第30回 本田鑑定だけを否定するために証言させられた不詳断定主義の法医学者
メディア批評&事件検証岩瀬教授は、本田鑑定人の主張のみは断定的に否定しながら、「自分は断定しない、すべきではない」と主張することで、完全なる自己矛盾に陥っているとしか言いようがない。
そこを弁護人につかれて、しぶしぶ「本田先生のおっしゃることも、あと検察官の言っていることも合理性はいずれもある」と言わされながら、現実の裁判では、本田先生のおっしゃることには合理性はなく、「警察官の言っていることのみは合理性がある」と証言されているのは大変に奇妙である。
このほかにも岩瀬教授の著書『死体は今日も泣いている』には、「内容物の消化具合から死亡推定時間を割り出すことがある」と記述しながら、今市事件裁判では「胃内容は死後経過時間の推定には役立たない」と述べたり、あるいは「心臓を刺されると瞬時に心臓は止まる」と述べる一方で「心臓を刺されても何㍍走ったという事例もある」などとも述べていた。このように、読んでもわけのわからない証言記録となっているので、この辺でやめておくことにする。
それにしてもこれが天下の東京大学のそれも科学的な裁判に貢献すべき法医学の教授の証言であっていいのだろうか、と思うのは私だけではないと信じたい。要するに何を言っているのか全く分からない。何をしに出廷したのか。意味不明だ。
ISF独立言論フォーラム副編集長の私は、長年にわたり本田元教授と付き合っているから分かるのだが、今市事件の遺体発見現場にも何回も同行した。車のシートの長さなどを測り、解剖した被害女児の身長と比べてどうなのか調査をしたり、スタンガンを自分の体に当てて実験をするなど、分からないことは、徹底して追求をしての証言だ。
それに比べて、今市事件で検察側の証人として証言する法医学者たちは、まず、第一に現場にほんとに行ったことはあるのか、問いたい。まさか一度も行ってないという人はいないですよね。現場も踏まずに何がわかる。体験もしないで何がわかる。それは報道の記者にも言える。すでに我々の報道取材で、勝又拓哉受刑者は犯人ではない証拠を見つけた。ということは、何をかいわんや、検察側の証人は「偽証」を行っているということだ。
連載「データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々」(毎週月曜、金曜日掲載)
https://isfweb.org/series/【連載】今市事件/
(梶山天)
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独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。