中国の社会と経済:陰の米中競争―日本に欠けている視点と論点の紹介―(下)
国際三、米中の腐れ縁と日本への示唆
米中両国はいずれも、「戦略的」な国だ。目の前の対策を打ちながら、常に「波及効果」と長期的展望を計算している。台湾問題をめぐってよく「喧嘩」しているように見え、日本では毎回そのように報じられるが、実際は互いに「レッドライン」を探り当ててそれ以上に出ず、衝突を回避することで一致している。
中国側は「台湾の分離独立に加担すればどんな代価を払っても戦う」との一線を敷いた。それに対し米側は「台湾に(現状のまま)武力で攻撃するなら介入する」との線を引いた。不測事態を警戒する必要はあるが、実際は少なくとも今後の数年間、米中とも相手の設けたレッドラインを超えない範囲内で行動することでほぼ暗黙の了解を交わしたと見ることができる。
そして7月初め、対面の米中外相会談が5時間にわたって行われた。ブリンケン国務長官は初めてにこやかに王毅外相と握手し、バイデン・習近平の両首脳のひと月以内のオンライン会談、年内の対面会談に「準備を整えた」と伝えられている。会談で王毅外相は、米側の姿勢転換を求める三枚の「改善リスト」ともう一枚の提言リストを手渡した。
この会談の重要な意義、中身と成果を分析した中国の外交専門家の深い解説は以下の通り。ただ、この号はすでに長いし、米中関係は改めて取り上げるので、詳しく紹介はしない。
苏浩答中新社:中美外长巴厘岛会晤为何提四个“既然”、四份清单? 220711(qq.com)
それより、米中緩和による台湾への影響について、国民党系『中国時報』の7月12日付社説の解説を紹介したい。
中時社論220712蔡英文意志潰堤的開始 (chinatimes.com)
要約の翻訳:
ブリンケン国務長官と王毅外相によるバリ島での5時間に及ぶ会談は、ここ1カ月における米中ハイレベル対話の5回目となった。北京の発表によると、今回の会談は両国の今後のハイレベル交流のための条件を積み上げた。米メディアも、両国首脳対面対話に基礎を築いたと報じている。米中間は激しく競争しているものの、意思疎通を維持する意思と誠意を持っていることを示している。蔡英文政権が自負する「最高の米台関係」が過去のものになる可能性も意味している。
バイデン政権が登場した直後は、米中関係を「競争、協力、対抗」の枠組みと位置付けたが、今や「競争と協力」に取って代わられている。米大統領が語ったとされる「四つのノーと一つの意図しない」を、中国側が公表したが、米側は公に認めていないが、台湾との関係に静かに定着しているのも事実だ。(一連の動向の紹介は省略)
中国共産党第20回大会と米国中間選挙の時期が偶然にも近く、双方に関係改善の動機がある。北京にとって、米国側との再友好は「対米闘争の重大な勝利」を意味する。北京の国務院は全力で経済を刺激し、感染症の管理・抑制措置を次第に緩和している。これは米中の経済貿易、民間、人文交流が徐々に開放されることを意味する。
米中関係が競争しつつも緩和に向かう今、蔡政権はどのように身を処していくか。
文中で言及した「四つのノーと一つの意図しない」(四不一無意)について、岡田充氏の解説を紹介する。
バイデン大統領が習近平国家主席に約束?「四不一無意」とは何か。アメリカに寄り添う日本にも影響が……220512 Business Insider Japan
米中関係が水面下で緩和を模索しているいくつかの経済面の動向も紹介する。
美国拆除华为中兴设备遭遇重大打击 220620 (sohu.com)
ファーウェイ・ZTEの設備を撤去する行政命令を実施することが難しいと報じられた。
米連邦通信委員会はこのほど、ファーウェイやZTEなどの中国企業製機器の撤去に関連して通信事業者が提出した補償申請の3分の2に「重大な欠陥」があったと発表した。これらの中国企業の設備を交換するコストは53億ドルに達するとみられ、昨年成立した関連予算19億ドルをはるかに上回る。(中略)経費の問題で、(撤去は)しばらく先延ばしになるだろう。
米国の一部の州の電信会社は、ファーウェイ設備を当面使用し続けると発表している。
老美低头了?恢复对华为芯片供应,任正非携华为强势破局220702 (qq.com)
米国政府は、半導体大手クアルコムがファーウェイに去年に続き、4G用の半導体チップの一部供給を認めたと中国ネット記事で伝えられた。ただ、5G用は含まれない、という。
彻底被打败!美企高通、英特尔纷纷放下身段宣布加入华为鸿蒙系统220628 (qq.com)
米半導体大手クアルコムとインテルが、ファーウェイが開発した「ハーモニーOS」に加盟すると発表したと伝えられた。
この基本OSは「グーグルを超えた」と日経記事はユーザーの声を伝えた。
ファーウェイ独自OSで狙う「Google超え」210622日本経済新聞 (nikkei.com)
トランプ大統領時代に中国に課した追加関税の大半は近いうちに撤廃されるとも報じられている。それは米側の「善意」によるものではなく、国内経済の立て直し、インフレ率を下げるための措置である。しかし、いざ必要となれば、イデオロギー、大義名分より、自国経済の実利を最優先にするリアリズムが端的に示された。
中国側も、米側から執拗にバッシングされながらも、「負けなければ則ち勝ち」の考えで相手の攻撃をかわし、経済発展に全力で取り組んでいる。北京大学の姚洋教授は今年1月に「2022網易エコノミスト年会」で講演した中でその戦略と計算を吐露している。2030年以内に経済規模で米国に並べることを最優先としており、「米国の成長率を毎年1.5%上回ることができれば、2028~30年の間に米国を超えて世界最大の経済体になるのが確実」と見ている。
姚洋:2028年-2030年中国将超越美国 成为世界第一大经济体|姚洋_220110新浪网 (sina.com.cn)
要約の翻訳:
5年、最大10年で深圳がシリコンバレーに代わる世界のイノベーションセンターになることは確実に期待できる。技術の進歩は応用に依拠しなければならず、応用がなければ技術進歩の速度は低下するが、中国の応用シーンは十分に大きいからだ。
技術進歩のほかに、中国経済の長期的な成長を支えているのは都市化だ。今後15年間で、中国には約2億人が都市に進出する。(中略)今後、中国は珠江デルタ、長江デルタ、武漢、長沙、四川盆地、西安咸陽、鄭州、北京・天津・河北地区という8大都市圏を形成し、この7大都市エリアに中国人口の60~70%が集中すると予想される。都市化プロセスがある限り、資本蓄積は止まらない。
以上の2点に基づき、2028年-2030年の間に、中国は米国を抜いて世界一の経済大国になると予測している。2049年までに、中国の1人当たりの所得は少なくとも米国の45%に達し、経済規模は米国の2倍を超える。「成長速度が米国を1.5ポイント上回りさえすれば、中国はこの目標を達成できる」。
米中とも戦略的視野で「競合」関係を捉えており、特に米側は、綺麗事のスローガンを叫びながらも自国経済と実利を優先にし、同盟国を煽りながらも自分は手を出さない、最高級のしたたかな外交を展開している。では日本は?
もともと「花より団子」で実利をうまく取ってきた戦後の長い伝統があるが、最近は実利を失い、実害を招いても、「価値観外交」を推し進めているように感じられるが、どうだろうか(了)。
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東洋学園大学 教授