党候補者の得票を合わせれば比例区で復活当選する票を獲得していた。しかし、両候補者ともに、比例復活もならずに落選した。
こうした結果を基に言えることは、共産党の選挙協力の有無が、立憲候補者の当落を分けるほどに大きな影響を与えていることである。
そうなると、選挙協力の対象区を決定する仕組みに関心が行くが、立憲東京都連では、これを会長・幹事長の執行部が独占して協議を進めている。協議の詳細は、相手のある交渉事であるという理由で説明されない。また、共産党が候補者を擁立するかどうかは共産党の決定事であるので、立憲の常任幹事会で議論されることすらない。
こうして、立憲の執行部が独断的に選挙協力区を決定できる状況が発生する。結果、執行部への批判行動を抑える作用が働き、あるいは従属を拒否できない環境が生まれるのである。必然的に、執行部には一際高い見識と公平性を保持することが求められるが、実際はどうであろうか。
参議院議員。元裁判官・検事。民主党政権で法務大臣。『指揮権発動〜検察の正義は失われた』『【第3版】日本崩壊 森友事件黒幕を追う』ほか。