【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2025.07.07XML: ウクライナで敗北、イラン攻撃を失敗した米国の意向に反し、中露に接近する韓国

櫻井春彦

韓国では6月4日から大統領を務めている李在明はロシアや朝鮮との関係改善を図りつつあり、韓国のメディアによると、アメリカ、欧州諸国、日本、中国、インド太平洋地域に加え、ロシアへの特使派遣を検討している。前任者の尹錫悦はアメリカの意向に従い、中国やロシアを「仮想敵」とするアメリカ、日本、韓国の「三国同盟」を推進していたことを考えると、大転換だ。

 

尹錫悦は検事時代の2016年、大統領だった朴槿恵を巻き込む崔順実スキャンダルの捜査を指揮、これは朴大統領弾劾につながった。中国との関係を重要視、弾道ミサイル迎撃システムのTHAAD(終末高高度防衛)を配備することに難色を示していた朴槿恵をアメリカのバラク・オバマ政権は嫌っていた。

 

アメリカ大統領がバラク・オバマからドナルド・トランプへ交代になった2017年4月、THAADは強引に韓国へ持ち込まれた。当時、尹錫悦によって朴槿恵政権は麻痺していた。そして尹は2017年5月から19年7月までソウル中央地方検察庁検事長を務めることになる。

 

ソウル中央地検の検事正になった尹錫悦は李明博元大統領や梁承泰元最高裁長官を含む保守派の主要人物を逮捕、文大統領の信頼を得て検事総長に就任するのだが、彼はアメリカから嫌われていた文在寅政権を攻撃し、文大統領に近く次期大統領候補と目されていた曺国法務部長官を起訴、曺を辞任に追い込んだ。この過程で「正義の人」というイメージができた尹錫悦は2022年5月に大統領となり、彼の指揮で検察は民主党の李在明党首を収賄容疑で捜査しはじめる。

 

一方、日本はアメリカ国防総省の戦略に従い、2010年代に対中国戦争の準備を進めている。その一環として自衛隊は2016年に与那国島でミサイル発射施設を建設、19年には奄美大島と宮古島、そして23年には石垣島でも施設を完成させている。その間、韓国へTHAADを持ち込んだわけだ。

 

南西諸島にミサイル発射基地が建設されつつあった2017年11月、アメリカはオーストラリア、インド、日本とクワドの復活を協議、18年5月にはアメリカ太平洋軍をインド太平洋軍へ名称変更した。

 

尹錫悦はネオコンの意向に従って中国やロシアとの関係を悪化させていくのだが、必然的に韓国経済は悪化してしまう。その結果、国民の支持率は下落、20%を切る頃には10万人の市民が街頭で抗議活動を展開して尹大統領の辞任を要求、妻の金建希が引き起こしたスキャンダルでも大統領は苦しむことになる。

 

追い詰められた​尹錫悦大統領は2024年12月3日にソウルの大統領室庁舎で緊急談話を発表、朝鮮に追従する「従北勢力を撲滅し、自由憲政秩序を守るため非常戒厳を宣布する」と宣言、朴安洙陸軍参謀総長を戒厳司令官に任命した​。その戒厳司令官は国会、地方議会、政党の活動、そして政治的結社、集会、デモなど一切の政治活動を禁じ、すべてのメディアと出版は戒厳司令部によって統制されると発表している。

 

しかし、この戒厳令宣言に反対する人びとが抗議活動を開始、宣言から数時間後に議会は議員300人のうち190名が出席して戒厳令を撤回させる動議を全会一致で可決した。その際、体当たりで議場へ入ろうとした兵士を阻止した人もいたという。

 

その議決を受けて議会の禹元植議長は戒厳令宣言の無効を宣言、与党「国民の力」の韓東勲代表も「戒厳令に基づき軍と警察が公権力を行使することは違法」と発言している。禹議長が撤退を要請した後、軍と警察のメンバーが議会の敷地から立ち去る様子が見られた。

 

こうした経過をたどり、大統領に選ばれた李在明が中国やロシアとの関係修復を目指しているのだが、そうした中、ロシアと朝鮮との関係が急速に強まっている。

 

今年6月26日にロシア軍のバレリー・ゲラシモフ参謀総長はクルスクでの戦闘に朝鮮軍の部隊が参加したことを認め、「戦闘において高い専門性、堅忍不抜、勇気、英雄主義を発揮した」と称賛している。朝鮮軍は昨年12月に発効したモスクワと平壌間の包括的戦略パートナーシップ協定に基づき、派遣された。その規模を西側は約1万2000人だと主張していた。実際、1万から1万3000人程度が派遣されたと見られ、帰国後にその経験を軍全体に伝えることになるだろう。逆に、日本やアメリカの政府が自衛官に実戦を経験させようと考えても不思議ではない。

 

ウクライナ軍は2024年8月にクルスクへ軍事侵攻したが、当初からこれは「自爆攻撃」だとも言われていた。予想通りウクライナ軍は壊滅的な打撃を受け、死傷者は7万6000人以上に達したと推測されている。

 

ウクライナ軍もこうした展開を予想していたが、キエフ政権はロシア政府との交渉材料にしようと目論み、強行して多くの犠牲者を出すことになったようだ。クルスク原子力発電所を制圧し、ロシア政府との交渉材料にしよとしたと考える人もいる。

 

しかし、ウラジミル・プーチン露大統領は4月26日、クルスクからウクライナの侵攻軍を一掃したと発表した。朝鮮軍の参加が戦況に影響を及ぼしたとは考えられないが、意味は小さくない。朝鮮軍の将兵が実戦を経験できたということだ。ちなみに、兵器の近代化を進めている中国軍の弱点は将兵に実戦の経験がないことだとも言われている。

 

アメリカ主導で西側諸国は東アジアで中国やロシアに対する軍事的な圧力を強めてきた。日本のミサイル発射施設の建設もその一環で、朝鮮軍のウクライナへの派兵はそれに対抗する準備のひとつだろう。

 

そのウクライナの状況を見れば、アメリカに操られて戦争に突入すると自国を破滅させることになることがわかる。アメリカやイギリスの支配層にとって「同盟国」は敵である中国やロシアを疲弊させ、破壊するための道具にすぎない。李在明大統領はこうした流れにブレーキをかけて経済発展に繋げようとしているのだろう。

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のテーマは「 ウクライナで敗北、イラン攻撃を失敗した米国の意向に反し、中露に接近する韓国 」(2025.07.07ML)
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