【連載】知られざる地政学(塩原俊彦)

「知られざる地政学」連載(85):トランプ関税をめぐる地政学(上)

塩原俊彦

 

連載(64)「トランプノミクス」:関税は地政学の絶好のテーマ」()において、関税問題を論じたことがある。今回は、そこでの議論の重複を恐れず、いわゆる「トランプ関税」について改めて論じたい。その理由は、日本のオールドメディアの不見識、不勉強を補う必要があるためだ。

「トランプ関税」

ドナルド・トランプ大統領が4月2日に公表した「相互関税」(reciprocal tariffs)のうち、すべての国・地域に対する一律10%の基本税率はすでに4月5日に発動済みだ。「相互関税」はこの10%を課す基本税率と、貿易赤字や非関税障壁がある国ごとに上乗せ税率で構成されている。その上乗せ分については、4月9日東部夏時間午前12時1分に適用される。

2月5日、商務省が発表した公式データによると、米国の2024年の貿易赤字は過去最高の1兆2000億ドルに達した(NYTを参照)。これは、米国の消費者が輸入品を買い漁ったことと、ドル高が輸出の伸びを妨げたことが原因である。ただし、輸出から輸入を差し引いた商品およびサービスの貿易赤字の総額は17%増の9184億ドルで、やや改善がみられる。これが意味しているのは、米国が世界最大のサービス輸出国であり、昨年、サービス貿易で3000億ドル近い黒字を計上したということである(NYTを参照)。金融、旅行、エンジニアリング、医療産業などを含むサービス部門は、米国経済の大部分を占めており、これらのサービスの輸出は、昨年米国に1兆ドル以上をもたらしたのだ。しかし、このサービス部門がまったく考慮されていない。

トランプに4月2日付で大統領令14257号「米国の貿易赤字の拡大と恒常化に寄与する貿易慣行を是正するための相互関税による輸入規制」に署名した。それによると、第一項目で、「私は、過去5年間だけで40%以上増加し、2024年には1.2兆ドルに達する、大規模かつ持続的な年間米国製品貿易赤字に反映される状況から生じる国家非常事態を宣言した」と書かれている。この国家非常事態宣言をもとに、国際緊急経済権限法(50 U.S.C. 1701 et seq.)(IEEPA)、国家緊急事態法(50 U.S.C. 1601 et seq.)(NEA)、1974 年通商法改正法第 604 条(19 U.S.C. 2483)、および合衆国法典第 3 編第 301 条を含む合衆国憲法および合衆国法によって、大統領として私に与えられた権限による命令を出す、という法的な立て付けになっている。

4月4日付「ウォール・ストリート・ジャーナル」(WSJ)によると、スコット・ベッセント財務長官は、米国は年間3000億ドルから6000億ドルの関税収入を得られるだろうとのべた。議会が検討している減税の費用を賄うのに役立つ可能性があるものの、インフレが加速すれば、減税によるメリットはすぐに相殺されてしまう。

「相互関税」

2025年1月20日、トランプは「アメリカ第一貿易政策に関する大統領覚書」に署名し、米国の財の貿易赤字が大きくかつ恒常的である原因を調査し、その赤字に起因する経済および国家安全保障への影響とリスクを考慮し、他国によるあらゆる不公正な貿易慣行の検証と特定を行うよう、政権に指示した。 さらに、2月13日、トランプは「相互貿易と相互関税」と題する大統領覚書に署名し、貿易相手国の非相互貿易慣行のさらなる調査を指示し、非相互慣行と貿易赤字の関係を指摘した。トランプは4月1日にそれらの調査の最終結果を受け取り、4月2日になって大統領令14257号を発令したということになる。

トランプのいう「相互関税」は、米国通商代表部が発表した公式では、懲罰的税金を米国と各国間の商品貿易赤字に結びつけている。つまり、米国がそれらの国々からそれらの国々への輸出よりも多く輸入している額である。この計算では、米国の貿易赤字と、その国が米国に輸出する総額の比率を求める。そして、その比率を半分にすることで、政権が「割引相互関税」(discounted reciprocal tariff)と呼ぶものが算出されるのである。米通商代表部が公表している「相互関税計算」によると、二国間貿易収支がゼロになる逆数関税は下の式で求められるという。米国通商代表部が公表している関税の大きさの計算式では、分母に2つの項が追加されている。輸入価格に対する輸入需要の弾力性(ε)と関税に対する輸入価格の弾力性(φ)である。関税が上昇すると、貿易赤字の変化は関税に対する輸入需要の反応に依存し、それは輸入需要が輸入価格にどのように反応するか、輸入価格が関税にどのように反応するかに依存するという考え方である。

しかし、トランプ政権が最初の指標を4、2番目の指標を0.25とみなしたため、たまたまこの2つの指標は相殺された。両者の積は1に等しくなるからだ。そのため、「朝日新聞」が報道しているように、「実質的には米国が抱える貿易赤字を輸入額で割っただけだった」という結果になる。それをほぼ半分にしたものを関税率としたにすぎない(図1を参照)。非関税障壁などまったく考慮されていない

(出所)https://www.asahi.com/articles/photo/AS20250405000088.html

USTRの関税計算ツールはCavallo, Gopinath, Neiman & Tang (2021)の調査結果を引用している。しかし、著者の一人、ハーバード・ビジネス・スクールのアルベルト・カヴァロ教授は、「彼らが我々の調査結果をどのように使用しているかは全く不明である。 仮に0.25の代わりにこの数値(φ=0.945)が使用された場合、暗黙の相互関税は約4倍小さくなる」とXに投稿した。つまり、トランプ政権の誤りは、小売価格の関税に対する反応を弾力性の根拠としている点にある。本来であれば輸入価格に対する弾力性を問題にしなければならない。通常、「関税はほぼ完全に米国の輸入価格に転嫁される」のに対して、「小売価格の上昇については、より複雑な証拠がある」。輸入価格に関する輸入需要の弾力性を、関税に関する小売価格の弾力性と掛け合わせることは、一貫性を欠いているのである。

図1 米国の各国別輸入に占める貿易赤字の割合(%、左)と米国によって課せられる関税率(%、右)
(出所)https://www.washingtonpost.com/business/2025/04/03/how-trump-calculated-tariffs/

アメリカ企業研究所の二人の研究者の共著論文「トランプ大統領の関税方式は経済的に意味がない」によれば、トランプ政権の誤りを修正すれば、各国が米国に課すと想定している関税は、表明された水準の約4分の1にまで削減される。その結果、10%の関税下限を前提として、4月2日にトランプが発表した関税も同じ割合で削減されることになる。表1に示されているように、どの国についても関税率は14%を超えることはない。

Screenshot

表1. 2025年4月2日に発表されたトランプ大統領の関税、実際のものと修正値
(出所)https://www.aei.org/economics/president-trumps-tariff-formula-makes-no-economic-sense-its-also-based-on-an-error/

各国別適用について

いくつかの個別国・地域への「相互関税」の適用についてまとめてみよう。

(1)カナダ、メキシコ

まず、トランプ政権がカナダ、メキシコ、中国に先行して関税を課してきたことに留意しなければならない。そこで、4月2日以前のトランプ政権による関税政策について知っておく必要がある。

2025年2月1日、トランプ政権はカナダ、中国、メキシコの製品に新たな関税を課し、不法移民と、米国で麻薬中毒を蔓延させているフェンタニルの供給と戦っていると説明した。米国は中国製品に10%、カナダとメキシコの製品に25%、カナダのエネルギー製品に10%の関税を課した。この措置は2月4日に発効する予定だったが、カナダとメキシコについては、「米国、メキシコ、カナダ間の協定」(USMCA)に基づき国境管理を強化することで合意したため、延期された。中国からの輸入品に対しては、米国は最大20%の関税を引き上げる。

2月10日、トランプは同盟国である英国、カナダ、欧州連合(EU)、メキシコ、韓国、日本を含む9カ国からの鉄鋼とアルミニウムに25%の関税を課す大統領令に署名した。この措置は3月12日に発効した。ブルームバーグによると、インドは世界各国からの輸入品に対する平均関税が17%ともっとも高い。中国は7.5%、メキシコは6.8%、EUは5%、カナダは3.8%である。

3月26日、アメリカは自動車関税の大幅引き上げを発表した。4月2日からすべての外国車に25%の関税を課した。中国は米国の措置に即座に反発し、2月に米国産の石油と農業機械に10%、石炭と液化ガスに15%の関税を課し、世界貿易機関(WTO)に提訴した。3月10日からは、米国産農産物に10~15%の追加関税を課した。

カナダも3月4日にWTOに提訴し、まず206億ドル相当の米国製品に25%の関税を課し、つぎに862億8000万ドル相当の製品に25%の関税を課すという2段階の報復措置を発表した。3月12日、米国が鉄鋼とアルミニウムの輸入品すべてに25%の関税を課すことを決定したことへの対応として、カナダは207億ドル相当の米国製品に25%の関税を課すと発表した。カナダの関税は、約87億ドル相当の鉄鋼製品、20.8億ドル相当のアルミニウム製品、98.5億ドル相当のその他の製品が対象となっている。

欧州委員会は3月12日、「米国からEUへの輸入品に対し、迅速かつ相応の対抗措置をとる」、「EUの報復措置は、米国の関税の経済規模に相当する、最大260億ユーロ相当の米国製品の輸出に影響を与える可能性がある」と発表した。EUは4月から米国製品に関税を課すことを決定し、とくにバーボンの出荷に50%の関税を課すと発表した。欧州委員会のウルスラ・フォン・デア・ライエン委員長は、EUは米国の新たな関税に対応する用意があるとのべた。

カナダからの物品についてまとめると、2月3日付大統領令14197号(北部国境における状況の進展)および2025年3月6日付大統領令14231号(北部国境における不法薬物の流入に対処するための関税の修正)により修正された、2025年2月1日付大統領令14193号(北部国境における不法薬物の流入に対処するための関税の賦課)に従い、北部国境を通過する不法薬物の流入に起因する国家緊急事態に対処するため、特定の物品に追加関税を賦課した。

メキシコからの物品に関しては、2 月 1 日付大統領令 14194 号(南部国境における状況に対処するため の関税を課す)、2025 年 2 月 3 日付大統領令 14198 号(南部国境における状況の進展)、2025 年 3 月 2 日付大統領令 14227 号(南部国境における状況に対処するための関税の修正)により修正された、南部国境を横断する違法薬物や不法移民の流入に起因する国家緊急事態に対処するため、特定の物品に追加関税を課した。

ただし、USMCAに基づく原産品として認定された商品には特恵待遇が維持される。USMCAに認定されないカナダまたはメキシコのすべての商品には、現在25%の追加関税が課され、カナダから輸入されUSMCAに基づく原産品として認定されないエネルギーまたはエネルギー資源には、現在10%の低い追加関税が課される。

こうした状況にあるため、4月2日の大統領令14257号では、本命令に基づきカナダまたはメキシコから輸入される物品に対する関税率は、既存の命令により指定される関税率に加えて適用されることはないとされている。ただし、大統領令14257号で特定された命令が終了または一時停止された場合、USMCAに基づき原産地として認定されたカナダおよびメキシコのすべての品目には追加関税が課されないが、USMCAに基づき原産地として認定されなかった品目には12%の関税が課される。

なお、4月2日の大統領令14257号以前にとった関税措置があるため、この大統領令が適用されないものとして、鉄鋼・アルミニウム製品(2018年および2025年の各種布告で指定されたものを含む)、自動車および自動車部品、銅、医薬品、半導体、木材、重要鉱物、エネルギー製品などがある。

(2)中国

中国には「相互関税」34%が課される。ただ、以前の措置を考慮すると、関税の合計は54%に達する(既存の関税を加えると、合計は65%になるケースも)。このため、中国政府は4月4日、トランプによる「相互関税」に対して同等の措置を講じた最初の国となり、米国製品に34%の関税を課した。ほかにも、MRIスキャンに使われるガドリニウムや磁石に使われるジスプロシウムなど7種類の金属の輸出を制限した。さらに、16の米企業への輸出を制限し、デュポン中国への独占禁止法調査を開始し、台湾との取引により11の米国の国防企業を「信頼できない企業」リストに加えた。

このように、中国は米国による関税措置に断固たる報復関税などで対抗している。2月には、中国は米国産の石炭と液化天然ガスへの輸入に15%、原油、農業機械、米国から輸入された大型エンジン車には10%の追加関税を課した。これは、中国に10%の追加関税を課すというトランプ大統領の行政命令を受けた措置である。さらに、3月18日までに、中国は、米国が中国からの全輸出品に追加関税を課したことへの報復措置として、豚肉、鶏肉、大豆、その他の農産物を含む210億ドル相当の米国製品に10~15%の関税を課した

経済ブロック化

他方で、中国は米国貿易を代替しうる貿易ブロックに参加することで活路を見出そうとしている。たとえば、2011年11月、東南アジア諸国連合(ASEAN)側は日中共同提案を踏まえ、東アジア地域の包括的経済連携(RCEP、「アールセップ」)にかかわる3作業部会(物品貿易、サービス貿易、投資)を設立することで一致し、それ以降、「東アジア地域包括的経済連携」の立ち上げ作業が本格化し、2022年1月に発効したRCEP協定の署名国は、ASEAN構成国がブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム、ASEAN構成国以外がオーストラリア、中国、日本、韓国、ニュージーランドとなった。「環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定」(CPTPP)よりも野心的ではないが、15の異なる経済圏をひとつの枠組みに束ね、その中心に中国を据えた。「アメリカが投資規制やリショアリング規則により内向きになったため、RCEPは参加国に中国へのアクセスを提供し、アメリカ主導の貿易に対する代替策となった」と言えるだろう(The Economistを参照)。RCEPは、深みは浅いが広がりは大きい。そのため、アジアの成長を取り入れたいと考えている南半球の経済圏にとって魅力的な協定となっている。チリ、香港、スリランカはRCEPへの正式な加盟申請を行っており、バングラデシュも同様の申請を検討している。

なお、CPTPPは、国営企業、デジタル貿易、環境および労働条件に関する制限を定めている。そのオープンアクセスの条項に各国が列をなして参加を表明している。中国、コスタリカ、エクアドル、インドネシア、台湾、ウクライナ、ウルグアイが参加を申請している。

「デ・ミニミス」待遇をめぐる変

中国をめぐっては、興味深い政策変遷がみられた。トランプは4月2日、大統領令14256号「低価値輸入に適用される中華人民共和国における合成オピオイド供給チェーンに対処する関税のさらなる改正」についても署名した。これは、中国本土および香港を原産地とする特定の商品に対する免税措置を事実上終了させる内容となっている。具体的には、1人1日当たり800米ドル未満の商品を無税で米国に入国させる「デ・ミニミス」と呼ばれるプログラムの適用を廃止する。

実は、2025年2月1日付大統領令14195号「中華人民共和国における合成オピオイドのサプライチェーンに対処するための関税の賦課」によって、中国製品であるすべての物品は10%の関税が課されると同時に、免税デ・ミニミス待遇が適用されないことになった。だが、米国税関・国境警備局(CBP)には1日に数百万個もの小包を検査し、関連する関税が正しく支払われていることを確認するためのリソースがないことが明らかになったため、すぐにこの措置は大統領令14200号によって一時的に撤回された(なお、オピオイドについては、本連載(7)「ドラッグをめぐる地政学」[]を参照)。

これを改めて撤回したのが大統領令14256号ということになる。その第一項目によると、2025 年 5 月 2 日東部夏時間午前 12 時 1 分以降に消費のために入庫、または消費のために出庫される、中国または香港から国際郵便網を通じて米国に送られる国際郵便小包を含む、大統領令 14228 号により改正された大統領令 14195 号の第 2 項(a)に記載される中国製品(香港製品を含む)については、合衆国法律集第 19 編第 1321 条(a)(2)(C)に基づく免税措置はもはや利用できないものとする。すなわち、免税デ・ミニミス待遇は適用されなくなる。具体的には、2025年5月2日以降に米国に入国する物品に30%の関税を課すとともに、2025年6月1日以前に入国する物品には1品目につき25ドル、それ以降に入国する物品には1品目につき50ドルの特定関税を課す。さらに、これらの商品を輸送する運送業者は、関税の支払いを確実にするため、国際運送業者保証書を保持する必要がある。米国税関・国境警備局(CBP)は、特定の小包について正式な入国を要求するが、これは新たな関税の対象ではなく、適用されるすべての関税、税金、手数料の対象となる。

中国と香港を除く報復関税の対象品目については、免税のデ・ミニミス待遇が継続される(この措置は、商務長官が、対象となる物品の関税収入を処理・徴収するシステムが整ったことを大統領に通告するまで有効である。この通知の後、デ・ミニミス待遇はこれらの物品には適用されなくなる)。なお、香港の扱いの変更は、2019 年に香港で民主化のデモが広まったことを踏まえ、中国が香港特別行政区に対して適用される国家安全法を制定する方針であることを表明して以降、当時のポンペオ国務長官がこの直後の 2020 年 5 月 27 日、1992 年米国香港政策法(HKPA)のセクション 205 およびセクション 301 に基づき、米国が香港に対して(英国が香港の主権を中国に返還した)1997 年 7 月 1 日以前に適用していた米国法令上の特別な扱いを継続すべきではない旨の認証を連邦議会に対して行ったことを契機にしている。これに続き当時のトランプ大統領は 2020 年 5 月 29 日、米政府は香港特別行政区を中国本土とは 区別して扱う従前の方針を変更し、香港に対する特別な扱いを取消す手続きを開始する旨表明した(JETRO「続・厳格化する米国の輸出管理法令 留意点と対策」を参照)。

CBPによると、2024会計年度には13.6億個以上のデ・ミニミス小包が米国に流入し、その数は2015年のほぼ10倍となっている(Wiredを参照)。これは1日平均370万個の小包に相当し、その多くが国境で初めて精査の対象となっている。なお、「中国の輸出入データによると、2023年に米国に到着したデ・ミニミス貨物の3分の1は中国からのものだった」というから、その影響は絶大だ(Wiredを参照)。デ・ミニミスという免税措置は、中国の大手ショッピング企業であるシェイン(Shein)やテム(Temu)によって利用され、毎年何百万個もの荷物を無税で米国に送り、米国人の商品価格を低く抑えるのに役立ってきた。しかし、この免税措置はeBayやエッツィー(Etsy)のようなマーケットプレイスにとっても重要であったから、多くの通販サイトが大打撃を受けるだろう。

もちろん、トランプ関税による中国の打撃は大きい。ただ、同時に考えなければならないのは、打撃を受けたスマートフォン、コンピューター、自動車部品、玩具、衣類、家具などの輸出をどう振り向けるか、あるいは、同じく打撃を受けた国々との連携強化をめぐる中国の戦略だ(EUとの関係については後述する)。

さらに、米中の間には、パナマ運河をめぐる問題もある。香港の大富豪である李嘉誠は、4月2日にCKハチソン・ホールディングス・リミテッド(パナマ運河の両入口の港湾施設を含む43のインフラ施設を所有)のグループ企業の資産を、ドナルド・トランプに近い米国の投資コンソーシアム、ブラック・ロックに売却する予定だったが、中国政府からの脅迫の後、取引の調印を無期限に延期したという経緯がある。今回の買収額は約230億ドルで、パナマの資産だけでなく、CKハチソンが事業を展開する他の国の施設も含まれる。

「知られざる地政学」連載(85):トランプ関税をめぐる地政学(下)に続く

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塩原俊彦 塩原俊彦

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士。評論家。『帝国主義ロシアの野望』によって2024年度「岡倉天心記念賞」を受賞(ほかにも、『ウクライナ3.0』などの一連の作品が高く評価されている)。 【ウクライナ】 『ウクライナ戦争をどうみるか』(花伝社、2023)、『復讐としてのウクライナ戦争』(社会評論社、2022)『ウクライナ3.0』(同、2022)、『ウクライナ2.0』(同、2015)、『ウクライナ・ゲート』(同、2014) 【ロシア】 『プーチン3.0』(社会評論社、2022)、『プーチン露大統領とその仲間たち』(同、2016)、『プーチン2.0』(東洋書店、2012)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(岩波書店、2009)、『ネオ KGB 帝国:ロシアの闇に迫る』(東洋書店、2008)、『ロシア経済の真実』(東洋経済新報社、2005)、『現代ロシアの経済構造』(慶應義塾大学出版会、2004)、『ロシアの軍需産業』(岩波新書、2003)などがある。 【エネルギー】 『核なき世界論』(東洋書店、2010)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局、2007)などがある。 【権力】 『なぜ「官僚」は腐敗するのか』(潮出版社、2018)、『官僚の世界史:腐敗の構造』(社会評論社、2016)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた:官僚支配の民主主義』(ポプラ社、2016)、Anti-Corruption Policies(Maruzen Planet、2013)などがある。 【サイバー空間】 『サイバー空間における覇権争奪:個人・国家・産業・法規制のゆくえ』(社会評論社、2019)がある。 【地政学】 『知られざる地政学』〈上下巻〉(社会評論社、2023)がある。

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