
書評 青山透子著「日航123便墜落事件 四十年の真実」(河出書房新社)
映画・書籍の紹介・批評私はこれまでに、青山透子氏が刊行してきた日航123便墜落事件に関する著作を全部読んできた。また併せて、墜落犠牲者の遺族である小田周二氏の関連著作全3冊の他、この事件に関する著作は大方目を通してきたつもりである。その目から見て、青山氏の最新刊「日航123便墜落事件 四十年の真実」は、これまでの調査研究の集大成と言える力作だと思う。青山氏の著作はいつもそうだが、研究者としての立場を堅持しながら、多数の資料や文献・証言などから事実を積み上げて推理を進めて行くさまは、実に力強く圧倒的な迫力がある。これらを「フェイク」と言うならば、その根拠をあげなければならないが、読む限りそれは相当に困難だと思う。
この墜落事件は、最初から不可解なことが多かった。私自身も当日のことを覚えているが、機影がレーダーから消えたとのNHKの第一報があり、これが19時前後だった。その後、山の中で何かが燃えている様子をヘリが撮影したのを見た覚えがあるのに、墜落現場がなかなか確定されずに報道が二転三転するのを「何だか変だな」と感じたのだった。しかし当時の私にはそれ以上のことは何も分からずに、長い年月が過ぎ去った。そして青山氏や小田氏の本に出会ってから、この墜落が単なる「事故」ではないことを確信するようになった。そう確信させるに足る事実と推理の積み重ねが、確かに存在するからである。
日航123便の公表されている音声記録には、不可解な点がある。一つは、管制官との会話記録が出発から異常事態発生の前、18時18分38秒までしかなく、その後は記録がないのである。通常の墜落事故の場合なら、異常発生から墜落までの全過程が録音されているものなのに。また、カンパニーラジオと呼ばれる社内用通話記録も、18時21分00秒までしかなく、その後はボイスレコーダーに18時24分12秒から墜落の18時56分28秒までの記録が残されている。つまり、18時21分00秒から同24分12秒までの3分12秒が空白になっているのだ。123便の機体に突然の破壊音が生じたのは、18時24分35秒である。すなわち、公表されているボイスレコーダー記録は、異常事態直前から始まっている。その前にコックピット内で交わされた会話記録は、公表されていない。これは何を意味するのか?遺族ならもちろん、遺族でなくても、この空白は何なんだと気になるはずだ。その他にも、公表されているボイスレコーダー記録には背景音の不連続や不自然な空白があり、生データそのものではない疑いが濃厚である。全面開示が望まれる理由がそこにある。
そして、その異常音が発生してから11秒後の18時24分46秒には、高浜機長は非常事態宣言とも言える「スコーク77」を発信している。つまり、機体がどんな状況に陥ったかを確認する前に、出しているのである。なぜなら、航空機関士が「油圧低下した」と述べたのは18時25分19秒であり、これが「油圧、全部ダメ」との報告になるのは同26分27秒のことなので、その1分前に既に発信されているからである。
そして異常事態宣言をしておきながら、高浜機長は管制官からの再三の呼びかけに対し事態の内容を一切返答しなかったとの事実がある。当時すでにマスコミ記事の中に「機長ナゾの対応」との見出しがある。墜落の頃から、既に機長の異常行動は知られていたわけだ。推測されるのは、機長は事前に何かを知っていて、異常事態が起きたときに何が起きたかを察知しながら、その全てを管制官には伝えなかったのだろうと言うことである。
高浜機長に関しては、他にも謎が多い。コックピット内3人の乗員のうち、機長以外の2人は制服着用のまま遺体で見つかったのに、機長の制服だけが見当たらず、公式報道では機長の遺体は顎の骨だけが最後に見つかったことになっている。しかし実際には機長の遺体はかなり早い段階で収容されていたこと、しかも運ばれてきた時には、着衣なしの全裸状態だったことが証言から明らかにされている。この衝撃的な事実は、昨年刊行された青山氏の著作「隠された遺体」で実証され、本書でも述べられている。
話を123便に戻すが、異常事態発生後、垂直尾翼が破壊され油圧系統が全部使えないと言う、飛行機の操縦には絶望的な状況になっても、機長以下のメンバーは最善を尽くし、手動操舵とエンジンの出力調整だけで旋回飛行さえも可能にして、異常事態発生後32分間も飛び続けた。この手腕と学習能力は、驚嘆に値する。しかし一方、32分間も飛べたのなら、なぜ羽田に引き返すことを試みなかったのかが疑問になる。万一羽田に着陸できなくても、東京湾に不時着水したならば、「ハドソン川の奇跡」のように、多くの人員が救われたかも知れないのに。
要約すると、現在分かっていることだけで墜落前後に幾つかの不可解な点が存在する。
1)相模湾上空で、なぜ突然、垂直尾翼付近が破壊されたのか?
2)その後32分間も飛べたのに、なぜ羽田に引き返さず、一度は横田基地に向かった後に突然長野・群馬方面の山岳地帯に進路を変えたのか?
3)それまで順調に飛行していたのに、山岳地帯でなぜ突然、急降下して墜落したのか?
4)墜落地点の特定や救出活動の開始が、どうして異常なほど遅れたのか?
さらには、事故後に回収された遺体の相当数が、骨の中まで炭化するほど焼け焦げていた事実がある。周囲の木々や靴・カバン・ぬいぐるみなどは燃えていないのに、人間の遺体だけが酷く焼損している姿は、あまりにも不自然である。航空燃料ではこんな事態は起きないと分かっているから。そして本書の図44で一目瞭然であるが、焼損範囲がエンジンや燃料タンクのある所ではなく、機首や前部胴体の遺体がたくさん集積している場所に集中している。どう見ても、何らかの意図的な「焼き討ち」があったと考える他にない。
また、2013年に公開された事故調査付録の資料には「異常外力着力点」が明記されており、垂直尾翼の破壊が何らかの「外力」(それも11トンもの力である)によることは明白である。圧力隔壁の破損で内部の空気が猛烈な勢いで噴き出したために垂直尾翼が壊れたとする説は、科学的になり立たない。垂直尾翼は、スカスカの構造で、空気がたまる密閉空間ではないからである。それに、そんな猛烈な風が吹いたら、急速な減圧で機内の人間は無事でいられないはずだが、生存者の証言などでも、そんな事態には陥っていない。
なお繰り返しになるが、この垂直尾翼破壊は、墜落の直接原因ではない。その後32分間も飛び続けたのだから。飛行機は、何か異常が起きて墜落する場合には、たいてい1分以内に落ちるものである。実際に123便も、18時55分45秒に重大な異常事態が起きて、機長らが「アーッ」という絶叫を残している。その45秒後の18時56分30秒には墜落した。この異常事態が直接の墜落原因のはずであるが、第4エンジンが破損したことしか分かっていない。なぜか第4エンジンだけが部品をまき散らしながら、墜落地点のかなり前で数百メートルにわたって散乱している。この状況は他の3つのエンジンと全然異なっている。この時点、この場所で、確かに何かが起きたはずなのであるが。
このように、日航123便の墜落に関しては、不可解で未解明な事象が数多くあり、真相解明が待たれるのであるが、そのカギを握るのは、やはりボイスレコーダー等の記録装置の全面開示である。そもそも、事故原因の解明は日本航空の責務であるのに、何故か日航はボイスレコーダー等の開示を頑なに拒んでいる。なぜ、それ程に隠さなければならないのか?鳥取日航社長も「事実は一つだから、デマには負けない」と言ったではないか。まさにその通り、事実はたった一つで、それはボイスレコーダー等に記録された音声データ等全部の中にある。また、相模湾に沈んで今も回収されていない機体の残骸に刻まれた痕跡の中にもあるだろう。
本書は、こうした謎の全貌とともに、考えられる「仮説」を提出して事故原因の解明に役立てたいとする姿勢を示している。これが、なぜ「陰謀論」であり得るのか?
この本の中には、ジャーナリストたちに聞かせてやりたい文言がいくつもある。例えば「しかし、こうした調査を経て明らかにしてきた真実に対して、マスコミは完全に無視を決め込んでいる。森永卓郎氏はガン公表後のベストセラー「書いてはいけない」において「墜落原因は自衛隊にある」と指摘した。しかし彼の訃報には、それが記されているからだろうか、「書いてはいけない」を真剣に取り上げた記事は一切なかった。なぜこの国は、いつまでたっても精神が独立した報道が出来ないのだろうか。」
「四十年という長い年月にわたって蓄積する墜落にまつわる疑惑を再取材することなく、事故原因の再調査を訴えることもせず、ボイスレコーダーの公開すら求めない報道姿勢は、事件の隠蔽に加担してきたと責められても仕方あるまい。ジャーナリズムの精神は一体どこにいったのだろうか。戦後、消えてなくなったのだろうか。」
「つまり、報道機関がジャーナリズムの精神を忘れ、逆に世間へ正しい情報を伝えず、さらに情報をシャットダウンする防波堤になってしまったのである。」
「結局のところ、地元の上毛新聞以外の報道は、最低限しか報じず、いかにも大々的に取り上げそうな朝日新聞に至っては、逆に小さな記事止まりであった。こうやって520人の犠牲者を出した日本航空は、事故を起こした当事者としての責任を果たさず、日本のマスコミは報道責任を果たさなかった。」
ジャーナリストたちは、これらの文章を、どう受け止めるのだろうか?是非、彼らの言い分を聞いてみたい。もちろん、ジャーナリストと言ってもピンからキリまでなのだが。
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まつだ・さとし 1954年生まれ。元静岡大学工学部教員。京都大学工学部卒、東京工業大学(現:東京科学大学)大学院博士課程(化学環境工学専攻)修了。ISF独立言論フォーラム会員。最近の著書に「SDGsエコバブルの終焉(分担執筆)」(宝島社。2024年6月)。記事内容は全て私個人の見解。主な論文等は、以下を参照。https://researchmap.jp/read0101407。なお、言論サイト「アゴラ」に載せた論考は以下を参照。https://agora-web.jp/archives/author/matsuda-satoshi