
【高橋清隆の文書館】:2025年07月23日【書評】『財務省と日銀 日本を衰退させたカルトの正体』植草一秀(ビジネス社)
メディア批評&事件検証私の目に留まった欺瞞を幾つか挙げてみる。
消費税が所得税と法人税の穴埋めに使われていることは知られるようになった。正確には35年間に消費税で509兆円税収を得たのに、605兆円も減税している。「つまり、一般庶民から500兆円をむしり取り、そこに100兆円足して600兆円の減税を富裕層と大企業に施していた」。そして、掛け声と裏腹に、「消費税の税収は、1円たりとも財政再建や社会保障の拡充には使われてこなかった」のが実態である。
国会審議を通じて注目を集めるのが当初予算だが、政策支出に当たる部分は年間約23兆円。一方、補正予算はこの4年間で合計154兆円も計上されている。1年平均39兆円で、財源は全額国債の発行で賄われている。2025年度の予算審議で野党が高額療養費制度の「改悪」をやめるべきだと主張すると、テレビ朝日の大越健介氏が「制度改変凍結を唱えるのであれば財源を明示せよ」と批判した。この「改悪」による社会保険料負担軽減効果は60億円程度にすぎないのに、154兆円分の国債発行はどのメディアも問題にしない。
植草氏はこれを家計に例え、「毎月の家族全員の衣食住を賄うために月23万円でやりくりしているのに、配偶者は連日連夜飲み食いに明け暮れ、ギャンブルにうつつを抜かし、月39万円も放蕩三昧(ほうとうざんまい)している姿。家族が病に倒れても病院に行くことを許しません」とやゆしている。
「103万円の壁」を打ち出した国民民主党は躍進を続けるが、国内総生産(GDP)は年々拡大するので、「壁」を多少引き上げても財務省は痛くもかゆくもない。しかし、消費税率を10%から5%に引き下げることは、同省にとって認めがたい施策だという。
7月の参院選で各党が食料品などの税率引き下げ案を提示したが、「どの品目を軽減税率の8%に適用するかを巡って利権の駆け引きが活発化します。複数税率制度は財務省の利権を増大させるのに最高の施策です」と看破する。
そもそもこの4年間に国全体で18兆円の税収増があったから、消費税を5%に戻すのはたやすいと主張する。
一方、「106万円の壁」は「106万円の沼」と呼ぶべきだと訴える。6月に成立した改正年金制度関連法では、週20時間以上働けば社会保険料負担が発生し、手取りが減る。「政府は『パート労働者が社会保険に加入しやすくなる制度改正』と表現しますが、〈損になる話〉を〈得になる話〉のように説明するのは極めて悪質」と指弾する。
12年に第2次安倍政権が発足すると、日銀総裁に据えられたのが、財務省出身の黒田東彦(はるひこ)氏だ。アベノミクス「第2の矢」として、大規模金融緩和策が採られた。その結果、日本円は暴落の一途をたどり、外国人にとっては日本の“売り尽くしバーゲンセール”になっている。各地の優良リゾート施設や水資源を抱える不動産、東京の超高額なタワーマンションも外国人の手に次々と渡っている。
「経済安全保障問題が議論されていると言いますが、日本円暴落の“放置”が問題視されたことを聞いたことがありません。日本全体が海外資本に乗っ取られることが促進されている」
「失われた10年」という語句を作ったのは植草氏だが、1990年にバブルが崩壊してから35年がたつ。崩壊後の経済縮小には、BIS(国際決済銀行)規制が大きな原因となった。巨額の株式を保有する日本の金融機関に対しては、保有する株式の含み益の一定比率が自己資本に組み込まれることとされた。1980年代の株価暴騰局面では銀行融資が制約を受けることがなかったが、90年代を迎え資産価格が暴落に転じると、金融機関の自己資本が一気に縮小し、金融機関は融資残高の圧縮に動かざる得ない状況に追い込まれた。
「やがて到来するであろう日本の資産価格下落の局面で、日本の金融機関および金融市場、ひいては経済全体に重大な衝撃を与えることがあらかじめ想定されていたのではないか」と推論する。
国際金融資本の総本山のたくらみは実に悪らつだ。亀井静香元金融相がいた頃の国民新党が選挙チラシに「BIS脱退」と書いていたのを見て、胸がスカッとしたのを思い出した。
“大蔵省三原則”なるものを紹介する。すなわち、「場当たり、隠ぺい、先送り」である。植草氏は1992年時点で「不良債権問題処理のために公的資金投入も必要になる」との見解を日経新聞の「経済教室」に寄稿していた。日本住宅金融株式会社の母体行である旧三和銀行が当時、大蔵省に対して破綻処理=法的整理を含む措置を提案したが、先送りされたという。
植草氏が旧大蔵省にいた頃、新たな外郭団体FARE(Foundation for Advanced Information and Research、フェア)が創設された。活動は、海外の政治・経済学者を日本に招聘(しょうへい)することと、2カ月に1回、海外視察旅行で豪遊すること。「これ以上“アンフェア”な組織はない」と皮肉る。
これを読んで私は、国際カルトが得意な黒冗談(ブラックジョーク)を思い出した。例えば、MAD(mutual assured destruction、マッド・相互確証破壊)は全面的な核戦争を惹起しかねない狂気の理論であることや、コロナ茶番で国際保健機関(WHO)が打ち出したのがPHEIC(Public Health Emergency of International Concern、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態・フェイク)であることなど。
日本人らしからぬ発想だと首をかしげていると、後ろのページに次の記述があった。
「FAREという研究情報基金が海外とのネットワークを構築する過程で日本を支配する権力の所在地を確認した側面も否定しきれません。その海外視察の過程で一部の随行員が日本を支配する外国勢力のエージェントに転化したとの疑いも否定しきれないのです」
やはり、財務省を牛耳るのも、国際カルトということになるのか。
財務省支配の在り方を変えるのは、政治しかない。企業献金を廃止するために政党交付金制度を導入したが、政党幹部に権力が集中するという弊害が起きている。なるほど、無所属以外の議員は全員、議場の押しボタンロボットと化している。今参院でも顕著になったように、公認をもらうにも党の方針を丸のみしなければならないのが実情だ。
「この弊害をなくすために政党交付金ではなく、“議員交付金”に制度を改正すべきと思っています」
「財務省・金融庁グループ」に対しては、4分割を提唱する。他に、天下りの全面禁止や国家一種試験の廃止、財務事務官を「財務事務員」にするなどの名称変更、「廃県置藩」による地方分権策も。その上で、消費税は廃止に向けまず5%に引き下げることを喫緊の課題に挙げる。
同書を故森永卓郎著『ザイム真理教』(三五館シンシャ)に続く救世済民の書として世に広めたい。
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※なお、この記事は「高橋清隆の文書館」2025年06月20日 のブログ記事
http://blog.livedoor.jp/donnjinngannbohnn/archives/2067008.html
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反ジャーナリスト。金沢大学大学院経済学研究科修士課程修了。元ローカル新聞記者。著書に『偽装報道を見抜け!』(ナビ出版)、『亀井静香が吠える』(K&K プレス)、『山本太郎がほえる~野良犬の闘いが始まった』(Amazon O.D.)など。翻訳にデーヴィッド・アイク『答え』第1巻[コロナ詐欺編](ヒカルランド)。2022年3月、メディア廃棄運動を開始。 ブログ『高橋清隆の文書館』http://blog.livedoor.jp/donnjinngannbohnn/