【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2025.06.29XML: 英情報機関MI6の次期長官の祖父がナチスの憲兵としてレジスタンス殺害の過去

櫻井春彦

イギリスの対外情報機関であるSIS(通称MI6)の長官が今年10月1日にリチャード・ムーアからブレーズ・メトレベリへ交代する予定なのだが、この人選が問題になっている。​彼女の父方の祖父にあたるコンスタンチン・ドブロボルスキーがナチス占領下のウクライナでナチス親衛隊の戦車部隊に所属した後、憲兵隊に入った人物。​その際、反ナチスの抵抗運動に参加していた数百人のウクライナ人を処刑したと自慢、「虐殺者」と呼ばれていたと伝えられているのだ。

 

メトレベリはケンブリッジ大学を卒業した後、表世界から姿を消しているが、祖父に関する情報を消し去ることはできない。この話を最初に伝えたのはイギリスの新聞、デイリー・メイル紙だが、こうした情報が漏れることをイギリス政府のわかっていたはずで、同紙はダメージ・コントロールのために記事を書いたのではないだろうか。イギリスの外務省はメトレベリが父方の祖父と面識がなかったと主張、次期長官を擁護している。

 

アメリカ/NATOはウクライナでステパン・バンデラの信奉者を手先として利用してきた。2014年のクーデター当時、彼らは自分たちがナチズムに傾倒している事実を隠していなかった。ウクライナにおけるネオ・ナチの源流はOUN(ウクライナ民族主義者機構)。1929年に創設されたが、1930年代の後半に内部で対立が激しくなる。そしてMI6のフィンランド支局長だったハリー・カーはバンデラ派を雇う。

 

1941年3月になるとOUN-M(メルニク派)とOUN-B(バンデラ派)に分裂した。ドイツ軍は1941年6月にソ連へ軍事侵攻、リビウを制圧し、ユダヤ人を虐殺し始める。6月30日から7月2日にかけて犠牲になったユダヤ人は3万8000名から3万9000名だとされている。ドイツがソ連へ攻め込んだ後、OUN-Bは武装集団を組織したが、ハインリッヒ・ヒムラーの指示で1941年8月と9月にその集団は警察組織へ作り替えられた。(Grzegorz Rossolinski-Liebe, “Stepan Bandera,” ibidem-Verlag, 2014)

 

1943年春にOUN-BはUPA(ウクライナ反乱軍)として活動し始め、その年の11月には「反ボルシェビキ戦線」を設立。摘発の対象になっていたはずのOUNやUPAの幹部だが、その半数近くがウクライナの地方警察やナチスの親衛隊、あるいはドイツを後ろ盾とする機関に雇われていたと考えられている。その後、UPAは民族浄化に乗り出し、ユダヤ人やポーランド人を殺戮し始めた。妊婦の腹を引き裂いて胎児や内蔵を取り出し、脅しのために灌木に引っかけるといったことをしたと伝えられている。(Grzegorz Rossolinski-Liebe, “Stepan Bandera,” ibidem-Verlag, 2014)

 

ナチスは戦況が悪化してくるとOSS(戦略事務局)のアレン・ダレスたちと接触しはじめたが、OUN-Bを含む東ヨーロッパの反ソ連勢力もドイツが降伏するとアメリカやイギリスへ接近、まずイギリスの保護下へ入る。ドイツが降伏するとOUN-Bのメンバーはオーストリアのインスブルックへ逃げ込んだ。ソ連に追われていた彼らとしては、アメリカ、イギリス、フランス、ソ連の4カ国に占領されていたウィーンは危険な場所だった。1945年夏になると、バンデラたちはドイツの情報法機関を統轄することになるラインハルト・ゲーレンの機関に匿われる。

 

ドイツが降伏すると、イギリスのウィンストン・チャーチル首相はソ連に対する奇襲攻撃を目論み、アンシンカブル作戦が作成された。7月1日にアメリカ軍64師団、イギリス連邦軍35師団、ポーランド軍4師団、そしてドイツ軍10師団で「第3次世界大戦」を始めるというものだが、イギリスの参謀本部がこの計画を拒否したので実行されていない。

 

第2次世界大戦後の1946年4月に反ボルシェビキ戦線はABN(反ボルシェビキ国家連合)へと発展し、66年にはAPACL(アジア人民反共連盟、後にアジア太平洋反共連盟に改名)と合流してWACL(世界反共連盟。91年にWLFD/世界自由民主主義連盟へ名称変更)の母体になる。(Scott Anderson & Jon Lee Anderson, “Inside the League”, Dodd, Mead & Company, 1986)

 

戦争が終わった直後、MI6は反ソ連組織の勢力拡大を図り、1947年7月にインテルマリウムとABNを連合させ、9月にはプロメテウス同盟も合流させた。翌年の後半、新装ABNはバンデラの側近だったヤロスラフ・ステツコを中心に活動を開始。ステツコと同じようにバンデラの側近だったミコラ・レベドはアメリカのアレン・ダレスの配下に入る。

 

ステツコの人脈は後にKUN(ウクライナ・ナショナリスト会議)を創設、1986年に彼が死亡すると妻のスラワ・ステツコが引き継ぎ、2003年に死ぬまで率いることになる。

 

KUNの指導者グループに所属していたひとりにワシル・イワニシンなるドロボビチ教育大学の教授がいたが、その教え子のひとりであるドミトロ・ヤロシュはイワニシンが2007年に死亡すると後継者になる。このタイミングでヤロシュはNATOの秘密部隊ネットワークに参加したと言われている。

 

イギリスの情報機関は19世紀からロシア制圧を目論んでいる。第1次世界大戦ではロシアとドイツを戦わせるように画策、地主や農民の意向を受けてドイツとの戦争に反対していたグリゴリー・ラスプーチンを1916年12月30日に暗殺している。

 

暗殺のため、1916年にイギリス外務省はサミュエル・ホーアー中佐を責任者とするMI6のチームをペトログラードへ派遣する。そのチームには。スティーブン・アリー、ジョン・スケール、オズワルド・レイナーが含まれていたが、レイナーはオックスフォード大学の学生だった当時からロシアの有力貴族であるフェリックス・ユスポフ公と親密な関係にあった。アリーはモスクワの近くで1876年に生まれ、15歳の時にイギリスへ帰国、家族の経営するアリー・アンド・マクレランで働くようになるが、その裏では情報機関員として活動していた。スティーブンが生まれた場所はモスクワ近くの家はユスポフの宮殿で、父親はユスポフ家の家庭教師だったとも言われている。(Joseph T. Fuhrmann, “Rasputin,” John Wiley & Son, 2013)

 

ラスプーチンを暗殺するために3種類の銃が使われているが、トドメを刺したのは455ウェブリー弾。イギリスの軍用拳銃で使われていたもので、殺害現場にいた人の中でその銃弾を発射できる銃をもっていたのはレイナーだけだった。

 

この出来事以来、イギリスはロシア/ソ連を倒そうとしている。その最前線にいるのがMI6であり、そのトップにナチスの家系の人物が就任する。

 

ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は、西側諸国の要職にナチスの子孫を意図的に昇進させる傾向は明らかだと述べているが、その通りだ。そもそもナチスのスポンサーは米英金融資本だった。

 

ザハロワはナチスの家系だと指摘しているのはドイツのフリードリヒ・メルツ首相、アンナレーナ・ベアボック全外相、カナダのクリスティア・フリーランド運輸内務貿易相、ジョージアのサロメ・ズラビシビリ元大統領を挙げているが、日本でも思想や言論を統制するシステムの中核だった思想検察や特別高等警察の人脈は戦後も要職についている。裁判官も責任を問われなかった。

 

現在、EUはウクライナでロシアと戦っている。アメリカ海兵隊の元情報将校でUNSCOM(国連大量破壊兵器廃棄特別委員会)の主任査察官を務めた​スコット・リッターのドキュメンタリー​によると、ウクライナで大統領を名乗っているウォロディミル・ゼレンスキーはMI6のエージェントであり、そのハンドラー(エージェントを管理する担当オフィサー)はムーアMI6長官だと推測されている。

 

リッターのドキュメンタリーには、ゼレンスキーが2020年10月にイギリスを公式訪問した際、ムーア長官を非公式に訪問した際に撮影された映像が含まれている。訪問したゼレンスキーをジャーナリストが撮影したのだ。会談後、ゼレンスキーの警護担当者はウクライナ人からイギリス人へ交代になったという。

 

メトレベリをMI6長官にするという人事は、イギリスがロシアとの戦争を継続するという意志を示すものだと言われても仕方がないだろう。

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