【連載】安斎育郎のウクライナ情報

1月10日のウクライナ情報

安斎育郎

1月10日分です。

安斎育郎

1月10日のウクライナ情報
安斎育郎

❶【1/7 ロシア・ウクライナ紛争】ウクライナ軍クルスクで反撃開始、ロシア侵攻前に米国が武器援助(2025年1月7日)
今回は、1/5のウクライナ軍のクルスクでの反撃と米国は、ロシア軍の侵攻前からウクライナに武器を援助していたというブリンケン国務長官の発言についてのお話です。
1/5、ウクライナ軍は、突撃旅団を創設し、戦術を変更し、電子戦システムを完成させ、ロシア連邦の防衛システムを研究して、クルスク戦線で反撃を開始したそうです。
しかし、クルスク戦線は現在一進一体のようです。
ポクロフスク方面:ロシア軍は、クラホヴェを占領後北のペトロパビロフカに入ったと言います。クラホベの南を防衛していたウクライナ軍は、うまく撤退できたのでしょうか。退路をロシア軍の射撃管制下に置かれていましたからかなりの損害を受けたのではないでしょうか。例によって撤退のタイミングが遅かったかもしれません。
米国は、ロシアのウクライナ侵攻前、少なくても5か月前からウクライナに武器援助をしていたとブリンケン国務長官は、ニューヨークタイムズとのインタビューで発言したと言います。これに対しロシア側のメデイアは、直ぐ反応しました。
https://youtu.be/JZHXtgCJmbs
https://www.youtube.com/watch?v=JZHXtgCJmbs

❷クルスク大惨事第2部。ゼレンスキーのミンスク欺瞞(2025年1月7日)
このビデオは、クルスクでのウクライナの新たな攻勢について論じ、これを就任前のトランプ氏に影響を与えようとする誤った試みだと分析している。また、ゼレンスキー氏とレックス・フリードマン氏のインタビューを批判し、トランプ氏にウクライナ支援を約束させようとする試みを検証している。
https://youtu.be/ql7LkJI-nTY
https://www.youtube.com/watch?v=ql7LkJI-nTY

❸ウクライナ経由のガス輸送停止はロシア経済に影響せず(2025年1月7日)
ウクライナ経由のガス輸送が停止されたことによるロシア経済への影響はゼロに近い。西側メディアが報じている。
ロシアは西側へのガス供給を従来のパイプラインによる輸送からLNG(液化天然ガス)による輸送に切り替えたり、ガスの輸出先を中国に振り替えたりすることにより、ウクライナ経由のガス輸送停止による損失を予算収入のわずか0.2%に抑えるという。
報道によると、西側ではLNGによるロシア産ガスの輸入量がパイプラインによるかつての輸入量をすでに上回っているとのこと。
また、将来的にロシアの国営企業「ガスプロム」はトルコと中央アジアへの販売を拡大するとのこと。したがって、西側はウクライナ経由ではなく、LNG、またはロシアの友好国経由で輸入を増加させると見られている。
従って、パイプラインによる輸送停止に伴うロシア経済への影響は無く、ウクライナだけが収入源を断たれた形となる。ウクライナは天然ガスの輸送費として2020年から2024年にかけてロシアから62億ドル(9800億円)を受け取っていた。
西側はロシア産ガスの輸出禁止を目指しているものの、依存関係を断ち切ることは依然として困難な状況が続くと見られている。
https://sputniknews.jp/20250107/19478963.html

❹人口世界4位のインドネシア、BRICSに正式加盟(2025年1月7日)
インドネシアがBRICSの正式加盟国になった。BRICS議長国のブラジル政府が発表した。
インドネシアの立候補は2023年8月に南アフリカのヨハネスブルグで開催されたBRICSの首脳会議で承認されていた。
先にブラジルのヴィエイラ外相はBRICSについて、G20の形式に近づきつつあると述べていた。
インドネシアの人口は約2億7,870万人、インド、中国、米国に次いで4番目に人口が多い。高度経済成長を続けており、2030年までに日本のGDPを抜くとされている。
https://sputniknews.jp/20250107/4brics-19478680.html

❺プーチン氏が会談望んでいるとトランプ氏(KODO, 2025年1月8日)
【ワシントン共同】トランプ次期米大統領は記者会見で、ロシアのプーチン大統領が「私と会いたがっているのを知っている」と述べた。会談時期の見通しは示さなかった。
https://news.yahoo.co.jp/articles/e2352b2d1b5ee6fd7aabd883037c6271508c5c10

❻英スターマー首相「うそや誤情報拡散」と非難 イーロン・マスク氏の「内政干渉」に欧州指導者ら警戒(2025年1月8日)
アメリカの実業家、イーロン・マスク氏がSNSで、イギリスで起きた性的虐待事件への対応をめぐりスターマー首相への批判を繰り返しています。ヨーロッパの他の国の政治についても言及していて、「内政干渉」につながりかねないとして警戒感が強まっています。
トランプ次期政権で要職を務めることになっているイーロン・マスク氏は、イギリスで起きた組織的な性的虐待事件をめぐり、かつて検察トップだったスターマー首相が対応を怠ったと主張。マスク氏は自身が所有する「X」に、今月に入って、「スターマーは票と引き換えに集団レイプに加担した」「スターマーは辞任し、イギリス史上最悪の集団犯罪への共謀の罪で起訴されなければならない」と書き込む
など批判を繰り返しています。
これに対しスターマー首相は6日、記者会見で名指しを避けつつも、こう反論しました。
イギリス スターマー首相
「うそや誤った情報を広範囲に広めている人々は、被害者には関心がない。自分自身にしか興味がないのだ」
マスク氏はヨーロッパの他の国の政治にも言及していて、来月、議会選挙が行われるドイツについては、移民排斥を掲げる極右政党「AfD」への支持を表明しています。
これについてフランスのマクロン大統領は6日の演説で、「10年前に、世界最大規模のSNSの所有者が、ドイツなどの選挙に直接介入すると誰が想像しただろうか。これが我々が生きている世界だ」と述べて懸念を示しました。
また、ロイター通信によりますと、ノルウェーのストーレ首相も6日、現地メディアに「SNSに巨大な権限と、ばく大な経済的資源を持つ人物が、他の国の内政に、これほど直接関与することは憂慮すべき」と述べるなど、警戒感が強まっています。
https://news.yahoo.co.jp/articles/56373f1ac031b058dd34800b4db326f6c06d727e/images/000

❼速報 | ロシアが欧州最大のリチウム鉱山を接収(2025年1月7日)
ロシアによる欧州最大のリチウム鉱山の戦略的占拠は、ウクライナ紛争の重大な転換点となる。劇的な緊張の高まりの中、ロシア軍はシェフチェンコ村の鉱床を占拠した。これは、世界のグリーンエネルギーと電池生産に重大な影響を及ぼす、50万トンの巨大なリチウム貯蔵庫を掌握する可能性がある。この計算された動きは、ウクライナの経済回復と欧州連合の再生可能エネルギーへの移行を脅かし、天然資源が戦略的な戦争の武器になるという複雑な地政学的チェスの試合を明らかにしている。この占拠は、軍事的な大きな勝利を意味するだけでなく、世界の鉱物サプライチェーンを再編する可能性があり、電気自動車技術と脱炭素化の取り組みに広範囲にわたる影響を及ぼす。激しい戦闘が続く中、世界はこの重要な展開の展開を見守っている。
https://youtu.be/qCOoTte4584
https://www.youtube.com/watch?v=qCOoTte4584

❽トランプ氏、ウクライナ戦闘終結まで「6か月ほしい」…「就任24時間以内」から後退(2025年1月8日)
【ワシントン=阿部真司】米国のトランプ次期大統領は7日、フロリダ州で記者会見を開き、ロシアとウクライナの戦闘終結について「6か月はほしい。できればそれより早く終わらせたい」と語った。これまで「大統領就任から24時間以内に終わらせる」などと早期終結を主張してきたが、発言を後退させた形だ。
トランプ氏はウクライナ侵略を巡る停戦交渉に関して「とても複雑だ」と指摘し、容易でないことを認めた。「毎日、多くの若い兵士が殺されている。私が大統領ならあの戦争は決して起こらなかった」とも強調し、責任の矛先をバイデン政権に向けた。
20日に就任するトランプ氏は昨年11月の大統領選で、ロシアのプーチン大統領との交渉に自信をみせ、大統領就任前の解決や、就任直後の終戦を実現させるなどと発言してきた。
プーチン氏との会談については「言えないが、プーチン氏は会談を望んでいるだろう。(自身が就任する)20日よりも前に会うのは適切ではない」と述べるにとどめ、慎重姿勢を示した。
停戦交渉を巡り、ウクライナ側はロシアの再侵略を防ぐための「安全の保証」として、北大西洋条約
機構(NATO)への加盟を求めている。ただ、トランプ氏は加盟に反対するロシアとの交渉を進めるため、早期加盟に否定的とされ、停戦のめどはたっていない。
NATOに関しては、加盟国の防衛費を国内総生産(GDP)比2%としている目標について、「5%にすべきだ」と大幅な引き上げを求めた。「彼らは我々を利用している」と不満もぶち上げ、欧州各国にさらなる負担増を迫る考えを鮮明にした。
一方、ウクライナへの軍事支援の継続の是非を記者会見で問われ、トランプ氏は「言わない」と否定しなかった。これまで支援継続に後ろ向きな姿勢を再三にわたって強調してきただけに、大統領就任後の出方が注目される。
https://news.yahoo.co.jp/articles/5f04df10445ae6f5d08ca49a3ff87c9fef989ebe/images/000

❾トランプ氏、ウクライナのNATO加盟に反対するロシアに理解(2025年1月8日)
トランプ次期米大統領は7日、ウクライナがNATO(北大西洋条約機構)に加盟すべきではないとするロシアの立場に理解を示し、大統領就任前にロシアのプーチン大統領と会えないことを残念に思うと述べた。写真は2024年12月、ウクライナ南東部ザポロジエで撮影(2025年 ロイター/Stringer)(ロイター)
https://news.yahoo.co.jp/articles/fc22d64b0048848c3a10f56a193e7dbcc0a3d918/images/000

❿<ドル覇権への挑戦>BRICSが仕掛ける共通通貨圏、トランプの反応は“過剰”なのか?(2025年1月8日)
いよいよ1月20日、第二次トランプ政権が始動する。注目すべき論点は多いが、為替市場の観点からはドル高相場の持続を指摘する声が多い。
これに対し、ラストベルトの支持を背負うトランプ次期大統領が果たして黙っていられるのかという疑義はある。為替市場ではリスクシナリオの1つとして第二次プラザ合意という物騒な想定を持ち出す声も聴かれる。しかし、トランプ次期大統領は「強いドル」の庇護者であることへの関心も強そうであ
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る。
自身の選挙戦略上は「弱いドル」への選好を露わにすることで製造業従事者に配慮することが望まれるものの、本質的に米国第一主義を信奉するトランプ次期大統領はドルの基軸通貨性にチャレンジするような動きを決して看過しない。
この点、昨年11月末、トランプ氏はSNSにおいて主要新興国BRICS諸国が共通通貨を創設した場合や、米ドルの代替通貨を支援した場合、米国が行う当該国からの輸入に対して100%の関税を課す意向を示した。具体的には「米国が傍観している間にBRICSが脱ドルを進めようとする考えは終わりだ」、「国際決済で米ドルに代わることはあり得ない」、「通貨創設やドル以外の通貨の使用を諦めなければ、(加盟国に)100%の関税をかける。米国への輸出はできなくなると考えるべきだ」などとコメントしている。
しかし、現時点でほとんど実現可能性が感じられないBRICS共通通貨というコンセプトに対して、就任前からわざわざこれほど強いけん制をして見せたことで、逆にトランプ氏(ひいては米国政府)が抱いている脅威のリアリティが増したようにも感じられた。既報の通りだが、2024年10月22~24日にロシア西部のカザンで開催されたBRICS首脳会議の際、ロシアのプーチン大統領がブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの国旗が描かれた紙幣を手にしている写真が公開されており、これがことさら選挙戦の真っただ中のトランプ氏を刺激したのかもしれない。
価値保蔵機能には疑義
とはいえ、近い将来にBRICS共通通貨やこれに変わる通貨(人民元含む)がドルを代替する存在として浮上する公算は極めて小さい。それはほかならぬ中国が依然として大量の米国債を保有し、国際銀行間通信協会(SWIFT)を基軸とするドルシステムに包含された状態にあることが何よりの証左である。
それでも米政府がドル一強体制の瓦解を不安視する要因はあるのか。貨幣の3機能である(1)価値保蔵、(2)価値尺度、(3)交換に照らした場合、(1)は外貨準備構成通貨比率において過去四半世紀でドル比率が著しく下がっている。
具体的には99年3月末から24年6月末の間に約71%から約58%へ低下している(図表(1))。代わりに上昇しているのは人民元、カナダドル、豪ドルなどであり、ユーロ、円、英ポンド、スイスフランといったかつての主要通貨ではない。
外貨準備の運用多様化が進む中、価値保蔵の観点からドルの基軸通貨性に疑義が生じる状況は確かにある。それでも世界の外貨準備の約60%が依然ドルなのだから、その立場が早晩瓦解するかのような言説も行き過ぎだが、ドル比率の低下傾向から何かを読み取る努力は確かに必要かもしれない。
価値尺度機能に切り込む力はある
では、(2)はどうか。ドルが持つ価値尺度機能を象徴する事例が原油価格のドル建て表示だ。歴史的経緯について詳述は避けるが、1971年の金・ドル兌換停止(ニクソン・ショック)を経て金という裏付けを失ったドルの価値を担保するために、米国はサウジアラビアの原油価格引き上げを容認する一方、原油取引をドル建てに縛る体制をサウジアラビアと構築したと言われている(この点、公式な文書や取り決めがあるわけではない)。
米国が基軸通貨国足り得ている背景として世界最大の経済規模と軍事力が真っ先に挙げられや
すいが、産油国が原油取引で得たドルを米国債に投資するという資金循環構造、いわゆるペトロダラー体制こそ基軸通貨国の要諦であるとの指摘は多い。端的に言えば、「原油はドルでしか買えない」を基軸通貨の正体と捉える主張だ。
しかし、BRICS首脳会議が本当に足並みを揃えてくるのだとしたら、この点に楔を打ち込める目はある。かつて新興4カ国(ブラジル・ロシア・インド・中国)の総称でしかなかったBRICsは2011年に南アフリカが加入しBRIC「S」と表記されるようになった。24年からはイラン、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプト、エチオピアが加わっている。
このタイミングでサウジアラビアも加わる予定とされていたが、米中間の緊張が高まる中で最終判断を保留しているのが現状であり、本稿執筆時点ではまだ加盟国のステータスにはない。さらに同じタイミングでアルゼンチンも加わる予定であったが、23年8月に加盟を決断した反米左派政権が同年12月に親米政権に代わったことでやはり参加が見送られている。
結果、現状での加盟国は9カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国、エジプト、エチオピア、イラン、UAE)である。この9カ国だけでも世界の石油供給に占めるシェアは30%程度にのぼり、態度保留中のサウジアラビアが加われば40%程度まで引き上がることになる(図表(2))。これらの国々がドル建て取引に執着しないのだとしたら、ペトロダラー体制は当然揺らぎ、米国債の消化構造にも影響が出る恐れはある。
ペトロ人民元体制の現実味は?
もちろん、これは原油に留まる話ではない。既に、ロシアが保有する石油、レアメタル、小麦、肥料などの天然資源取引はルーブルや人民元を通じて決済されるケースが増えていると言われる。
ロシアと中国の原油取引は人民元建て、米国の制裁下にありドル建て取引が制限されるイランも人民元建て輸出を可能にしており、中国、インド、トルコが仕向け先となる。23年3月には中国とブラジルが貿易や金融取引で両国の通貨を使って直接取引できる仕組みの創設で合意したという報道もあった。
2000年代後半のシェール革命を経て世界最大の産油国にのし上がった米国がエネルギー調達面で中東地域への関心を後退させる一方、世界最大の原油輸入国である中国がペトロダラー体制に付け入る隙が生まれているという構図である。中国の「一帯一路」構想とその資金源であるアジアインフラ投資銀行(AIIB)から援助を受ける国々は、今後は支援条件としての「ペトロ人民元体制」への加担を要求される余地があるし、現にそうなりつつあるという論考は多い(後述する中国独自の決済システムであるCIPSも、同じ文脈で利用を強いることが可能だろう)。
いずれにせよ、中国を軸にBRICS首脳会議が結託することで、例えば人民元建ての表示価格が資源取引に強要された場合、何らかの強制力を伴う恐れはある。事実として、中国から開発資金を得られる以上、多少の不便を甘受しても、そのチャレンジに乗る国は出ても不思議ではない。
SWIFT遮断が気づかせた事実
以上見るように、価値保蔵や価値尺度の観点からドル一強体制に付け入る隙が若干ながら生じているのは間違いなく、冒頭のトランプ氏が示唆する懸念は根拠がない話とは言えない。そもそも基軸通貨国であることの最大の強みは「ドルが使えないと経済活動に参加できない」という状況を強制的に創り出すことができる点にある。だからこそ、米国の脅しには意味が伴ってきた。
しかし、ドルの代替通貨があればその限りではない。中国が人民元の取引網拡張に尽くすのは、金融界において米国の掌にありながら米国と対立することの限界を自覚しているからに他ならない。
既に、米国を主軸とする西側の金融制裁が昔ほどの威力を持っていないという疑義は漂っている。22年3月、ロシア・ウクライナ戦争に伴ってロシアに対しては「金融の核兵器」とまで言われたSWIFT遮断という制裁が加えられたものの、ロシア経済は軍需産業を中心として好況に沸いている。実際、成長率のパフォーマンスだけで見れば、先進諸国と比較しても頭抜けている(図表(3))。もちろん、国内情勢を分析すれば色々な綻びもあろうが、少なくとも「金融の核兵器」により壊滅的なダメージを負ったという印象は当てはまりそうにない。
ロシア経済はドル建て取引を制限されている一方、開戦から現在までの3年弱において企業部門における資金調達、家計部門における資産運用、そして対外的には貿易決済通貨として人民元の存在感が高まっていることが指摘されている。SWIFTが遮断されても、SWIFTと繋がっている中国独自の決済システムであるCIPSがダメージを限定させる緩衝材になっていると指摘されて久しい。
なお、CIPSがSWIFTと繋がっているのは、事実上の国際規格であるSWIFTに乗ることでCIPSの利用拡大を優先したと言われている。この点、中国の立ち回りは現実的でもある。
中国人民銀行(PBOC)の報告書によれば、22年時点でCIPSの取引件数は約440万件、金額にして約97兆元だったが、23年時点ではそれぞれ約661万件、約123兆元まで拡大しているという。人民元の取引網は確実に世界に拡がっている。
開戦後の22年3月以降で起きている現象を総合すれば、SWIFT遮断が人民元国際化の一里塚になった可能性は否めない。「金融の核兵器」は「抜かずの宝刀」であるうちは畏怖の対象だったが、SWIFTとの比較で極めて代替的な手段にしかならないとはいえ、「CIPSで何とかなっている」という現実が曲がりなりにも提示されていることはトランプ氏に限らずドル一強体制の特権を手放したくないであろう米国にとって愉快な状況とは言えまい。
金融制裁といういわば、非軍事的な強力な武器にやや陰りがみられることは、米国第一主義という一種のわがままを貫きたいトランプ氏にとって看過できない事態であり、冒頭のようなけん制発言に繋がっていると考えられる。
徐々にフェードアウトする中国
もちろん、以上の議論はドル一強体制の綻びに関し、強いて言えば指摘できる弱点を挙げたまでだ。依然としてドルを基軸通貨とする国際金融体制が続くというメインシナリオに大きな揺らぎがあるわけではない。
例えばペトロダラー体制が崩れると言っても、サウジアラビアの通貨(リヤル)はドルペッグ制で管理されている。ペトロ人民元体制への移行を睨むならば、ペッグ対象をドルから人民元へ変える必要がある。それが一足飛びに難しいとしても、ドルおよび人民元を含むバスケット通貨へ移行する段階などを経るだろう。
現実的には原油取引における決済通貨比率を参照にして調整されるだろうか。いずれにせよ通貨制度の変更は一朝一夕に進む話ではない。
しかし、一朝一夕に進まずとも日進月歩で進むという理解もまた、必要ではある。中国の米国債が依然大規模であることは上述したが、確かに金額としては大きいものの、徐々に、しかし確実に減少しているのも事実である。
中国の米国債保有額は13年には約1.3兆ドルまで積み上がっていたが、今年9月時点では7650億ドルだ。約10年で4割も圧縮されたことになる。この間、約1.1~1.2兆ドルで高止まりしている日本とは対照的である(図表(4))。
これが意図を持った減少傾向であるのはほぼ間違いないだろう。代わりに外貨準備に金(ゴールド)の占める割合は目に見えて上昇しており、統計が取得可能な15年6月から24年9月までの間に約1.7%から約5.4%へ急騰している。
一方、米国債の割合は同じ期間に約34%から約22%へ低下している。実際のオペレーションを知ることはできないが、22年までの漸減傾向は再投資停止という自然減の体裁を取っていた可能性が窺われるとしても、22年以降の減少ペースは実際の売買を伴った疑いが抱かれるほど早いものである。米国債相当の金融資産としてとりあえずは金と置き換えているという運用者の意図が透ける。
中国がドル一強体制からフェードアウトを図っているのは間違いない。覇権通貨の交代はある瞬間に非連続的に起きるのではなく、「気づいたらそうなっていた」という取引慣行の中で決まっていくものだろう。その意味では最終的に人民元の地位がどこまで到達するかは不透明としても、その歩みは確実に進められている。
最大の武器となる中国の米国債売却
あとは減らしたとは言っても依然8000億ドル弱も存在する米国債の処遇をどうするのか。従前の漸減傾向を続けるのか、それともある時に売り浴びを決断するのか。仮に、米国経済を望まぬ金利上昇で痛めつけたいのであれば、後者の選択肢を取った上で、それを利上げ局面にぶつけるのは効果的かもしれない。
となると、「利下げの終わり」を経た26年以降が注目だろうか。もしくは共通通貨構想やサウジアラビアの通貨制度変更、それらに伴う資源決済通貨の移行など、BRICSとしての何らかの大きなアクションを起こすタイミングにぶつけるのも象徴的かもしれない。覇権交代を目論む中国にとって米国債売却はキャピタルロスという「返り血」を被りつつも、ドル一強体制に打ち込める最大の武器であることは間違いない。
とはいえ、そもそも特定通貨が1つの覇権を掌握するという体制が常態になるとも限らないだろ
う。ドルと人民元という2つの大国通貨の周りをそれぞれの友好国の通貨が衛生的に回るというマルチな体制もあり得る。
いずれにせよ、トランプ氏が陰に陽に懸念を示すように、BRICS首脳会議の挙動を荒唐無稽なものと一蹴するのはもはや適切ではない。国際金融秩序の歴史的な節目を注視するという目線をもって、調査・分析を進める姿勢を重視していきたい。
https://news.yahoo.co.jp/articles/65616456dc4cab6a9c8a8b185437f5ed0f263e42/images/000

2025年1月7日 ウクライナ情報pdfはこちら → 

 

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安斎育郎 安斎育郎

1940年、東京生まれ。1944~49年、福島県で疎開生活。東大工学部原子力工学科第1期生。工学博士。東京大学医学部助手、東京医科大学客員助教授を経て、1986年、立命館大学経済学部教授、88年国際関係学部教授。1995年、同大学国際平和ミュージアム館長。2008年より、立命館大学国際平和ミュージアム・終身名誉館長。現在、立命館大学名誉教授。専門は放射線防護学、平和学。2011年、定年とともに、「安斎科学・平和事務所」(Anzai Science & Peace Office, ASAP)を立ち上げ、以来、2022年4月までに福島原発事故について99回の調査・相談・学習活動。International Network of Museums for Peace(平和のための博物館国相ネットワーク)のジェネラル・コ^ディ ネータを務めた後、現在は、名誉ジェネラル・コーディネータ。日本の「平和のための博物館市民ネットワーク」代表。日本平和学会・理事。ノーモアヒロシマ・ナガサキ記憶遺産を継承する会・副代表。2021年3月11日、福島県双葉郡浪江町の古刹・宝鏡寺境内に第30世住職・早川篤雄氏と連名で「原発悔恨・伝言の碑」を建立するとともに、隣接して、平和博物館「ヒロシマ・ナガサキ・ビキニ・フクシマ伝言館」を開設。マジックを趣味とし、東大時代は奇術愛好会第3代会長。「国境なき手品師団」(Magicians without Borders)名誉会員。Japan Skeptics(超自然現象を科学的・批判的に究明する会)会長を務め、現在名誉会員。NHK『だます心だまされる心」(全8回)、『日曜美術館』(だまし絵)、日本テレビ『世界一受けたい授業』などに出演。2003年、ベトナム政府より「文化情報事業功労者記章」受章。2011年、「第22回久保医療文化賞」、韓国ノグンリ国際平和財団「第4回人権賞」、2013年、日本平和学会「第4回平和賞」、2021年、ウィーン・ユネスコ・クラブ「地球市民賞」などを受賞。著書は『人はなぜ騙されるのか』(朝日新聞)、『だます心だまされる心』(岩波書店)、『からだのなかの放射能』(合同出版)、『語りつごうヒロシマ・ナガサキ』(新日本出版、全5巻)など100数十点あるが、最近著に『核なき時代を生きる君たちへ━核不拡散条約50年と核兵器禁止条約』(2021年3月1日)、『私の反原発人生と「福島プロジェクト」の足跡』(2021年3月11日)、『戦争と科学者─知的探求心と非人道性の葛藤』(2022年4月1日、いずれも、かもがわ出版)など。

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