【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2025.05.16XML: 米英政府が3年前に潰した露国とウクライナの和平交渉が再開されても状況は違う

櫻井春彦

 ロシアでは5月9日を「戦勝記念日」として祝っている。第2次世界大戦でドイツに勝利したことを記念して式典が開かれ、今年は中国の習近平国家主席も出席した。王毅外交部長(外相)は今回のロシア訪問について、中国とロシアの関係が強固であることを示すメッセージだとしている。

 この記念日を挟み、8日から10日までウクライナで停戦するとロシア政府は発表、停戦終了の直後にウラジミル・プーチン大統領は5月15日にイスタンブールでウクライナ当局者と無条件で会談しようと提案、その会談に出席するため、ロシアの代表団はトルコ入りした。

 しかし、ウクライナにはロシアとの協議を禁じる2022年9月の大統領令が存在するので、その大統領令を撤回しなければウクライナの当局者が出席することはできないはず。すでに任期が切れ、しかも国民から支持されていないウォロディミル・ゼレンスキーをロシア政府は交渉相手とみなしていない。

 そのゼレンスキーや彼を支援している欧米諸国はロシアに対し、30日間停戦を求めているのだが、これをロシア政府が受け入れるとは思えない。バラク・オバマ大統領がネオ・ナチを利用してキエフでクーデターを仕掛け、2014年2月22日にビクトル・ヤヌコビッチ政権を倒し、ウクライナを支配下に置いたのだが、ウクライナ全体、特に東部や南部では大半の人がクーデターに反対、オデッサでは住民が虐殺され、ネオ・ナチに制圧されたが、クリミアの住民は速やかにロシアと一体化することに成功、東部のドンバス(ドネツクやルガンスク)は武装抵抗が始まった。軍や治安機関の約7割はネオ・ナチ体制を嫌って離脱、その一部は反クーデター軍に合流したと言われている。

 そこで欧米諸国は新体制の戦力を増強しなければならず、そのための時間を稼ぐ必要があった。そこで使われたのが停戦協定、つまり2014年のミンスク1と15年のミンスク2だ。​アンゲラ・メルケル元独首相​や​フランソワ・オランド元仏大統領​は後に、この合意がキエフのクーデター体制の軍事力を強化するための時間稼ぎだったと証言している。

 この停戦協定を利用して西側は8年かけて戦力を増強。兵器を供与したり兵士を訓練、さらに「ヒトラーユーゲント」的なプロジェクトで年少者をネオ・ナチの戦闘員へ育て、マリウポリ、ソレダル、マリインカ、アウディーウカには地下要塞を建設、それらを結ぶ要塞線を構築した。2022年に入るとクーデター政権はドンバスに対する攻撃を激化させるが、こうした状況を見てキエフ政権がドンバスに対して大規模な軍事作戦を始めると予測する人は少なくなかった。

 そうした状況下の2022年2月24日、ロシア軍はミサイルなどでドンバス周辺に集結していたウクライナ軍の部隊を壊滅させ、航空基地、レーダー施設、あるいは生物兵器の研究開発施設を破壊しはじめた。この攻撃でウクライナの敗北は決定的だったのだが、アメリカやヨーロッパの反ロシア好戦派は兵器を供与すれば勝てると信じていた。

 しかし、ウクライナでの戦闘が始まった直後からイスラエルやトルコを仲介役とする停戦交渉が始まった。仲介役のひとりはイスラエルの首相だったナフタリ・ベネット。ロシアとウクライナは共に妥協して停戦の見通しが立つ。ベネットは3月5日にモスクワへ飛んでプーチンからゼレンスキーを殺害しないという約束をとりつけることに成功、その足でベネットはドイツへ向かい、オラフ・ショルツ首相と会う。​ウクライナの治安機関であるSBUのメンバーがキエフの路上でゼレンスキー政権の交渉チームに加わっていたデニス・キリーエフを射殺したのは、その3月5日だ​。

 停戦交渉はトルコ政府の仲介でも行われた。​アフリカ各国のリーダーで構成される代表団がロシアのサンクトペテルブルクを訪問、ウラジミル・プーチン大統領と6月17日に会談しているが、その際、プーチン大統領は「ウクライナの永世中立性と安全保障に関する条約」と題する草案を示している​。その文書にはウクライナ代表団の署名があった。つまりウクライナ政府も停戦に合意していたのだ。

 ロシアとウクライナだけなら、ここで戦闘は終わっているのだが、いうまでもなく、終わらなかった。その停戦交渉を壊すため、イギリスの首相だったボリス・ジョンソンは4月9日にキエフへ乗り込み(​ココ​や​ココ​)、ロシアとの停戦交渉を止めるように命令している。

 4月25日にはアメリカの国防長官だったロイド・オースティンがキエフを訪問したが、その際、ウクライナでの戦争を利用してロシアを軍事的、そして経済的に弱体化させたいと述べている。

 4月30日にはナンシー・ペロシ米下院議長が下院議員団を率いてウクライナを訪問、ゼレンスキー大統領に対してウクライナへの「支援継続」を誓い、戦争の継続を求めた。そうした中、西側の有力メディアはロシア軍がブチャで住民を虐殺したと宣伝し始める。その主張を否定する事実が次々と現れたが、停戦交渉は壊された。

 今年5月15日の会合もトルコのイスタンブールで行われる。ウラジミル・メジンスキー大統領補佐官が率いるロシアの代表団にはミハイル・ガルージン外務副大臣、イーゴリ・コスチュコフGRU(軍参謀本部情報総局)局長、アレクサンドル・フォミン国防副大臣が含まれている。戦局はロシアが圧倒的に有利であることに加え、ロシア政府は過去の経験からキエフ政権や欧米諸国を信用していないことから決着は戦場でつけるつもりだと見られている。キエフ政権は交渉の当事者とみなされていない。トランプ大統領は「プーチン大統領と私が合意するまで何も起こらない」と述べているが、これは本音だろう。ロシアとアメリカの交渉にはウクライナにおける生物兵器の研究開発問題も含まれそうだ。

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「米英政府が3年前に潰した露国とウクライナの和平交渉が再開されても状況は違う」(2025.05.16ML)
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