
☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年5月16日):ポール・クレイグ・ロバーツ:トランプ大統領の提案する「和平案」は何を意味するのか?
国際※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。
三匹の賢い猿は、鷲のふりをしているハトが本当は何をしようとしているのかを完全に知っている
幼児かんしゃく(Toddler Temper Tantrum TTTのようなトランプ関税騒動(Trump Tarrif TizzyTTT)は、現在145%まで加速し、さらに増加中だが、チェス盤の賭けを打ち砕く、またしても雷鳴がトレードマークのハトである。
それはうまくいかないだろう。トランプは中国から「取引を成立させる」ために電話がかかってくると主張した。これはリアリティ番組の領域だ。現実はむしろ、国務院関税委員会の声明に近い。「米国から中国への輸出品は、現行の関税率では既に市場に受け入れられない状況にあるため、米国が中国製品に更なる追加関税を課しても、中国はそれを無視するだろう」。
直訳:騒ぎ立て続けろ/関税をかけ続けろ。われわれは気にしない。そして、あなた方からの購入をやめる。すべての購入をやめる。
中国外務省:「関税をふりかざす野蛮人は中国からの電話を決して期待できない」
基本的な数値。中国の2025年のGDPは5%と予測されている。米国からの輸入は中国のGDPに占める割合はせいぜい4%に過ぎない。対米輸出全体に占める中国のシェアは2024年には13.4%に低下した。
ゴールドマン・サックス(中国共産党の「代弁者」ではない)は、TTTの2025年の中国のGDPコストはわずか0.5%であるのに対し、米国はGDPの2%にも上ると予測した。まさに逆効果と言えるだろう。
さらに、今後北京にとって最も重要なのは、サプライチェーン(物資供給網)の多様化を継続することだ。
アジア全域で、新たな動きが始まっている。習近平国家主席はまもなくASEANミニツアー(ベトナム、カンボジア、マレーシア)を開始する。地政学にますます重点を置く上海協力機構もまもなく会合を開く。EUは、その「エリート層」たちの虚言にもかかわらず、中国との貿易協定締結を熱望している。
上海の復旦大学アメリカ研究センター副所長の趙明浩は、現在のこの熱狂を「戦略的決意のゲーム」と呼んでいる。
以前、北京人民大学の国際関係学の花形教授であり、新シルクロードの専門家でもある著名な王毅偉は、現在の関税率ではすでに中国の対米輸出は「ほぼ不可能」になっていると指摘していた。
この分析では、中国がTTTに対して「力より礼儀」の姿勢で対処し始めたが、その後「どうでもいい」に転じ、米国株への非対称攻撃において「タイミングの芸術」を磨いてきたことを指摘した。
地球上で最も多くの小規模貿易業者が集まる広大な義烏(イーウー)国際貿易城を、今、訪問してみれば、中国貿易が実際どう動いているかが否応なくわかるだろう。
義烏市の驚異的な取引量のうち、米国との取引は10%未満だ。義烏小商品城の7万5000社の事業者のうち、米国と取引があるのはわずか3000社強に過ぎない。
二人の中国嫌いが出会う一つの幻影
TTT は主に、経済顧問のピーター・ナバロと財務長官のスコット・ベセントという、傲慢で無知なトランプ陣営の 2 人の粗野な中国嫌いの産物であり、彼らは中国のあらゆることについて全く知識がない。
実際、最初からゲームを投げ出したのはベッセントだった。
「これは大統領の戦略によるものです・・・大統領が中国を不利な立場に追い込んだと言ってもいいでしょう。中国はそれに反応しました。彼らは世界に向けて悪役であることを示しました。そしてわれわれは、報復しなかった同盟国や貿易相手国と協力する用意があります。」
粗雑な罠だ。狙いは中国だけ。当初の安っぽい筋書きとは全く関係がない。マフィア並みの関税を地球のほぼ全域、ペンギンも含めて課す、という筋書きだ。報復しないなら構わない。報復するなら、もっと厳しくする。
いわゆる「ミラン・ミラージュ」――トランプ大統領の経済ブレーンとされるスティーブン・ミランにちなんで名付けられた――のことだ。実際に急速に進行しているのは、関税は他国における現在の通貨安によって賄われるという愚かな考え(ミランの白書はhttps://www.hudsonbaycapital.com/documents/FG/hudsonbay/research/638199_A_Users_Guide_to_Restructuring_the_Global_Trading_System.pdf)を飛び越え、世界貿易センターとしての米国の制御不能な破壊である。
関税を一時停止した理由を問われると、トランプはこう答えた。「人々が少し行き過ぎていると思いました。人々は少し興奮し始めていたのです。そして、恐怖を感じ始めました」。
ナンセンスだ。トランプは、アメリカの寡頭政治家、ジェイミー・ダイモンらがひどくパニックに陥り、さらに債券市場の大混乱も重なって、方針転換を余儀なくされたことを、公に認めることはとうていできない。
新自由主義の天地において、市場の女神に手を出すことのできる者は誰もいない。
TTTの集中砲火の嵐に巻き込まれた世界の大多数の国々の長期戦略については、中国やEUのような大国は言うまでもなく、それらはすべて米国市場への依存を積極的に減らすだろう。
トランプとその無知な顧問たちが提示した手の込んだ「取引」は、またしてもマフィアの「断れない提案」に矮小化された。ほぼ全ての国々にとって最大の貿易相手国である中国との貿易を、あるいは大幅に縮小し、さらに特権国家(アメリカ)との貿易を縮小し、さらに10%の関税を課すというものだ。経済主権と戦略的柔軟性など、どうでもいい。またしても、だ:私たちのやり方か、それとも – 関税 – の道か、なのだ。
現実は、しかし、米国が第三国から中国製品をますます輸入する一方で、中国は引き続きその対価を受け取ることになるだろう。中国はASEANやその他のグローバル・マジョリティ諸国への輸出をさらに増やすだろう。
現状では、トランプ大統領の「計画」は(もし何かあるとすれば)同盟国を「安定」させつつ、すべての戦力を中国に集中させることであり、理論的には中国の複雑なサプライチェーンを混乱に陥れ、企業に生産ラインを例えばベトナムやインドに移転させることになる。
揺さぶりは結局破滅へ
中国封じ込めは猛烈に加速するだろう。技術規制、投資のレッドライン(譲れない限界)、そしてもちろん追加制裁の津波が押し寄せると予想される。中国嫌いのベセントは、米国証券取引所から中国株の上場廃止の可能性も否定していない。「あらゆる可能性が検討されていると思う(・・・)それはトランプ大統領の決断だ」
一方、中国は容易に核兵器に手を染め、米国債の大量売却を決断し、破滅的な連鎖的影響をもたらす可能性がある。1月時点で、中国は7600億ドルの米国債を保有していた。中国社会科学院の研究者、ヤン・パンパンとシュー・チウヤンは、外交的な手腕を発揮しながら、米国債の今後の動向は依然として「極めて不透明」であると指摘している。
一方、ブリッジウォーターの億万長者投資家レイ・ダリオは、鋭い意見を述べる一方で、外交的な側面も重視した。「私たちは主要な金融、政治、地政学的な秩序が教科書どおりに崩壊しつつあるのを目にしているのです」。
米国主導の「協調的な世界秩序」はもはや存在しない(実際、それは協調的とは程遠いものだった)。ダリオは少なくとも、「米国主導の貿易戦争、地政学戦争、テクノロジー(科学技術)戦争、そして場合によっては軍事戦争」に表れている一国主義がわかっている。
中国外務省の林建報道官は、事実上、北京の立場を総括した。最近まで中国が掲げていた「ナイスガイ」の姿勢はもはや通用しない。米国が関税戦争と貿易戦争を主張するならば、中国は最後まで戦う。
というわけで、現在に至っている。そしてまた、混沌の帝国(アメリカ)がBRICSに対立するという図式だ。
混沌の帝国(アメリカ)は、対等の競争相手である中国との激しい地政学的戦争に乗り出し、主権国家であるイランとの激しい軍事戦争を検討し、同時に、核兵器および極超音速兵器を保有するロシアをなだめ、ウクライナでの代理戦争をある程度凍結させるという曖昧な取引を成立させようとしている。
新たなプリマコフ・トライアングルであるRIC(ロシア・イラン・中国)は、こうした動きを完全に把握している。プーチン大統領は、中国には「虎が谷間で闘う時、賢い猿はじっと座って結末を見守る」というすぐれた諺で、米中貿易戦争におけるロシアの立場を比喩的に表現した。
今はむしろ、鷲のふりをした鳩が本当は何をしようとしているのかを三匹の猿は完全に知っているという状況だ。
※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS http://tmmethod.blog.fc2.com/
「なぜ中国は「関税をふりかざす野蛮人」に電話をしないのか。
」(2025年5月18日)http://tmmethod.blog.fc2.com/
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また英文原稿はこちらです⇒Why China won’t call a ‘tariff-wielding barbarian’
筆者:ぺぺ・エスコバル(Pepe Escobar)
出典:Strategic Culture Foundation 2025年4月12日