「政権交代を目指す」と息巻くも 日本維新の会 参院選で「バブル崩壊」
政治・衆院選勝利で〝勘違い〞
日本維新の会(以下、維新)は3月27日、大阪市内で党大会を開き、7月の参院選での改選議席(7)の倍増、さらに次期衆院選での野党第一党獲得を目標に掲げ、「政権交代を目指す」という活動方針を発表した。
振り返れば、昨年の衆院選で維新は、公示前の11議席から30議席増(小選挙区16、比例25)の41議席へと大幅に増やし、自民・立憲に次ぐ第3党に躍進。さらなる飛躍を目指し、党大会で政権交代を高らかに謳ったのである。
しかし、党関係者は自嘲気味にこう語る。
「昨年の衆院選の結果は、わが党にとって単なる“バブル”でしかない。浮足だっていると足元をすくわれるだけだ」。
昨秋の衆院選は、菅義偉前首相の退陣後、岸田文雄首相が誕生してすぐさま解散総選挙となったもの。2020年9月の菅政権誕生時のような内閣支持率を岸田政権は得られないなかで、自民党は公示前より15議席を減らした。それでも連立パートナーの公明党は3議席増の32議席で、与党は293議席と安定多数を得ている。
一方、躍進が期待された野党第一党の立憲民主党は、公示前の110議席から14議席減の96議席と大幅に失速。つまり、自民と立憲の減った議席を維新が総取りした格好だった。
政権与党の自民を今回は支持しない。野党第一党の立憲も支持に値しない。そう判断した有権者が維新に投票したと見る向きが多い。うまく議席を獲得したように見えるが、前出の維新関係者は「決して、維新の実力ではなかった」と語ったのである。なぜか。
「保守支持層が、 自民党に対して『ノー』を突きつけた。これは間違いない。しかし、今の政治に対し、『自民に代わる保守政党として、維新の力が必要だ』との声にはなっていない。『自民は嫌、かといって立憲はもっと嫌』という消去法の結果でしかない。これを維新の実力だと勘違いすると火傷をする。だから、選挙対策にしても国会活動にしても、これまで以上に真剣に向き合わなければ大変なことになる。そう思っていた矢先に党が打ち出した方針は、勘違いを増長するものでしかないだろう」(同前)
・維新と国民民主
これまで、維新は他の野党とは違う独自路線を強調してきた。新たな保守政党として是々非々を前面に打ち出しつつ、時に政権与党の政策方針に対して賛意を示す。
とりわけ、安倍晋三政権下では、安倍首相・菅官房長官と、維新創設者である橋下徹元大阪府知事、代表である松井一郎大阪市長が蜜月関係にあっただけに、維新はいつ政権与党に加わるかといわれ続けてきた。ゆえに、野党でもなく与党でもない“ゆ党”と揶揄されてきたのは周知の通り。
しかし、前出の維新関係者は、自民との接近を懸念するメディアやリベラル関係者の声を一笑に付し、こう言ってのけた。
「大阪府・大阪市はともに、首長・議会は維新が与党の立場であり、自民は野党。ローカル政党、大阪維新の会が発足して現在まで与党の立場で続けられているのは、“非自民”の改革政党として政策を立案し、実行してきたからです。それが国政で自民と手を組んだら土台が崩れるのは簡単にわかること。保守政党だから、個別の政策に共通項が見出せて賛成することはあっても、一緒に組むことはあり得ない」。
その象徴的な出来事は、今年度の予算案をめぐる行動だった。維新は衆院選後、同じ是々非々路線を打ち出した国民民主党と国会では足並みを揃える方向を打ち出してきた。昨年12月の臨時国会では、国民民主が公約に掲げていた「トリガー条項」凍結解除を求める法案を共同提出し、今国会では衆院憲法審査会の定例日開催を与党に求めるなど良好な関係を築いている。
ところが、トリガー条項凍結解除をめぐり、岸田首相が「検討する」と答弁したことにより、国民民主は新年度予算案の賛成に舵を切った。
「個別法案と違い、予算案の賛成とは、政府・与党の政策に同意することです。維新はこれまで予算案に賛成したことはない。国民民主がやったことこそ、まさに与党の枠組みに入るのを認めたもので、野党のすべき行動ではない。もう国民民主と連携することはない」。
前出の維新関係者の言葉を裏付けるかのように、維新幹部の一人はこう突き放したのである。
たしかに、独自路線を打ち出してきた維新にとって、埋没こそがもっとも危惧すべきこと。だから、非自民であることが“維新の生命線”なのだろう。
だとすれば、立憲に代わり、野党第一党を目指し、さらに政権交代を掲げるという党の方針は当然のことのように見える。それがバブルから生まれた驕りになるというのは、なぜか。
・〝劣化議員〞を生む体質は相変わらず
今度は、維新衆院議員秘書の言葉に耳を傾けよう。「維新の党本部は大阪にあります。つまり、大阪維新と維新が“同居”し、いまだに“大阪ローカル政党”のカルチャーを持ち続けている。これによって、選挙は他党と違う体制・手法になり、今もなお稚拙なままなのです」。
解説すると、維新の公認手続きは、公募が基本だ。しかも、政党からの資金援助はなく、自己資金が潤沢な候補者が選ばれる傾向にある。
本来、程度の差はあるものの、どの政党も党の方針に賛同する考えを持っているかどうかを確認するだけでなく、これまでの経歴をチェックし、候補者として相応しいかどうか、いわゆる「身体検査」をする。これを怠ると、後々問題が出て、党の信頼も失墜しかねないからだ。
しかし、問題を起こし、あるいは露見し、離党や辞職する維新の議員は後を絶たない。
たとえば、2019年5月に北方四島ビザなし交流訪問団の一員として国後島を訪問した丸山穂高衆院議員(当時)は、訪問団長に、北方領土を「ロシアと戦争で取り返すのは賛成か反対か」と語りかけた。さらに、滞在中に宿舎で「キャバクラに行こうよ」と発言。物議を醸し、除名処分となった。
2020年1月には、下地幹郎衆院議員(同)が、カジノを含む統合型リゾート(IR)事業をめぐり、贈賄容疑で逮捕された中国企業「500ドットコム」の顧問から現金100万円を受け取っていたことを認め、除名処分となった。
この2人だけではない。国会議員においても氷山の一角で、地方議員になればさらに数多くの“問題議員”がいる。このことは、スタート地点となる“身体検査”が十分ではなかったことに集約され、さらに当選後の党所属議員としての教育がなされていないことの証左であろう。
「『金さえあれば公認する』という党の体質を改善しない限り、今後も“劣化議員”が生まれ、党の信頼は堕ちるだけ」(前出・衆院議員秘書)。
これまで“橋下人気”に支えられてきた維新が、党の体質改善を図ってこなかったツケが出てきているようだ。
・「大阪方式」の歪み
また、“大阪方式”と呼ばれる選挙時の号令一下の体育会系体質は、「大阪では通用しても、全国では無理」(同前)との指摘もある。
たとえば、2月20日投開票の東京・町田市長選。衆院選の余勢を駆って、東京での基盤を作りたかった維新は、元都民ファースト都議の奥沢高広氏を擁立。5選を目指す無所属現職の石阪丈一市長にはこれまでの自公推薦はなく、保守分裂選挙となり、奥沢氏はじめ5人の新人が挑んだ。
告示当日、ある衆院議員秘書が応援に駆り出された。
「今さら『ポスター貼りを手伝え』と、党から指示がきたんです」(同)。
現場に着くと、さらに驚くことがあった。選挙経験者がほとんどいなかったのである。
「これまで風に頼る選挙しか経験がなかった政党で、本来やるべき準備や戦略を何一つわかっていない。また、わかろうとしないことが問題だと、つくづく感じました」(同)。
結果は石阪氏が5万3323票を得て5選。自民が推薦した無所属新人の元都議・吉原修氏は3万6632票で次点。奥沢氏はその吉原候補にも及ばない3万1011票で、あえなく落選した。
さらに、逆風は続く。3月27日投開票の兵庫・西宮市長選だ。昨年の衆院選で、大阪以外の小選挙区で勝利を勝ち取ったのは、兵庫6区(伊丹市・宝塚市・川西市の一部)の市村浩一郎衆院議員のみ。西宮市は兵庫7区で隣り合う選挙区であり、三木圭恵氏が比例復活で当選を果たしている。
無所属で再選を目指す石井登志郎市長には政党推薦はなかったものの、事実上の自民や立憲・国民民主の相乗り。一方、維新は元県議の増山誠氏を擁立。さらに、無所属新人の元県議・吉岡政和氏が出馬し、三つどもえの戦いとなった。
維新は松井代表(大阪市長)や吉村洋文副代表(大阪府知事)が西宮入りし、応援する熱の入れようだったが、結果は石井氏が8万8572票で再選したのに対し、増山氏は4万9158票と、ダブルスコアに近い“惨敗”だった。
「維新の看板・知名度が浸透しているという驕りがあったのではないか」(大阪維新関係者)との声や、松井代表や吉村副代表が応援に駆け付けたことも「大阪の“押し付け”に感じた有権者が多かったのではないか」(維新関係者)との意見も聞こえてきた。
もっと地元の声を集約して選挙戦略を練らなければならなかった点を見過ごし、“維新の看板”で勝負できると過信したとの指摘である。
しかし、知事選と同時に行なわれた4月10日投開票の京都府議補選(京都市北区)では維新の畑本義充候補が、自民公認の津田裕也氏、共産公認の福田陽介氏、立憲公認の松井陽子氏を振り切り、1万1161票を獲得して初当選を果たした。
「まさか当選するとは思っていなかったので、正直ホッとした。地元支援者の力によるものが大きい。本当に感謝しています」。
こう語るのは、前出の衆院議員秘書。選挙ごとに軌道修正ができればいいが、この補選で安堵し、このまま参院選に突入すれば、またもや痛手を食う羽目に陥る可能性があるのだ。
黒田ジャーナル、大谷昭宏事務所を経てフリー記者に。週刊誌をはじめ、ビジネス誌、月刊誌で執筆活動中。