【特集】新型コロナ&ワクチン問題の真実と背景

中国の社会と経済:陰の米中競争―日本に欠けている視点と論点の紹介―(上)

朱建栄

恐らく多くの日本人読者から、「言論統制の厳しい中国で、これらの書き込みが本当に出せるのか、出しても一瞬にして削除されるのではないか」との疑問が湧くかもしれない。結論から言うと、いかなる統制も超越する潜在力を有するネットの神通力と、「上に政策あり、下に対策ある」という中国的な智慧が理解できなけば疑問を解くことはできない。文章を写真版にするなど種々の工夫をすれば、大半は検閲に引っかからないからだ。人による検閲もあるが、10億人以上の発信・伝播という大洪水をすべて検閲することは不可能であり、まさに文字通り、焼け石に水だ。

母校の華東師範大学の許紀霖教授は「2400万の上海人が受けた今回のレッスンは過去30年の啓蒙をはるかに上回る」と題する文章を書いた。

许纪霖:静默2400万上海人上了一30年的启蒙220620 (qq.com)

通过这次经历,每个人都重新认识了自己,认识了人生,认识了这座城市,认识了这个国家,认识了这个世界。

上海静默,不仅对上海,对整个中国都是一个大事件——历史的转变往往都是由一些大事件构成的,它们成为一种枢纽性的现象。我觉得这次静默带来的转折性意义,现在还远远看不出来。一般人只谈到经济冲击,经济冲击是其中一部分,但更大的是另外一些冲击。

抜粋の翻訳:「この体験を通して、誰もが自分、人生、この街、この国、そしてこの世界を見つめ直したのではないか」。

上海の静寂は、上海にとってだけでなく、中国全体にとっても一大事である。歴史的転換は、往々にしていくつかの大きな出来事から発生し、ある種の波及効果となって広がっていく。今回の静寂がもたらした転換の意味は、今はまだわからない。一般的には経済への打撃しか語られないが、それも一部だが、さらに大きないくつかの衝撃があるだろう。

上海的学者らしく、その「衝撃」の内容を詳しく語らないが、上海トップの北京入りの人事への影響だけでなく、政治の在り方、市民の権利意識の向上などが念頭にあったと思われる。

その後、河南省鄭州市の銀行が健康コードを悪用して預金取り出しなどを妨害したことがネットでスクープされて大騒ぎになり、現地の幹部数十人が免職されたと、人民日報が報じた。

1317名村镇银储户赋红码 州多名干部被220622 (people.com.cn)

この問題を「当局がすぐに過ちを是正した」との角度で取り上げるつもりはない。中国は体質的にはまだ発展途上国なので、これと似たような問題は残念ながら山ほどある。こうした問題が克服されなければ真の先進国になれないことを、中国国民も認識したこと。もう一つ、中国国民の「権利意識」が目覚ましく台頭していることに注目することだ。一連の問題は今日にして始まったわけではないが、今日になって権利意識を持つ市民がSNSなどの媒体を利用して一斉に声をあげ始めたのだ。

その延長で中国が主張する「民主主義」と西側の「民主主義」を比較した進藤栄一先生の視点を紹介したい。彼はそれを「西洋流民主主義」と「途上国型民主主義」の相違に分類して比較している。

インタビュー 進藤榮一 筑波大学名誉教授 米中「新冷戦」の背景とその行方()先鋭化する米中対立の深層 : 相互依存深まる米中、全面戦争はありえない 月刊TIMES 22年第2 CiNii Research

ただ、インタビュー記事はネットでは読めないので、紙媒体の『月刊TIMES』誌から読まないといけない。インタビュー記事なので十分に掘り下げて分析しているわけではないが、本質を突いていると思う。中国の民主主義は自国の現状を説明し、それに合わせて問題を解決する理論と方法を提示しているが、「西洋流民主主義」と対抗して取って代わるものではない。経済と社会、国民意識の発展と変化に伴って今後、中身が修正されていくことも当然ありうる。

逆に日本人などは、中国で今現状起こっている問題に対して自らの価値観や物差しに当てはめて判断するべきではない。そのような判断んはこれまで30年以上にわたって、多くの中国に対する偏見や誤りをもたらした根源の一つである。

上海の話を日本と関連する一つの話題で終わることにしよう。上海には何万人もの日本人が在住し、ロックダウンの2か月を共にした。上海人を鼓舞するために、「森爺爺」と自称し、現地在住14年の日本人が「上海の風」という歌を創作し、27人の在住日本人たちは合唱した。このことは上海人を大いに感動させた。その反応は以下の記事の中の書き込み欄で見られる。

刷屏了,上海27名日籍人士共同制,一起吹吹《上海的》 220601 (qq.com)

「上海の風」の歌はYouTubeで鑑賞できる。自分も聞きながら目が潤んだ。

上海の風 -220528 YouTube

 なお、作曲作詞の「森爺爺」についてもYouTubeで紹介がある。

愛してる上海!「上海の風」が好きの森爺爺 220602 YouTube

上海などに見られたような強引の対処の仕方への反発はさておき、中国は「ゼロコロナ」方針を堅持しつつ、具体的対策や制限を柔軟化していくという方向は継続していくと思われる。それには一定の中国的合理性がある。医療体制が弱い農村地帯への拡散と、コロナの(悪い)変異種の再来への警戒、さらに儒教思想に由来する人命優先の考えなどがその根底にあると考えられる。

自然期刊:中國放棄清零將引發「海嘯」、160萬人喪生 220510世界新聞網 (worldjournal.com)

5月発売の「Nature」誌に掲載された中国専門家チームの論文によれば、オミクロン株に対して中国が今年初めから厳しい「ゼロコロナ」政策を実施しなければ、今年5月から7月までの間に大流行が発生し、コロナ感染者数1億1220万人、入院者数510万人、死者数160万人を出すと試算していた。

一時、コロナ対策の「優等生」と持ち上げられた台湾の対策について、日本メディアは近ごろあまり報じていない。実はその感染者数は5月に入って毎日4万人を突破し、一時は9万人台、7月初め現在でも4万人台になっている。そして一人当たりの死者数はとうとう日本を超えた。

「台湾の人口あたり累計死者数が日本を抜いてしまった」。

 

欧米でも感染者数が再度急増し、日本は「第7波」に突入している。変幻自在のコロナをやはり今後も馬鹿にしてはならない。それぞれの事情とそれに合わせた対策を取るしかなく、互いに「自分の体制・やり方が正しい」だけの見方に閉じこもるべきではない。

ちなみに、7月4日の米国独立記念日に、NYだけで14回の銃撃事件が発生し、3人死亡、14人負傷した。イリノイ州では祝賀パレードへの発砲で、6人の死者が出た。

血腥独立日 纽约市一夜爆至少14案致324220706 (qq.com)

これについて日本では淡々と事件そのものを報じているが、仮に中国の国慶節、そのパレードに発砲事件があったらどういう報道になっていただろうとふと連想した。「政治的背景」が根掘り葉掘りされ、「政局不安、民衆の怒り一触即発」が書きたてられただろう。実は米国こそ、政権ないし体制への不満が爆発している最中だ。5月以降の米国で行われた四つの世論調査の結果を紹介する。

83%的美国人认为国家将要失控,拜登和民主党选举或将惨!盖洛普-220525今日 (toutiao.com)

5月24日にギャラップ社が公表した世論調査によると、アメリカ人の83%が、記録的な高インフレ、乳児用粉ミルクの不足、原油高、大規模な銃乱射事件の影響で、米国は「軌道から外れて暴走しかかっている」と答えた。民主党員の満足度は4月から14ポイント低下し、24%に。米国の現状に満足していると答えた民主党員は約4分の1に過ぎず、現大統領任期中の最低値となっている。

議会は依然として国民の間で非常に不人気で、回答者の77%はその活動を評価していないと答えた。

逾半民眾不相信美國有民主 49%根本沒看國會暴亂聽證 220615世界新聞網 (worldjournal.com)

台湾系新聞の報道と解説:6月15日に発表されたヤフーニュース/YouGovが共同で行った世論調査によると、民主党員の55%および共和党員の53%が、米国は将来的に民主主義国家ではなくなる可能性が高いと考えており、米国に対する両党の絶望的な表現を反映している。

独立系や支持政党を明かさない人の49%も同じ見方をしており、米国の民主主義が消滅することはないと考えている人は25%に過ぎず、ほかの25%は「見通せない」と答えた。

近八成美國人認為:拜登帶領國家走上錯誤道路 – 220630拉斯維加斯新聞報 (lvcnn.com)

6月28日、米モーニング・コンサルティング(Morning Consult)とポリティコ(Politico)のウェブサイトが共同で世論調査の結果を発表したが、バイデン大統領は政策的に米国を間違った道に導いている(on the wrong track)と回答したアメリカ人は78%に上り、就任直後より27ポイント増加した。

最も不満に挙げられた問題はインフレ、経済、犯罪であり、さらに、コロナ感染による死亡率の上昇、アフガニスタン撤退、不法移民問題、麻薬の氾濫、ガソリン価格の高騰などだ、という。

美媒:民调显示超半数美国人自己的国家感到失望-220701今日 (toutiao.com)

6月30日、FOXニュース・チャンネルのウェブサイトが最新の世論調査の結果を発表したが、それによると、共和党員の大半と独立系有権者、民主党員の半数近くは自国に不満を感じており、自国に対する誇りが低下している。

「今日のこの国を誇りに感じるか」との質問に対し、「イエス」と答えたのは39%にとどまり、2017年6月の前回の調査より12ポイント下回り、2011年6月以降では30ポイント低下している。

一方、中国の台頭を見たくないため、米議会は中国の「汚名化」に公然と資金を提供して支援する法案を採択しており、これに対する批判の声も出ている。

Congress Proposes $500 Million for Negative News Coverage of China – 220209The American Prospect

記事の一部の翻訳:

現在議会で可決された技術・製造業法案は、中国を批判する海外のオーディエンスのためにニュースを制作するためにメディア機関に5億ドルを拠出している。

法案は「中国の虚偽情報と闘う」ことを目的としたもので、米国が運営する外国メディアサービス機関、米グローバルメディア庁(U.S.Agency for Global Media)や、外国人記者を訓練する現地メディアやプロジェクトに資金を提供する。

先週可決された下院版の立法は、上院のよりタカ派的な中国競争法案USICAをセットにしたもので、同法案は昨年6月に成立した。(中略)上院の法案は、発展途上国への中国の投資を排除することを目的としており、こうした市場での中国のプロジェクトへの批判も奨励している。

北京との緊張の高まりを批判する人々は、反中報道の推進について、報道に関与した記者の信頼性を損なう恐れがあるとして懸念を示している。

「私たちはジャーナリズムへの支援を歓迎している」と、より公平な世界経済を提唱する団体「ジャスティス・イズ・グローバル」のディレクター、トビタ・チョウ(Tobita Chow)氏は語った。「しかし、政府が立法で結論や報道の重点を事前に設定しているのであれば、それは本当のニュース報道とは言えない」。

〇「中国の社会と経済:陰の米中競争―日本に欠けている視点と論点の紹介―(中)」は7月27日に掲載します。

 

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朱建栄 朱建栄

東洋学園大学 教授

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