☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年1月5日):化学生物兵器の総監キリロフ総軍の暗殺は、なぜ強い衝撃を呼び起こさないのか、これは「戦闘行為」であって「暗殺」ではない!!??
国際※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。
イーゴリ・キリロフ中将。© スプートニク/セルゲイ・マモントフ
12月17日早朝、ロシアで最も重要かつ著名な将軍の一人がモスクワの自宅前で暗殺された。イーゴリ・キリロフ中将はロシアの放射線・化学・生物防護軍の司令官だった。(彼の任務は、一部の西側主要報道配信が誤解を招くように主張しているのとは異なり、そのような兵器の使用に重点を置く部隊を指揮することではなく、それらの兵器に対する防衛に重点を置くことだった)。この暗殺は、駐車中の電動スクーターに仕掛けられた爆弾を遠隔操作で起爆させておこなわれた。爆発によりキリロフ中将の副官イリヤ・ポリカルポフ中尉も死亡し、運転手も負傷した。
容疑者はすぐに逮捕された。事件を担当するロシア捜査委員会によると、容疑者はウズベキスタン出身の若者で、ウクライナのために金銭目的で行動したことを認めている。いっぽう、ウクライナ軍情報局は、キエフで偽情報発信遊戯が何度か失敗した後ではあるが、公然と犯行声明を出している。これについては後ほど詳しく説明する。
この殺害に関して最も議論を呼ぶ可能性が高いのは、法的枠組みにおける評価だ。キリロフ中将はロシアの高官であり、ロイター通信によると「ロシアでウクライナにより暗殺された最上級のロシア軍将校」だという。また、ロシアとウクライナの間では、武力紛争法(LOAC、別名人道法)の適用を受ける大規模な武力衝突が(何と呼ぶにせよ)進行中であることは明らかだ。この衝突は戦闘に携わる者を拘束する規則だ。しかしロシアは、この暗殺を 殺人とテロリズムの複合犯罪と見ている。いっぽう、ウクライナは、この殺人は戦争における合法的な殺人行為だ、と主張している。国連当局者はウクライナ側についたが、ロシア外務省マリア・ザハロワ報道官はこの見解に強く反対している。ロシアは、国連安全保障理事会でもこの暗殺問題を提起する予定だ。
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このような見解をどう解釈すべきか? これは、厳密に法的に言えば、複雑な事件である。私個人としては、明確な分類をしようとは思わない。しかし、誰もが考慮しなければならない点がいくつかある。これは、ロシアで最初のウクライナによる暗殺事件ではない。これまでの犠牲者には、著名な知識人のジャーナリストの娘(このジャーナリストはおそらくウクライナ側の主な標的だった)や、ロシアの戦争支持派ブロガーがいる。このような事件は、明らかに戦争における正当な殺害には該当しない。著名な知識人(またはそのジャーナリストの娘)も軍事ブロガーも、軍事標的にはなり得ない。彼らは戦闘員ではない。そして、そのような人物に戦闘員の定義を拡大することは、犯罪を正当化しようとすることを意味する。キリロフ中将の殺害は、本質的にこれらの殺人を犯したのと同じ人々によって企てられたため、少なくとも刑事事件という文脈では成立する。
さらに考慮すべき点として、キリロフ中将は戦場から遠く離れていたことがある。ウクライナは、戦場というのは曖昧な概念であり、特に現代の戦争においてはそうである、と主張するかもしれない。しかし、ロシアの将軍を殺害した犯人は、戦闘員と認識できる存在ではなく、物質的な利益だけを狙って雇われた暗殺者だったことは議論の余地がない。この事実だけでも、今回の攻撃に使われた方法は、どのような定義においても犯罪行為だったことがわかる。したがって、すでに完全にテロ攻撃で知られ、通常は組織犯罪と結び付けられる手法を使った組織によって実行された暗殺を、LOAC(武力紛争法)の下でもまだ正当である、と解釈するのは無理がある。
第三に、ウクライナからの公式声明は矛盾している。欧米の主要報道機関は、いつものように、視聴者に真実を知らせないことで、事実上、キエフ政権が損害を被るのを阻止してきた。暗殺直後、ウクライナの指導者ウラジミール・ゼレンスキー大統領の主要顧問ミハイル・ポドリャク氏は、ウクライナが殺害の背後にいることを否定した。彼の論拠によると、ウクライナ側は「テロリストが駆使するような方法」に頼らない、 ということだった。おやおや。もちろん、これは、ロシアも主張しているように、殺害が確かにテロ行為を構成していたことを明確に認めたことになる。
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そしてもちろん、ウクライナ側はこのような方法をいつも、実はかなり誇らしげに使ってきたのだ。ただ今回は、一部の当局者があまりにもうぬぼれが強くなり、よく知られている「確認はできないが否定もできない」(あれですよ、あれ)という言い回しで間接的に自慢するだけで終わらなかったのだ。今回は、ポドリヤク氏が公の場で嘘をつき終えた直後に、軍情報部の同僚が公式にこう発表したのだ。「そうだ、やったのは我々だ」と。他に何を言うべきだろうか? おそらく、「いやはや、いやはや」だろうか? そして、このような失態は、明らかに、キエフ政権の内部一貫性についても疑問を抱かせる。まるで左手が右手が何をしようとしているのか知らないかのような振る舞いだ。
いずれにせよ、ドナルド・トランプ次期米大統領氏がウクライナ担当特使に任命したキース・ケロッグ氏(自身も退役中将)は、この議論に、厳密には法的という枠を超え、しかし確かに重要な側面を加えた。「戦争にはルールがある」とケロッグ氏はテレビのインタビューで主張し、「絶対にしてはいけないことがある」と述べた。例えば、戦場から遠く離れた故郷で高級将校を殺害することなどだ。この発言についても、おそらく貴殿は同意されないだろう。ケロッグ氏が紳士的な暗黙の規範とも言えるものに訴えかけているのは、甘い考えだ、と見えてもしかたないだろう。あるいは、一貫性のない考えだ、とも。というのも、米国がそのようなルールに従ったことがあるかどうか怪しいからだ。実際、米国はほとんど従ったことがない。
しかし、ここでケロッグ氏の論理に従わなくても、重要なのは、それが彼の論理だということだ。もしトランプ次期大統領のウクライナ担当官が、控えめに言っても、この暗殺を非常に不快に感じているのなら、次の2つのうちどちらかが真実であるはずだ。それは、ケロッグ氏が米国の関与を隠そうとしているという、米国の偽善の実例を見ているのか、あるいは、トランプ新政権が、ウクライナに対してキエフ政権がやりたいことを何でも許すこと、例えば殺人など、を本当に望んでいないのか、だ。米国の誠実さについて私は深い懐疑心を抱いているが、私の推測では、今回は後者だ、と思う。ゼレンスキー大統領とその仲間たちにとって、これはまたしても悪い知らせだ。
より一般的に言えば、ケロッグ氏による介入は、この殺害の政治的側面という問題に我々を導く。これは、正確な法的評価よりも、将来にとってより重要である。政治的な影響の1つはロシア国内で発生するだろうが、その多くは公表されない可能性が高い。ウラジーミル・プーチン大統領は、最近おこなった毎年恒例の長時間のテレビ番組内で、キリロフ中将暗殺はウクライナのテロ行為である、というロシアの立場を改めて表明した。同時に、プーチン大統領は全国の聴衆に対し、この件が最初に起こった暗殺ではないことを思い出させ、ロシアの治安機関がこれらの攻撃を阻止できなかった点を指摘した。その伝言が十分に明確に伝わらないことを考慮して、プーチン大統領は口語的なロシア語で、このような「非常に重大な失敗」は、治安機関の仕事を完璧にする必要があることを示している、と付け加えた。
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少なくとも概要として我々が知り得るようになることは、この暗殺事件が国際政治、特にウクライナをめぐる戦争終結の見通しにどのような影響を及ぼしたかが明らかになるだろう。多くの観察者が、キリロフ中将の殺害は、西側とロシアの間で進行中の情報戦争における彼の重要な役割と関連している、と考えているのは事実だ。同中将は頻繁に公の場で発言し、ウクライナの米国の生物学研究所やシリアでの化学兵器の使用、ウクライナによる汚い爆弾(原始的な大量破壊核兵器)の製造など、注目を集める話題について語っていた。さらに、ウクライナ側は、ウクライナ戦争での化学兵器使用疑惑はキリロフ中将の責任である、と主張している。
しかし、おそらく、上記のどれも、ウクライナが今、まさにこの瞬間にキリロフ中将を暗殺した理由の説明にはならない。現時点では推測することしかできない。しかし、実際には、この攻撃についての最も良い説明は、ロシアを過剰反応に駆り立てて和平の見通しを妨害し、ウクライナ側がそれを利用して西側を戦争のさらに深いところまで引きずり込むことが目的だったというところにある、と言える。このやり方はウクライナが使い古してきた常套手段であり、ウクライナ側が西側の提供したミサイルを使ったが、ほとんど阻止されたロシアの化学工場への攻撃という最近の作戦も、そのような激化の一例となっている。ゼレンスキー政権が必死になっているのは、トランプ次期大統領が真剣にウクライナへの支援を終わらせようとしていることを分かっているからだ。EUやNATOに加盟している欧州の人々は大風呂敷を広げるような話をしているが、たとえ彼らが言っていることをすべて実行できたとしても、その損失を補うことはできないだろう。ありそうもないことだ。たとえば、ポドリャク氏は、西側諸国がすぐに正式に戦争に参加する可能性は低いことを認めるしかなかった。すぐに? いやいや、「ずっと」でしょう。
このような背景から、モスクワ中心部近くでのキリロフ中将の暗殺は、大規模な挑発行為となるはずだった。ウクライナ軍諜報部がそれを公然と主張したのもそのためだ。この攻撃を計画したのは彼らだけだったのか? そうかもしれないし、そうでないかもしれない。西側諜報機関の直接的または間接的な関与を排除することはできない。しかし、たとえ西側がこの特定の作戦に関与していなかったとしても、これらのウクライナの諜報機関が西側によって作られたものであることは事実である。これらすべては苦々しい話であるが、まさにそうとしかとれない話だ。しかし、この件には透明性もある。これまでのところ、ロシア指導部はウクライナの挑発行為に過剰反応していない。また、地上での戦争の行方と時間の両方がロシア側に有利であることを理解している。ロシア側が予想された報復政策を放棄するとしたら驚きだろう。ロシア側の対応はあるだろうが、それはウクライナ側の期待に応えるものではないだろう。そしてそれは我々にとっては良いことだ。
※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS(2025年1月5日)「化学生物兵器の総監キリロフ総軍の暗殺は、なぜ強い衝撃を呼び起こさないのか、これは「戦闘行為」であって「暗殺」ではない!!??」
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また英文原稿はこちらです⇒Despair: A brazen killing in Moscow betrays a panic in Kiev
キリロフ中将の殺害は、ウクライナとおそらくその西側諸国が期待したような過剰反応を引き起こさないだろう。
筆者:タリック・シリル・アマール(Tarik Cyril Amar :イスタンブールのコチ大学でロシアやウクライナ、東欧、第二次世界大戦の歴史、文化的冷戦、記憶の政治について研究しているドイツ出身の歴史家)
出典:RT 2024年12月20日
https://www.rt.com/russia/609701-kirillov-assassination-kiev-panic/
国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授