
植草一秀【連載】知られざる真実/2025年4月21日 (月) 中国流対米毅然対応が良策
社会・経済トランプが提示した24%の上乗せ関税の設定に関する日米協議。
日本の交渉姿勢には2類型がある。
第1の類型は米国への譲歩を基本とするスタンス。
へりくだり、下手に出て、トランプ大統領の機嫌を損ねぬように交渉する。
第2の類型は相手が米国であろうと、日本としての主張を貫く毅然とした姿勢での対応。
トランプ大統領に対して日本の主張を正面から提示すれば交渉が決裂する可能性をはらむ。
このことをも覚悟して腹を括って交渉に臨む。
中国の対応は後者に属する。
問題の発端は米国にある。
米国が自由貿易の大原則を否定して高率関税の一方的提示に突き進んだ。
米国は高率関税を提示しながら、他国に関税撤廃等の要求を突き付けている。
極めて自己中心的な振る舞いだ。
これに対して中国は一方的譲歩を示さずに、毅然とした対応を示している。
しかし、中国が米国に対して厳しい対応を示せば、米国にもマイナスの影響が生じる。
中国の姿勢は〈チキンゲーム〉の仕掛けにひるまないというもの。
これに対して、日本の交渉姿勢は腰が引けている。
他国の先陣を切って日米交渉に突き進むのは、米国と堂々と渡り合う姿勢を示すものではない。
トランプ大統領のご機嫌を取り、日本が譲歩するかたちで、できるだけ対日関税を穏便に済ませてもらおうとするもの。
基本が〈負け戦〉の交渉スタンスなのだ。
しかも、交渉指揮官の赤沢亮正担当相が自分のことを〈格下の格下〉と表現したのでは対等の交渉は覚束ない。
〈格下〉の表現であれば許容範囲内だが〈格下の格下〉の表現は〈朝貢外交〉のスタンスである。
この交渉で日本が提示しかねない三つの方策が存在する。
第一は米国からのコメ輸入拡大。
第二は日本軍事費・駐留米軍費用負担の増大。
第三は米国国債売却の自制。
この三つは、絶対に〈約束してはいけない〉もの。
日本最大の経済安全保障問題は〈食料確保〉。
とりわけ、主食である米の自給が重要。
TPP交渉参加の際に自民党は関税率引き下げに〈聖域〉を設けることを最重要視した。
とりわけ、米の自給を守らねばならないことを重視した。
その米の不足が深刻化している。
日本の米自給体制を強化するには農家の所得補償が最重要である。
米の価格は上昇するかも知れないが、農家が持続可能な所得を政府が補償する制度の確立が求められる。
米国から安価な米の流入を拡大すれば日本の米農業は完全に崩壊する。
米国からの米輸入拡大は絶対に認められない基本線である。
第二に日本の軍事費増強は百害あって一利なし。
日本の軍事費増大は米国への〈みかじめ料〉増大の意味しかない。
軍事費を抑制して社会保障費を増強するのが正しい政策。
トランプの要求に隷従して軍事費を増大させる愚をこれ以上繰り返してはならない。
第三は日本政府による米国国債購入の意味をはき違えてはならないこと。
日本政府による米国国債購入は日本政府による米国政府への〈資金融通〉であって〈資金贈与〉でない。
ドル高の現局面で日本政府は保有米国国債を全額売却すべき。
日本政府が保有する米国国債を売却する権利が日本政府にある。
米国政府が日本政府に〈保有米国国債を売るな〉と命じることは、日本政府の米国国債保有が〈日本政府による米国政府への資金贈与〉であることを意味するもの。
独立国である日本が、このような制約を課されるいわれは存在しない。
しかし、現在の石破内閣の交渉姿勢は極めて危うい。
中国を見習い、米国に対して〈言うべきことを言う外交〉に転換しなければ、日本は完全に米国の植民地になる。
※なお、この記事は下記からの転載であることをお断りします。
植草一秀の『知られざる真実』2025年4月21日 (月)「中国流対米毅然対応が良策」
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植草一秀(うえくさ かずひで) 1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ株式会社代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。 経済金融情勢分析情報誌刊行業務の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」を発行。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門1位。『現代日本経済政策論』(岩波書店、石橋湛山賞受賞)、『日本の独立』(飛鳥新社)、『アベノリスク』(講談社)、『国家はいつも嘘をつく』(祥伝社新書)、『25%の人が政治を私物化する国』(詩想社新書)、『低金利時代、低迷経済を打破する最強資金運用術』(コスミック出版)、『出る杭の世直し白書』(共著、ビジネス社)、『日本経済の黒い霧』(ビジネス社)、『千載一遇の金融大波乱』(ビジネス社、2023年1月刊)など著書多数。 スリーネーションズリサーチ株式会社 http://www.uekusa-tri.co.jp/index.html メルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」 http://foomii.com/00050