☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年1月16日):米帝国の旗が掲げられつつあるのを目にしながらシリア崩壊後を考える:シリアの破壊は軍事力の相関関係を変えた。
国際※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。
米国、イスラエル、トルコはシリアの分割と破壊においては共謀してきたが、いまは相互間の紛争に直面している。テロリストの側につくのはもうたくさんだ、というわけだ。
イスラエル政府委員会は、イスラエルはトルコとの戦争に備えねばならない、という助言を出している。これは、トルコにはオスマン帝国再興に意図があることを疑っているからだ。そうなれば、トルコは大イスラエル構想の妨害になるのだ。このような戦争が起こってしまえば、米国は板挟みになってしまうだろう。トルコはNATO加盟国なので、トルコが戦争になった場合、米国は支援に走らないといけなくなるからだ。しかし、米国がイスラエルに対する戦争に参加することなどありえるだろうか?イスラエルが米国の報道機関や金融部門、芸能界、アイビー・リーグなどの大学や議会を牛耳っているというのに。トランプがNATOを排除しようとしているのも無理はない。NATOのせいで、トランプは自分で自分のことをきめられなくなるからだ。
おそらく、最終的にシリアの崩壊はロシアを利することになるだろう。イスラエルとトルコ間の戦争が起これば、ロシアはトルコと同盟を結び、そうなれば米国とイスラエルは敗北することになるからだ。
アラブ世界の見通しは暗い。アラブ世界内での対立、具体的にはスンニ派とアラウィー派、シーア派間の対立のせいで、何世紀もの間アラブ世界は力を削がれ、他国の支配に甘んじてきた。リビアやイラク、シリアの崩壊、さらには小国レバノンの孤立化により、サウジアラビアだけがアラブ世界に残る唯一の国家となってしまった。最近のイスラエルの発表によると、大イスラエル構想の中には、サウジアラビアの大部分が含まれている、という。
数十年前は、米国の政策はイスラエルを支援しながら抑制することで、アラブ・イスラム世界との良好な関係を持続することにあった。しかし無能で、私に言わせれば邪悪なジョージ・W.ブッシュ政権は、9/11を利用してブッシュ政権を管理しようとしたシオニストのネオコン勢力のもとでの政権だったのだが、米国を「アラブのテロリスト」と対決する勢力と結びつけ、イスラエルの利益となるようアラブ諸国の消滅に着手し始めた。シオニストのネオコン勢力が明言していた目標は、「5年間で7つの国を破壊すること」だったが、計画よりは時間がかかってしまった。しかし、それは事実上成し遂げられた。レバノンとサウジアラビアだけが残っていて、シリアの破壊により、ヒズボラは孤立させられ、イスラエルの格好のカモになってしまっている。
おそらく、イスラエルとトルコは、アラブ世界の分割においては折り合いを付けることは可能だろう。イランはアラブではないし、アラブ世界はもはや国家という形態をとれないため、イスラエルは、政府委員会が既に表明しているとおり、警戒の矛先をイランからトルコに移行するだろう。
トランプも帝国主義に熱い視線を注いでいる。カナダやグリーンランド、パナマ運河を米国に編入したい、と明言している。トランプ自身が帝国の拡大を考えているのに、どうやって米国政府は大イスラエル構想やオスマン帝国復興に反対できるというのか?
トランプがイスラエルを支援すれば、それ以外の選択肢はないと思うが、イスラエルとトルコ間の戦争において、NATOはトルコをロシアに取られるだろう。今月予定されているロシア・イラン間の戦略的パートナーシップ条約が締結されれば、ロシアは南方に緩衝地帯を得ることになる。
最近の劇的な展開を頭に置いて、今後の各国の勢力分布を再考してみよう。シリアの崩壊により、トルコとロシアはイスラエルと米国に対して同盟を結ぶことになりそうだ。ロシア・イラク間の戦略的パートナーシップ条約が締結され、何らかの効力が発揮できれば、ロシアは中東における主要勢力になり得るだろう。だが、プーチンは戦争を避けたがり、無意味な同意に署名したがるこれまでの傾向から、ロシアは優位な状況にあるにも関わらず、戦略的・軍事的指導力を発揮できずにおわりそうだ。
中国の指導者層も状況を読み違えている。金儲けしか頭にない中国は、ウクライナとの戦争の終わらせ方を、勝つことではなく交渉で解決するようロシアに圧力をかけている。中国の意図は、米国からの中国に対する制裁を回避し、中国の金儲け政策を継続することにあるのだ。いくつかの報道によれば、BRICSは中国のこの視点で動いているようだ。金がすべてなのだ。
主要国家が混乱し読み違えているこのような状況を考えれば、危惧される状況は、戦争が抑制不可能になり、大規模な戦争が勃発することだ。人類の愚かさが表出するのを待ち構えて起こるこのような戦争こそ、私がずっと反対し警告してきたものだ。
指導者層がトランプを取り込んだ今、「米国を再び超大国に」ということばは再定義したほうがよさそうだ。偉大さの尺度は、利益の多さと米国の覇権の進捗になってしまう可能性がある。そのためのカナダやグリーンランド、パナマ運河の編入なのだ。米国民に仕事を戻すことや法の支配、国境封鎖などはすべて忘れ去られてしまうかも知れない。米帝国の旗がひらめく中で。
また英文原稿はこちらです⇒Watching the Banners of Empire Unfurl
筆者:ポール・クレイグ・ロバーツ(Paul Craig Roberts)
出典:自身のブログ 2025年1月10日
https://www.paulcraigroberts.org/2025/01/10/watching-the-banners-of-empire-unfurl/
国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授