【連載】知られざる地政学(塩原俊彦)

「知られざる地政学」連載(89):帝国主義アメリカの本性(下)

塩原俊彦

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米国の悪辣非道

「オープン・ソサイエティ・ファウンデーション」が2004年に公表した報告書「無秩序、怠慢、不始末: CPAによるイラク復興資金の扱い方」によれば、イラクの資金で支払われた契約額の大部分は、米国企業、それもディック・チェイニー副大統領とのつながりや、2003年のイラク侵攻後の数週間に秘密裏にイラクで最大の復興契約を獲得したことで有名になったハリーバートン子会社のケロッグ・ブラウン・アンド・ルート(KBR)に、何の競争もなく支払われた。
報告書に書かれている米国の悪辣非道を紹介してみよう。

(1)CPAは一貫して、イラクの資金で支払われた契約を受注した企業の名前を公表せず、透明性を欠いた。米国が資金提供した復興契約の受領者についての情報は入手可能であったが、最近まで、どの企業がイラクの石油収入で支払われているかについての情報は公開されていなかった

この情報は、2004年8月にCPA-IGが発表した付録でようやく入手できるようになったもので、500万ドル以上の契約の支払いにイラクの資金が使われていることを示している。このデータを分析すると、CPAはイラク資金から支払われた総額15億ドルの契約のうち、74%を米国企業に発注していることがわかる。これに英国企業を加えると、米英企業は契約額の85%を受け取っていることになる。これに対してイラク企業は、イラクの資金から支払われた契約額のわずか2%しか受け取っていない。米英企業のうち、ハリーバートン子会社のKBRは、イラク資金で支払われた契約額の60%を受け取った。

(2)2003年の監査で、国防総省の監査官は、KBRがイラクへの燃料輸入で米政府に6100万ドルもの過大請求をしていたことを発見し、国防総省は2004年2月に刑事捜査を開始した。これと同様の発見を受け、米議会は2004年のイラク予算で、KBRの契約とは異なり、復興に関するすべての契約は競争入札でなければならないと主張した。国防総省はこの要求に従うため、KBRとの契約をイラクの資金で支払われるように変更し、その結果、KBRは9億2100万ドルの無競争契約をイラクの資金から受け取ることになったようだ。実際、イラクの資金を使って発注された契約のうち、金額ベースで73%が競争入札を経ない単独契約であった。

(3)監査人は15カ所の支出場所を調査し、職員が支払代理人への立替金や領収書の適切な文書化や説明責任の維持を日常的に怠っていることを発見した。たとえば、14カ所の出納担当者は、清算された領収書の台帳を管理していなかった。調査員が調査した26枚の領収書のうち、25枚には裏付けとなる請求書がなく、すべての領収書に必要な署名が1つ以上欠けていた。監査人の報告によると、4億ドルの支出可能額のうち、5000万ドルもの金額が支払いを証明する適切な領収書がないまま清算されていた。レビューの結果、いくつかの請求書には裏付けとなる領収書がないこと、受領したサービスや物資について限定的な説明で領収書が清算されていること、許容される経費と矛盾するサービスに対して資金が支出されていることが判明した。

(4)CPAは国防総省の財務報告規則を適用しなかっただけでなく、自らの規則にも従わなかった。CPAの規則第二号は、DFIが透明性をもってイラク国民のために使用されていることを確認するため、独立した公認会計事務所を保持するようCPAに要求した。その代わりに、CPAはDFIに関する公認会計士の内部統制を見直すため、140万ドルの契約を金融サービス会社のノーススター・コンサルタンツに発注した。ノーススターも、公認会計士に雇われた他の会社も、この仕事を行ったことはない。

(5)国防総省監察総監室による2004年3月の監査は、CPAとその前身である復興人道支援室(ORHA)が、占領初期から連邦政府の契約手続きを回避していたことを明らかにした。報告書は、国防契約司令部が発注した24件の契約のうち22件で、連邦政府の調達規則が守られていなかったことを明らかにした。監察総監は、イラク復興契約に携わる国防総省の職員が、確固とした契約要件を定めていなかったこと、発注された契約の半分以上について「不十分な監視」を行ったこと、「価格の妥当性判定を実施または支援」しなかったこと、当初の契約の「範囲外」の活動を許可したことを明らかにした。

(6)CPA監察総監は、戦闘作戦中および戦闘後に旧政権から押収した現金その他の財産の管理について、CPAを非難した。資産には宝石、宝石、美術品、車両、家具、カーペット、その他の貴重品が含まれていた。調査官によると、施設管理室(FMO)の職員は、CPAが定めた非現金資産の管理に関する方針と手続きに従って、非現金資産を適切に管理、保全、保護していなかった。さらに、CPAが保管する非現金資産を確定するための目録が作成されなかった。これは、FMOがCPA管理者の定めた指針に従わなかったために発生した。その結果、非現金資産の紛失や盗難の可能性が存在し、したがってCPAは、非現金資産がイラク国民の使用と利益のために利用可能であることを保証することができなかった。

最後に、悪名高いハリーバートンの悪事について紹介しよう。

(7)ハリーバートン傘下のケロッグ・ブラウン・アンド・ルート(KBR)は2004年夏、再び米監査法人の逆鱗に触れた(注2)。同社は中東で兵士の住居と食事を提供する業務で41億8000万ドルを政府に請求していた。国防契約監査局は最近、同社がコストを正当化できなかったとして、そのうちの18億ドルに異議を申し立てた。KBR の請求システムに関する 監査では、請負業者の内部統制構造の設計・運用に「重大な欠陥」があること、言い換えれば、会計規則が完全に欠落しているか、KBR の従業員が遵守していない領域があり、多大なコストがかかっていることが 判明した。すなわち、書面による請求方針と手続きの欠如、不正確に作成された調整伝票、記録された請求書と経費の照合の欠如(二重計上)など、やりたい放題であったのだ。

真実に迫る努力を!

紹介したDFIにおいて米国が行った悪辣非道を知っていれば、米国がウクライナで同じことを行おうとしていると懸念をいだくのは当然だろう。それにもかかわらず、オールドメディアは、当事者がのべるディスインフォメーション(だます意図をもつ不正確な情報)を垂れ流すだけだ。しかも、そんな情報に基づいて、「一定の抑止効果期待できる」とほざく廣瀬陽子慶大教授のような能天気な専門家もいる。

真摯に勉強することさえできず、情報リテラシーさえ身につけていない者が多すぎる。しかも、それは日本だけの現象ではない。欧米も同じだ。その結果、オールドメディアはますます評判を落とし、現実はますます深刻さを増しているのだ。

追伸

5月6日になって、公表されていない二つの追加合意に盛り込まれた条項の一部が、ウクライナのマスメディアによって公表された。その報道によれば、たしかに「協定によって、ウクライナにすでに提供されている 無償援助が米国への債務に変わることはない」が、公表されていない「Limited Partnership Agreement」に「協力の条件に関するおいしい話が記載されている」という。

これをわかりやすく示しているのが、下図である。3500億ドルとの言われる、米国によるウクライナへのこれまでの支援総額がウクライナの債務としてカウントされることはないが、それはその債務を米国に売ったことを意味していることになる。その条件は、ウクライナにとって厳しい内容であり、その条件が議会に示されないまま批准されることになるというわけだ。

© Сгенерировано DALL·E по запросу ZN.UA
(出所)https://zn.ua/macroeconomics/ukraina-objazana-ssha-ozhidajut-podrobnosti-paritetnoho-partnerstva-so-ssha.html

具体的には、ウクライナ・米国共同基金は、ウクライナと米国の代表が同数ずつ集まった理事会によって管理され、四つの委員会が支援するというのだが、その四つの委員会の構成をみると、米国優位は間違いない。①投資決定を担当する投資委員会(米国人マネジャー3人、 ウクライナ人2人)、②経営と管理を担当する管理委員会(米国人マネジャー3人、ウクライナ人マネジャー2人)、③外部監査人の契約と拠出金評価コンサルタントの雇用と監督に責任を負う監査委員会(米国人マネジャー2名、ウクライナ人マネジャー2名)、④投資機会の特定を担当するプロジェクト・サーチ委員会(最終的にウクライナ人マネジャー3人と米国人マネジャー2人)となる。

つまり、ウクライナが主導権を握れるのはプロジェクト・サーチ委員会だけで、「他の問題では少数派であり、実際には必要とされていない」。さらに、米国のマネジャーたちだけで合意される問題も数多くあるという。たとえば、投資決定、資産分配のタイミングと金額、パートナーシップ、その投資および収益の監査などだ。

加えて、「ウクライナのパートナー」が何かに違反した場合、そのパートナーには分配金が支払われず、ウクライナのマネジャーはファンドの取締役会や関連委員会での議決権をすべて失うという。これに対して、アメリカのパートナー側の違反については、何の言及もない。

しかも、協定の条項は国内法よりも優先され、さらなる法改正によってその効力を制限することはできない。

これが今回のウクライナと米国との鉱物資源をめぐる協定の実態だ。まさに、拙著『帝国主義アメリカの野望』を具現化している。

【注】
(注1)2025年2月28日に締結が予定されていた「復興投資基金の条件を定める二国間協定」では、米国側の当事者がDFCであることが定められていた。投資基金はDFCによって管理されるとあり、DFCは5人のメンバーのうち3人を任命することができ、ウクライナは残りの2人を任命することができる、となっていた。DFCには決定を阻止する権利(黄金株)が与えられている。ウクライナは事実上、基金の運営に口を挟むことはできない仕組みであった。米国はインフラプロジェクトの優先権を得ることも定められていた。ウクライナはすべてのプロジェクトを「可能な限り早期に」基金に提出しなければならず、DFCは資金提供されたすべてのプログラムを監視する。ウクライナは少なくとも1年間は、却下されたプロジェクトを「実質的に有利な条件」で他の当事者に提案することはできないことになっていた。

DFCを理解するには、米国の開発金融活動の歴史を知らなければならない。まず、1969年にリチャード・ニクソン大統領によって、国際開発庁(USAID)から海外民間投資公社(OPIC)に一本化された。第一次トランプ政権はOPICに反対しており、2018年の予算案ではOPICの全廃を要求していた。だが、超党派議員によって成立したBUILD(Better Utilization of Investments Leading to Development)法に基づいて、OPICとUSAIDの開発信用機関(DCA)、および他のいくつかの小規模な事務所やファンドを統合した独立機関としてDFCが2018年10月、認可された。

DFCはOPICに比べて、融資だけでなく株式保有が認められ点で投資会社に近づいた。さらに、DFCが現地通貨で融資を行うことも認められている。重要なのは、DFCが中国政府による海外投融資に対抗する役割を担っている点だ。

もう一つ、決定的に重要なのは、DFCが活動を継続するためには、2025年10月6日までに議会が再承認する必要があることである。

(注2)ここで、拙著『帝国主義アメリカの野望』に書いたつぎの記述を紹介したい(239頁)。米国の悪辣非道について、海外腐敗行為防止法(FCPA)上の犯罪によって25カ月間服役したフランス人が書いた本『アメリカン・トラップ』に書かれていたことを紹介した部分である。

「 ここで、『アメリカン・トラップ』の「エピローグ」にある記述を紹介したい。辛酸をなめた筆者の心の叫びを受け止めてもらいたい。

「アメリカを甘くみてはいけない。大統領が民主党だろうと共和党だろうと、あるいはカリスマだろうと極悪人だろうと、さしたる変わりはない。ワシントンの政府はつねに産業界の限られたグループの利益のために動いている。つまり、アメリカの大企業――ボーイング社、ロッキード・マーティン社、レイセオン社、エクソンモービル社、ハリーバートン社、ノースロップ・グラマン社、ジェネラル・タイナミクス社、GE社、ベクテル社、ユナイテッド・テクノロジーズ社など――のためだ。しかし、われわれは、単純に大統領の個性によっては、〈アメリカの法〉も悪いものではないと思いかねないし、世界じゅうに道徳を説いて回っているアメリカが、じつはサウジアラビアとかイラクとか、みずからの影響下にある多くの国々で、最初に不正まみれの商取引をしたということを忘れたり、見ないふりをしたりもする。しかし、今日、状況はいくらか変化し、目覚めるべきときが来た。ドナルド・トランプの出現で、アメリカはいっそう手段を選ばず、その帝国主義はますます露わになっている。」

これからわかるように、アメリカの帝国主義は、「法の上に強者の利益を置く」ことで展開されているのだ。とくに、狭義の軍産複合体が多いことに留意してほしい(軍産複合体については拙著『知られざる地政学』〈上巻〉を参照してほしい)。

この本の優れた書評のなかには、「この本を読むと、法の上にあるのは強者の利益であり、その利益のために強者は時に自ら制定し、必要であれば違反する法律と戦うのだということがわかる」と書かれている。英米法の「法の上にあるのは強者の利益」であることを決して忘れてはならない。これを利用して、世界中を脅しまくるのだ。

まとめると、「法の上に人を置く」ことで「法の支配」を説くイギリスがヘゲモニー国家になって以降、ヨーロッパ公法を海洋から突き崩すようになり、そのイギリスに順接するアメリカは第三段階としてさらにヨーロッパ公法を骨抜きにし、返す刀で、アメリカの恣意的な解釈に基づく国際法を可能にした。その典型が報復としての制裁であったり、脅迫としての二次制裁であったりする。イギリスの第二段階、アメリカの第三段階は、自由主義から新自由主義への移行に対応するだけでなく、科学のテクノロジーへの移行、すなわち合理性への全面依存に対応しているように思える。」

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塩原俊彦 塩原俊彦

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士。評論家。『帝国主義アメリカの野望』によって2024年度「岡倉天心記念賞」を受賞(ほかにも、『ウクライナ3.0』などの一連の作品が高く評価されている)。 【ウクライナ】 『ウクライナ戦争をどうみるか』(花伝社、2023)、『復讐としてのウクライナ戦争』(社会評論社、2022)『ウクライナ3.0』(同、2022)、『ウクライナ2.0』(同、2015)、『ウクライナ・ゲート』(同、2014) 【ロシア】 『プーチン3.0』(社会評論社、2022)、『プーチン露大統領とその仲間たち』(同、2016)、『プーチン2.0』(東洋書店、2012)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(岩波書店、2009)、『ネオ KGB 帝国:ロシアの闇に迫る』(東洋書店、2008)、『ロシア経済の真実』(東洋経済新報社、2005)、『現代ロシアの経済構造』(慶應義塾大学出版会、2004)、『ロシアの軍需産業』(岩波新書、2003)などがある。 【エネルギー】 『核なき世界論』(東洋書店、2010)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局、2007)などがある。 【権力】 『なぜ「官僚」は腐敗するのか』(潮出版社、2018)、『官僚の世界史:腐敗の構造』(社会評論社、2016)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた:官僚支配の民主主義』(ポプラ社、2016)、Anti-Corruption Policies(Maruzen Planet、2013)などがある。 【サイバー空間】 『サイバー空間における覇権争奪:個人・国家・産業・法規制のゆくえ』(社会評論社、2019)がある。 【地政学】 『知られざる地政学』〈上下巻〉(社会評論社、2023)がある。

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