
【書評】 不屈の魂の持ち主エマニュエル・パストリッチ博士『没落してゆくアメリカ号を彼岸から見て』
映画・書籍の紹介・批評私がパストリッチ氏を知ったのは 2024 年の夏だった。たまたま Youtube を見ていたら、アメリカ大統領選挙に立候補している日本語が話せるアメリカ人がいるというので、ちょっと頭がおかしい人なのかな程度の興味本位で見てみると、なんと日本の古典研究で博士号を持ち、日本語だけではなく韓国語や中国語も操り、更にアジア・インスティチュートという独立シンクタンクを主宰しているという高度な知性の持ち主であることを知り驚嘆した。
本書は、そんなパストリッチ氏の半生記として日本語で書かれた書籍である。この本によって、彼が何故日本古典研究からアメリカ政治に急接近するようになったのか、その概略が分かる。まさに運命のいたずらとしか言いようのない歴史の大きな流れの中で翻弄されながら、しかし決して諦めることなく一つひとつの可能性を探ってきた結果、今日に至っているという事がよく分かる。そこに至るまでに出会って来た人々を少し拾上げるだけでも、村上春樹、ロバート・キャンベル、エズラ・ヴォーゲル、朴槿恵など第一線の人達が多い。
だが、本書の重要な点は、そのような華々しい人間関係のほうでははく、むしろアメリカの政治や大学教育に潜んでいる大きな闇のほうだ。日本の大学でもそうだが、科学者や学者と名乗っている人々程、実際の政治行政問題になると臆病に口を閉ざしたり、関わり合いになる事を忌避する連中が多い。パストリッチ氏は、2000 年 6 月に著した日米韓中の協力に関する提案書を著した辺りから、大学内外で不穏な圧力を受け、周りの同僚達から交流を避けられるようになり、職を追われる形になったことが告白されている。
ただ、パストリッチ氏はその後もブッシュ(ジュニア)大統領の政策への批判的姿勢を貫き、アメリカ政治の迷走を日米韓を行き来する暮らしの中で憂いながら見つめ続け、最後には自らが大統領選挙に出馬する形で現実社会に関わることになる。日本では全く報道されていない為、アメリカ大統領選挙には共和党や民主党以外からも候補者が出ているのだという事を、パストリッチ氏の立候補を見るまで知らなかった。学問や研究を通じて、自らが感じた現実社会の問題を実際に解決しようとする姿勢は、なかなか真似のできるものではない。それを冷ややかに見たり無責任に論評することは簡単だが、自らが当事者として責任を引き受けて行こうとする氏の姿は多くの政治家や社会科学者が学ぶべきものだ。
COVID-19 以降、特に世界政治や現実社会がおかしくなってきているのは誰が見ても明らかな事だが、必要なことはその状況を突破し解決するための具体的な行動を起こす事だ。パストリッチ氏は、自らが置かれている状況に関わらず、そのような行動を起こせる数少ない人間であることが本書から見て取れる。経済的支援などが無くとも、自らの信念に基づき、今の狂ったアメリカ政治や世界情勢を立て直そうと立ち上がっている氏は、真の勇者であり侍である。たとえ、どんなに小さな石の一投であろうとも、そこから拡がる輪は何らかの形で人の心に伝わり物事を変える力になる可能性がある。仮に何の変化が起きなかったとしても、自らの正義と信念に基づいて生きていくことにこそ、真の人生の意義がある。
そういう本質的なところを教えてくれる本書は数多あるベストセラーにも引けを取らない深さを有している。
2025 年 3 月
広島大学 IDEC 国際連携機構機構長
市橋 勝
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