【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2025.01.23XML:トランプ政権の行手に暗雲

櫻井春彦

 イスラエルとハマスが合意した42日間の停戦協定は1月19日に発効したが、ハマスの幹部によると、イスラエルはガザ上空に偵察ドローンを継続的に飛ばし、非武装の住民に対して発砲するなど協定違反が発生している。ガザでは停戦が発表されてから24時間以内に122人の遺体が病院へ運ばれたという。

 この協定が締結される際、ドナルド・トランプが中東特使に指名したスティーブン・ウィトコフが中心的な役割を果たし、トランプ政権に期待する声もあがったが、早くも行手に暗雲が垂れ込めている。

 イスラエルの退役軍人で構成され、占領地での実態を告発する支援をしている団体「ブレイキング・ザ・サイレンス」によると、ヨルダン川西岸の都市ジェニンではイスラエル軍による大規模な軍事作戦が展開され、空爆とインフラの破壊で「ガザ化」されつつあると警告している。

 また、トランプはウクライナでの戦闘をすぐに終えさせると言っていたが、最近は100日という数字を示している。ウラジミル・プーチンがトランプの提案を拒否した場合、ロシアに対するさらなる「制裁」とウクライナへの軍事援助で圧力をかけるという。リンドン・ジョンソンが偽旗作戦で始めたベトナム戦争を終えるためにリチャード・ニクソンが行ったようなことをするというわけだ。

 しかし、トランプの方針はロシアが疲弊しているということが前提になっている。その前提が間違っている。彼は100万人近いロシア兵が戦死、ウクライナ兵の戦死者は約70万人だと主張しているが、さまざまな情報から考えて、これはありえない。

 2014年2月にバラク・オバマ政権がネオ・ナチを使い、キエフでクーデターを実行、ビクトル・ヤヌコビッチ政権を倒したが、その直後からヤヌコビッチの支持基盤だった東部や南部では反クーデターの住民が動き始めた。クリミアでは住民投票を経てロシアと一体化、東部では武装闘争が始まったのだが、その時点で軍や治安機関の約7割がクーデター体制を拒否して離脱、一部は反クーデター軍へ合流したとされている。そのまま内戦が続けば反クーデター軍が勝利、ネオ・ナチ体制が崩壊する可能性があった。

 そこで、クーデターを仕掛けた西側としては、クーデター体制の戦力を増強するための時間が必要だった。兵器を供給、兵士を訓練するだけでなく、ヒトラーユーゲントのような年少者を育てる仕組みを作った。戦闘技術だけでなく、ナチズムを叩き込んだのである。時間稼ぎに使われたのが「ミンスク合意」にほかならない。

 ​アンゲラ・メルケル​元独首相は2022年12月7日、ツァイトに対して「ミンスク合意」は軍事力を強化するための時間稼ぎだったと認めた。その直後に​フランソワ・オランド​元仏大統領はメルケルの発言を事実だと語っている。アメリカ/NATOは8年かけてウクライナの戦力を増強した。

 2022年に入ると、キエフ政権は東部の反クーデター派住民を攻撃する動きを見せた。ミンスク合意から8年後のことだ。ロシア軍が動いたのはその直後だった。当初、ロシア軍は戦闘の準備ができていなかったことから数的に劣勢だったが、ウクライナ軍を圧倒する。

 ウクライナ政府はロシア政府と停戦交渉を開始、ほぼ合意したが、それをイギリス政府やアメリカ政府が妨害した。さらにイギリスの情報機関MI6はウォロディミル・ゼレンスキー大統領の周辺からウクライナ人を排除、イギリス人を配置した。

 イギリスやアメリカはロシアを過小評価し、自分たちを過大評価。そしてウクライナのNATO化が促進される。NATO諸国は簡単に勝てると信じていたようだが、そうした展開にはならない。2022年9月21日にはロシア政府が部分的動員を発表。その動員で約30万人が集められ、訓練を実施されたが、実際に戦線へ投入された兵士はそのうち数万人にすぎず、ローテーションさせながら余裕を持って戦っている。

 ウクライナ軍が壊滅的な状況になっていることをイギリスのベン・ウォレス前国防大臣は2023年10月1日、テレグラフ紙に寄稿した記事の中で明らかにしている。

 ​ウォレスによると、その当時、ウクライナ兵の平均年齢はすでに40歳を超えていると指摘、もっと多くの若者を前線へ送り出せと要求している​。それだけ兵士が死傷しているということだ。ウクライナの街頭で徴兵担当者に拉致される男性の映像がインターネットで流されている。ロシア兵の死傷者数はウクライナ兵の1割程度というのが常識的な見方である。

 ウクライナは兵士も兵器も枯渇し、街頭では男性が拉致され、そうした光景を撮影した映像がインターネット上を流れている。​不十分な訓練で最前線に送られ、1、2カ月で83%が戦死している​とネオコン系シンクタンクのISWも伝えている。

 アメリカ/NATOにとってウクライナはロシアを疲弊させるための道具にすぎず、ウクライナ人に対し、最後にひとりまでロシア軍と戦えと命じている。

 ロシアが経済的にも疲弊していないことはロシア在住のアメリカ人などがインターネットで伝えていたが、ジャーナリストのタッカー・カールソンは​ウラジミル・プーチン露大統領のインタビュー​だけでなく、​モスクワの豊かな生活​を伝えている。トランプもこうした話を知っていそうなのだが、彼の発言を聞く限り、知らないようだ。

 元CIA分析官のラリー・ジョンソンもトランプがロシア人の死傷者数を100万人以上だとした発言を誤解だと指摘、彼がデタラメを言ったのか、CIAがトランプか彼のスタッフに嘘を教えたのかだとしている。

 かつてリチャード・ニクソンは自分たちが望む方向へ世界を導くため、アメリカが何をしでかすかわからないと思わせれば良いと考え、イスラエルのモシェ・ダヤンの場合、イスラエルは狂犬のようにならなければならないと語ったという。ネオコンは「脅せば屈する」と信じた。そしてトランプは強面の発言が中国やロシアとの交渉で効果的だと本気で信じているのかもしれないが、本ブログでは繰り返し書いてきたように、中露には通用しない。

 ドワイト・アイゼンハワーやニクソンは交渉相手を核兵器で脅して成功した(Daniel Ellsberg, “The Doomsday Machine,” Bloomsbury, 2017)が、ロシアを脅せば、核戦争の引き金になりかねない。

 おそらく、トランプの背後にはネオコンの戦術を危険だと考える支配層グループが存在している。トランプもアメリカを中心とした支配システムを壊そうとはしていないはずだが、今、その支配システムは崩れ始めている。

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