【連載】データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々(梶山天)

第28回 偽証を誘導され、迎合した法医学会元理事長

梶山天

前回、引用したSimpsonの法医学の教科書にも、Spark burn(電撃熱傷)という記載があるように、直接高温のものが接触しても、電流により熱が発生しても、結果として熱が発生すればその傷は熱傷であるのではないだろうか。法医学の専門家たるものが、法廷で言葉の遊びをしていいのであろうか。

しかもそれだけではない。黒見検察官は本田元教授の解剖鑑定書を池田氏に見せていないのである。

一木弁護士:「鑑定書は御覧になりましたか」。

池田元教授:「・・・・鑑定書を見たかどうかはちょっと記憶にないです」。

黒見検察官:「証人は、今日ここで証言するに当たって、鑑定書は見ましたか、見てないですか」。

池田元教授:「覚えてないけど、多分見たような気がするのですが」。

黒見検察官:「供述調書を作成した時点ではなくて、今日現在……。供述調書を作成した時点ではなくて、ここで御証言していただくに当たって鑑定書を見られたのは間違いないですよね」。

池田元教授「はい」。

検察官は池田元教授に対して「検察官が訪問して供述調書を作成したときには鑑定書は見なくても、少なくとも証言の前には見たはずだ」とおそらくは偽証を誘導しているのである。まるで勝又受刑者への取り調べと同じである。

しかしこれは嘘であろう。池田元教授は本田鑑定書を見ずに証言台に立っているのは間違いないと思う。この証言をする前に見たとしているが、見たのは表紙だけか、あるいは見たことにしているだけなのが真実なのだろう。なぜなら、もしこれが本当なら、それを確認するために「鑑定書にはどう書かれてましたか、あるいは読まれてどう思いましたか」という質問が当然になされるべきなのに、それはなされていないからだ。

その結果、本田元教授が、右頸部の傷は爪でできた可能性があることについて言及しているにかかわらず、そのことは一切、尋問されないままに証言を終わらせてしまったのは残念である。

これは捜査員や検察官がシナリオを作った偽証裁判、いや偽証法廷である。科学者であり法医学者であるはずの池田元教授は、検察官に騙され、自らも積極的に騙されようとした偽証鑑定人である。検察官は勝又受刑者のみならず池田氏にも嘘の誘導をして、偽証法廷を作り出しているのは明らかである。

 

連載「データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々」(毎週月曜、金曜日掲載)

https://isfweb.org/series/【連載】今市事件/

(梶山天)

 

※ご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。

https://isfweb.org/2790-2/

「独立言論フォーラム(ISF)ご支援のお願い」の動画を作成しました!

1 2
梶山天 梶山天

独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。

ご支援ください。

ISFは市民による独立メディアです。広告に頼らずにすべて市民からの寄付金によって運営されています。皆さまからのご支援をよろしくお願いします!

Most Popular

Recommend

Recommend Movie

columnist

執筆者

一覧へ