
書評:森永卓郎『発言禁止 誰も書かなかったメディアの闇』 ―今日の財務省デモの源流をつくった「ザイム真理教」論とマスコミ批判の集大成 嶋崎史崇
映画・書籍の紹介・批評メディア批評&事件検証※この記事は、3月13日に脱稿しました。
今日の財務省デモの源流をつくった功績
今年1月末に、「原発不明がん」のため、67歳で死去した経済アナリストの森永卓郎さん。日本で圧倒的に優勢な財政均衡至上主義を、根拠なき信仰としての「ザイム真理教」と命名し、日航123便を巡る疑惑にも深く切り込んだ捨て身の訴えは、強烈な衝撃を与えました。財政均衡論に基づく消極財政・増税・負担増路線が国民を苦しめているとして、最近では財務省に対する抗議活動も相次いで起きていることは、主要メディアも報道せざるを得なくなっています。このような運動も、森永さんのもたらした“遺産”の効果であるといえるでしょう。
FNN(フジテレビ):「財務省の前で消費税廃止や“解体”求めるデモ『YouTube見て来た』参加者も 国民・榛葉幹事長『国民の悲鳴だね』」、2025年2月24日。
https://www.fnn.jp/articles/-/833746
『産経新聞』:「『財務省解体デモ』拡大 主催者2人『私が始めた』左右イデオロギーでなく『増税反対』」、2025年2月28日。
https://www.sankei.com/article/20250228-3WBO6PV4LNDV5PDLRMYS7FBHYA/
この記事で、主催者の一人である政治団体「新生民権党」代表の塚口洋佑氏が、「『緊縮財政派対積極財政派』という理論対立の問題は、かつての『資本主義対社会主義』に匹敵するほど根深い問題だ」と述べていることは、とても興味深いです。
森永さんは2024年7月末には、ISFの動画インタビューに「対米従属の原点としての日航機123便墜落事件」と題して出演してくださり、再生回数16万回超はISFで最多となっています。
https://www.youtube.com/watch?v=oIsTxECzK6k&t=2s
経済・財政についての森永さんの主張は、以下の書評で解説しました。特に、日本国が保有している資産や通貨発行益を含めると実際の借金は少ないことや、自国通貨建ての国債を発行している国は財政破綻しない、と財務省も対外的には認めていることなどが重要です。
「【書評】嶋崎史崇(MLA+研究所研究員)上・下:森永卓郎『書いてはいけない 日本経済墜落の真相』 ―ジャニーズ問題、「ザイム真理教」、日航123便事故に共通する権力とメディアの闇」、2024年4月12・13日。
https://isfweb.org/post-35668/
https://isfweb.org/post-35673/
逝去されてからも、寓話集等を含む多様な書籍が次々と刊行されていますが、その中でも森永さんが四半世紀の間、出演者として深く関わった大手メディアの闇を解明するのが、3月に刊行された本書です。三五館シンシャから出た森永さんの一連の著書がベストセラーになった影響もあるのか、本書がメディア批判・財務省批判というタブーにもかかわらず、実業之日本社から刊行されているのが印象的です。
財務省と大手メディアの「飴と鞭」を介した歪な関係
第1章「テレビ出演で私に起きたこと」と第2章「財務省の圧力」は、おおむね『ザイム真理教』を踏襲したもので、日航123便の話はほとんど出ていません。『ザイム真理教』20万部、『書いてはいけない』27万部という今日ではまれにみるベストセラーになったにもかかわらず(23頁)、大手メディアはほぼ無視、という実態があります。それだけではなく、『ザイム真理教』出版後にテレビ番組降板が相次ぎます。にもかかわらず、周知の通り、大手新聞には森永さんの著書の広告が大々的に掲載されており、審査で問題になったことはない(25頁)、という奇妙な事態が生じています。そもそも『ザイム真理教』の出版自体が、大手出版社に、売れるであろうが財務省を批判すると、国税庁の税務調査でつぶされるから出せない(28頁)として断られるなど、難航を極めたものでした。
財務省傘下の国税庁による税務調査が、どのような支出を正当な経費として認定するかは調査官の主観次第のところが多く、多額の追徴金や重加算税も課すことができ、強力な「鞭」として機能しています。「財務省はすべての企業や自営業者どころかサラリーマンも含めて、その生殺与奪の権限を握っていることになるのだ」(35頁)という強烈な告発がなされます。
マスメディアに関しては、取材源の秘匿のため使途不明金が出やすく、税務調査に弱い、という指摘には蒙を開かれます。メディアによる財務省・増税路線に対する批判の直後に税務調査というパターンは、ワクチン接種後死亡さながらの“因果関係評価不能”ながら、実際に繰り返されていますが、その一方で宅配の新聞への軽減税率という「飴」も与えられています(38頁)。水道料金等の生活必需品を差し置いて自分だけ特別扱いという姿勢が、新聞への人々の冷ややかな視線を招いている側面があると私は思います。
私からは、かつて元財務次官らが読売新聞の監査役や日本テレビの社外取締役に就く等、露骨な一体化現象が見られたことも思い起こしておきます。
『プレジデント』:「元財務高官が続々天下る読売・日テレの狙いは」、2014年8月4日号。https://president.jp/articles/-/13020?page=1
内閣広報室による異常なテレビ監視と圧力
以上を踏まえつつ、第3章「首相官邸の圧力」、第4章「小市民化した大手メディア社員」、第5章「池上彰とその先」が、主要メディアと権力の関係に関するすさまじい暴露を行っています。
特に衝撃的なのが、『赤旗』が情報公開請求で突き止めたように、平日・土日合わせて11のニュース番組を、内閣広報室は「常時監視」し、出演者の発言を細かく記録していた、という事実です。
「官邸のTV監視ここまで 出演者発言・ナレーション・見出し…詳細に 3月前半分 A4で700枚 本紙が記録入手」、2020年10月22日。
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik20/2020-10-22/2020102201_01_1.html
森永さんの当事者ならではの証言としては、小泉政権時代から、政府批判をするたびに、内閣情報調査室から嫌がらせ的な問い合わせ電話が何度もかかってきた、というものが重要です(71頁以下)。しかも内閣府職員は、森永さんのテレビでの発言を徹底して文字起こししたファイルまで作っていました。このような不当な監視業務、言論統制が、税金を使って行われていた、という証言は注目すべきです。
「ブルシット・プログラム」の蔓延と、権力に取り込まれたコメンテーターたち
政府からの圧力や、制作現場が保身のために「コンプライアンス」至上主義の風潮に適応したことが、テレビ番組が当たりさわりのない、つまらないものになりがちな理由、と分析されています。恐らくは「ブルシット・ジョブ」になぞらえた、「ブルシット・プログラム」(「くそどうでもいい番組」130頁)の蔓延、と揶揄されても仕方ありません。
森永さんが名指しで批判の対象に据えるのが、日本一著名なジャーナリストとも目される池上彰氏です。論評を避け、問題の本質に踏み込まず、国民の関心をそらして結果的に権力者たちの利権を守っているのだ(116頁)、という糾弾は痛烈です。森永さんが2011年ごろのある番組の収録で、沖縄の米軍は日本防衛ではなく外部への侵攻のためで、さらに日本が米国に逆らったら日本を攻撃するのが役割だ、と述べたという逸話は、森永さんの不屈の反骨精神を証し立てるものです。森永さんのこの発言は当然のように放送されず、代役として起用されたのが池上氏だったという話を聞くと、テレビがいかに絶望的な状態にあるかがわかります(以上109頁以下)。
しかも成田悠輔氏に代表されるような若手論客もまた、社会保障を削減し、高齢者を限界まで働かせ、医療・介護を改悪する「姥捨て山」構想(128頁以下)に与しているというのですから、財務省の支配は、世代を超えて盤石なものになっているといえます。元NHK職員でお笑い芸人のたかまつなな氏に至っては、厚労省社会保障審議会年金部会委員に任命され、国策を正当化する発言を繰り返していると報告されています。
https://www.mhlw.go.jp/content/001269466.pdf
森永さんすら見抜けなかった医療の闇
以上で見たように、遺作に至るまで、体調不良にもかかわらず、森永さんの舌鋒は鈍ることがありませんでした。しかし、そんな森永さんですら見抜くことができなかったのが、“医療の闇”だったことは、本書の「あとがき」を読むとよくわかります。ザイム真理教や日航123便のようなタブーですらユーチューブの規制がかからなかったのに、レプリコンワクチンでは動画が削除されている、と疑問視していたのはさすがです。しかし、「ワクチンに対する私の勉強不足」を率直に認めつつ、最期までコロナワクチンの問題点を詳しく知ることがなかったのです。
ユーチューブはグーグル傘下のグローバル外資であり、WHOのような国際機関の威光も関わってくる医療関係の情報操作の恐ろしさが、他のテーマと比較することでも改めて見えてきます。最近は薬害に対するユーチューブの統制が弱まったと私は感じていますが、従来はレプリコンワクチンに限らず、コロナワクチン全体への批判的な動画が削除されてきた実態がある、と私から補足しておきます。
以下の吉野敏明・歯科医師との対談では、森永さんはコロナワクチンの5回目接種後に、いわゆる「因果関係評価不能」ながら、体調が急激に悪化したことを告白しています。
吉野敏明チャンネル:「日本政府がひた隠しにする癌と例のアレのお話【森永卓郎氏対談】」、2024年6月30日。
https://www.youtube.com/watch?v=2BrDamQ_-qg
森永さんの別の遺作の一つ『がん闘病日記 お金よりずっと大切なこと』(2024年、三五館シンシャ)第1章によると、ステージ4のがんの告知を受けた時点では、一切の自覚症状がありませんでした。にもかかわらず、抗がん剤を打たれて即日不調に陥り、ついに完全に回復することはありませんでした。そのような場合、果たして死因はがんだったのか、それとも抗がん剤だったのか、問い直す余地があると私は思います。なお森永さんが投与された抗がん剤の一つには、正直にも「毒薬」と添付文書に明記されています。
大鵬薬品:「アブラキサン 点滴静注用100mg」
https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00058810.pdf
いずれにせよ本書は小著ながら、日本の大手メディアの実態と権力の闇に光を当てる好著です。命懸けの覚悟で闘った森永さんへの追悼の意味もこめて、熟読することをお薦め致します。
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1984年生まれ。東京大学文学部卒、同大学院人文社会系修士課程修了(哲学専門分野)。著書に『ウクライナ・コロナワクチン報道にみるメディア危機』(2023年、本の泉社)。主な論文は『思想としてのコロナワクチン危機―医産複合体論、ハイデガーの技術論、アーレントの全体主義論を手掛かりに』(名古屋哲学研究会編『哲学と現代』2024年)。 論文は以下で読めます。https://researchmap.jp/fshimazaki ISFでは、書評とインタビューに力を入れています。 記事内容は全て私個人の見解です。 記事に対するご意見は、次のメールアドレスにお願いします。 elpis_eleutheria@yahoo.co.jp Xアカウント:https://x.com/FumiShimazaki