【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2025.01.26XML: CIAの工作資金を流しているUSAIDの作業を停止するようにトランプ大統領は指示

櫻井春彦

 アメリカの国務省は1月24日、イスラエルとエジプトへの軍事資金を除く対外援助すべてについて「作業停止」命令を出し、新規援助を一時停止したと伝えられている。​ロイターによると、USAID(米国国際開発庁)でウクライナにおけるプロジェクトを担当している職員もすべての作業を停止するよう指示されたという​。

 凍結されたプロジェクトの中には学校への支援、緊急の母子ケア、医療支援などが含まれているとUSAIDの職員は主張しているというが、このUSAIDはCIAの工作資金を流すパイプとして機能、CIAはウクライナを舞台とした対ロシア戦争で重要な役割を果たしてきたが、その対ロシア戦争は惨憺たる状況になっている。

 2014年2月にバラク・オバマ政権がネオ・ナチを使ってウクライナのビクトル・ヤヌコビッチ政権を倒した当時、クーデター政権の軍事力は反クーデター派より劣っていた。ネオ・ナチ体制を嫌い、軍や治安機関から約7割のメンバーが離脱したからだと言われている。

 そこでアメリカ/NATOの傀儡である新政権の軍事力を増強しなけらばならなくなったのだが、そのためには時間が必要。そこでミンスク合意だ。​アンゲラ・メルケル元独首相​は2022年12月7日、ツァイトに対して「ミンスク合意」は軍事力を強化するための時間稼ぎだったと認めている。その直後に​フランソワ・オランド元仏大統領​はメルケルの発言を事実だと確認した。アメリカ/NATOは8年かけてウクライナの戦力を増強したのである。

 2022年に入るとキエフ政権がウクライナ東部のドンバスに対する砲撃の激しさを増す一方、ドンバス周辺に兵力を集めた。軍事の素人でもアメリカ/NATOがドンバスに対する本格的な戦争を始めるつもりだろうということは想像できたのだが、その直前、ロシア軍は準備が不十分な状態でウクライナをミサイル攻撃し始めている。何らかの緊急事態が生じた可能性がある。

 それ以降、ロシア軍はミサイル、滑空弾、ドローン、戦闘機、戦車、防空システムなどでウクライナ軍を圧倒、砲弾は6対1から10対1の優位性を持つ。言うまでもなく、制空権はロシア軍が握っている。

 ロシア軍が攻撃を始めた直後からウクライナ側とロシア側はイスラエルやトルコを仲介役として停戦交渉を開始、両国はほぼ合意している。​その当時、イスラエルの首相だったナフタリ・ベネットは2023年2月4日、交渉がどのように展開したかを詳しく語っている​。

 ベネットは2022年3月5日にモスクワへ飛んでウラジミル・プーチン露大統領と数時間にわたって話し合い、ゼレンスキーを殺害しないという約束をとりつけることに成功、その足でベネットはドイツへ向かってオラフ・ショルツ首相と会っている。

 ところが、​その3月5日にウクライナの治安機関であるSBUのメンバーがキエフの路上でゼレンスキー政権の交渉チームで中心的な役割を果たしていたデニス・キリーエフを射殺した​。クーデター後、SBUはCIAの配下で活動している治安機関だ。

 停戦交渉はトルコ政府の仲介でも行われ、やはり停戦でほぼ合意に達している。その際に仮調印されているのだが、その文書をプーチン大統領はアフリカ各国のリーダーで構成される代表団がロシアのサンクトペテルブルクを訪問した際に示している。​2023年6月17日に会談した際、プーチン大統領は「ウクライナの永世中立性と安全保障に関する条約」と題する草案を示している​のだ。その文書にはウクライナ代表団の署名があった。つまりウクライナ政府も停戦に合意していたのだ。

 キリーエフが殺害されて間もない2022年4月9日にイギリスの首相を務めていたボリス・ジョンソンがキエフへ乗り込み、ロシアとの停戦交渉を止めるように命令。同年4月30日にはアメリカのナンシー・ペロシ下院議長が下院議員団を率いてウクライナを訪問、ゼレンスキー大統領に対し、ウクライナへの「支援継続」を誓っている。

 ゼレンスキーは2020年10月にイギリスを公式訪問しているが、その際、イギリスの対外情報機関MI6の長官、リチャード・ムーアを訪問、会談している。その訪問の様子が撮影された後、ゼレンスキーはMI6のエージェントであり、ムーア長官がハンドラーだと言われるようになった。その訪問後、ゼレンスキーの警護担当者はウクライナ人からイギリス人へ交代になったとも言われている。

 インターネット・メディアの​グレイゾーンによると、イギリス国防省の監督下、チャーリー・スティックランド中将が2022年2月26日、「プロジェクト・アルケミー(錬金術計画)」なる対ロシア計画を遂行するためのグループを組織した。​ゼレンスキー政権はイギリス支配層の命令でロシアとの戦争を継続、アメリカのジョー・バイデン政権、つまりネオコンが支援していたように見える。

 こうしたイギリスやアメリカの動きを見てロシアは話し合いでの解決は困難だと判断したようで、プーチン政権は2022年9月21日に部分的動員を発表、約30万人が集められて軍事訓練が実施されたのだが、実際に戦線へ投入された兵士はそのうち数万人にすぎない。ローテーションさせながら余裕を持って戦っている。

 戦況から考えて、ロシア軍の死傷者数がウクライナ軍を上回ることは考えられない。砲弾数から考えて、ロシアの死傷者数はウクライナの1割から1割5分だろう。

 元CIA分析官のラリー・ジョンソンは兵士の遺体引き渡しで、その比率がロシア兵49名に対し、ウクライナ兵757名だったと指摘、とウクライナ軍の遺体引き渡しから、ロシア側の戦死者1名に対し、ウクライナ側の戦死者は15名だとしている。

 イギリスの​ベン・ウォレス元国防大臣は2023年10月1日、テレグラフ紙に寄稿した記事の中で、その当時、ウクライナ兵の平均年齢はすでに40歳を超えていると指摘、もっと多くの若者を前線へ送り出せと要求していた​。それだけ死傷者数が多いと言うことをイギリスの元国防大臣も認めている。

 明らかに負けているウクライナが勝っていると主張する人は日本にもいたが、ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領もそのように言い張っている。ドゥダはロシアがウクライナとの戦争に勝利すればさらなる攻撃を仕掛ける」と主張、「ロシアが勝利できないようにすること」が重要で、ロシアが勝利した、成功したと大声で宣伝できないようにしなければならないとしている。こうしたドゥダの発言について、プーチン大統領が受け入れられない取り引きをさせようとしているのではないかとジョンソンは推測している。実際、トランプの発言は彼がそうした罠に陥っていることを暗示している。

 トランプに間違った情報を吹き込んでいる人たちがいるとしたら、それはCIAである。CIAの前身であるOSSはイギリスの情報機関からアドバイスを受けて設立されたのだが、CIA/OSSもイギリスの情報機関も背後には金融資本が存在している。

 CIAは情報の収集と分析を行うという名目で設立されたが、1950年代に入ると破壊工作を担当する部門が作られ、肥大化していく。その破壊工作部門の中核になったのがOPCであり、その人脈はイギリスとアメリカの情報機関がレジスタンス対策で組織したジェドバラだ。

 CIAが行なっていた秘密工作の一端は1970年代半ば、議会で明らかにされた。上院ではフランク・チャーチ議員が委員長を務める委員会、また下院ではオーティス・パイク議員が委員長を務める委員会がその舞台になった。そうした調査の中で、CIAは特殊部隊と連携し、軍とは別の戦争をベトナムで展開していたことが判明している。

 リンドン・ジョンソン政権時代、国防総省の方針は毎週火曜日に開かれる昼食会で決められていた。その席には大統領のほか、国務長官、国防長官、国家安全保障補佐官、ホワイトハウス報道官、そしてNSC(国家安全保障会議)のロバート・コマーが参加していた。コマーはCIAの分析官だ。

 コマーは1967年5月にDEPCORDS(民間工作と革命的開発支援担当のMACV副官)としてサイゴンへ入る。6月には彼の提案に基づいてMACVとCIAが共同で極秘プログラムICEXを始動させる。このプログラムは間もなく、「フェニックス・プログラム」と呼ばれるようになった。これは「ベトコンの村システムの基盤を崩壊させるため、注意深く計画されたプログラム」である。

 この作戦のメンバーに参加していた将校や下士官は合わせて126名。殺人担当チームは軍の特殊部隊から引き抜いて編成され、命令はCIAから出ていた。つまり正規軍の指揮系統から外れていた。

 そうした秘密工作の実働チームとして動いていたのは、CIAが1967年7月に組織したPRUという傭兵部隊。その隊員は殺人や性犯罪、窃盗、暴行などで投獄されていた囚人たちが中心だった。1968年3月にソンミ村のミ・ライ地区とミ・ケ地区で農民が虐殺されたが、これもフェニックス・プログラムの一環だった。(Douglas Valentine, “The Phoenix Program,” William Morrow, 1990)

 農民を虐殺したのはアメリカ陸軍の第23歩兵師団第11軽歩兵旅団に属すウィリアム・カリー大尉率いる小隊。犠牲者の数はアメリカ軍によるとミ・ライ地区だけで347人、ベトナム側の主張ではミ・ライ地区とミ・ケ地区を合わせて504人だとされている。

 この虐殺を止めたのは現場の上空にさしかかったアメリカ軍のヘリコプターに乗っていた兵士。ヘリコプターからヒュー・トンプソンという乗組員が農民を助けるために地上へ降りたのだ。その際、トンプソンは同僚に対し、カリーの部隊が住民を傷つけるようなことがあったら、銃撃するように命令していたと言われている。(Oliver Stone & Peter Kuznick, “The Untold History of the United States,” Gallery Books, 2012)

 アメリカ軍に同行していた従軍記者や従軍カメラマンは非戦闘員が虐殺された事実を知っていたのだが、報道していない。虐殺事件をアメリカの議員らに告発したアメリカ軍兵士もいたが、政治家も動かない。

 この記事を書いたのはフリーランスだった調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュ。ライフやルックといった有名な雑誌からは掲載を拒否され、ワシントンを拠点とするディスパッチ・ニュース・サービスという小さな通信社を通じて伝えている。1969年11月のことだ。

 虐殺があったことをハーシュに伝えたのはジェフリー・コーワン。後に南カリフォルニア大学の教授になる人物だ。その当時はベトナム戦争に反対していたユージン・マッカーシー上院議員の選挙キャンペーンに参加、ハーシュもマッカーシー陣営に加わっていた。

 虐殺を隠しきれなくなったアメリカ軍はウィリアム・ピアーズ将軍に調査を命じるが、この人物は第2次世界大戦中、OSSに所属、1950年代の初頭にはCIAの台湾支局長を務めていた。要するに、CIAの人間である。

 ジョージ・W・ブッシュ政権で国務長官を務めるコリン・パウエルが少佐として1968年7月にベトナム入りしている。配属されたのはカリー大尉と同じ第23歩兵師団。パルエルは2004年5月4日、CNNのラリー・キング・ライブに出演した際、事件後に現場を訪れて衝撃を受けたと話している。

 ジャーナリストのロバート・パリーらによると、パウエルは兵士の告発など軍上層部が聞きたくない声を握りつぶすことが役目だった。その役割が評価されて出世したと言われている。

 1973年9月にCIA長官となったウィリアム・コルビーはアレン・ダレスの側近のひとりで、CIAのサイゴン支局長、極東局長、そして1968年から71年までフェニックス・プログラムを指揮していた。このコルビーはチャーチ上院議員が委員長を務める特別委員会でCIAの秘密工作について詳しく説明、議会の公聴会では「1968年8月から1971年5月までの間にフェニックス・プログラムによって2万0587名のベトナム人が殺され、そのほかに2万8978名が投獄された」と証言している。

 コルビーは1976年1月にCIA長官を解任され、1975年まで中国駐在特命全権公使(連絡事務所長)を務めていたジョージ・H・W・ブッシュを後任に選ばれた。

 ブッシュはエール大学でCIAのリクルート担当者だったボート部のコーチ、アレン・ウォルツと親しく、学生の秘密結社スカル・アンド・ボーンズのメンバーだった。また彼の父親であるプレスコット・ブッシュは上院議員になる前、ウォール街の大物として知られ、アレン・ダレスと親しくしていた。彼が重役を務めたユニオン・バンキングという金融機関はウォール街がナチスへ資金を流すパイプのひとつだったとされている。

 ちなみに、コルビーは1984年に離婚、元外交官のサリー・シェルトンと再婚し、核兵器凍結運動などに関する講義をするようになった。そして1996年の春、カヌーで出かけたまま行方不明になり、数日後に彼の遺体が発見されている。

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