【連載】前田哲男の国際評論

第2回 自衛隊鹿屋基地への無人偵察機配備がもたらす日米軍事一体化の流れ

前田哲男

金融資本主義の世界――つまり株屋さんのことだが――では、海外での戦争を“対岸の火事”と呼び、「買い」の材料とする。ビジネスチャンスなのだ。戦後日本に当てはめると、1950年の「朝鮮戦争」や60年代の「ベトナム戦争」がそれにあたる。

「参戦」こそしなかったものの「後方支援基地」となった日本企業は、「朝鮮特需」「ベトナム特需」というブームの享受者となり、財閥系企業を再結集させる契機となった。いま、アメリカの軍需業界が「ウクライナ特需」(参戦せずに兵器を売る)で大儲けしているのと同じ構図だ。

ただし、日本における「ウクライナ戦争」は“対岸の火事”で終わりそうにない。「平和憲法」と「専守防衛」を突き崩す格好の材料としてキャンペーンされている。「ロシアのウクライナ侵攻」がつたわるや、各政党の反応は(共産、社民両党を除き)1940年代の「大政翼賛会」を連想させる“ロシア・ヘイト”一色に塗りつぶされた。こと安全保障政策に関してはすでに“解党的状況”にあるといっていい。維新、国民民主はこぞって「防衛費GDP比2%増額」の方向に賛成し、野党の立場を捨てた。

1940年代の国内状況と比較すれば、ナチのポーランド侵攻を「バスに乗り遅れるな!」、「千載(せんざい)一遇(いちぐう)の好機!」などとはやし立て、政党・労働組合の解散に至った歴史を思いおこさせる。同時に、火の手は“最後の砦”ともいえる「憲法改正=9条廃止」論議にも迫りつつある。

ウクライナ情勢に便乗する自民党からは、「敵基地攻撃能力」(“反撃能力”に名称変更したが)の正当化や「核シェアリング」(「核持ち込み」容認と米軍・自衛隊による共同運用)などが公然と提起された。参院選の結果次第では、年内に予定される「防衛3文書」(「国家安全保障戦略」・「防衛計画の大綱」・「中期防衛力整備計画」)の改定に大きく影響しそうだ。

安倍政権時代の2013年に策定されたこれら現行文書は「安保法制」(戦争法 2016年施行)の基盤となった。残念なことに「安保法制違憲訴訟」のほうは各地の裁判所で連敗続きだ。だから防衛3文書の「改定」となれば、9条の歯止めはまったく利かなくなる。改憲への外堀が埋められるのは間違いない。

自民党は「23年度防衛予算」を“防衛費GDP比2%”の初年度と位置づけているので、10兆円すれすれの防衛費が要求されると予測される。それを背後から操っているのが、バイデン政権の「中国敵視政策」および「中国包囲網」作り――その“鉄砲玉としての自衛隊“――にあることも明白だ。5月23日(ウクライナ侵攻後3か月)に訪日したバイデン大統領と岸田文雄首相が交わした共同声明、そこからもアメリカの思惑が明瞭に読みとれる。

News headline that says “warning”

 

たとえば――

「地域情勢」の冒頭に、「岸田総理及びバイデン大統領は、中国に対し、国際社会と共に、ウクライナにおけるロシアの行動を明確に非難するよう求めた」と書かれ、続けて「台湾海峡の平和と安定の重要性」が強調される。そのうえで、「岸田総理は、ミサイルの脅威に対抗する能力を含め、国家の防衛に必要なあらゆる選択肢を検討する決意を表明した」。

結論――「岸田総理は、日本の防衛力を抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する決意を表明し、バイデン大統領は、これを強く支持した」のである。このように「ウクライナ戦争」を大義名分にして、防衛力と予算の「抜本的な強化」、「相当な増額」が約束されたのである。

ここに見えるのは、①中国はロシアと同類の侵略国家である、との共通認識、②ウクライナのつぎは「台湾海峡危機」にあるとする情勢分析、③そして日本が中国包囲の先頭に立つという役割、それらを自民党政権が受けいれた事実にほかならない。「GDP比2%の防衛費増額」や「核共有」論議は、この3点から発したものである。

Taiwan Area, political map with capital Taipei. Free Area of the Republic of China (ROC). Provinces and islands groups of Taiwan, located between the East and the South China Sea. Illustration. Vector

 

以上、まず“鳥の眼”から大局を確かめた。一転、つぎは“虫の眼”になって、アメリカが要求する「対中包囲網の一角」としての日本の役割、それが地域、具体的には自衛隊基地にどのような影を落としているかを観察してみる。「日米共同声明」がもたらす地域社会の変動についてである。

今回は、海上自衛隊鹿屋基地(鹿児島県鹿屋市)に「一時展開」が予定されている「無人攻撃機MQ9」配備問題をみていこう。

MQ9といってもピンとこないかもしれない。軍事に関心ある人なら「リーパー」というニックネームを聞いて、「ああ、あれか」と頷くはずだ。イラクやアフガニスタンの戦場での無慈悲な遠隔攻撃と民間人誤爆により悪名を残し、リーパー(刈り取り機、転じて「死神」)と恐れられた無人機=ドローン。それが「無人偵察機」のふれこみで鹿児島県の海上自衛隊鹿屋航空基地に配備されようとしているのである。防衛省は23年春からの受け入れをすでに決定し、鹿屋市と受け入れ方式について交渉中とされる。

Close view of a MQ-9 Reaper (military UAV)

 

「MQ9鹿屋移駐」の目的が、中国全土の広域偵察にあることは疑いようもない。30時間という航続距離から考えると、ほぼ中国全域をカバーできる。表面上は「無人偵察機」とされるが、爆弾・ミサイルを積めば「無人攻撃機」に変身する(実際イラク、アフガニスタンでは専ら“空の死神”として使われた)。

 

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前田哲男 前田哲男

1938年福岡県生まれ。長崎放送記者を経て71年よりフリージャーナリスト。著書に『棄民の群島 ミクロネシア被爆民の記録』(79 年時事通信社)、『戦略爆撃の思想 ゲルニカ―重慶―広島への軌跡』(88年 年朝日新聞社)など。近著『敵基地攻撃論批判』(2020年 立憲フォーラム)、『進行する自衛隊配備強化と市民監視』(21年 平和フォーラム)など

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