【連載】今週の寺島メソッド翻訳NEWS

☆寺島メソッド翻訳NEWS(2025年6月8日):イスラエルはアメリカ人の支持を失なっている。民主党は聞く耳を持っているか?

寺島隆吉

※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。

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2025年4月25日、ワシントンD.C.で、ガザのための世界行動デーの抗議活動参加者が国務省からホワイトハウスまで行進した。(ダイアン・クラウタマー/CC BY-NC-SA 2.0)

ここ数カ月、複数の新たな世論調査が、イスラエルがアメリカ人の支持をどれほど失っているかを明らかにしている。4月初旬には、ピュー・リサーチ・センターの世論調査が、アメリカ人の成人の半数以上がイスラエル国家に好意的ではないという結果を発表し、大きな注目を集めた。これは2023年3月から10%以上増加している。また今月、イスラエルがガザ地区全域を占領するための新たな軍事作戦を開始したことを受け、データ・フォー・プログレスが実施した新たな世論調査では、アメリカ人有権者の76%がガザにおける恒久的な停戦を支持し、51%がドナルド・トランプ大統領は停戦を要求すべきだと考えていることが明らかになった。

こうした劇的な変化は、11月の米国大統領選挙における民主党の敗北にガザが決定的な役割を果たしたことを示す最近の複数の世論調査と並行して起きている。2月に中東理解研究所(IMEU)政策プロジェクトが実施したユーガブの世論調査では、カマラ・ハリス前副大統領に投票しなかった元民主党支持者の主な理由としてジェノサイドが挙げられた。

そして、新たなデータ分析によると、こうした「単一課題」のジェノサイド反対派の有権者以外にも、民主党は、インフレ上昇、経済状況、その他の国内問題を最大の懸念事項としていたより多くの有権者を、民主党がガザの戦闘を止めることに失敗したことを理由に失ったことが示唆されている。言い換えれば、11月の選挙は、民主党支持者の右傾化というよりも、彼らの多くがパレスチナ問題を傍観したという事実によって形作られたと言えるだろう。

これらの調査結果は、パレスチナ人の権利とパレスチナ国家への支持が政治指導層にいる多くの人々が認めようとしているよりもはるかに高いという証拠になるだけでなく、民主党がこれらの問題を真剣に受け止めようとしないことが重大な政治的負い目となっているという証拠にもなる。

しかし、トランプ大統領就任から4カ月以上が経過したが、民主党は自らを民主主義を守る政党と位置づけているにもかかわらず、世論に応えられず、イスラエルへの支持に重大な変化を示すこともできていない。

例えば4月初旬、コリー・ブッカー上院議員はトランプ政権に抗議し「民主主義を守る」ため、上院本会議場で25時間以上に及ぶ演説を行ない、議会の記録を破った。その2日後、同議員はイスラエルが停戦協定を破りガザへの攻撃を再開した直後、イスラエルへの数十億ドル規模の新規兵器販売を阻止する2つの決議案に反対票を投じた。

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2019年8月9日、アイオワ州クリアレイクのサーフ・ボールルームで開催された2019年アイオワ州民主党の集会で、出席者と話すコリー・ブッカー上院議員(Gage Skidmore/CC BY-SA 2.0)

一方、混乱が激しいミシガン州では、ダナ・ネッセル司法長官が反トランプ派の民主抵抗運動のリーダーとしての自覚を強めている。しかし、パレスチナ人権運動に関してはトランプ氏の戦略を踏襲していた。その運動が、大学キャンパスで親パレスチナ活動家を標的にし、脅迫的な行動をとっている地元法執行機関の行動に反対していた時でさえ、だ。

民主党は組織レベルでも、イスラエルとパレスチナ問題における立場を変えるための実質的な計画を全く示していない。これは、2月に民主党全国委員会(DNC)の新委員長が選出されたことで明らかになった。複数の親パレスチナ派団体は、11月の選挙を民主党の対パレスチナ政策の失敗に対する告発と捉え、党に対しイスラエルへの無条件支持を再考するよう圧力をかけ、アラブ系、イスラム教徒、そして親パレスチナ系の有権者の信頼を取り戻すための計画を実行する委員長の選出を強く求めていた。

民主党全国大会の有力候補であるケン・マーティン、マーティン・オマリー、ベン・ウィックラーの3人は、この問題に関して明確な見解を示せなかった。だが3人のうち2人は、2024年の民主党全国大会でパレスチナ人の演説が禁止されたことについて遺憾の意を表明している。しかし、新委員長に選出されたケン・マーティンは、親イスラエル・反パレスチナの立場を貫く顕著な経歴を持ち、「川から海まで、パレスチナは自由になる」というスローガンが広く叫ばれていることを「過激主義的」で「不快」だと非難している。

マーティンは元労働組合幹部として他の分野では進歩的な政治的立場をとっているかもしれないが、「パレスチナ問題以外は進歩的」という彼の姿勢は、民主党が依然として空気を読めていないことを明確に示している。民主党の戦略家たちが2026年の議会過半数奪還に向けた戦いに備える中、新たに出された世論のデータへのこうした鈍感さは深刻な結果をもたらす可能性がある。

「ソファに座ろう」(傍観しよう)への移行

11月の選挙における民主党支持率の低下には、いくつかの見方がある。確かに、民主党はジル・スタインのような右派や左派の第三政党候補、そしておそらくは保守派の第三政党候補からも票を失った。しかし、証拠は、右傾化は「ソファに座ろう」ほど重要ではないことを示唆している。つまり、多くの民主党支持者は単に投票しなかったか、党の現状維持候補に投票することは良心が許さなかったのだ。

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11月の大統領選挙を前に、ワシントンD.C.で抗議活動を行なう人々がイスラエルへの武器禁輸を要求している。(ダイアン・クラウタマー/CC BY-NC-SA 2.0)

全米の投票率集計によると、投票率は2.5%減少し、2020年と比較して今回の選挙では投票した有権者数が約660万人減少した。この660万人のうち、約40%は民主党が強く支持する州に集中しており、人口比で民主党の選挙人票が最も多い州であった。これらの州では、2024年のハリスへの投票数は、2020年のジョー・バイデン前米大統領への投票数よりも260万票少なかったが、そのうち左派系第三政党候補への投票はわずか69万票に過ぎなかった。この得票数の低下は、左派の深刻な動員力低下を示すものであり、右傾化を示すものではない。

激戦州では、共和党は主に共和党の支持基盤と郊外地域で票を獲得したものの、投票率は2020年と比較してほぼ横ばいだったという点で、多くの報告書で一致している。しかし、民主党の支持基盤である激戦州の都市部のほとんどでは、投票率が著しく低下した。これには、主要な激戦州4州で最大の都市であるデトロイト、フィラデルフィア、フェニックス、アトランタが含まれる。

そのため、誤解を招くメディアや経済に関する曖昧な反現職感情に動かされた郊外の民主党員を嘆く人が多い一方で、選択肢のない選挙で一番やる気を失ったと感じたのは、激戦州の都市部の民主党員たちだった。そこではパレスチナ権利運動への支持とその認識が最も強く、多くの世論調査で得られたよりもはるかに広範だった。

選挙直前に実施されたYouGov-Underpin世論調査のふるい分け項目によると、ガザでのイスラエルのジェノサイドへの反対は、実際には激戦州の無党派層と民主党支持者の24%にとって、投票のトップ4の争点だった。ガザに関連した立場のはっきりしない人々の無作為化対照試験でも、この問題を有権者に思い出させることは、激戦州の有権者の意欲を低下させるだけであることが示された。選挙前の数週間、パレスチナ人の子どもたちがバラバラにされ、虐殺されている映像が何度も流された。そうしたニュースは報道機関やソーシャルプラットフォームで報道されなかったにもかかわらず、多くの有権者はハリスとトランプの間に提示された欠陥のある二分法を拒否し、選挙を見送った。

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2024年8月19日、シカゴで「DNC 2024に向けたデモ行進」に参加する抗議者たち。(Chris Bentley/CC BY-NC-ND 2.0)

指標としてのパレスチナ問題

ガザ問題が既存の不満に加え、どれほど深刻化していたかを過小評価することはできない。圧倒的な民主党支持のみならず、アメリカ国民の大多数の支持を得ている政策課題が、バイデン政権下では未解決のまま、あるいは停滞したままだった。民主党が立法府と行政府で多数派を占めていた時代、彼らは国民に支持される政策を成立させることができなかった。常識的な銃規制や身元調査の普遍化、有給休暇や就学前教育の導入、最高裁判所の権限拡大、学生ローンの免除、生殖に関する権利の法制化といった政策だ。この間一貫して民主党政権は、共和党はアメリカの民主主義に脅威を与えていると警告していたのだ。

ハリスが民主党の旗手となった時でさえ、有権者は、常識では理解しにくいが、これまでと同じ約束を繰り返すだけのリーダーに、より多くのことを期待するよう仕向けられていた。今回の選挙でインフレに関連した反現職感情が大きな役割を果たし、それが強い親パレスチナ感情と重なったことを考えると、世論調査によれば、激戦州の民主党員と無所属者の8.4%もの有権者が、ジェノサイドが相も変わらず拡大していることに動揺した可能性が高い。

民主党に必要だったことは、せいぜい別の候補者を立てることだったのだろうが、それ以上に重要なのは、ガザ問題に対する政策転換だった。これは有権者にとって重要な問題であるだけでなく、民主党政権が選挙日前に変更できる行政権を持つ数少ない政策の一つでもあった。新政権が日に日に権威主義的になるにつれ、イスラエルに対する世論の変化、そして米国法や国際法へのイスラエルの無関心は、民主主義制度の弱体化を示す明白な兆候となっている。野党民主党が、民主主義と国際規範の両方に対するこの攻撃を包括的に批判できないことは、寡頭制、テクノクラート、そして権威主義的な未来に対抗するために社会運動に対応し、それを活用する能力を損なうことになるだろう。

それでも、一部の民主党員は、より広範な民主主義推進政策の一環として、パレスチナ人の権利支援に道を切り開いている。ペンシルベニア州選出の下院議員サマー・リーも、パレスチナ人の権利を声高に訴える人物であり、同氏の選挙区でカマラ・ハリスを約1.4%上回る得票率で圧倒的な勝利を収めた。ニューヨーク市長選では、進歩派有権者の間で人気が高かったゾーラン・マムダニ州議会議員が、パレスチナ人の権利を公然と支持し、親パレスチナ活動への弾圧に反対する候補者として、前例のない資金を集めている。

パレスチナ系アメリカ人の選出議員らも、ガザでの停戦を支持し、パレスチナ人が度重なる虐殺を受けている事実を認める法案の成立を推進しており、それぞれの選挙区で幅広い支持を維持し続けている。その中にはコロラド州選出のイマン・ジョデ上院議員やラシダ・タリーブ下院議員も含まれる。

世論調査で米国人のイスラエル国家への支持率が大幅に低下していることが明らかになったことで、より多くの民主党員がガザにおけるジェノサイドに対し、同様に強硬な姿勢を取るようになるかもしれない。実際、親パレスチナの言論の自由が反移民弾圧や米国憲法上の権利の侵害の火種として利用される中、パレスチナ人の権利問題は、アメリカの政治体制が強まる権威主義に対抗し、アメリカの世論に応えられるかどうかの指標であり続けるだろう。

ハラ・アフマドは、パレスチナ政策ネットワーク(アル・シャバカ)の政策アナリストであり、独立研究者、ライター、政策コミュニケーションの専門家。彼女は複数の世論調査を実施し、2024年の選挙サイクルにおける進歩的な選挙戦略について助言を行なった。また、ブログ「アンダーピン」の主幹も務めている。

※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS http://tmmethod.blog.fc2.com/

の中の「イスラエルはアメリカ人の支持を失なっている。民主党は聞く耳を持っているか?」(2025年6月8日)

http://tmmethod.blog.fc2.com/

からの転載であることをお断りします。

また英文原稿はこちらです⇒Bill Gates and the WHO Target 640,000 Palestinian Children
新たな世論調査では、イスラエルの大量虐殺に対する幅広い反対と、ガザ問題における民主党の強硬姿勢が11月5日の選挙の投票率を大きく低下させたことが示されている。
筆者:ハラ・アフマド(Halah Ahmad)https://www.972mag.com/american-support-israel-polls-democrats/

寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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