【連載】データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々(梶山天)

第29回 偽証法廷

梶山天

といいながら一方では、

一木弁護士:「スタンガンによる損傷、表皮上の損傷が、電流が流れて皮膚の抵抗にあってジュール熱というものが発生して起こるやけどであるという見解は誤りですか」。

池田元教授:「それは間違いではありません。ジュール熱が発生するには、要するに抵抗があると。先ほどと逆ですね。水分があれば抵抗がなくなるところもありますので通過します。だけれども、例えば脂肪組織とかのように水分があって、比較的伝導率の低いところには電流が通ったときにやっぱり抵抗がありますから、そこで組織が動いたときにこすれてジュール熱が発生すると。ですので最終的にはやけどになる可能性はあります。たとえばスタンガンでもやけどになることはないことはないとは思うんですけれども。それは同一部分に強く当てて、ある一定の時間継続的に電流を流すと、そういう場合にはやけどになる可能性はあると思います・・・」。

Simpsonの教科書にも、Spark burn(電撃熱傷)という記載があるように、直接高温のものが接しても、電流により熱が発生しても、結果として熱が発生すればその傷は熱傷であるのではないだろうか。

法医学者たるものが、「よくスタンガンでやけどができるというふうな法医学者がいる」と本田元教授をやんわりと揶揄しながら、教科書に書いてあることを否定するような証言を、自信たっぷりに行っても許されるのであろうか。

しかもそれだけではない。黒見検察官は本田元教授の解剖鑑定書を池田元教授に見せていないのである。

一木弁護士:「鑑定書は御覧になりましたか」。

池田元教授:「・・・・鑑定書を見たかどうかはちょっと記憶にないです」。

黒見検察官:「証人は、今日ここで証言するに当たって、鑑定書は見ましたか、見てないですか」。

池田元教授:「覚えてないけど、多分見たような気がするのですが」。

黒見検察官:「供述調書を作成した時点ではなくて、今日現在」。
……

黒見検察官:「供述調書を作成した時点ではなくて、ここで御証言していただくに当たって鑑定書を見られたのは間違いないですよね」。

池田元教授:「はい」。

勝又拓哉受刑者への取り調べのときに行ったのと同様に、この誘導された証言からもわかるように、恐るべきことに検察官は、あらかじめ池田元教授に本田鑑定書を検討させないで証言台に立たせているのだ。

この証言をする「当日まで」に見たとしているが、見たのは表紙だけか、あるいは見たことにしているだけなのが本当なのだろう。もしこれが本当なら、それを確認するために「鑑定書にはどう書かれてましたか、あるいは読まれてどう思いましたか」という質問が当然になされるべきなのに、それはなされていないからだ。

その結果、本田元教授が、右側頸部の傷は爪でできた可能性があることについて言及しているにも関わらず、そのことは一切、尋問されないままに、本田鑑定書は見たけれども議論には値しないかのような余韻を残して、つぎに刺客として登場させる岩瀬博太郎教授に鑑定書の全否定を委ねて、証言を終わらせてしまう。

これは捜査員や検察官がシナリオを作った偽証裁判、偽証法廷である。科学者であり法医学者であるはずの池田元教授は、検察官に騙され、自らも積極的に騙されようとした偽証鑑定人である。検察官は勝又受刑者のみならず池田元教授にも嘘の誘導をして、偽証法廷を作り出しているのは明らかである。

皆さんはこの連載「絶望裁判」第15回で警察によるDNA型鑑定独占の物語を書いたのを覚えていますか。

今市事件の被害者、吉田有希ちゃんが眠るお墓(栃木県日光市)。墓碑には有希ちゃんが大好きだったヒマワリの花と笑顔の文字が刻まれている。ISF独立言論フォーラム副編集長の梶山天と筑波大学の本田克也元教授はことあるたびに訪れ、手を合わせる。

 

2014年に日本法医学会に対して司法解剖時におけるDNA型検査及び血液型検査を検査項目から削除することにし、代わりに全国警察の科捜研が実施するという案を突きつけられた際に猛反対をしたのが、当時日本法医学会の理事長だった池田典昭元教授です。

結果的に捜査当局のDNA型鑑定独占を許してしまったのです。自分たちの重大な使命の一つである「DNA鑑定」に制限をつけることを、結果として認めた法医学者とあろうものが、検察の冤罪に加担する偽証をするとは。事態の重大さを本人は理解しているのであろうか。

 

連載「データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々」(毎週月曜、金曜日掲載)

https://isfweb.org/series/【連載】今市事件/

(梶山天)

 

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梶山天 梶山天

独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。

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