【連載】データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々(梶山天)

第29回 偽証法廷

梶山天

前回は、検察側が秘密の暴露として隠していた「スタンガンによる加害行為」を裏付けるような証言をさせようとして、九州大学大学院医学研究院の池田典昭元教授が、裁判では自らの論文とは異なる証言をしていた事実について報道した。簡単に言うと、論文ではスタンガンの電極の間隔と傷の幅とは一致する、と書かれている。

ところが、今市事件で使用したとされるスタンガンの幅より1cm以上狭いのに、それを誤認させるような、メジャーの一部を切り取った写真を出してきた。不思議なことは池田元教授の論文は、検察側にとっては裁判の証拠となり得るにもかかわらず、証拠としては隠し、池田元教授自身を呼んで言葉だけで「スタンガンの傷である」と断言させた。みなさん。検察官ならばこのようなことが許されるのでしょうか。

法医学者が検察官の望むような嘘をついても、それを犯罪として認定するのは検察官である以上、結果としては偽証罪として問われることはないとしたら、このような不条理なことがあっていいのでしょうか。しかもこの裁判は、国民の意見を反映させる裁判員裁判なのです。これが許されるなら、国民に対する裁判への信頼を裏切るものではないでしょうか。

この問題は、まだここから先の話がある。池田元教授は論文で、スタンガンの傷は中心が白く、円形の赤色変色部が特徴的であると説明しているにも関わらず、被害女児の頸の傷は斜めの線状をなしているのが主体で、白色点などないにも関わらず「私にはそう見える」と言い始める。写真をよく見て、以下の証言を読んでいただきたい。

池田元教授:「それからもう1つは、この傷自身、特に見て左側の傷ですけれども、上はきれいな円形を成していて、更にその真ん中が少し白抜けに抜けているように見える。それから、その右のほうのちょっと幅広の紡すい形の傷ですけれども、これも、見て左の上の方に少し白く抜けたように見える部分があることを勘案すると、これは余り見ない傷ですけれども、私は、いわゆる双極を持ったスタンガンによる傷というふうに考えます」。

(証拠番号51の被害者の右頚部を被写体とする拡大写真を示す)。

黒見知子検察官:「では、この写真を基に証人に書いてもらってお話を伺いたいと思います。まず、傷が4つあるので、番号をつけてお話を伺いたいと思うので、右上が1、右下が2、左上が3、左下が4というふうに番号をつけてください。

(証言席設置の液晶タブレットに専用タッチペンで使用して黒で記入した)。

先ほど、左上と右上の1番と3番について白抜けがあるというふうにお話していただいたんですが、それはどの部分になるか矢印で示してください。(記入した)。

白抜けがあるのはそれだけですかね」。

池田元教授:「4番の傷でも、この部分が私には少し抜けているように見えます。それから、2番の傷については、抜けているとすればこの部分なんですけれども、これはちょっと大きいですし、ここが抜けているかどうかはちょっと判断できません。(記入したので、その画面をプリントアウトした上、本速記録末尾1枚目に記入した)」。

スタンガンの傷の特徴は円形の赤色変色部位と言いながらそれは棚上げして、検察官は白抜けのところのみを問題にさせて、池田元教授はそこに矢印をつけたのであるが、どこが白いのか。みなさんにはわかりますか。池田元教授は上記と同じ写真を見ているのです。

白抜けなどどこにもないことは明らかではないですか。でも池田元教授は、写真の1、2、3、4として傷の端っこの方に無理やり丸印をつけて、そこに白抜きが有るとしているのです。幻覚、妄想としかいいようがないのではないでしょうか。

白抜けがあるとすればそれは傷の中心にできると、教科書でも池田元教授は述べている。しかし、池田元教授は1、2、4の傷は傷の端の部分を示して、そこにありもしない白い部分の幻覚を裁判官に示そうとしている。

しかも、池田元教授は論文で「円形をなす紅斑(赤色変色部)」であり、またその中に「中心白点を伴うものが複数ある」ことがスタンガンの傷の特徴とし、そのような傷の写真を論文に載せていた。

被害女児の傷は、線状ないし帯状の擦過傷であっても、電撃傷の特徴である円形をなす紅斑ではないことは明らかである。特に右下の傷(2)のさらに下には、スタンガンの丸い滑らにコーティングした先端部分ではできないような、小さな3本の擦り傷があることは明らかで、これは爪の傷としたら説明が付くのである。これは証言の偽証ではないだろうか。

池田元教授は裁判の中で以下のように証言している。

池田元教授:「スタンガンを当てるというのは、その両端子が皮膚面に当たって、そこで高圧の電流が流れるというのを当てたというふうにおっしゃっているんでしたらば、その当てた部分に電流が通るわけですから、その部分が、いわゆる発赤、赤みを帯びて皮膚が変色する。ただし、その当てた部分は金属ですから比較的冷たいですし、その部分には電流が通りませんので、その部分は白く抜けるということです。ですから、典型的なスタンガンを当ててそこにスタンガンが発射されたときにできる傷は、ほぼ円形の赤褐色調の変色部と、その中央に白く抜けた部分・・・」。

池田元教授の説明の前半の中心白色部について、前回も引用したSimpsonの教科書では「fused keratin」、つまり熱凝固した蛋白質であると書かれているので、池田元教授は独自の見解を述べていることになる。ここではそこは棚上げしても、被害者の傷のどこに「円形の」赤褐色変色部があるというのであろうか。

一木明弁護士:「取りあえず、ここで(池田)先生の結論を聞いておきますが、(池田)先生の御意見では、さきほども御覧になっていただいた写真の右の首筋に写っている4個の傷はスタンガンにより発生したやけどであるというふうな御意見として聞いてよろしいでしょうか」。

池田元教授「それは違います。やけどではありません。スタンガンでは、やけどはできません。やけどができるのではないのです。よくスタンガンでやけどができるというふうな法医学者がいるのですけれども、スタンガンでできるのはやけどではないのですよ」。

 

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梶山天 梶山天

独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。

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