【連載】横田一の直撃取材レポート

維新のウソを暴き参院選へ 、「れいわ対維新」のバトル激化

横田一

・問われる泉代表の政治センス

一方、大阪街宣の取材では、立憲民主党の発信力の乏しさを実感することになった。立民は3月26日に大阪府連大会を開いて、泉健太代表が駆け付けて挨拶。山本代表とカジノ反対のそろい踏み街宣や大阪での野党合同ヒアリングが予定されているのかと思った私は大会後の会見で聞くと、泉代表は「野党全体で(カジノ問題を)やるのかどうかというのは、今後、引き続き、検討はしていきたいと思います」と答えるだけ。代わりに泉代表が、れいわの街宣と同じ時間帯に大阪駅前で行なったのは、ウクライナ難民への募金活動だった。

これには地元の記者も呆れていた。「カジノの署名活動開始直後の時期に大阪に来ておいて、政治的センスが悪すぎる。維新との対決姿勢が決定的に欠けているし、自民党と野党の違いを鮮明にすることにもならない」。

山本代表が野党第1党党首と同等以上の発信力を発揮しているのは、「提案型野党」を掲げる泉代表の存在感不足の裏返しでもある。枝野幸男前代表が辞任して以降、自民党追及の見せ場になっていた野党合同ヒアリングは一度も開催されず、国会論戦も低調で無風に近い状態。「辻元清美(前衆院議員)がいない国会は面白くない」という声が大阪のみならず、全国各地の支持者から聞こえてくるのは当然で、立民を子羊集団のように変質させ、共産排除の芳野友子連合会長に配慮して野党連携(選挙協力)も後退させた“A級戦犯”は泉代表といえる。

この野党第1党の機能(戦闘力)低下状態が政権与党や維新を勢いづかせ、参院選楽勝ムードを作り出す一大要因であるのは確実で、山本代表も議員辞職会見で「危機感がなさすぎる。闘う気があるのか」などと問題視した。

枝野前代表も同じ危機感を抱いていた。代表を退いてから公的な場での発信が激減していたが、5月4日に参院選(全国比例)に向け全国行脚中の辻元清美前議員とともに京都で街宣、久しぶりに“枝野節”を披露した。

「いま国会の中で緊張感が失われています。でも今、緊張感を失っていいような状況ではない。ウクライナにロシアが軍事侵攻をした。今の政府やそれを支えている与党や、与党だか野党だかわからない人たちは何だか知らないが、この機会に行け行けドンドン、ノー天気なことを言っています。でも、たとえば、ロシアがウクライナにやっていることを見て最初に気がつかないといけないことは、私は『早く原発を止めろ』だと思う」。

「海外にもし日本を攻撃しようという国があったら核装備なんか要りません。日本の原発に1発、通常ミサイルを撃ち込めば、原爆を撃ち込んだのと同じことになるのではないですか。それなのに、こういうリアルなリスクについて(国会審議で)全然出てこない。むしろ、この機会に原発をもっともっと稼働させようというピント外れのことをやっている。なんでこんなことになるのですか」。

枝野氏が直接的に泉代表を批判することはなかったが、国会の緊張感喪失の一因が「追及ばかり」との批判を恐れて“提案型”に変質した立民新体制と指摘しているようにも聞こえた。

そんな枝野氏の問題提起については、維新キラーの大石議員も5月3日の憲法集会でこう挨拶していた。

「(改憲で)緊急事態条項を設けてフリーハンドで最後は中国と戦争をやろうとしている国はアカンと違うのか」。

「戦争を大義に私たちの生活が奪われていく。『戦争はもう嫌だ』『生活者は生活を向上させる権利がある』という声を世界の人たちと上げていくのが、憲法を守ることであり、一部の上級国民のための政治を終わらせることではないかと私は思います」。

参院選の構図が明確になっていく。改憲や核共有議論や原発再稼働などを一気に進めようとする自民や維新などの“ウクライナ戦争便乗(火事場泥棒)勢力”と、原発攻撃リスクを直視する立民・共産・社民・れいわが激突するというものだ。

・新潟県知事選で見えた参院選の戦略

「新潟県知事選」(5月29日投開票)が告示された5月12日、原発再稼働反対を訴える片桐奈保美候補は第一声の前に、世界最大の東京電力・柏崎刈羽原子力発電所近くの砂浜を訪れた。

「変えちゃえ、新潟ココから」と書かれた横断幕を掲げた支援者とともに、手紙付の風船を解き放ったのだ。

「もし原発が事故を起こしたら、放射能が風に乗ってここまで来る」と記された手紙には、拾った場所の記入と投函要請もなされていた。60年前に土地を売って後悔した人とここで会ったと振り返りつつ片桐氏はこう訴えた。

「ウクライナのヨーロッパ最大の原発が攻撃されました。柏崎刈羽原発も7号機まで動くと世界最大の原発です。これが戦争で攻撃されるようなことがあってはなりません。新潟でも他人事ではない。私は原発を再稼働させません。国の言いなりにはなりません」。

JR新潟駅前での第一声には、改選を迎える立民の森ゆうこ参院議員(新潟選挙区)と前新潟県知事の米山隆一衆院議員(新潟5区。無所属)が駆け付けたが、西村ちなみ幹事長(新潟1区)や泉代表の姿はなかった。

森氏が「もう岸田政権はとにかく再稼働、再稼働です。この再稼働を認めるのか認めないのか。曖昧なことを言うのはやめてハッキリ物を言ってほしいと思う」と2期目を目指す花角英世知事に注文をつけると、米山氏も「三つの検証が終わるまではわかりませんと、花角さんは何も言っていない。でも4年間あった。『意図的にごまかしている』と言われても仕方がない」と訴えた。

実際に花角氏は、連合新潟(牧野茂夫会長)が支援に回ったためか、4年前にチラシで出した「脱原発」を封印。「検証委員会の結論待ち」という前回の知事選街宣内容を繰り返すだけで、1期目の怠慢ぶりが露呈していた。

原発攻撃リスクについて語ることもなかったので、告示日の街宣後に直撃、「“花角丸”は再稼働ありき、原子力ムラに向かうのか」「今回は脱原発は言わないのか。隠れ原発推進派か」と声掛けをしても、花角氏からは一言も返って来ることはなかった。
告示6日後の5月18日、山本代表がJR長岡駅前で片桐氏への応援演説をした。

「リスクが大きいのが世界最大の新潟の柏崎刈羽原発ですよね。そこに対して前の(米山)知事がちゃんと『3つの検証(委員会)』と称して歯止めをかけてくれていた。それを次々と反故にするようなことを進めてきた花角さん。いい加減にしてほしい。一部の既得権のために、新潟県民の生命財産ばかりか、この国を巻き込むような再稼働は許されません」。

「自然エネルギーに国が大々的に応援をするためには、原発をもう止めないといけない。その時に来ている」。

「新潟から原発をやめましょう。どうでしょう。その責任を果たすのはこの人しかいない。新潟県のために何が必要か。その愛の塊と言ってもいい人に全力の応援をお願いしたいのです」。

参院選の主要争点の一つは、ウクライナ侵攻での原発攻撃リスク露呈を受けて原発ゼロを加速するのか、それとも再稼働を促進するのか、であった。しかも泉代表は会見で片桐氏と同じ主張を述べてもいた(「紙の爆弾」6月号参照)。それなのに参院選前哨戦の新潟県知事選でマイクを握った党首は、山本代表だった。

維新に野党第一党の座を奪われる寸前なのに、いまだに危機感が乏しい泉代表ら立民執行部が心機一転、戦闘力をアップするのか。これが参院選の結果を左右する一大要因といえるのだ。

(月刊「紙の爆弾」2022年7月号より)

 

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横田一 横田一

1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『岸田政権の正体』(緑風出版)。

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