中国を挑発「アジア人同士」を戦わせる ―「台湾有事」煽るバイデン大統領の狙い―   

岡田充

・台湾でも「代理戦争」を示唆

まず、米国政府はウクライナ危機で「米軍を派兵しない」方針を明確にし、これが米国の台湾防衛に対する台湾民衆の疑念を高めた。台湾側は、台湾海峡危機でもウクライナ同様、米軍を投入せず「代理戦争」をするのではと受け止めたのである。

台湾のTV「TVBS」の世論調査によると、「米国は台湾に派兵し防衛すると信じるか」との質問に55%が「信じない」と回答、「信じる」の30%を上回った。だから台湾防衛の意思を鮮明にし、疑念を打ち消そうとしたのだ。

次に、中国の台湾武力行使の恐れを何度も言うことで、中国の軍事的脅威を印象付け拡散させる効果。バイデン大統領の発言を聞けば、多くの人は台湾有事の切迫感を意識せざるを得ない。

このバイデン発言の「軍事的関与」は、何を意味するのか。「軍事的関与」と聞いて思い浮かべるのは、「米軍を投入し台湾と共に中国と戦う」というイメージだと思う。しかしバイデン大統領は「米軍投入」とは一言も発していない。

そこで思い出すのが、米軍制服トップのミリー統合参謀本部議長の発言。彼は今年4月7日、国防予算に関する米上院公聴会で、①台湾は防衛可能な島。中国軍の台湾本島攻撃・攻略は極めて難しい、②最善の防衛は、台湾人自身が行うこと、③米国はウクライナ同様、台湾を助けられると証言した。

「台湾は防衛可能な島だから、防衛は自助努力に期待」とも受け取れるこの証言は、台湾でも米軍を投入せず、ウクライナ方式の「代理戦争」を示唆したのではないか。少なくとも米軍はそれを検討しているはずだ。これなら米国は、自分の手を汚さずに済む。

米国は先進兵器と衛星情報を台湾に供与し、台湾は日本の自衛隊の協力で台湾を防衛する。中国と台湾、それに日本の「アジア人同士」が戦うというシナリオだ。日本政府はこの1年、「対中同盟」強化と軍拡を進め、台湾問題で日本が「主役」に躍り出る政策を進めているが、その果てにこんなシナリオが待ち構えているとは。

代理戦争なら、米国はイラク、アフガンでの屈辱的失敗を繰り返さなくともすみ、核保有国の中国との全面戦争のリスクを回避できる。兵器供与で軍産複合体の莫大な利益も期待できる。衰退に歯止めがかからず、アメリカ一国では中国に対抗できない現状からみれば、こうした「軍事関与」もありだ。

イザとなれば米国は参戦せず、気が付けば日本は「ハシゴ外し」に。それでも中国と戦うのか、何のために? そんな覚悟は、多くの日本人にはないはずだが。

(注1) 小西誠「米国シンクタンク・ランド研究所のウクライナ戦争論」(URL:https://note.com/makoto03/n/n13bbc4519e4c)で詳しい。
(注2) URL:https://cigs.canon/article/20220621_6852.html

 

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岡田充 岡田充

共同通信客員論説委員。1972年共同通信社入社、香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員などを経て、拓殖大客員教授、桜美林大非常勤講師などを歴任。専門は東アジア国際政治。著書に「中国と台湾 対立と共存の両岸関係」「尖閣諸島問題 領土ナショナリズムの魔力」「米中冷戦の落とし穴」など。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」http://www.21ccs.jp/ryougan_okada/index.html を連載中。

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