【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2025.08.01XML : 恫喝して命令に従わせようとしたトランプ大統領だが、思い通りに進まず窮地に

櫻井春彦

台湾の顧立雄国防部長は6月にワシントンDCを訪問し、アメリカ国防総省のエルブリッジ・コルビー次官と会い、軍事問題について協議する予定だったが、直前にアメリカ側の事情で中止になったという。中国に対する過度の刺激を避けたかったのではないかとする人もいたが、上院軍事委員会に所属するロジャー・ウィッカー議員など共和党の議員団が8月に台湾を訪問する予定だ。中国との対立激化を避けようとする勢力と、激化させようとする勢力が綱引きしているようにも見える。

 

この議員団の台湾訪問は2022年8月にナンシー・ペロシ米下院議長らのケースよりインパクトは小さいが、アメリカの好戦派は一貫して台湾を中国を攻撃する航空母艦と考えている。リチャード・ニクソン大統領が1972年2月に中国を訪問した際に打ち出した「ひとつの中国」政策への挑戦を続けているとも言える。

 

1972年9月には総理大臣だった田中角栄が北京を訪問、日中共同声明に調印している。その際、尖閣諸島の領土問題は「棚上げ」にすることで合意した。日本の実効支配を認め、中国は実力で実効支配の変更を求めないというもので、日本に有利な内容だった。そして1978年8月に日中平和友好条約が結ばれ、漁業協定につながる。

 

この構図を壊したのは菅直人政権にほかならない。この政権は2010年6月の閣議決定で尖閣諸島周辺の中国漁船を海上保安庁が取り締まれることに決め、2000年6月に発効した「日中漁業協定」を否定。そして2010年9月、石垣海上保安部は中国の漁船を尖閣諸島の付近で取り締まり、日本と中国との関係は悪化する。

 

こうした行為は田中角栄と周恩来が決めた尖閣諸島の領土問題を棚上げにするという取り決めを壊すもの。2010年10月に前原誠司外務大臣は衆議院安全保障委員会で「棚上げ論について中国と合意したという事実はございません」と発言しているが、これは嘘だ。

 

2015年の6月、総理大臣だった故安倍晋三は赤坂の「赤坂飯店」で開かれた官邸記者クラブのキャップによる懇親会で、「安保法制は、南シナ海の中国が相手なの」と口にしたと報道されている。その安倍が直前に会談したという中国の習近平国家主席は軍部に対し、南シナ海と台湾の監視を強め、戦争の準備をするように命じたという。その後、日本政府はアメリカ国防総省の戦略に従い、中国と戦争する準備を着々と進めている。

 

国防総省系のシンクタンク「RANDコーポレーション」が発表した報告書によると、GBIRM(地上配備中距離弾道ミサイル)で中国を包囲する計画を彼らは持っている​。自衛隊は2016年に与那国島でミサイル発射施設を建設、19年には奄美大島と宮古島、そして23年には石垣島でも施設を完成させた。

南西諸島にミサイル発射基地が建設されつつあった2017年11月、アメリカはオーストラリア、インド、日本とクワドの復活を協議、18年5月にはアメリカ太平洋軍をインド太平洋軍へ名称変更している。

 

専守防衛の建前と憲法第9条の制約がある日本の場合、ASCM(地上配備の対艦巡航ミサイル)の開発や配備で日本に協力することにし、ASCMを南西諸島に建設しつつある自衛隊の施設に配備する計画が作成されたとされていたが、すでにそうした配慮は放棄されている。

 

2022年10月になると、「日本政府が、米国製の巡航ミサイル『トマホーク』の購入を米政府に打診している」とする報道​があった。亜音速で飛行する巡航ミサイルを日本政府は購入する意向で、アメリカ政府も応じる姿勢を示しているというのだ。

 

旧式ではあるが、トマホークは核弾頭を搭載でる亜音速ミサイルで、地上を攻撃する場合の射程距離は1300キロメートルから2500キロメートルという。中国の内陸部にある軍事基地や生産拠点を先制攻撃できる。「専守防衛」の建前と憲法第9条の制約は無視されていると言えるだろう。

 

そして2023年2月、浜田靖一防衛大臣は亜音速巡航ミサイル「トマホーク」を一括購入する契約を締結する方針だと語ったが、10月になると木原稔防衛相(当時)はアメリカ国防総省でロイド・オースチン国防長官と会談した際、「トマホーク」の購入時期を1年前倒しすることを決めたという。当初、2026年度から最新型を400機を購入するという計画だったが、25年度から旧来型を最大200機に変更するとされている。

 

日本とアメリカのこうした動きに中国やロシアも当然のことながら反応、最近では朝鮮の役割も大きくなっている。今年6月26日にロシア軍のバレリー・ゲラシモフ参謀総長はクルスクでの戦闘に朝鮮軍の部隊が参加したことを認め、「戦闘において高い専門性、堅忍不抜、勇気、英雄主義を発揮した」と称賛している。朝鮮軍は昨年12月に発効したモスクワと平壌間の包括的戦略パートナーシップ協定に基づき、派遣されたという。1万から1万3000人程度が派遣されたと見られ、帰国後にその経験を軍全体に伝えることになるだろう。また、アメリカのニューズウィーク誌は、ロシアが今年、中国軍の兵士数百人を訓練する計画だと報じている。逆に、日本やアメリカの政府が自衛官に実戦を経験させようと考えても不思議ではない。

 

ロシア軍の防空システムはNATO諸国のミサイルやドローンに対して有効だということが証明され、F-35、F-22、B-2のような「ステルス戦闘機」にも有効だと見られている。またロシア軍はウクライナでアメリカのM1A1エイブラムス、ドイツのレオパルト2A6、イギリスのチャレンジャー2といった戦車を破壊、F16戦闘機を撃墜している。

 

アメリカは軍事的に他国を圧倒しているというイメージは崩壊した。ドナルド・トランプ米大統領は現在、関税を使った恫喝で他国を屈服させようとしているが、ロシア、中国、イラン、インドをはじめ、少なからぬ国が屈していない。

 

ロシアは朝鮮と軍事的にも経済的にも関係を強化、6月4日から韓国の大統領を務めている李在明はロシアや朝鮮との関係改善を図りつつあるのだが、朝鮮の金与正は韓国について、アメリカとの同盟関係を「盲目的に信頼」していると批判しているという。台湾の頼清徳総統はアメリカの従属しているが、投票動向を見ると、一般の人びとは中国との関係が悪化することを望んでいないようだ。

 

アメリカの支配力が弱まっている東アジアの中、日本は「脱亜入欧」から抜け出せていない。かつてのように中国侵略の先兵になれば、日本は滅ぶだろう。

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