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トランプ氏お得意の心理戦と交渉術
社会・経済国際※この記事は「SouthernCross(サザンクロス)〜現地採用から起業した海外生活者の異文化雑記~」
https://note.com/southern_x777/n/n197094cdcb89
【note限定記事】
1月20日にトランプ氏が大統領に就任してから2週間。この短い期間にアメリカを始めとする世界の時流は大きく変化を遂げています。
「ディープステートなんて陰謀論」と数年に渡り揶揄されてきた、私を含む一部の日本人にとっては胸の空く思いではないでしょうか。
同時に、多大な期待を寄せるあまり、トランプ氏を過剰に評価し「日本を含む世界を救うヒーロー」と捉える傾向に、私はかつてから違和感を抱いていました。彼はディープステートを弱体化(壊滅はできないでしょう)することにより世界は救うかもしれないけど、世界各国を救うことはない。それは彼が意図したところではないからです。MAGAはMake America Great Againでしかないことを忘れるべきではないと思います。
アメリカは歴史的に仮想敵国を持たないと国を統一できない国だと私は思っています。ソ連の次はロシア、そして中国。映画ロッキーで主人公の対戦相手はソ連でした。トップガン1作目も敵機はソ連のミグでした。2作目トップガン・マーヴェリックでは敵機の国籍は明らかにされていないものの、米軍に対抗する第五または第六世代の戦闘機を保有する国はアメリカ以外ではロシアと中国しかないので、いずれかが敵国として設定されたことに変わりはありません。
そして、私はトランプ氏は孤立主義者であると考えています。
問題は、アメリカはかつてのように強靭ではなくなったこと。EUが創設されたのも冷戦後のアメリカ一極支配を避けるためだったと思いますし、今はBRICSもアメリカを牽制しています。
中国は政治と経済は別だと言っても、大手企業は全て中共の支援があってこそ世界的競争力をつけることができたわけですから、トランプ政権が中共の在り方を問うことはあっても、中共を100%の敵と見做すのはいかにもアメリカ人らしい(単純)思考だと思います。中国企業を完全排除したら、世界の製造業は成り立たないからです。
これはトランプ第一政権の時も私は指摘しましたが、彼のビジネスキャリアは国内不動産業であり、国外取引や製造業の経験がない。当時、iPhoneをパーツから全て米国産にしたら一機あたり4000ドルになるという試算を目にしました。今回、政権が提示した中国への高すぎる関税は、私はトランプお得意の交渉術の一環だろうと思います。
彼は常識を逸脱したとんでもない要求(A)を提示し、相手が怯むと「ならばこの案はどうか(B)」とすかさず提示してくる。相手から見ればAよりはマシだからBを受け入れる。私も商談の中でこうした駆け引きをすることがあるので、彼の心理がよくわかります。そして、その際の「要求」は必ずしも当該事項ではなく、違法移民の扱いだったり、環境政策であったり、異なる領域での彼の要求であったりもします。冷静な相手なら「それとこれとは違う」と言えるのでしょうが、彼のやり方は交渉相手に考える時間を与えないので、相手はとりあえずB案を受け入れてしまう。
交渉は時間がある方が勝つ、というのは心理戦における常識です。しかし、このやり方はアメリカの孤立を進めることにもなりかねません。アメリカは最早グレートでも何でもないのですが、グレートであるという幻想を国民に植え付けることで彼は民意を束ねてきました。
事実、政権発足とほぼ同時にトランプ氏はこのやり方でカナダを手懐けてしまいました。同様のことを中国にもするでしょう。つまり、中国を叩くのはひとつのパフォーマンスであり、落とし所はそこじゃない。そうした心理戦を読み解けないと、日本はまたしくじると思います。だから私はかねてからトランプを全面的にヒーロー視する日本の保守に賛同はしないのです。
DSを弱体化し、DSの子飼いであった日本の組織と日本人を弱体化してくれれば、日本におけるトランプの役割は終わります。そこからは自助努力です。
国内取引にほぼ限定されていたトランプの経験不足をイーロン・マスクが補完してくれることを願っています。中国で工場を経営していた彼は、中共がどういうものであるかがわかっているはず。叩いて潰せば返り血を浴びることにもなる。手懐けて手玉に取るぐらいの巧妙な戦術(戦略ではなく「戦術」)で相対するべき存在だと私は思います。
国益という至上目的から逸れずに、心理戦を駆使していつの間にか有利な展開に持っていく。そうした洗練された交渉術が求められるでしょうし、一見荒っぽいトランプ氏の交渉術にはそうした高度なテクニックが垣間見えます。
物事を表層的にしか捉えず、複眼的に目の前の事象を捉えることができない。だから時流の変化に振り回されて右往左往する。残念ながら今の日本はそんな状況です。シンガポールをはじめとするアジアのいリーダーは、支配、被支配の歴史をその目で見てきているので極めて慎重かつしたたかです。
トランプ大統領が起こしたこの時流の変化に巧く乗って国益最大化を目指すか、または再びババを引いて他国の尻拭いをさせられるか。
トランプ氏は生命を張って選挙戦を乗り切り就任し、今、その成すべきことを粛々と進めています。
日本は自国の成すべきことを本当に今、理解できているでしょうか。
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1996年に現地採用者として単身シンガポールへ。シンガポール資本の会社2社で働き、2002年に永住権を取得。その後、シンガポール企業の日本駐在員として3年半勤務。任期終了後シンガポールに戻り2008年に起業。現在、自分自身のシンガポールの会社の代表を務めると共に、マレーシア企業での役員も務める。2023年にはシンガポールから橋一つ渡ったところにあるマレーシア・ジョホール州の経済特区イスカンダルプテリに在住する。シンガポール、マレーシアの二拠点生活をしています。